術前管理

休薬する?抜歯やインプラントなど歯科治療前に確認すべき2種類のくすり

『歯科治療時に注意すべき薬』

今回のテーマです!大きく2種類あります。

・抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)
・骨吸収抑制剤(ビスホスホネート、デノスマブ)

休薬するのか、それとも継続するのか?

尋ねられた時に、サッと答えられるように正しい知識と考え方について解説します。

抜歯時の抗血栓薬は中止するのか?

抗血栓薬を継続したまま行うのが基本!

「今度、歯医者に行くんだけど、血液サラサラの薬はやめたらいいの?」

患者さんから、よく聞かれることですね。

・抜歯は抗血栓薬を継続したまま行うことが推奨されています。

参考文献)科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2015年改訂版

インプラント治療の方はどうか?

・抜歯に準じて継続したまま行うのが一般的な対応です。

少し前までは、出血のリスクを考えて一時的に休薬するケースがほとんどでした。しかし、最近では休薬に伴う血栓症のリスクを重視して投与継続下で抜歯を行うのが基本です。

・抜歯は、抗血栓薬を継続したまま行うのが基本!
(※休薬に伴う血栓症のリスク > 出血のリスク)

抗血栓薬中止は危険!

休薬中に脳梗塞や心筋梗塞などを発症する場合もあります。

でも、知らない患者さんが多く、下記のように思いがちです。

「数日くらい飲まなくても大丈夫でしょ?」
「たった、数日くらいやめたからといって、どうなるの?抜歯後に血が止まらないほうが困るでしょ。」

そう思う気持ち、わからないでもない……。出血の危険性はイメージしやすく、誰だって防ぎたいものです。

しかし、ですね。

休薬に伴う血栓症リスクの方もかなり怖いです。

まずはワルファリンの報告

1998年のWahlの論文。
ワルファリン中止後に抜歯を行った493名、542例のうち、5例(約1%)に血栓塞栓症を認め、そのうち4例(80%)が死亡したと報告されています。

参考文献)Arch Intern Med, 158: 1610-1616, 1998

つまり、100人やめたら1人に脳梗塞が発症し、その人が命を落とす確率が80%という計算になります。発症すると致死的ですね。

続いてアスピリンの報告

アスピリンを服用している脳梗塞患者の調査。
・4週間休薬をした309例のうち、13例(約3%)に脳梗塞を発症、休薬しなかった309例のうち、4例(約1%)に発症→休薬による脳梗塞・TIA発症のオッズ比は3.4倍という結果でした。

参考文献)Arch Neurol, 62:1217-1220, 2005

ワルファリン、アスピリンの報告において、どちらも血栓症の発生率自体は数%とわずかです。しかし、抗血栓薬を飲んでいる人がかなり多く、一度発症してしまうと命に関わることから、休薬に伴う血栓症リスクを軽視することはできません。

とくに、注意したいのが以下のケースです。

・心筋梗塞や脳梗塞を発症した人が、再発予防で抗血栓薬を飲んでいる

二次予防の場合には、動脈硬化や生活習慣病がベースにあって、血栓症リスクが高い人がほとんどなので、少しの期間であっても休薬することは危険です。

抗血栓薬は種類ごとの対応が違うの?

どの種類でも継続したまま行うのが基本です。

抗血栓薬はいろんな種類があります。ワルファリンやアスピリンだけじゃありません。ざっくり下記です。

  • DOAC…ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなど
  • チエノピリジン系…クロピドグレルやチクロピジン、プラスグレルなど
  • DAPT…アスピリン+チエノピリジン系など

※直接作用型経口抗凝固薬(Direct Oral Anti-Coagulants:DOAC)
※抗血小板薬2剤併用療法(Dual anti-platelet therapy:DAPT)

・基本的には、抗血栓薬の種類にかかわらず、継続したまま抜歯を行います。

薬剤ごとの推奨グレードは下記のとおりです。

DOACやDAPTはエビデンスが不十分であるものの、抗血栓薬を継続したままで抜歯を行うことが望ましいとされています。

強力な抗血栓作用を考えると、抜歯時の出血リスクが心配される一方で、中止による心血管イベントの発症リスクも高いので、簡単に休薬できません。

休薬できるかどうか?は、出血リスクと血栓症リスクを天秤にかけて行います。

抜歯の場合には、血栓症リスクが優っていることが多いですが、出血の危険性が上回る場合には、休薬するケースもありえます。一律の対応ではないのですね。

患者さんごとに歯科医と処方医が対応を検討して決定します。

抜歯は継続したまま行うのが基本。しかし、出血リスクが上回る場合には休薬も考慮!

服薬指導のポイント

抜歯時の休薬について聞かれることが多い!

たとえば、以下のように患者さんから質問されること、多いですよね。

「今度、歯医者さんで歯を抜いてもらう予定です。血の流れを良くする薬はやめた方がいいのですか?」

どのように答えるのか?もうお分かりですね。

説明内容の一例は下記です。参考までに。

「血液をサラサラにするクスリを中止すると、心筋梗塞や脳梗塞を起こす可能性があります。クスリは継続したままで抜歯を行うのが一般的です。処置の方法や患者さんの状態によって、中止するケースもあるので、一度歯科の先生に相談しましょうね。」

中止による血栓症の危険性を説明し、自己判断で休薬しないように注意するのが基本的な対応になります。

自己判断による中止はなんとしても避けたい!

服薬指導のポイントは、「これ」ですよね。でも、自己判断で抗血栓薬を中止してしまうケース、意外と多いです。

「血が止まらないと困るから、手術の時も中止したので抜歯の時も同じで良いと思った…」

などを理由に勝手な判断で休薬してしまう人は少なくありません。

もちろん、治療前に歯科の先生が服薬歴を確認してくれるのできっと、誤った自己判断は是正されるはずです。しかし、是正されるまでの期間は休薬による心筋梗塞や脳梗塞のリスクに晒されるし、必ずしも誤りが訂正されるとは限りません。

自己判断で休薬してしまう人が多いのは、「休薬に伴う血栓症のリスク <出血のリスク」と考えてしまうからです。

むしろ、そう考えるのが自然で、「クスリをやめると血栓ができてしまうかも?」と正しい判断ができる人はほとんどいません。

誤った判断がされないためにも、出血が起こりやすいという説明に加えて、自己判断で中止した場合の血栓症リスクも一緒に伝えることが大切です。

加えて、定期的に歯科治療の予定を確認すると、間違った判断を未然に防ぐことができます。

抜歯時の骨吸収抑制剤は休薬するのか?

まずは基本的なことをサッと確認です!

骨吸収抑制剤の種類は?

大きく2種類あります。

  1. ビスホスホネート(BP)
  2. 抗RANKL抗体製剤デノスマブ

骨粗鬆症や悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症、骨病変などに使用する薬剤ですね。さらに、デノスマブは2つの製剤があります。

  • 骨粗鬆症に使うプラリア®︎
  • 悪性腫瘍に適応があるランマーク®︎

成分が同じだけど適応が違うわけですね。

BRONJ、DRONJ、ARONJとは?

顎骨壊死がっこつえしは知ってますか?

その名の通り、あごの骨が壊死してしまう病気です。破骨細胞の骨吸収を妨げるBP製剤やデノスマブ使用中に起こる合併症です。

・BPに関連する顎骨壊死のことをBRONJといいます。一方、デノスマブに関連するのはDRONJ。BRONJとDRONJを合わせてARONJ(骨吸収抑制薬関連顎骨壊死)と呼びます。

※Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaws : BRONJ
※Denosumab-related osteonecrosis of the jaws : DRONJ
※Antiresorptive agent-related osteonecrosis of the jaws : ARONJ

では、顎骨壊死を防ぐためにはどうすればいいのか?

投与する前に歯科治療を済ませておく

これが基本です。

顎骨壊死は抜歯や歯周治療などの観血的処置を契機として起こりやすいので、投与をはじめる前に侵襲的な歯科治療を終えておく必要があります。

休薬期間の目安は?

治療開始2週間前までに侵襲を伴う歯科治療は終えておく!

これが、ARONJ発症予防の鉄則です。BP製剤と抗RANKL抗体デノスマブ、どちらも同じ対応ですね。

でも、そんな簡単ではありません。投与後にどうしても歯科治療が必要となるケースがあるからです。大半はこちらですよね。

BP製剤は継続したまま行うのが基本!

BP製剤を継続したまま歯科治療を行います。

・歯科治療前に、BP製剤の休薬を積極的に支持するエビデンスは乏しく、BP製剤の投与継続下で歯科治療を行うことが望ましいとされています。

参考文献)顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016

理由は以下のとおりです。

  • 骨吸収抑制薬の休薬がARONJを予防できるか不明
  • 骨に長期間滞留するBP製剤を短期間休薬してどのくらい効果があるのかわからない
    休薬のメリットがはっきりしない
  • BP製剤を休薬すると症状の悪化と骨折リスクの増加が懸念される
  • BRONJのリスクよりも骨折予防のベネフィットが優っている
    継続するベネフィットが大きい
  • BRONJは感染を契機に発生、歯科治療前の感染予防で減少できることが示
    感染予防、口腔内衛生の改善によりリスクを減少できる

つまり、継続のベネフィット>休薬のメリットと考え、BP製剤は継続したまま歯科治療を行うのが基本です。

といっても、休薬した方がベターなときもあります。以下のケースです。

  • 骨吸収抑制薬投与を4年以上受けていたり
  • 顎骨壊死リスク因子がある(口腔衛生状態の不良、がん、糖尿病、ステロイド使用など)

この場合には、骨折リスクを含めた全身状態が許容すれば、2カ月前後の休薬について考慮することとされています。

・BP製剤の中断は骨折発生や症状悪化のリスク↑、歯科治療は休薬せずに行うことが望ましい。ARONJ発症リスク↑の場合は休薬考慮!

デスノマブは継続したまま行うのが基本!

BP製剤と同様に、継続したまま歯科治療を行います。

ただ違うのは、顎骨壊死のリスクが低い時期に合わせて侵襲的な治療を行うことができる点です。

デスノマブの半減期は1ヶ月程度と短く、投与間隔が6ヶ月に1回(骨粗鬆症患者の場合)なので、リスクが低いタイミングで治療を行います。

・デノスマブはBP製剤と同様に休薬せずに歯科治療を行う(できるだけリスクが低い時期に合わせて)

服薬指導のポイント

ARONJの発症予防と早期発見のために、薬剤師ができることは大きく3つあります。

  1. 歯科治療の予定をチェック
  2. 副作用のモニタリング
  3. 歯科医との連携、情報提供

歯科治療の予定をチェック

歯科治療の予定を聞いておく。

・初回指導時には、薬効や飲み方の説明に加えて、歯科受診の予定を忘れずに聞き取りたいところです。

予定があれば、BP製剤開始のタイミング変更ができるのか?医師に相談しましょう。(※服用開始の2週間前までに治療を終えておくことが望ましい)

投与中に歯科治療を受ける場合もあるので、定期的に確認することが大切です。

副作用のモニタリング

ARONJの前駆症状は押さえておく!

BP製剤の代表的な副作用といえば、消化管粘膜障害ですが、頻度は稀であっても、ARONJの発症に注意が必要です。忘れないようにしたいですね。

主な臨床症状は下記です。

  • 疼痛と感染を伴う持続性の骨露出
  • 歯肉の腫脹
  • 排膿
  • 歯の動揺
  • しびれ
  • 顎が重い感じ…など

定期的なモニタリングで早期発見に努めることが大切です。

歯科医との連携、情報提供

歯科医との情報連携のために、お薬手帳を活用しよう!

BP製剤や抗RANKL抗体製剤を使用してるのか?
歯科の先生がチェックしてくれます。口頭による聞き取りに加えて、お薬手帳があれば、確認漏れを防ぐことができるはずです。

ただ、ですね。「歯科医院にお薬手帳を持っていく」という発想がまだまだ浸透していません。薬剤師が率先してお薬手帳の活用を推進していくことが大切だと思います。

経口BP製剤だけでなく、注射製剤を記載することも忘れないようにしましょう。

▽悪性腫瘍による高Ca血症や骨病変などに使用

  • パミドロン酸二Na(パミドロン酸二Na点滴静注®︎)
  • ゾレドロン酸水和物(ゾメタ点滴静注®︎)
  • デノスマブ(ランマーク皮下注®︎)

▽骨粗鬆症に使用

  • アレンドロン酸Na(ボナロン点滴静注®︎)
  • イバンドロン酸Na水和物(ボンビバ静注®︎)
  • ゾレドロン酸水和物(リクラスト点滴静注®︎)
  • デノスマブ(プラリア皮下注®︎)

まとめ

ポイントは以下の5点です。

  1. 歯科治療時に注意すべき薬剤は、抗血栓薬と骨吸収抑制薬の2つ。
  2. 抗血栓薬は休薬せずに継続したまま行う(休薬に伴う血栓症リスク>出血リスク)
  3. 自己判断による休薬は血栓症リスクに晒される。服薬指導の際に血栓症リスクを伝えよう。
  4. 骨吸収抑制薬も休薬せずに継続したまま行うのが基本(休薬に伴う骨折リスク>ARONJ発症リスク)
  5. ARONJ予防のために口腔衛生管理がとくに重要、歯科医との連携も不可欠。

今回は「歯科治療時に注意すべき2種類のくすり」をテーマに「休薬するのか、それとも継続するのか?」判断に必要な知識と考え方について解説しました。

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