今回のテーマはDOAC!
直接作用型経口抗凝固薬(Direct Oral Anti-Coagulants)の略ですね。発売当初はNOAC(Novel Oral Anti-Coagulant:新規経口抗凝固薬)と呼ばれていました。
現在、国内で使用できるDOACは全部で4種類あります。
製品名 | 一般名 | 発売日 |
---|---|---|
プラザキサ | ダビガトラン | 2011年3月 |
イグザレルト | リバーロキサバン | 2012年4月 |
リクシアナ | エドキサバン | 2011年7月 |
エリキュース | アピキサバン | 2013年2月 |
DOACは処方監査が大変!
ですよね。投与の可否、投与量の減量基準、相互作用等、チェックすべき項目がいくつもあるからです。特に、減量基準。薬剤ごとに確認項目が違うだけでなく適応によって対応も変わります。
ややこしすぎて、覚えられないばかりか、以前思い込みで判断を誤りそうになったこともあります。
知識を整理しないと危ない!
そう思い、4種類のDOACについて処方監査項目の比較表を作成しました。また、どのような手順で処方監査を行えばいいのか、ポイントをまとめたので共有したいと思います。
抗凝固薬DOAC:4種類の比較

処方監査に必要な項目は何か?
添付文書の端から端まで色々とありますが、今回は薬剤ごとに内容が異なる5項目をピックアップしました。
- 適応症
- 用法用量
- 禁忌・減量基準
- 肝機能障害患者への対応
- 相互作用
抗凝固薬DOACの比較表は以下のようになります。
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見るからに煩雑ですよね。ここからは、表をもとに処方監査の手順を確認しましょう。
抗凝固薬DOAC:処方監査の手順

処方監査の手順は?人によって違うと思いますが、以下の手順に沿って、処方監査のポイントを解説します。
適応症
適応症のチェックは投与の可否、用法用量の妥当性を確認するために欠かせません。DOACは適応ごとに禁忌・減量基準、用法用量も異なるからです。なぜ処方されたのか?まずは処方目的を確認しましょう。
3つの適応
※比較表ではスペースの関係で、下記略号を用いました
- 非弁膜症性心房細動:NVAF
- 静脈血栓塞栓症:VTE
- 深部静脈血栓症:DVT
- 肺血栓塞栓症:PE
NVAFの血栓予防は第一選択!
ワルファリンからの切り替えに加えて、新規でDOACが処方されることが増えています。不整脈薬物治療ガイドラインにおいて、NVAF患者でCHADS2スコア(脳梗塞の発症リスクを評価する)が1点以上の場合に、DOACが推奨されているからです。

VTEの治療・再発予防で使われるケースも多い
最近よく見かけるようになりました。DOACは使い勝手に優れています。ワルファリンと異なり速効性があるため、初期治療期から単独で用いることが可能で、維持治療期に注射薬からの切り替えも簡便に行えるからです。
術後VTEも活躍!
整形外科術後、長期臥床における血栓塞栓症を予防するために入院中に使用します。当院でも、DOACが低分子へパリン製剤にとって代わりました。
DOAC処方監査のポイントは2つです。
- 薬剤ごとに適応が異なる
- 規格ごとに適応が異なる
順番に見ていきましょう。
薬剤ごとに適応が異なる
プラザキサ | イグザレルト | リクシアナ | エリキュース | |
---|---|---|---|---|
NVAF | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
VTE | ー | ◯ | ◯ | ◯ |
術後VTE | ー | ー | ◯ | ー |
私は以下のように頭の中を整理しています。
- 共通点はNVAF
- 相違点①はプラザキサがVTEに使えない
- 相違点②リクシアナのみ術後VTE予防に使える
規格ごとに適応が異なる
リクシアナは適応と規格が正しいかチェックが必要になります。以下のように規格ごとに適応が違うからです。
リクシアナ | 15mg | 30mg | 60mg |
---|---|---|---|
NVAF | ◯注 | ◯ | ◯ |
VTE | ◯注 | ◯ | ◯ |
術後VTE | ◯ | ◯ | ー |
押さえておきたいのは2点です。
- 15mgは術後VTE専用ではない
- 60mgは術後VTEに使えない
15mgを使う場面は?
基本的には術後VTEに用います。当院もその目的で採用しました。しかし、NVAFやVTEの適応で使う場合もあります。ここは意外と知らない人が多い印象です。
以下のように、リクシアナ→ワルファリンへの切り替えの際に、抗凝固作用を維持するために選択します。ワルファリンは効果が発揮されるまでに時間を要するからです。
本剤からワルファリンに切り替える場合は、抗凝固作用が維持されるよう注意し、PT-INRが治療域の下限を超えるまでは、本剤30mgを投与している患者では15mg 1日1回とワルファリン、60mgを投与している患者では30mg 1日1回とワルファリンを併用投与すること。
リクシアナOD錠 添付文書
ちなみに適応の判別は難しくありません。ワルファリンと併用だからですね。腎機能が悪くなってリクシアナをワルファリンへの切り替えはときどきあります。15mg製剤(または30mg半錠も可?)を使うことは覚えておきましょう。
DOACとワルファリンの特徴・使い分けについて別記事でまとめているので合わせてご覧くださいね。

リクシアナ15mgの出番が増えました!
高齢者(80歳以上が目安、NVAFに使用)の出血リスクを低減するための用量設定です。下記の基準を満たす場合、15mgへの減量を考慮する必要があります。
①次の出血性素因を1つ以上有する
- 頭蓋内、眼内、消化管等重要器官での出血の既往
- 低体重(45kg以下)
- クレアチニンクリアランス15mL/min以上30mL/min未満
- 非ステロイド性消炎鎮痛剤の常用
- 抗血小板剤の使用
②本剤の通常用量又は他の経口抗凝固剤の承認用量では出血リスクのため投与できない
用法用量
適応がわかったら、次は用法用量の確認です。
DOACは以下のように適応ごとに用法用量が異なります。本当に覚えるのが大変…。
NVAF | VTE | 術後VTE | |
---|---|---|---|
プラザキサ | 150mg×2 | ー | ー |
イグザレルト | 15mg×1 | 15mg×1 3週間は15mg×2 | ー |
リクシアナ | 60mg×1 30mg×1※60kg未満 | 60mg×1 30mg×1※60kg未満 | 30mg×1 |
エリキュース | 5mg×2 | 5mg×2 1週間は10mg×2 | ー |
ポイントは2点です。
- イグザレルトとエリキュースはVTEの場合、ローディングが必要
- リクシアナは体重によって投与量が変わる
VTE時におけるローディングの有無は押さえておきましょう。イグザレルトとエリキュースは一定期間、倍量投与を行います。ローディング漏れの処方を何度か見たことがあるので注意が必要ですね。
リクシアナは体重の確認が欠かせません。カットオフ値は60kgです。ちなみに、体重のチェックが必要なDOACはもう一つあります。後述しますね。
腎機能

続いて、腎機能チェック!
DOACは腎臓から排泄される割合が多く、腎機能に応じた投与設計が必要になります。場合によっては禁忌に該当するため、腎機能(eGFR、Ccr)のチェックが欠かせません!
プラザキサが群を抜いて高いですね。その他は大きくは変わりません(エリキュースがやや低め…)
①②④添付文書、IF、③申請資料概要参照
DOACの腎機能チェック、ポイントは2つです。
- 禁忌の有無
- 減量の必要性
順番に見ていきましょう。
禁忌の有無をチェック!
まずは禁忌に該当しないか確認!ややこしいことに、DOACは薬剤ごとに禁忌の基準が異なるだけでなく、適応ごとに違います。
NVAF | VTE | 術後VTE | |
---|---|---|---|
プラザキサ | Ccr<30 | ー | ー |
イグザレルト | Ccr<15 | Ccr<30 | ー |
リクシアナ | Ccr<15 | Ccr<15 | Ccr<30 |
エリキュース | Ccr<15 | Ccr<30 | ー |
カットオフ値は15か30です。私は適応ごとに以下のように覚えています。
- NVAFは腎排泄率で区別(腎機能の影響を受けやすいプラザキサは30未満、他は15未満で禁忌)
- VTEは負荷投与の有無で区別(倍量投与のイグザレルトとエリキュース30未満、リクシアナは15未満で禁忌)
- 術後VTEは30未満(術後出血リスクに配慮して?)
プラザキサは先述のように、尿中排泄率が高く、Ccr30未満の人には使えません。ここは絶対に見落とさないように!過去にブルーレターが発出された薬なので、特に注意ですね。
VTEの場合、リクシアナはCcr15までなら使えます。ここはポイント。腎機能が悪くエリキュースやイグザレルトが禁忌にあたる場合の代替薬になります。
eGFRとCcrどちら用いるか?
結論はどちらでもOKです。
添付文書はCcrの記載ですが、CKD診療ガイド2012によれば、「Ccr別投与量」は「GFR別投与量」とみなしてよいとされています。

減量基準をチェック!
禁忌に当てはまらないことを確認できたら、次は減量基準の確認です。
NVAF | VTE | 術後VTE | |
---|---|---|---|
プラザキサ | Ccr30-50 70歳以上 消化管出血既往 | ー | ー |
イグザレルト | Ccr15-49 | 減量不要 | ー |
リクシアナ | Ccr15-50 | Ccr15-50 | Ccr30-50 |
エリキュース | 下記2項目該当 Cre1.5以上 年齢80歳以上 体重60kg以下 | 減量不要 | ー |
こちらも禁忌と同様に、薬剤・適応ごとに減量基準が異なります。基準がバラバラで、覚えるの大変ですよね。
毎回、添付文書ばかり見てたら仕事が進まないので、私は以下のように知識を整理しています。
- カットオフ値は50(プラザキサ、イグザレルト、リクシアナ)
- エリキュースは別枠(Creと年齢、体重)
- VTEは減量不要(例外…リクシアナ、その代わり禁忌の基準が緩い?)
- プラザキサは年齢と既往歴のチェックも!
減量基準は本当にややこしいので、焦らずに確実にチェックを行うことが大切です。医師から尋ねられることも多いので、ある程度は記憶しておきたいですね。
処方監査には未補正eGFR(mL/min)を用いる!
血液検査結果のeGFR値(mL/min/1.73㎡)はそのままでは使用できません。標準体型(170cm 63kg)で補正された値だからです。
投与量が適切なのか?処方監査では、腎機能の評価に未補正eGFR値を確認しましょう。求め方は以下の計算式を使います。
未補正eGFR = eGFR(mL/min/1.73㎡)× 個々の体表面積/1.73㎡
詳しくは別記事にまとめているのでご確認くださいね。

肝機能
意外と盲点かも知れません。イグザレルトのみ中等度以上(Child-Pugh分類B又はCに相当)の肝機能障害患者さんは禁忌になります。以下のように、出血リスクが増大する可能性があるからです。
中等度の肝障害のある肝硬変患者(Child-Pugh分類B 8例)では健康被験者と比較してAUCが2.3倍上昇した。なお、非結合型のAUCは2.6倍上昇した。第Ⅹa因子活性阻害率は2.6倍増加し、PT(秒)も2.1倍延長した。Child-Pugh分類Cの患者における検討は実施していない
イグザレルトOD錠添付文書
Child-Pugh分類は肝機能障害の重症度を評価するためのもの。以下の項目からスコアを計算します。

正直言って、院外処方の場合、評価するのは難しいですよね。検査値はともかく、脳症や腹水は画像やカルテ所見を見ないとわからないから。だからといって、確認しないわけにはいかないので、患者さんに肝臓が悪いと言われたことがあるか、探りを入れてみるのはいいかも知れません。
ほかのDOACは肝機能による薬物動態への影響は問題ありません
- エリキュース…Child-Pugh分類A又はBの患者→健康成人と薬物動態は類似
- プラザキサ…中等度の肝機能障害患者→ 健康被験者とAUC0-∞は同程度
- リクシアナ…軽度及び中等度の肝機能障害患者→ 健康成人と薬物動態に大きな差異なし
※各種、添付文書より
相互作用

最後に相互作用のチェック!
DOACは併用薬剤・服薬歴のチェックが欠かせません。以下のように、薬物代謝酵素やトランスポーターの影響を受けるからです。
- プラザキサ…P糖タンパク質
- イグザレルト…CYP3A4、P糖タンパク質
- リクシアナ…P糖タンパク質
- エリキュース…CYP3A4、P糖タンパク質
確認手順は以下の2つのステップで考えるとわかりやすいです。
プラザキサとイグザレルトは禁忌の設定があります。
併用禁忌薬は覚えておきたいところです!
いずれも血中濃度上昇により出血リスクが高まります。
※併用薬の変更が難しい場合には、どうすればいいのか?他のDOAC(リクシアナやエリキュース等)への変更が選択肢になります。
併用注意は大きく2つのパターンに分けて考えるとわかりやすいです。
- 薬効重複
- 代謝酵素の重複
①まずは薬効重複!
これはイメージしやすいのではないでしょうか。抗血小板薬なんて真っ先に思い浮かびますよね。
- 抗血小板薬
- 抗凝固薬
- 血栓溶解剤
- NSAIDs
- SSRI、SNRI
しかし、意外なものもあります。まあ、NSAIDsはなんとなくわかりますが、SSRI、SNRIにも血小板抑制作用があるそうです。セロトニンの取り込み阻害により、血小板内の5-HTが減るのが機序とされています。セロトニンは血管収縮と血小板凝集が起こすからですね。
薬効重複は4種類のDOACに共通です。
※NSAIDsは疼痛評価により中止や他剤への変更を検討するのもありですね。
②続いて、代謝酵素の重複!
添付文書にはいろいろと書いています。ざっとみた感じ、特に多いのはイグザレルト、それにエリキュースが続きます。CYP3A4の影響を受けるからですね。
※薬効重複と同様に服薬後のフォローを行うことになりますが、実は減量基準が設定されているものがあります。以下は要チェックです。
プラザキサとベラパミルは併用のケースが多く、対応は覚えておいた方がいいです。問題になるのは、ベラパミルを一緒に開始、又は追加するときです。逆にいうと、ベラパミルを先に服用(3日間)しており、プラザキサを追加する場合には問題になりません。減量を考慮するだけでOK。アドヒアランスを考えて、他のDOACに変更するのもありですね(←この対応は結構多い)
イグザレルトの方は、記事を書くにあたり知りました。VTE初期3週間は原則避けなければありません。他のDOACに変えるにしても、減量が必要な場合があります。
リクシアナはP糖タンパク阻害薬との相互作用に注意です。併用薬によって【減量】又は【減量を考慮】のように対応が変わる点は押さえておきましょう。
エリキュースはイグザレルトと同様に、CYP3A4、P糖タンパクの影響を受けます。イグザレルトが禁忌であるアゾール系抗真菌薬とHIVプロテアーゼ阻害薬に使用できますが、1回量の減量が必要です。
ざっとこんな感じです。DOACの相互作用はかなり多く、減量の対応が必要なものもあるので、しっかりと確認する習慣を身につけたいですね
まとめ

今回は、4種類のDOACを比較しながら、処方監査のポイントを解説しました。
記事を書きながら改めて思ったのは
処方監査を強化すべき点!
DOACは適応や腎機能、併用薬等によって減量基準が異なるからです。
比較表を作りながら、煩雑さを実感し、今まで確認が不十分だった点にも気がつきました。これを機に手順を見直したいと思います。
最後に、ご存知のとおりDOACはハイリスク薬剤です。処方監査のミスが思わぬ事態へと発展する危険性を秘めています。処方監査の強化により安全使用に努めましょう♪