DOACと消化管出血【薬剤師が押さえておきたいポイント】

当ページのリンクには広告が含まれています

最近、DOAC(ドアック)の処方が増えてきました!

直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)

ワルファリンに比べて、投与量が固定で簡便に投与できるし、安全性も高い(頭蓋内出血が少ない)からですよね。一方で、意外と知られてないのが「消化管出血のリスク」。投与中に吐血や下血などを認めることは少なくありません。

今回は、DOACの消化管出血に注目し、安全使用のために薬剤師が押さえておきたいポイントをまとめたので共有します。

DOACの種類
製品名一般名発売日
プラザキサダビガトラン2011年3月
イグザレルトリバーロキサバン2012年4月
リクシアナエドキサバン2011年7月
エリキュースアピキサバン2013年2月
目次

DOACの消化管出血リスク

ワルファリンよりも消化管出血が起こりやすい

大規模臨床試験(DOAC4種類)のメタ解析によると、有効性と安全性に関して「DOACはワルファリンに比べておおむね優れている」ことがわかっています。

DOAC VS ワルファリン
  • 脳卒中/全身性塞栓症…DOACで有意に減少 (RR 0.81 : 0.73-0.91; p<0.0001)
  • 頭蓋内出血…DOACで有意に減少 (RR 0.48 : 0.39-0.59; p<0.0001)
  • 大出血…ワルファリンと同程度 (RR 0.86 : 0.73-1.00; p=0.06)
  • 消化管出血…DOACで有意に増加 (RR 1.25 : 1.01-1.55; p=0.04)

Lancet 383 : 955-962, 2014

注目すべきは消化管出血!

ワルファリンに比べて頭蓋内出血のリスクを約52%低下させる一方で、消化管出血のリスクを約25%増加させるという結果でした。

致死的となる頭蓋内出血を抑えるのはDOACの強みですが、投与中の消化管出血には注意が必要だといえます。

消化管出血が起こりやすい理由

なぜ、DOACは消化管出血リスクが高いのか?

大きく3つのメカニズムがあります。

  1. 消化管での局所的な抗凝固作用
  2. 消化管粘膜の直接障害作用(ダビガトラン)
  3. 粘膜の修復障害作用(推定)

DOACは①全身作用に消化管での局所作用が加わります。成分自体に活性があり、吸収される前に消化管内で抗凝固作用を示すからです。一方、ワルファリンは成分自体に活性がありません。消化管より吸収されたあとに、肝臓でビタミンK依存性凝固因子の生成を妨げて薬効を発揮するからです。

②ダビガトランは粘膜障害作用が指摘されています。カプセルに含まれる酒石酸が溶解後に粘膜を刺激するためです。③DOACは傷ついた粘膜の修復を妨げる可能性もあります。

World J Gastroenterol. 2017; 23: 1954–63.

補足

プラザキサはプロドラッグであり、成分自体に活性がありません。ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩は、消化吸収後にエラスターゼにより活性代謝物ダビガトランに変換されます。

プラザキサカプセル インタビューフォーム

消化管出血のリスクが高いDOAC

消化管出血における安全性は、DOAC間でまちまちです。

プラザキサプラザキサイグザレルトエリキュースリクシアナ
大規模臨床試験RE-LYRE-LY(J)ROCKET-AFARISTOTLEEngage AF-TIMI48
1日用量300mg220mg15mg10mg60mg
消化管出血
※対ワルファリン
劣性非劣性劣性非劣性劣性

ワルファリンに劣るDOACは3種類です。

  • 高用量プラザキサ
  • イグザレルト
  • リクシアナ

イグザレルトは海外用量20mgのROCKET試験で劣性を認めたものの、日本人を対象としたJ-ROCKET試験では、上部と下部ともに消化管出血の発生頻度が低いことが示されました。となると、国内承認用量でワルファリンに比べて消化管出血リスクが有意に高いのは、高用量プラザキサとリクシアナの2つです。

プラザキサの消化管出血リスクは、なぜ高いのか?

先述の酒石酸による粘膜刺激作用に加えて、バイオアベイラビリティの低さ(約6.5%)も一因だと考えられます。消化管内に滞留した成分が吸収後にエラスターゼにより活性代謝物になり、消化管粘膜で局所的に薬効を発揮している可能性もあるからです。

リクシアナ(イグザレルト)の消化管出血リスク、高いのはなぜ?

これはよくわかりませんが、共通点は1日1回型であることから、1日量をまとめて1回で飲む方が、2回に分割して飲むよりも消化管内における濃度が高くなるのが理由かも知れません。

消化管出血のリスクが低いDOAC

ワルファリンに比べて、消化管出血リスクを増加させなかったDOACは2種類です。

  • 低用量プラザキサ
  • エリキュース

「DOACは消化管出血のリスクが高い」といっても個別で見ると違いがあります。覚えておくと処方提案や副作用モニタリングなどで、使えるかも…です。

消化管出血を防ぐためには

DOACの消化管出血を防ぐためにできることは何か?

薬剤師が介入できることは大きく3つです。

  1. 腎機能のチェック
  2. 併用薬のチェック
  3. 代替薬の提案

腎機能を確認する

腎機能チェック」により、過量投与を防ぐ

これが大事ですね!DOACは腎機能に応じた投与量設計が欠かせません。以下のように尿中未変化体排泄率が高いからです。

DOAC:尿中未変化体排泄率
①プラザキサ
85%
②イグザレルト
42%
③リクシアナ
48.6%
④エリキュース
27%

①②④添付文書、IF、③申請資料概要参照

慢性腎臓病(CKD)や高齢の方に通常量を選択すると、血中濃度の上昇に伴い副作用(消化管出血)の危険性が高まります。

特にプラザキサは要注意!

尿中未変化体排泄率が群を抜いて高いからです。ブルーレターが発出されたのはご存知ですよね。その後の市販直後調査・最終報告では、重篤な出血事象が139例、うち15例の死亡が明らかになりました。そのうち腎機能障害を認めたは13例、うち6例はeGFR30未満の禁忌であったとのことです。しかも、重篤な出血事象の約6割が消化管出血という結果でした。

プラザキサカプセル 市販直後調査・最終報告

腎機能のチェックを怠ると、重篤な出血性合併症、特に消化管出血を招くことが容易に想像できます。

DOACを見たらeGFR(mL/min)のチェック!

これが基本です!4種類のDOACは、いずれも腎機能に応じて禁忌の設定や減量基準が定められています。しかも、適応ごとに違うのがややこしいところです。詳細は別記事でまとめているのでご確認くださいね。

腎機能チェック漏れによるDOACの過量投与は出血の副作用(消化管出血)を招く危険性があります。腎機能に合わせた投与量かどうかの確認を習慣にすることが大切ですね。

併用薬を確認する

併用薬チェック」により、過量投与を防ぐ

消化管出血を防ぐ方法2つ目ですね。ここは意外と見落としがちです。

DOACの相互作用は大きく2つ分類できます。

  1. 薬効の重複
  2. 代謝酵素の影響

薬効の重複

DOACは下記の薬剤と併用すると、薬効重複により(消化管)出血のリスクが高まります。

DOAC:注意すべき薬効重複
  • 抗凝固薬
  • 抗血小板薬
  • 血栓溶解剤
  • NSAIDs
  • 低用量アスピリン(LDA)
  • SSRI
  • SNRI

抗凝固薬(ヘパリン、ワルファリン)や血栓溶解剤(tPA、ウロキナーゼ)との併用は稀だと思います。一方で多いのが、抗血小板薬やNSAIDs、LDAです。それから、SSRI、SNRIは盲点かも知れません。セロトニン(5-HT)の取り込み阻害により、血小板内の5-HT(血管収縮と血小板凝集)が減るのが機序とされています。

いずれも禁忌ではなく併用注意です。消化管出血を防ぐために、可能であれば処方提案(併用を避ける)、難しい場合には服薬後のフォローにより早期発見に努める必要があります。

代謝酵素の影響

DOACは下記の薬物代謝酵素や薬物排出ポンプの基質です。相互作用により血中濃度が上昇し、(消化管)出血のリスクが高まる可能性があります。

プラザキサイグザレルトエリキュースリクシアナ
CYP3A4
P糖蛋白

イグザレルトとエリキュースはCYP3A4の相互作用に注意が必要です!

対応は大きく5パターンです。

  1. 併用禁忌(禁止)
  2. 併用注意(併用を避ける)
  3. 併用注意(減量する)
  4. 併用注意(減量を考慮する)
  5. 併用注意(フォローする)

まず一つ目、禁忌について。プラザキサとイグザレルトは禁忌の設定があります。

プラザキサ
イグザレルト
  • イトラコナゾール
  • HIVプロテアーゼ阻害薬(リトナビル、ロピナビル・リトナビル、アタザナビル、ダルナビル、ホスアンプレナビル、ネルフィナビル)、ニルマトレルビル・リトナビル
  • コビシスタット含有製剤
  • アゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール、ボリコナゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール)の経口、注射剤
  • エンシトレルビル

対応は一律です。他のDOACへの変更又は相手薬剤の変更を提案します。見逃さなければ、特に難しくありません。

一方で、併用注意の対応が煩雑です。基本対応は服薬後のフォローですが、減量の対応が一律ではありません。以下のように薬剤ごとに異なります。

プラザキサイグザレルトエリキュースリクシアナ
併用注意
(避ける)
併用注意
(減量)
併用注意
(減量を考慮)

①イグザレルトは併用注意なのに併用を避ける組み合わせがあります。成人におけるVTE(深部静脈血栓症又は肺血栓塞栓症発症)、小児におけるFontan手術施行後に下記薬剤と併用する場合です。

イグザレルト+下記薬剤は、原則避けます。

CYP3A4CYP3A4とp糖蛋白
フルコナゾール
ホスフルコナゾール
クラリスロマイシン
エリスロマイシン
イグザレルト 電子添文より

併用注意(併用に注意すること)

成人の静脈血栓塞栓症発症後の初期3週間、並びにFontan手術施行後における血栓・塞栓形成の抑制では、治療上やむを得ないと判断された場合を除き、これらの薬剤との併用を避けること

イグザレルトOD錠 電子添文

②リクシアナは併用注意で必ず減量すべき組み合わせがあります。心房細動と静脈血栓塞栓症の適応で下記薬剤と併用する場合です。

リクシアナ+下記薬剤は、通常量60mg→30mgに減量しなければなりません

減量:P糖蛋白阻害作用を有する薬剤
  • キニジン硫酸塩水和物
  • ベラパミル塩酸塩
  • エリスロマイシン
  • シクロスポリン

(用法及び用量に関連する注意)

 P糖蛋白阻害作用を有する薬剤を併用する場合には、本剤30mgを1日1回経口投与すること。

リクシアナOD錠30mg 電子添文

DOACは減量を考慮すべきケースが幾つもあります

たとえば

リクシアナ+下記P糖蛋白阻害作用のある薬剤との併用は減量を考慮します。

減量を考慮:P糖蛋白阻害作用を有する薬剤
  • アジスロマイシン
  • クラリスロマイシン
  • イトラコナゾール
  • ジルチアゼム
  • アミオダロン塩酸塩
  • HIVプロテアーゼ阻害剤(リトナビル等)等

(用法及び用量に関連する注意)

P糖蛋白阻害作用を有する薬剤を併用する場合には、治療上の有益性と危険性を十分に考慮し、本剤との併用が適切と判断される患者にのみ併用すること。併用する場合には、本剤30mgを1日1回経口投与することを考慮すること。

リクシアナOD錠30mg 電子添文

他にも各薬剤ごとに、色々とあります。添付文書をご確認くださいね。あと、別記事にもまとめているので合わせてご覧頂けたら幸いです。

DOACは薬効重複や代謝酵素の相互作用等により、併用薬によって血中濃度上昇を引き起こします。見逃すと副作用(消化管出血)のリスクに晒されるため、併用薬チェックが欠かせないですね。

代替薬の提案

DOACの消化管出血リスク減らせる方法はないのか?

考察してみました。大きく3つです。

  1. 低リスクのDOACを選択する
  2. ワルファリンを選択する
  3. 消化管出血の予防薬を提案する

低リスクのDOACを選択する

代替案は3つです。

  1. 低用量プラザキサ(220mg/日)
  2. エリキュース
  3. リクシアナ15mg/日(心房細動のみ)

大規模臨床試験でワルファリンと比べて、消化管出血のリスクを増加させなかった①低用量プラザキサと②エリキュースが選択肢に挙がります。プラザキサは消化管出血の既往がある人には減量を考慮すると記載があります。

以下のような出血の危険性が高いと判断される患者では、本剤1回110mg1日2回投与を考慮し、慎重に投与すること。70歳以上の患者、消化管出血の既往を有する患者

プラザキサカプセル 電子添文

あとは、リクシアナ15mg/日に切り替える方法です。2021年8月に出血ハイリスク患者への用法用量が新設されました。心房細動による脳塞栓症の発現リスクが高いにも関わらず、出血リスクから従来用量を選択しにくかったケースに対応できます。

リクシアナ15mg/日の選択基準
  • 適応…非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
  • 対象…高齢の患者(80歳以上を目安とする)
  • 出血性素因を1つ以上有する
    • 頭蓋内、眼内、消化管等重要器官での出血の既往
    • 低体重(45kg以下)
    • クレアチニンクリアランス15mL/min以上30mL/min未満
    • 非ステロイド性消炎鎮痛剤の常用
    • 抗血小板剤の使用
  • 本剤の通常用量又は他の経口抗凝固剤の承認用量では出血リスクのため投与できない。

リクシアナOD錠30mg 電子添文

当院でも、DOAC服用中に消化管出血を認めた場合には、再開時にリクシアナ15mgを選択するケースが増えています。

ワルファリンを選択する

DOACで消化管出血を繰り返す場合に加えて、腎機能がかなり悪い人では、ワルファリンの選択も一つの方法ですよね。

消化管出血の予防薬を提案する

消化管出血の予防薬といえば、プロトンポンプ阻害薬ですよね。

NSAIDsや低用量アスピリン(LDA)投与中の消化管出血を防ぐために、PPIの投与が推奨又は提案されています。今のところ、再発予防(ニ次予防)のみ適応が認められており、一次予防は保険適応外です。

NSAIDs
LDA

一次予防

NSAIDs潰瘍の発生予防は潰瘍既往歴がない患者においても必要であり、PPIによる予防を行うよう提案する(推奨の強さ:弱、エビデンスレベル:A)※保険適用外

二次予防

潰瘍既往歴のある患者のNSAIDs潰瘍の予防には、PPIを推奨し、ボノプラザンを提案する(推奨の強さ:弱、エビデンスレベル:B)

一次予防

LDA起因性消化性潰瘍発生の一次予防にPPIの投与を行うよう推奨する(推奨の強さ:強、エビデンスレベル:A)※保険適用外

二次予防

LDAによる上部消化性潰瘍の再発抑制には、PPIまたはボノプラザンの投与を推奨する(推奨の強さ:強、エビデンスレベル:A)

消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)

一方で、DOACによる消化管出血の予防にPPIは適応が認められていません。

参考までに、上記ガイドラインでは以下の記述があり、投与の推奨もされておりません。現状は個別出血リスクに応じて、PPIの必要性を主治医と相談するのが妥当だと考えられます。

消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)

DOACの消化管出血:早期発見と副作用のモニタリング


DOAC投与中は、患者さんから副作用の聴取と検査値の確認が重要です。消化管出血の兆候を素早くキャッチできるかどうかに、かかっています。

自覚症状
検査値
  • 胃部不快感
  • 食欲不振
  • 血便
  • 貧血症状(ふらつきや倦怠感など)
  • ヘモグロビン(Hb)
  • 尿素窒素(BUN)
  • クレアチニン(Cre)

消化管出血は、頭蓋内出血に比べ、早期に発見し適切な処置を行えばリスクを最小化できるので、自覚症状に加えて定期的なHb、BUN、Creのチェックが早期発見、モニタリングが大切です。

BUN/Cre比をチェック!

BUN/Cre比が30を超えると上部消化管出血の可能性が高いと判断できます。

理由を順に説明しますね。まず消化管出血が起こるとBUNが増加します。血液中の蛋白が分解されたのちに体内に吸収され、最終的に血中BUN上昇という形で反映されるからです。また、出血により血管内脱水を招くのもBUN上昇につながります。一方でCreの数値は大きく変わりません。腎機能低下による影響は受けるものの、消化管出血の影響は受けにくいからです。結果、消化管出血の際にはBUN/Cre比が増加するわけです。

まとめ

今回は、DOACの消化管出血に注目し、安全使用のために薬剤師が押さえておきたいポイントをまとめました。日常業務にお役立て頂けたら幸いです。

本記事のポイント

  • 消化管出血のリスク…DOAC≧ワルファリン
  • 理由…全身的な抗凝固作用+消化管内の局所作用、酒石酸の影響(ダビガトラン)等
  • ワルファリンに劣るDOAC…高用量プラザキサとリクシアナ、イグザレルト(国内臨床試験ではワルファリンよりも少ない)
  • ワルファリンと変わらないDOAC…低用量プラザキサとエリキュース
  • 消化管出血予防…腎機能チェック、併用薬の確認、低リスク薬の選択
  • 早期発見…胃部不快感や食欲不振、貧血症状(ふらつきや倦怠感など)BUN、Creのチェック、BUN/Cre>30を超えると上部消化管出血のリスクが高い可能性↑
目次