今回のテーマはDAPT(抗血小薬2剤併用療法)の服薬説明。
DAPTを処方箋で見かけた時に
薬剤師は何に注意して、患者さんにどのように説明すべきか?
特に新人・若手薬剤師の方に向けて書きました。また、薬学生の方も病院実習で心臓カテーテル治療を受ける人に関わることがあると思うので、参考になれば幸いです。
それでは、見ていきましょう。
DAPTの基本
DAPTとは?
英語では
Dual Anti-platelet Therapy
頭文字をとって「ダプト」と呼びます。
日本語では
抗血小板薬の2剤併用療法のことです
SAPTという言葉もある!
よく似た用語として、SAPT (Single Anti-platelet Therapy)があります。
「サプト」といい、DAPT→SAPTのように、抗血小板薬が2剤から1剤に変更になるときによく使う言葉です。セットで覚えておきましょう。
DAPTの処方目的
大きく2つあります
①PCI後のステント血栓症予防
②脳梗塞急性期の再発予防
下記に、詳しくまとめているので是非ご一読くださいませ。
今回は①PCI(冠動脈経皮形成術)後のステント血栓症予防を対象に解説しています。
PCI後におけるDAPTの組み合わせ
「アスピリン+P2Y12受容体拮抗薬」が基本!
以前は「+チエノピリジン系」でしたが、構造が違うチカグレロルの登場により、まとめて「P2Y12受容体拮抗薬」に分類名が変わりました。
- アスピリン+チクロピジン
(ほとんど見かけない) - アスピリン+クロピドグレル
(メジャー) - アスピリン+プラスグレル
(最近の売れっ子) - アスピリン+チカグレロル
(処方は稀)
括弧に処方の動向を合わせて書きました。作者の感覚です…。
チクロピジンが新規で処方されることは稀です。安全性に優れるクロピドグレルが標準薬で、最近ではプラスグレルの処方も増えています。チカグレロルは他のチエノピリジン系が使えない時の代替薬という位置づけですね。
DAPT=PCI後?
上記の組み合わせを見れば、基本的にPCI後のDAPTであることがほとんどです。しかし、以下の例外もあります。
- 脳梗塞の亜急性期に使用する場合(先述した②のケース、アスピリン+クロピドグレル、シロスタゾール等の組み合わせ)
- たまたまDAPTのケース(アスピリンを狭心症等で使用、クロピドグレルやチクロピジンを脳梗塞等で使用)
- チカグレロルを陳旧性心筋梗塞に使用する(PCI後とは限らない)
また、チクロピジンとクロピドグレルは心臓以外に脳血管障害や末梢動脈疾患に適応があるので、必ずしもPCI後に使われているとは限らない点は押さえておきましょう。あと、プラスグレルも脳梗塞の適応が追加(2021年12月)されました。一方で、心臓領域のみの適応であるチカグレロル(例外あり)はほぼPCI後ですね。
DAPT開始の経緯
PCI後のDAPTといっても、適応となる病名は大きく2つです。
- 急性冠症候群(ACS)
…不安定狭心症,非ST上昇心筋梗塞,ST上昇心筋梗塞 - 安定冠動脈疾患
緊急PCIと待機的PCI
①ACSは緊急PCIが適応になります。胸痛を訴えて救急搬送された患者さんがACSの診断で緊急PCIを施行、DAPTを始めるケースです。
②安定冠動脈疾患は待機的PCIが適応になります。労作時にときどき胸痛を訴える外来患者さんが冠動脈造影検査(CAG)で有意狭窄が見つかり、当日又は日を改めてPCIを行うケースです。
どちらもDAPTが始まる点は共通!
服薬説明の内容は大きく変わりません。しかし、ACSの方が今後も血栓症を起こすリスクが高い点は服薬の重要性を説明する上で押さえておいた方が良いでしょう。
緊急PCIはローディングが必要!
速効性を得るために初回投与量を増やします。PCI治療後、早期に起こりやすいステント血栓症を予防するためです。基本的には救急室やカテ室で投与します。プラスグレルはローディング用の20mg製剤がありますが、ほかは通常規格の倍量投与(クロピドグレルは4倍)です。
- アスピリン…162〜200mgを咀嚼して服用
- クロピドグレル…初回300mg、維持75mg×1
- プラスグレル…初回20mg、維持3.75mg×1
- チカグレロル…初回180mg、維持90mg×2
参考文献)急性冠症候群ガイドライン2018、各種添付文書
待機的PCIはローディング不要
待機的PCIでは負荷投与が必要ありません。予定日までにDAPTを開始して血中濃度の定常化が可能だからです。PCI予定日の前に、どのくらいの期間服用すればいいのかは薬剤ごとに異なります。
- クロピドグレル…PCI前に4日投与
- プラスグレル…PCI前に5日投与
- チカグレロル…記載なし(基本的にはローディングで開始)
各添付文書より
DAPT期間
病態ごとに異なります
・急性冠症候群…3〜12ヶ月
・安定冠動脈疾患…1〜3ヶ月
ACSの方がステント血栓症のリスクが高く、投与期間は長めに設定されています。
投与期間について質問を受けることもよくあるので適応となった病名まで把握しておきたいです。カルテでわからない時は患者さんにDAPTが開始になった状況を聞いてみるのもよいですね。
ここからは、服薬指導のポイントを見ていきましょう。
DAPT:服薬指導のポイント
ポイントは大きく2つあります。
①服薬の重要性
②出血時の対応
順番に見ていきますね。
服薬の重要性
「飲み忘れなくきちんと服用する」
というのは薬物療法の基本です。どんな薬にも当てはまります。
といっても、ここだけの話。多少飲み忘れても「まあ、そんなに影響はないかな?」という薬もありますよね。たとえば、ビタミン剤や一部のめまい薬、胃薬など。ほかにもありそうですね。
DAPTの飲み忘れは超危険!
ステント血栓症の誘発により命取りになる可能性があるからです
ところが、「DAPTだからしっかり飲まなければ…」と、服薬の重要性をよくわかっている患者さんは少ない印象です。そのせいもあって頻回に飲み忘れる人をよく見かけます。この前、調節や休薬を自己判断で行う人がいたのは本当に驚きました。
「血をサラサラにする薬は2つも飲まないといけないんですか!? 2個飲むとキツイと思って1個だけに減らしています。ダメですか?」
「すこし前に鼻血がなかなか止まらなくて困りましたよーー。だから、しばらく、飲むのをやめていたんです。別にいいですよね?」
という風に。致死的な事態を招く可能性があることを全然わかってないーー(>_<)
誤った解釈や判断は本当に勘弁してほしいです。DAPTはステント血栓症や心筋梗塞などを防ぐ効果があります。でも、それは指示通り飲んで初めて得られる効果でもあるわけです。
服薬指導の際には、どうして2種類の抗血小板薬が必要なのか、DAPT服薬の重要性を患者さんに理解してもらうことがなにより大切だといえます。
じゃあ、どのように説明すればいいのか?
DAPT説明:服薬の重要性
「こちらは血液をサラサラにするお薬です。今回は心臓の狭くなった血管にステントを入れて広げる治療を行いました。ステントには血の塊ができやすいので、この2種類の薬で予防することが大切です。もし飲み忘れると、血栓ができて心筋梗塞を起こす場合もあります。きちんと飲んで予防しましょうね。」
例えばこんな風に。
・服薬する目的(なぜ、DAPTが必要なのか?)
・飲み忘れの危険性(具体的なリスクを例示する)
上記を意識した説明を行うと、服薬の重要性に対する理解が深まり、アドヒアランスも良くなるはずです。
飲み忘れ時の対応も
あらかじめ伝えたほうがよいと思います。以前に飲み忘れに気づいた時点で飲めばよかったのに、スキップした人がいたので。
患者向医薬品ガイドによると以下の対応になります。
- クロピドグレル…気づいた時に1回分を飲む。次の飲む時間が近い場合は1回分Skip。2回分を一度に飲まない。
- プラスグレル…気づいた時に1回分を飲む。次の飲む時間が近い場合は1回分Skip。2回分を一度に飲まない。
- チカグレロル…飲み忘れた場合には、次の服用予定時間に通常どおり1回分を飲む。2回分を一度に飲まない。
チカグレロルは飲み忘れたらスキップ対応です。一方で、クロピドグレルとプラスグレルは「気づいたとき」に1回分飲みます。しかし、次の飲む時間が近い場合はSkipです。例えば1日1錠あさで飲んでる場合には、当日中に気づいた時点で服用、翌日に気づいたらSkipの対応が妥当でしょうか。
出血時の対応
DAPTの副作用といえば、間違いなく出血ですね。血の止まりにくさを自覚されている患者さんも多いです。
出血症状はいくつかあります
- 切り傷
- 鼻出血
- 歯茎出血
- 皮下出血
- 血便
- 血尿など
以下のように出血症状を列挙して、注意を与えるだけでは不十分だと思います。
「切り傷や鼻血、歯茎からの出血、血便等が現れることがあるので気を付けてください」
出血時に慌てたり、戸惑ったりして、適切な対応がとられない可能性があるからです。
では、どのように説明すれば良いのか?
おすすめは
「出血時にとるべき対応」と「出血症状」を合わせて説明すること
DAPT説明:出血時の対応
たとえば以下のように。
「(服薬の重要性を説明したあとに)一方で、血が止まりにくくなる場合があります。まずは怪我しないよう予防しましょう。もし切り傷や擦り傷、鼻出血などがあれば、患部をしっかり押さえて止血をしてくださいね。もし自分では止められない出血、例えば、血便や血尿などを認めたら、自分の判断で中止しないで医師や薬剤師にすぐに相談してくださいね。」
このように、
・自分で止血処置ができるもの…切り傷、鼻出血、皮下出血など
・速やかに医療機関へ連絡すべきもの…血便や血尿など
に分けて、それぞれの対応を確認しておくと、副作用が出たときに慌てないで適切に行動できると思います。
出血時にDAPTは中止できるのか?
もし、出血症状の訴えがあったなら、必要に応じて主治医に相談です。
基本的にDAPTは中止できません
程度にもよりますが、内出血や鼻出血、歯茎出血では継続されるケースが大半を占めます。適切に対処すれば止血が可能だからです。DAPTを中止するリスクの方が大きいと判断されるわけですね。
一方で、DAPTを中止する場面は?
脳出血や消化管出血などの場合です。基本的に中止の対応がとられます。DAPT継続のリスクが高いという判断ですね。
Q&A
DAPTの期間について聞かれたら
- どのくらいDAPTを続けるのか?
-
DAPT期間の説明は患者さんごとに慎重に行います。虚血リスクと出血リスクを考慮して患者さんごとに決定されるからです。
たとえば、虚血リスクは、冠動脈の治療部位やステントの植え込み数、糖尿病やCKDなど基礎疾患の有無などによって患者さんごとに異なります。
一方で、出血リスクも人それぞれです。若い人よりも足腰の弱った高齢者の方が転倒に伴う怪我や骨折による出血の危険性が高くなります。まや、抗凝固療法を行なっている人も当然ハイリスクですよね。
だから、
一律なDAPT期間の説明はほぼ不可能に近いです
現状では、期間の目安を示しつつも、患者さんごとに今後の状況を見ながら決めるという説明が妥当だと思います。
ACSでPCIを受けた患者さんへの説明例
「(DAPTの期間は)3〜12ヶ月くらいが目安になりますが、人によって前後することがあります。例えば血栓ができやすい人ではより長く、出血が起こりやすい人はより短くなる場合があります。いつまで続けるかは今後、先生と相談しながら決めていきますので、くれぐれも自分の判断で中止することのないようにご注意くださいね。」
たとえば、こんな感じです。
不適切な内容や誤った情報は、自己判断で中止したり、服薬コンプライアンスの低下につながる可能性があるので、DAPT期間の説明は慎重に行う必要があります。
DAPT期間の目安は今後も変わっていく可能性があるので、最新のエビデンスやガイドラインには常にアンテナをはっておいた方がよさそうですね(^_^)
歯科治療や眼科手術時の対応を聞かれたら
こちらも患者さんからよく聞かれます。
- 歯科治療や眼科手術時の対応はどうすれば?
-
基本的な対応は下記です
- 歯科治療…休薬せずに抜歯
- 白内障手術…休薬せずに手術
- 緑内障、硝子体手術…原則休薬
歯科治療で多いのは抜歯ですね。眼科手術は上記のように分けて考えます。
参考までに
詳細は別記事で詳しくまとめているのであわせてご覧くださいね。
最終的には歯科医や眼科医と相談して服薬の可否が判断されます。
薬剤師が中止指示を出すわけではありませんが、一般的な対応は覚えておいた方が良いです。患者さんから受けた質問に「わかりません」というのは避けたいですよね(^ ^)。
まとめ
今回はDAPTをテーマに服薬指導のポイントを解説しました。
記事をまとめながら思ったのは、DAPTの説明は、新人や若手にとって服薬指導の基礎を学ぶのに最適だということ。
DAPTの説明内容は、2つのアプローチから考えます。
「まずは、服薬の重要性」
服薬によるメリット(ステント血栓症予防)と飲み忘れによるデメリット(心筋梗塞)から、なぜ飲まなければならないのかをハッキリと伝えます。アドヒアランス向上のためですね。
「次に、副作用の対処法」
注意すべき副作用(出血症状)をピックアップ、患者さんが具体的にとる行動を明確にします。安全な薬物療法に欠かせないものです。
結局のところ、2つのアプローチから、有効で安全な薬物療法を担保するわけですね。
このDAPTの型をマスターすれば応用が効きます。降圧剤や高脂血症薬であっても、同じような説明の型をとるからです。
服薬指導は単に薬効や飲み方、副作用の説明をこなすものではなくて、有効で安全な薬物療法を保証するためのものであると改めて感じました♪