DAPTはいつまで続けるのか?
PCI(冠動脈ステント治療)の後はステント血栓症を予防するためにDAPT(抗血小板薬2剤併用療法)の投与が欠かせません。
一方で、出血性合併症を減らすためにどこかの時点でやめる必要があります。
でも、そのタイミングは?というと、はっきりと答えられない人も多いのでは?
今回は、PCI後のDAPT期間について、押さえておきたいポイントを解説します。
DAPTの期間:長期 vs 短期

最近では、DAPT期間は短縮傾向です。PCI後6ヶ月くらいで中止する人も増えてきました。一方で、1年を超えてもなかなかやめられない人も少なくありません。
では、DAPTはどのくらい続けるのか?
一般的に、1年を基準に以下のように分けて考えるようです。
・短期DAPT…1年未満(3〜6カ月程度)
・長期DAPT…1年以上
どちらが良いのか?長期DAPTと短期DAPTのメリットを見てみましょう。
長期DAPTのメリット
「ステント血栓症や新規の心筋梗塞を予防できる」
これがメリットですね。長期DAPTの有効性を調査したDAPT試験について紹介します。
- 対象者… 薬剤溶出ステントDES留置後、12カ月間イベント発生がなかった9961人
- 方法…アスピリン+チエノピリジン系薬を12ヶ月間投与後に、DAPTを18ヶ月続けた群(DAPT30ヶ月群)とアスピリンのみに変更した群(DAPT12ヶ月群)について、有効性と安全性を比較
- 主要評価項目(有効性)…MACE:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中
- 主要評価項目(安全性)…12~30か月後のGUSTO基準による中等度~重度の出血
結果は以下のとおりでした。
▽複合イベント発生率
・30ヶ月群 4.3% vs 12ヶ月群 5.9%
【HR0.71 (0.59-0.85):p<0.001】
長期DAPTは複合イベントを抑制しました。一方で、長期DAPTは出血リスクを増加させるという結果に。
▽出血イベント発生率
・30ヶ月群 2.5% vs 12ヶ月群 1.6%
【HR1.61 (1.21-2.16):p=0.001】
(※N Engl J Med. 2014 ;371:2155-66.)
長期DAPTのメリットは、ステント血栓症と新規の心筋梗塞を抑制できる点。一方で、出血性合併症の危険に晒されるのが問題です。
短期DAPTのメリット
「長期DAPTの弱点である出血リスクを軽減できる」
メリットはこちらですね。短期DAPTの有用性に関する報告はいくつかあります。その中から、PRODIGY試験(イタリア)を紹介しますね。
- 対象者…安定冠動脈疾患、急性冠症候群でステント治療(BMS又はDES)施行の患者2013例
- 方法…アスピリン+クロピドグレルによるDAPT24ヶ月群と6ヶ月群で有効性と安全性を比較
- 主要評価項目(有効性)…MACE:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中
- 主要評価項目(安全性)… BARC出血基準の発生率
結果は以下のとおりです。
▽複合イベント発生率
・24ヶ月 10.1% vs 6ヶ月 10.0%
【HR0.98(0.74-1.29):p=0.91】
→24ヶ月DAPTは6ヶ月DAPTと心血管イベントの発生率は変わらなかった。一方で、出血イベントを増加させることが明らかになりました。
▽出血発生率(BARC基準2,3,5)
・24ヶ月 7.4% vs 6カ月 3.5%
【HR2.17(1.44~3.22):p=0.00018】
(※Circulation. 2012 ;125:2015-26. )
出血リスクを減らしつつ、血栓症リスクを増加させないのが短期DAPTのメリットです。
通常であれば、DAPT試験のように血栓リスクを減らせば出血リスクが増えます。しかし、PRODIGY試験において6ヶ月の短期DAPTは両者のバランスが上手くとれているわけですね。
国内でも超短期DAPTの有用性が報告されました。
STOPDAPT-2試験。PCI治療後の心血管イベントと出血イベントを評価した日本の試験です。
- 対象…エベロリムス溶出性コバルトクロムステント留置術によるPCIを受けた患者3045例
- 超短期DAPT…DAPT(アスピリン+クロピドグレル又はプラスグレル)を1ヶ月、その後クロピドグレル
- 標準DAPT…DAPTを1ヶ月、その後もDAPT(アスピリン+クロピドグレル)を12ヶ月時点まで
結果は以下のとおりでした。
▽主要エンドポイント
・超短期 vs 標準…2.36% vs 3.70%
HR0.64(0.42~0.98)
非劣性:p<0.001 優越性:p=0.04
→超短期DAPTの方が優れている
▽副次エンドポイント(心血管イベント)
・超短期 vs 標準…1.96% vs 2.51%
HR0.79(0.49~1.29)非劣性:p=0.005
→超短期DAPTは心血管イベントを増加させない
▽副次エンドポイント(出血イベント)
・超短期 vs 標準…0.41% vs 1.54%
HR0.26(0.11~0.64)
優越性:p=0.004
→超短期DAPTは出血イベントを低下させる
- 主要エンドポイント…12ヵ月時の心血管死、心筋梗塞、虚血性または出血性脳卒中、ステント血栓症(definite)、TIMI出血基準の大出血または小出血の複合
- 副次エンドポイント(心血管イベント)…心血管死、心筋梗塞、虚血性または出血性脳卒中、ステント血栓症
- 副次エンドポイント(出血イベント)…TIMI出血基準の大出血または小出血
→超短期DAPTは心血管イベントを増加させずに、出血イベントを低下させることが示されました。
DAPTの期間:今と昔

先述したように、DAPT期間は短くなってきました。今と昔を比較してみましょう。
最新のガイドライン
DAPT期間は、急性冠症候群ACSと安定冠動脈疾患で異なります。
▽ACS場合
・冠動脈ステント留置後は、アスピリン(81〜162mg/日)とプラスグレル(3.75mg/日)またはクロピドグレル(75mg/日)を3〜12ヶ月間併用投与する
2020年JCS ガイドラインフォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法
▽安定冠動脈疾患の場合
・冠動脈ステント留置後、アスピリンとクロピドグレルまたはプラスグレルのDAPTを1〜3ヵ月間継続する
2020年JCS ガイドラインフォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法
ACSの方がDAPT期間が長いのは、それだけ血栓症リスクが高いからですね。ACSは動脈のプラークが破綻した状態で、緊急PCIが適応になります。一方で、安定冠動脈疾患の方は待機的なPCIが適応です。症状が安定しており時間的に猶予があります。
いずれにしても、投与期間に幅があります。明確に◯◯ヶ月や◯年と決まっているわけではありません。
以前のガイドライン
日本循環器学会のガイドライン2018年度版では、DAPT期間は下記のとおりでした。
▽ACSの場合
・ステント留置後は、アスピリンとクロピドグレルまたはプラスグレルを6〜12ヵ月間併用投与する
参考文献)急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
▽安定冠動脈疾患
・ステント留置後、アスピリンとADP受容体P2Y12阻害薬の2剤併用療法を、少なくとも6ヶ月継続する
参考文献)安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン (2018年改訂版)
ACSで6〜12ヶ月。最新では3〜12ヶ月なので、下限が3ヶ月長めに設定されていました。安定冠動脈疾患の方も同様です。3〜5ヶ月程度、DAPT期間が長めでした。
さらに以前のガイドライン
ずっと前は、ステント種類でDAPT期間が変わりました。下記です。
▽ST上昇型急性心筋梗塞
・BMS : 少なくとも1ヶ月、DES : 少なくとも12ヶ月
※ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)▽非ST上昇型急性冠症候群
・BMS : 最低1ヶ月、DES : 最低1年
※非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)▽安定冠動脈疾患
・BMS : 少なくとも1ヶ月、DES : 少なくとも12ヶ月
※安定冠動脈疾患における待機的PCIガイドライン(2011年改訂版)
文言に若干の違いはあるものの、どの適応疾患においてもDAPT期間は共通です。ステントの種類によって短期か長期かが決まっていたわけですね。
BMSで1ヶ月、DESで12ヶ月が目安でした。
BMSは金属剥き出しのステント、対してDESは薬剤溶出ステント。DESの方がステント表面が血管内皮に覆われるのに時間を要し、ステント血栓症のリスクが高いのでDAPT期間も長めです。
このように比較すると、ここ7、8年でDAPT期間はかなり短縮されています。
なぜかというと、ステント血栓症が起こりにくい新世代のステントの登場や、先述の通り短期DAPTの有用性を示すエビデンスが集積されたからですね。
DAPT期間:どのように決まるのか?

DAPT期間はどのように決めるのでしょうか?
結論をいうとDAPT継続期間は患者さんごとに変わります。一律に◯◯といえません。
だから、主治医に聞かないとわからないのです。でも、ある程度どのように決めるかは知っておきたいところですよね。
ポイントは以下の3つです。
- PCIが適応となる病態
- 血栓症リスク
- 出血リスク
順番に見ていきましょう。
参考文献)2020年JCS ガイドラインフォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法
PCIが適応となる病態は?
まずは、ACSと安定冠動脈疾患(stable CAD)どちらか?という点です。先述したように、いずれかの病態によるかで投与期間の目安が決まります。
- ACS…3〜12ヶ月
- stable CAD…1〜3ヶ月
ここから、血栓症リスクと出血リスクを検討して、個々のDAPT期間を決定します。
出血リスク・血栓リスクの評価指標を用いてリスクを層別化し、至適なDAPT期間の設定を考慮する
血栓症のリスクは?
PCI後にステント血栓症や新規のイベントを起こす可能性が高い人の特徴は何か?
特に注意が必要なのは下記です。
- ACS
- CKD(GFR高度低下)
- CTO(慢性完全閉塞病変)
- 糖尿病
動脈硬化が進んだ人は血栓症のリスクが高いといえます。これはイメージしやすいですね。加えて、ステント血栓症のリスク因子は他にもあります。
▽ステント血栓症のリスク因子
- 第一世代の DES
- 3本以上のステント留置
- 3病変以上の治療
- 分岐部 2ステント
- 総ステント長>60 mm
- SVG に対するステント
- DAPT 治療下におけるステント血栓症の既往
- 小血管のステント
これは結構ムズカシイですね。ステントの種類や数、治療部位などによっても血栓症のリスクが変わる点は押さえておきたいです。PCIを繰り返し行っている人は特に注意ですね。
血栓イベントリスクは他にもあります。下記です。
▽血栓イベントリスク因子
- 現在の喫煙習慣
- PCI/CABG の既往
- PVD
- 心不全
- 高齢
- 貧血
- 心房細動
もうたくさんありすぎて、混乱しそうですね。ポイントは総合的に血栓症のリスクを評価すること。患者さんごとに基礎疾患、病歴、ステント治療の方法などによってリスクが変わります。結局は術者の判断ですね。
このように血栓症のリスクが高い人は、DAPT期間が延長されます。
・ACS…冠動脈ステント留置後、出血リスクが低く、ステント血栓症を含む血栓イベントのリスクが高い患者に対して、DAPTの長期継続を考慮する
・安定冠動脈疾患…虚血イベントリスクが高く、12ヵ月間のDAPT継続期間に出血イベントがない出血リスクの低い患者に対して、30ヵ月までのDAPT継続を考慮してよい
ACSでは12ヶ月以上、stable CADの場合には、30ヶ月まで延長可です。ただし、注意書きがあります。出血リスクです。出血性合併症が問題になりやすい人はDAPT期間の延長が推奨されていません。
出血リスクは?
出血リスクが高い人はむしろ、DAPT期間の短縮が求められています。
DES留置後、出血リスクが高い患者に対して、DAPTは1〜3ヵ月間に短期化する
では、出血リスクが高い患者さんはどんな人?
かというと下記です。いっぱいあります。
- 低体重、フレイル、
- 心不全
- 貧血
- PVD(末梢血管疾患)
- CKD(透析)
- 抗凝固剤長期服用
- 非外傷性出血の既往
- 脳血管障害
- 血小板減少症
- 活動性悪性腫瘍
- 門脈圧亢進を伴う肝硬変
- 慢性の出血素因
- DAPT期間中の延期不可能な大手術
- PCI施行前30日以内の大手術または大きな外傷
これらの出血リスクを抱えている人は、DAPT期間を最小化する必要があります。中でも、抗凝固薬(OAC)を服用している人は特に注意です。DAPT+OACの3剤併用療法は出血性合併症のリスクが高いからですね。
ワルファリンやDOACを服用されている人は、以下のように、DAPT期間を設定することが推奨されています。
冠動脈ステント留置患者に対して,周術期(2週間以内)以降に抗凝固薬とP2Y12受容体拮抗薬との2剤併用療法を行う
PCI後2週間以内は
「DAPT+OACの3剤併用療法」
それ以降は
「SAPT(P2Y12拮抗薬)+OACの2剤併用療法」
です。さらに一年以降は「OACのみの単剤療法」が推奨されています。
慢性期(1年以降)の心筋梗塞患者、ステント留置患者、CABG 施行患者、および冠血行再建術を受けていない冠動脈疾患患者に対して、抗凝固薬を単剤で投与する
最近では心房細動でDOAC飲んでいる人が増えています。出血リスクに配慮して、DAPT期間を短縮することを押さえておきましょう。
まとめると、DAPT期間はPCIの適応疾患から患者さんごとに、虚血リスクと出血リスクを勘案して決定します。期間は患者さんごとに異なるもので、一律に◯◯といえるわけではないのですね。
まとめ
押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
- 冠動脈ステント治療後は血栓症を予防するためにDAPTが推奨されている
- 長期DAPTはステント血栓症と心筋梗塞を抑制できる一方で、出血性イベント増加のリスクがある
- 短期DAPTは虚血イベントを増やさずに出血リスクを低減できるのがメリット
- 最近ではDAPT期間が短縮傾向(エビデンス集積、新世代のステント開発等)
- DAPT期間は適応となった病態をもとに、個々で血栓リスクと出血リスクの兼ね合いで決まる
今回は、DAPT期間をテーマに、押さえておきたいポイントを解説しました。日常業務にお役立ていただけたら、うれしいです^_^
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