抗血小板薬チカグレロル(製品名ブリリンタ)が、2017年2月から、国内でも使えるようになりました。
しかし、特徴や使い方がいまいち掴めない?!っていう人も多いのでは?
- 適応症が2つ
- 用法用量も2とおり
- 2剤併用療法(DAPT)が条件
- それにただし書きが多い!
読めば読むほど謎が深まる、添付文書ですよね。
今回は、チカグレロルをテーマに、適応となる場面と適正使用のポイントをスッキリと解説します。
チガグレロルの適応:2つの場面

大きく2つあります。
- PCI後のステント血栓症を予防する
- 心筋梗塞発症後の二次予防(再発予防)
順番に見ていきますね。
1)PCI後のステント血栓症予防
海外ではPCIが適用されるACSに推奨
チカグレロルは欧州のESC2017、米国ACC/AHAガイドライン2016において、PCIが適用されるACSに推奨されています。

用語も含め順に解説しますね。
ACSは、急性冠症候群の略
冠動脈のプラークが破れて血栓ができ、心筋の壊死が急速に進んでいる病態のことで、急性心筋梗塞と不安定狭心症を合わせた概念です。
ACSは緊急PCIが適応になります。速やかに血流を回復して、心臓のダメージを最小化するためですね。この治療に際して使われるのがチカグレロルです。
PCIは、経皮的冠動脈形成術のこと
PCI後は、留置したステント表面に血栓が生じるステント血栓症が問題になります。
予防にはDAPTを選択する!
抗血小板薬の2剤併用療法です。アスピリンに血小板のP2Y12受容体拮抗薬を併用する処方のことですね。チエノピリジン系のクロピドグレルとプラスグレル、構造の違いからCPTP系に分類されるチカグレロルがあります。
チカグレロルの特徴は?
プロドラッグではなく速効性があり、可逆的に作用するため中止後の効果消失が速やかである点です。
シャープに効き、中止による効果の切れも速いチカグレロルは、海外でPCIが適用されるACSに推奨されています。理由は、海外の臨床試験で良い結果を残せたからです。
チカグレロルはクロピドグレルよりも有効性に優れる
海外の大規模臨床試験を確認します。
・PLATO試験
ACS患者18624例を対象に、チカグレロルとクロピドグレルの有効性を比較した大規模臨床試験です。どちらの方が心血管イベントの発生率を減らせるのか?
結果は、以下のとおりでした。
▽心血管イベント発生率(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)
・チカグレロル 9.8% vs クロピドグレル 11.7%
【ハザード比 0.84 (0.77-0.92):p<0.001】
→チカグレロルの方が有意にイベントの発生を抑えることが示されました。
PLATO試験の結果を受けて、海外ではチカグレロルがPCIが適用されるACS患者さんに対して第一選択薬として広く使われています。
しかし、残念なことに国内は?というと、海外と状況が少し異なります。
国内臨床試験では良い結果が出せなかった
・日本人を含むアジア共同第Ⅲ相臨床試験
ACS患者さん801例(うち日本人723例)を対象に、チカグレロルとクロピドグレルの有効性を比較した臨床試験です。
海外ではチカグレロルの方が優れていることが証明されましたが、残念なことに…、チカグレロルの方がイベント発生率が高いという結果でした。
▽心血管イベント発生率(心血管死、心筋梗塞、及び脳卒中)
・チカグレロル 9.0% vs クロピドグレル 6.3%
【ハザード比 1.47 (0.88-2.44) 】
かろうじて統計学的に非劣性となりましたが、海外の臨床試験のように良い結果ではありませんでした。
国内ではPCIが適用される患者さんへの使用が限定的
そんなことから、国内ではチカグレロルの位置付けは、かなり限定的です。
チカグレロルを使う場面は以下のとおり。
- クロピドグレル、プラスグレルが副作用で使えない時
(過敏症状が発現したとき、稀ですが肝障害や血液毒性が出た時など) - チエノピリジン系薬では効果が不十分なとき
(ステント血栓症やアテローム性血栓症を繰り返す場合など)
・チカグレロルはPCI後のステント血栓症予防において、ほかのチエノピリジン系薬が使えない、または使いにくい時の代替薬という位置付けです。
ここまでが、「ACS患者さんに今からPCIをします」といった緊急時の話。適応症の1つ目です。次は2つある適応症のもう片方を見ていきますね。
2)心筋梗塞後の再発予防

陳旧性心筋梗塞の二次予防にも使える
チカグレロルの使い方や特徴について理解しよう!
と思って、勉強していくとPCI時の使い方はなんとかわかります。
つまずくのが2つ目の適応。陳旧性心筋梗塞です。
簡単に言うと、病態が不安定な急性期を過ぎた心筋梗塞。つまり、以前に心筋梗塞を起こしたことがある人のことです。
チカグレロルは陳旧性心筋梗塞にも使えます。用量は60mg×2です。PCIの後は90mg×2なので用法用量が違うわけですね。
チカグレロル90mgx2を使う場面はわかりやすいです。

胸痛を訴えて来院(救急搬送の場合も)、検査で心筋細胞の壊死が認められ、緊急PCIを行うことになりました。この時には90mgを選択します。PCI後は90mg、これはOKです。
一方で、チカグレロル60mg×2の出番はどのタイミング?かというと、目安は心筋梗塞を起こした1年後くらいです。もちろん、ケースによって前後しますが、基本的には不安定な時期を脱した慢性期が60mgの使い所になります。
もう少し具体的に見てみましょう。
ACSなどでPCIを行うと、以下のような経過を辿ります。
①PCI施行→急性期(DAPT開始)→(6ヶ月〜1年くらい)→②慢性期(SAPTへの変更を考慮)
PCI後の急性期はDAPTですね。ステント血栓症のリスクが高いためです。一定期間を経過後にはSAPTに変更します。ずーっとDAPTだと、出血リスクが懸念されるためですね。
60mgを使うタイミングは②以降の慢性期になります(①〜②までは90mgです)
チカグレロルは慢性期にもDAPTで使う
アスピリンとの併用が必須です。
急性期だけでなく慢性期もDAPTであることは変わりません。先述したように、症状が安定すると出血のリスクを考慮してSAPTになるのが一般的です。
例えば、有名なのはアスピリン。日本循環器学会ガイドラインによれば、心筋梗塞の二次予防に対して、禁忌でない限り永続的な投与が推奨されています。
あと、クロピドグレルも例外的にSAPTとして使用する場合があります。
- 脳血管疾患や末梢動脈疾患を合併した人や(一応、適応)
- アスピリン喘息や、消化性潰瘍などアスピリンが禁忌の人(適応外です)
プラスグレルをSAPTとして使うことは適応外ですし、あまり見かけません。
チカグレロルも心筋梗塞の二次予防、慢性期に選択しますが、DAPTであることが条件です。症状が不安定な時期を脱した陳旧性心筋梗塞にあえてDAPTを選択します。チカグレロルの特徴が少しずつ見えてきました。
チカグレロルはDAPTで慢性期の心血管イベントを減らす
では、チカグレロルはどのような患者さんに使用するのでしょうか?臨床試験の結果を見てみましょう。これを見ると位置付けがわかります。
・PEGASUS試験
対象は、心筋梗塞発症後1〜3年以内の21162例。アスピリン単独(SAPT)と、チカグレロルをオンしたDAPT群について心血管イベントの発生率を比較した臨床試験です。SAPT vs DAPT どちらがイベント発生率を減らせるのか?
結果は以下のとおりでした。
▽心血管イベント発生率(心血管死、心筋梗塞、及び脳卒中)
・チカグレロル60mg群 7.77% vs アスピリン単独群 9.04%
【ハザード比 0.84 (0.74-0.95)】
→チカグレロル群で心血管イベント発生率を抑えることが示されました。
一方で、DAPTの方が出血のイベントは有意に増加するという結果に。
▽大出血発生率(TIMI基準)
・チカグレロル60mg群 2.30% vs アスピリン単独群 1.06%
【ハザード比 2.32 (1.68-3.21)】
ただし、致死性出血や頭蓋内出血などの重篤な出血合併症で見ると、SAPTとDAPTで変わらずという結果でした。
・チカグレロル60mg群0.71% vs アスピリン群0.60%
DAPTの方が出血リスクが高いのは当然ですけど、命に関わる出血がSAPTと同等であったことから、チカグレロル(DAPT)の陳旧性心筋梗塞に対する有用性が証明されたわけです。
この試験の対象者は、アテローム血栓症のハイリスク症例です。
- 65歳以上
- 薬物療法を要する糖尿病
- 2度目の自然発症心筋梗塞既往
- 多枝疾患
- 慢性腎障害
だから、添付文書にも対象者の限定に関するただし書きがあります。
本剤は、65歳以上、薬物療法を必要とする糖尿病、2回以上の心筋梗塞の既往、血管造影で確認された多枝病変を有する冠動脈疾患、又は末期でない慢性の腎機能障害(クレアチニンクリアランス60mL/min未満)のうち1つ以上を有する陳旧性心筋梗塞患者であって、さらに、患者背景、冠動脈病変の状況等から、イベント発現リスクが特に高く、出血の危険性を考慮しても、抗血小板剤2剤併用療法の継続が適切と判断される患者のみに投与すること。
心筋梗塞の二次予防に対して、誰にでもチカグレロルというわけではないのですね。
・チカグレロルは心筋梗塞後の二次予防にDAPTで使用。虚血性イベントの発症リスクが出血リスクを上回る場合に限って選択する薬剤であることを覚えておきましょう。
チカグレロルの適正使用:4つのポイント

チカグレロルを適正に使用するために、注意すべきチェックポイントは4つあります。
- DAPTであることが必須!
- 適応症によって用法用量が違う!
- 呼吸困難の副作用に注意!
- CYP3Aの相互作用を確認!
1)DAPTであることが条件
チカグレロルはなんといってもDAPTがキーワードです。
PCI後のステント血栓症予防には、DAPTが推奨されています。チカグレロルもアスピリンと組み合わせるのが基本です。これはオッケーですよね。
気をつけたいのが、心筋梗塞の二次予防の方です。普通はSAPTになります。アスピリンやクロピドグレルの単独療法ですね。一方、チカグレロルはDAPTです。アテローム血栓症のハイリスク例に使用するだけあって強力な抗血小板作用が求められています。
「チカグレロルを見たらまず、相棒のアスピリンを探す」
ここからスタートします。
時に、見つからないことも。そんなときには、他院や他科から別々に処方されていないか?服薬歴のチェック!なんとしても、アスピリンを見つけることが大切です。
2)適応症によって用法用量が異なる
どちらの適応症か?処方目的の確認が欠かせません。
「PCI後の急性期 or 慢性期(陳旧性心筋梗塞)」
によって、適応症ごとに規格が異なるからです。
- PCI後のステント血栓症予防…90mg×2
- 陳旧性心筋梗塞の再発予防…60mg×2
といっても、処方目的の確認は難しいです。特に調剤薬局ではカルテが手元にないので、患者さんに聞くか、それでもわからなければ処方医に確認しましょう。
3)呼吸困難の副作用に注意!

チカグレロルには特徴的な副作用があります。
呼吸困難です。
普通に考えて、抗血小板薬や抗凝固薬の副作用といえば出血症状ですね。頭蓋内出血や消化管出血などには特に注意が必要です。
チカグレロルも出血症状の早期発見やモニタリングが欠かせませんが、それだけでなく呼吸困難も見落とさないようにしたいです。
「抗血小板薬なのに呼吸困難!?」
意外なんですけど、発生頻度がかなり高いので気をつけないといけません。
先ほどのPEGASUS試験では、呼吸困難の副作用の割合はチカグレロル60mg群で15.84%で、副作用で中断した人の割合は4.55%でした。
なぜ、起こるのか?というと、組織のENT-1受容体(エントワン)刺激作用が関係しています。血中のADP増加により気管支平滑筋の収縮を招くためです。
この作用はチエノピリジン系では見られません。CPTP系に特有のもので、下記のケースではチカグレロルの投与を避けることが望ましいとされています。
- COPDや喘息などの呼吸器疾患患者
- うっ血性心不全を合併した患者
禁忌ではないので、投与することは可能ですが、副作用のモニタリング、早期発見のための説明や指導を忘れないようにしましょう。
4)CYP3Aの相互作用に注意!

薬物代謝酵素の影響あり、併用薬のチェックが欠かせません。
相互作用が多いクスリといえば、リファンピシンやクラリスロマイシン、イトラコナゾールなどが有名ですね。ほかにもメジャーなものはたくさんあります。
に比べて、チカグレロルはマイナーな存在ですね。普通に見落としてしまいそう(^_^*)
CYP3Aを阻害するまたは誘導する薬剤の両方がダメです。かなりの数が添付文書に書いてあるので処方の際には確認してくださいね。覚えるのが不可能なくらい書いてあります。
まとめ

ポイントは以下のとおりです。
位置付けは2つの適応に分けて考えます。
- 世界的にはPCIが適用されるACS患者の第一選択薬。
→でも、国内ではチエノピリジン系薬が使用しにくい場合の代替薬という位置付けです。このギャップを押さえておきましょう。 - 陳旧性心筋梗塞の二次予防、特にアテローム血栓症のハイリスク例に有効。
→世の中では短期DAPTが主流になる中で、あえての長期DAPTです。SAPTで効果が不十分な場合に必要なんですね。
注意すべきチェック項目は以下の4つです。
- DAPTですよね?
↓アスピリンを見つけたら2に進む - 処方目的はどっち?
PCI後の急性期or陳旧性心筋梗塞の慢性期?
↓確認できたら、3に進んでね - 呼吸困難のリスクは大丈夫?
COPD、喘息、うっ血性心不全の合併症は?
↓n.pなら4へ進む - CYPの相互作用は見ましたか?
OKなら調剤スタート!
今回は抗血小板薬チカグレロルについてわかりにくい特徴や使い方を解説しました。正直いって、まだまだ処方例は少ないですが、処方箋にふと見かけた時に、落ち着いて対処できるように準備しておくことが大切です。
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