ワルファリンを見かける機会が減りました!
抗凝固薬DOAC(ドアック)の登場で、「納豆、青汁、クロレラ」の3つのキーワードを説明する機会もわずかに。
このままではDOACに飲み込まれてしまうのか?!
というと、そんなことはありません。ワルファリンならではのいいところがあって、DOACと上手く棲み分けがされています。
今回は、DOACとワルファリンの違いに注目!臨床でどう使い分けるのか?をスッキリと解説します。
DOACとワルファリンを比較する

まず、DOACのメリットとデメリットについて、ワルファリンと比較しながらポイントを押さえておきます。
DOACのメリット
大きく3つです。
- 効果発現が早い
→DOACは効果発現が速やか。一方でワルファリンは2〜3日ほどかかる。効き始めるまでヘパリンとの併用が必要です。 - 投与量が固定
→DOACは薬効に個人差が少なく、ワルファリンのようにPT-INR測定による投与量調節が不要です。 - 脳出血や頭蓋内出血の副作用が少ない
→DOACはワルファリンに比べて脳出血、頭蓋内出血などが少なく安全性が高い。(あとで紹介します)
それから、DOACは今までやむなく納豆を我慢していた人にも朗報ですね。ワルファリンに比べて薬との相互作用が少ないのも良いところです。
DOACのデメリット
下記のとおりです。
- 重度の腎機能障害患者に不向き
→DOACは腎臓から排泄されるため、腎機能に合わせた投与量の調節が必要。透析患者さんには禁忌。重度のCKD患者にも不向きです。 - コストが高い
→DOACはワルファリンに比べて割高。長期で服用するケースでは医療費を圧迫するし、患者負担も大きい。 - 効果確認の指標がない
→DOACは飲み忘れや飲み過ぎがあってもわかりにくい。ワルファリンのようにPT-INRが使えないので、コンプライアンス不良例ではかえって血栓症や出血のリスクが高まる可能性あり。
ほかにもあります。
出血発生時や緊急手術時に、DOACは薬効のリバースがむずかしいのが弱点です。ビタミンK製剤、ケイセントラなどを備えたワルファリンに対して、DOACはプラザキサを除いて拮抗薬がありません。
臨床成績:DOAC全体 vs ワルファリン
続いて、有効性と安全性についてDOACとワルファリンを比較します。
2014年に発表された大規模臨床試験のメタ解析。
結果は、有効性と安全性ともに、おおむねDOACの方がワルファリンよりも優れていることがわかりました。
- 脳卒中/全身性塞栓症…19%リスク低下(リスク比 0.81 : 0.73-0.91; p<0.0001)
- 出血性脳卒中…DOACで有意に減少(リスク比 0.49 : 0.38-0.64; p<0.0001)
- 頭蓋内出血…DOACで有意に減少(リスク比 0.48 : 0.39-0.59; p<0.0001)
- 大出血…変わらない(リスク比 0.86 : 0.73-1.00; p=0.06)
- 消化管出血…DOACで有意に増加(リスク比 1.25 : 1.01-1.55; p=0.04)
参考文献)Lancet. 2014 ;383 :955-62.
消化管出血リスクには注意が必要ですね。
臨床成績:個々のDOAC vs ワルファリン
次は個々のDOACとワルファリンの比較です。

ポイントを確認します。
まずは有効性について
ワルファリンより優れているDOAC!
ダビガトラン300mg/日とアピキサバン10mg/日です。脳卒中と全身性塞栓症でワルファリンよりも優越性を示しました。高用量ダビガトランは虚血性脳卒中(脳梗塞)に優越性が認められた唯一のDOACです。
つまり非劣性を示したのは、ダビガトラン220mg/日、リバーロキサバン、エドキサバンです。
次に安全性はどうか
頭蓋内出血は、いずれのDOACもワルファリンに比べて優越性を示しました。
ダビガトラン150mg/日、アピキサバン、エドキサバンです。安全性が高いDOACといえますね。特に腎排泄率の低いアピキサバンやエドキサバンは高齢者や慢性腎臓病(CKD)患者さんにも使いやすいです。
ダビガトラン300mg/日とエドキサバンです。そのほかのDOACは非劣性でした。
臨床試験を比較すると、一括りにされるDOACにも違いがあることがわかります。
DOACの臨床における位置付け(ワルファリンも合わせて確認)

DOACが使われる場面は?
速効性があって安全性が高く、効果に個人差が少ないDOAC。選択するケースが増えています。
以前は、抗凝固療法を始めようといった時には、ワルファリンが第一選択でした。というか、経口薬ではそれしかなかったからですね。今では大きく状況が変わりました。
では、DOACはどういう時に処方されるのか?適応から大きく3つの場面があります。
- 非心房細動患者における脳塞栓症予防
- 深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)など静脈血栓塞栓症(VTE)の治療と再発予防
- 下肢整形外科手術患者のVTE予防
この中で、一番多いのは非心房細動による脳塞栓症の予防です。しかもダントツ!調べたわけでなく処方目的を毎回確認してる作者の体感ですが……。
ここからは、ガイドラインでの位置付けを確認します。
非心房細動患者の脳塞栓症予防
ワルファリンと並んでDOACがバッチリ推奨されています。
抗凝固薬療法を始めるかどうかは、以下のCHADS2スコアを用いて脳梗塞発症リスクを評価して決めるのが一般的です。
・C…Congestive heart failure / LV dysfunction(心不全/左室機能不全)
・H…Hypertension (高血圧)
・A…Age≧ 75 (年齢75歳以上)
・D…Diabetes mellitus (糖尿病)
・S…Stroke/TIA (脳卒中/TIA既往)心房細動治療ガイドライン2013
該当した項目を点数化、2点以上がハイリスクです。
↓点数によって、以下のように凝固療法が推奨されています。
・2点以上…DOACまたはワルファリンが推奨
・1点…ダビガトラン、アピキサバンが推奨、その他のDOAC、ワルファリンは考慮
・0点…DOACとワルファリン考慮してもよい(*心筋症や64〜74歳、心筋梗塞の既往など血管疾患などがあれば)参考文献)心房細動治療ガイドライン2013
1次予防と2次予防に分けて考えるとわかりやすい
例えば、1度脳梗塞を起こした人は、つまり二次予防の場合、脳梗塞の再発リスクが高く、それだけでSの2点が加算されるのでDOACやワルファリンの投与を行うのが基本です。
一方で、一次予防であってもハイリスク例ではリスク軽減のために抗凝固療法を始めます。高血圧や心不全、ご高齢など複数の危険因子が重なる場合です。
さて、2点以上の場合DOACとワルファリンどちらを選択するべきか?
適応があれば、まずDOACの投与を考慮することが推奨されています。DOACはワルファリンに比べて有効性、安全性ともに同等か優れているからです。
・CHADS2スコア2点以上の場合、適応があれば新規経口抗凝固薬の投与をまず考慮する
心房細動治療ガイドライン2013
DOACが何らかの理由で使用できない場合に、ワルファリンを選択するという流れですね。(後述します)
肺塞栓症や深部静脈血栓症などの治療
抗凝固療法の選択肢は大きく以下の2つです。
- ワルファリン+非経口抗凝固薬※1
- DOAC
(※1、未分画ヘパリン、フォンダパリニクスなど)
参考文献)肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン2017年度版
ワルファリンは併用療法です。DOACと違って速効性がないので、効果が安定するまでヘパリンなどを併用する必要があるからですね。
以前はこのような併用療法が主流でしたが、最近では、これまたDOACが選択されるケースが増えています。
・なお、整形外科領域、術後DVTの予防においても汎用されているのもやはりDOAC(エドキサバンのみ適応)です。
DOACのメリットは何といっても速効性と安全性、簡便に投与できるのが魅力。静脈血栓症の治療、予防においてもワルファリンからDOACの方にシフトしているのが現状です。
VTEに対するDOACの使い方
心房細動と違ってVTEに対する使い方は特徴的です。
ポイントだけを確認しておきます。
すべてのDOACが使えるわけではないのです。
VTEでは以下のように、ローディングが必要です。
- リバーロキサバン…15mg×2を3週間、そのあと15mg×1
- アピキサバン…10mg×2を7日間、そのあと5mg×2
心房細動における通常量の倍量を初期に投与します。
しかし、急性期はヘパリンを使用して、しばらくして切り替えるのが基本です。
血栓が消失しても飲み続けないといけません。投与期間がだいたい決まってるのも、心房細動とは違いますね。
ワルファリンの方が優れているケース

もう、このままいくと、ワルファリンはDOACにとって代わられる?かというと、そうではなくて、ワルファリンじゃないとダメなケースもあります。
大きく3つケースです。
重度の腎機能障害患者、透析患者
基本的にDOACは使いにくい!
腎臓から排泄されるクスリだからですね。各薬剤ごとの尿中未変化体排泄率は以下のとおりです。
- ダビガトラン…約80%
- リバーロキサバン…約66%
- アピキサバン…約27%
- エドキサバン…約50%
見てわかるように、ダビガドランが群を抜いて高いーー。∑(゚Д゚)
ダビガトランはCcr30未満で禁忌です。市販直後調査・最終報告にもあったように、出血による死亡例15例のうち13例に腎障害を認め、うち6例は禁忌症例でした。
ほかのDOACは適応症によってCcr15〜30なら使える場合もあるけど、出血のリスクを考えると避けたいところです。
薬剤によって程度こそ違えど、ここがDOACの限界といえるでしょう。重度腎機能障害、透析患者さんにはワルファリンの選択が望ましいと考えられます。
・ワルファリンの腎排泄率は1%以下です。DOACのように腎機能に応じた投与設計は必要ありません。PT-INR値の測定により投与量を調整し安全に使用できます。納豆が食べたい、定期的な採血が嫌といっても、こういう時にはワルファリンしかないのです。
弁膜症性の心房細動
DOACは適応外です!
適応は「非弁膜症性心房細動における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」で、弁膜症性心房細動の前に「非」がついています。見落としやすいですけど…。
弁膜症性心房細動というのは、リウマチ性の僧帽弁狭窄症、人工弁(機械弁、生体弁)置換術後の心房細動のことです。薬剤の選択は、ワルファリンのみが推奨されています。(心房細動治療ガイドライン2013年改訂版)
なぜ、DOACはダメなのか?
・弁膜症性の心房細動は、塞栓症のリスクが特に高く、DOAC(プラザキサ高用量300〜600mg/日、機械弁置換例を対象)ではワルファリンに比べて有効性、安全性ともに劣ることが示されているからです。(RE-ALIGN Trial172)
心房細動だからといって、なんでもDOACというわけにはいかず、適応によってワルファリンじゃないとダメなケースがあります。
ときどき、DOACに変更した方がいいのでは?と思うワルファリン服用患者さんがいます。処方目的を確認すると案の定、「弁膜症の手術をして、それから飲んでいる」と、言われるケースも多いです。
ワルファリンからDOACへの変更を検討する時には、切り替えるとかえって塞栓症のリスクが高まる弁膜症性心房細動に気をつけましょう。
コンプライアンスが悪い人
ワルファリンの方が向いています。
DOACは速効性がある反面、飲み忘れた時に止血能の回復も速やかだからです。コンプライアンスが悪い人では、かえって血栓症のリスクが高まります。
しかも、DOACは効果確認の指標も確立していないので、飲み忘れや飲み過ぎがあってもわかりにくいです!(><)
一方で、ワルファリンは半減期が約40時間と長いです。万が一、飲み忘れた際でも直ちに薬効が消失するわけでもないし、定期的なモニタリングにより効果を確認することもできます。
定期的なPT-INRの測定がなく投与が簡便であるDOACにも弱点があるわけです。
DOACはきちんと服薬管理ができる人には合っているけど、コンプライアンス不良の患者さんには不向きです。ワルファリンの方が安全に投薬できると考えられます。
まとめ

最後にまとめておきますね。
ポイントは下記のとおりです。
▽DOACのメリットとデメリット(ワルファリンと比較)
- メリット→速効性があり、安全性も高く、投与が簡便である。とにかく使い勝手が良いのがDOACの魅力であり強み。
- デメリット→効果確認の指標がなく、コストがかさむ。腎排泄型薬剤のため、透析患者には禁忌。重度のCKD患者にも不向き。
▽DOACとワルファリン、臨床での使い分けは?
- 心房細動→CHADS2スコアで抗凝固療法の必要性を評価。スコアに応じて薬剤の選択が推奨されている。適応があれば、まずはDOACの選択を考慮!
- 静脈血栓塞栓症(VTE)→治療はDOACまたは、ワルファリン+非経口抗凝固薬。速効性があって簡便に投与できるDOACを選択するケースが増えている。
- 術後VTE予防→整形外科領域、術後DVTの予防においては、DOACが汎用されてます。適応があるのはエドキサバンのみ。
▽ワルファリンの方が優れているケース
- 重度の腎機能障害がある人→DOACは透析患者には禁忌。重度のCKD患者にも不向き。
- 弁膜症性心房細動の患者→ワルファリンじゃないとダメなケース。DOACは適応外。
- コンプライアンス不良例→ワルファリンは半減期が長いので飲み忘れてもすぐに効果が消失しないし、PT-INRの測定により薬効をモニターできる。
★ ★ ★ ★ ★
今回は、DOACとワルファリンの違いに注目!臨床での使い分けについて解説しました。
高齢化にともなって抗凝固療法を行うケースは増えています。処方監査、服薬指導などで関わるときにご活用いただけたらうれしいです♪
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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