DAPT療法とは何か?
要約すると
- Dual Anti-Platelate Therapyの頭文字をとって“ダプト”
- 抗血小板薬、2剤併用療法のこと
- 強力な抗血栓効果が期待できる
- 反面、出血性合併症のリスクが高い
では、DAPTはどのような時に使用するのか?
適応場面は大きく2つです。
①PCI後のステント血栓症予防
②脳梗塞急性期:神経症状の悪化や再発の予防
今回はDAPTをテーマに押さえておきたい2つの適応について調べたので共有したいと思います。
さっそく、見ていきましょう。
DAPT適応①:PCI後のステント血栓症予防
適応①
DAPTは、PCI後の冠動脈ステント血栓症の予防に使用します
どうしてDAPTが必要なのか?用語も含めて、順番に説明していきますね。
PCIとは?
頭文字をとってピーシーアイ
Percutaneous Coronary Intervention
日本語では
経皮的冠動脈形成術
→狭心症や心筋梗塞などで狭くなった冠動脈の血管を広げる治療のこと
- バルーン拡張術(POBA)
- ステント治療
- ロータブレーター治療
大きく3つです。POBAは従来の治療法。狭窄部位を風船で膨らませ広げる方法です。しかし、治療部位がしばらくして元に戻るという再狭窄が問題でした。
そこで開発されたのがステント治療です。金属製のメッシュ(=ステント)を用いて病変部位を拡張、支持し、再狭窄を防ぐことができます。今ではPCIといえばステント治療を指すことがほとんどです。
ローターブレーター治療は、狭窄病変をドリルで削りとるもの。バルーンやステントで十分に病変部位を拡張できない場合に行います。
ステントの種類は?
PCIで使用するステントは、大きく2種類あります。
・ベアメタルステント(bare metal stent:BMS)
・薬剤溶出ステント(drug-eluting stent:DES)
BMSは
金属が剥き出しの従来型ステントです。狭窄部位を物理的に支え、POBA後の再狭窄を防止できます。しかし、「ステント内“狭窄”」が起こりやすいのが問題でした。血管平滑筋の肥厚により留置したステント内部が塞がる状態です。
そこで、開発されたのがDES
免疫抑制剤(シロリムスやパクリタキセルなど)入りのポリマーでコーティングを施したステントです。徐々に溶け出すことで血管平滑筋の増殖を抑え、PCI後のステント内狭窄の頻度を軽減できます。最近はDESが主流です。
しかし、DESも万能ではありません
今度は「ステント内“血栓症”」という新たな問題が生じます。次から次に問題が……なかなか上手くいかないんですね。
ステント内血栓症が起こりやすい理由
メッシュ状の筒に血小板が引っかかり凝集反応が起こりやすいからです。
ステント表面は時間の経過とともに血管内皮に覆われていきますが、それまでは金属がむき出しで、血小板が付着しやすく血のかたまりができやすい状態が続きます。
特に、DESは注意!
免疫抑制剤の溶出により血管内皮の皮覆化が遅れる分、長期にわたって血栓症のリスクに晒されるからです。
ステント血栓症を予防するためには?
ここで、DAPTの登場です!
せっかく狭窄部位を治療したのに、血栓による再狭窄は避けたいもの。ガイドラインでも、ステント血栓症を予防するために抗血小板薬を2剤併用したDAPTが推奨されています。
DAPTの期間
では、DAPTはどのくらい続けるのか?
ACS(急性冠症候群)と安定冠動脈疾患で期間が異なります。
・急性冠症候群…3〜12ヶ月
・安定冠動脈疾患…1〜3ヶ月
ACSの方がDAPT期間は長め!
ステント血栓症のリスクが高いからです。PCIを施行した病態によって投与期間が異なる点は押さえておきたいですね。
また、個々の血栓症リスクと出血リスクによっては、上記期間から短縮したり延長するケースもあります。たとえば、低体重の方や透析患者さんなどです。出血リスクを考慮して1か月でDAPTからSAPT(抗血小板薬単独療法)に切り替える場合があります。
結局のところ、DAPT期間は一律◯◯といえるものではありません。患者さんごとに血栓リスクと出血リスクの兼ね合いから決定するものだからです。詳しくは下記をご覧くださいね。
DAPTの組み合わせ
DAPTの組み合わせは
「アスピリンとP2Y12受容体拮抗薬」が基本です
P2Y12受容体拮抗薬は4種類あります。
一般名 | 商品名 | |
---|---|---|
チクロピジン | パナルジン | |
クロピドグレル | プラビックス | |
プラスグレル | エフィエント | |
チカグレロル | ブリリンタ |
①から③はチエノピリジン系と呼ばれる抗血小板薬です。いずれも、血小板のADP受容体(P2Y12)を阻害して抗血小板作用を示します。特徴をサラッと確認しておきましょう。
チクロピジン
- 第一世代のチエノピリジン系薬
- 重篤な副作用の懸念がある(肝障害、無顆粒球症、血小板減少性紫斑病など)
- 脳血管障害の適応もあり
- 新規で処方されることは稀
最近ではチクロピジンの処方を見かけなくなりましたね。
クロピドグレル
- 第二世代のチエノピリジン系薬
- 使用実績、豊富なエビデンスから世界的に広く使用
- 適応が広い(心臓、脳、末梢血管領域)
- 効果にばらつきあり(CYP2C19の遺伝子多型)
クロピドグレルはPCI治療後の標準薬ですね。
プラスグレル
- 第三世代のチエノピリジン系薬
- 急性冠症候群ACSの第一選択という位置付け
- 適応が狭い(心臓領域のみ)脳梗塞に適応が追加されました
- 効果にバラツキが少なく、速攻性が期待できる
プラスグレルは最近、処方が増えていますね。
チカグレロル
- CPTP系に分類(not チエノピリジン)
- プロドラッグではなく、効果発現が速い
- 可逆的に作用、効果消失も早い
- 呼吸困難の副作用が起こりやすい
国内の位置付けは限定的!
チカグレロルはチエノピリジン系が使用できない時の代替薬です。
DAPTの適応患者で、アスピリンと併用するチエノピリジン系抗血小板薬の投与が困難な場合には、チカグレロルの投与を考慮してもよい
JCS2020 冠動脈疾患患者における抗血栓療法
チカグレロルは添付文書を見てもイマイチ特徴がつかみにくいので、別の記事にまとめましたので参考にしてくださいね。
シロスタゾール
チエノピリジン系が使えないときには、シロスタゾールが選択肢になります。
アスピリンやチエノピリジン系抗血小板薬を投与できない患者に対し、シロスタゾールの投与を考慮してもよい
急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
- 血小板凝集抑制作用に加え、血管拡張作用あり
- 出血性合併症が少ない
- 頭痛や頻脈などの副作用が起こりやすい
- グレープフルーツジュースと相互作用あり
DAPTの有効性
DAPTは強い抗血小板作用が期待できます!
でも、本当にそうなのか?気になったので調べてみました。以下にDAPTの有効性を示した試験を紹介しますね。
STARS試験
- 対象…冠動脈ステント留置後の患者1653例
- 方法…3群に分けて抗血小板薬投与
①アスピリン単独
②アスピリンとワルファリン併用
③アスピリンとチクロピジン併用 - 主要評価項目…30日以内の死亡,標的病変の血行再建術,血管造影上確かな血栓症,心筋梗塞
結果は以下のとおり
3群の中でDAPT群が最も心血管イベントの発生が低く有意にリスクを低下させました
この結果から、DAPTが注目され、従来のアスピリン単独療法、アスピリン+ワルファリン併用療法に代わって、PCI後のステント血栓症予防における標準レジメンとなったわけです。
一方で、DAPTが出血のリスクを増加させることも示されました。
出血性合併症
- アスピリン単独…10例(1.8%)
- アスピリン+ワルファリン…34例(6.2%)
- アスピリン+チクロピジン…30例(5.5%)
(※p<0.001)
DAPTは強力な効果が期待できる反面、出血合併症の発症リスクも高い点には注意が必要ですね。
DAPT適応②:脳梗塞急性期における神経症状の悪化と再発の予防
適応②
DAPTは、脳梗塞急性期における神経症状の悪化と再発の予防に使います
どうして、DAPTが必要なのか?基本的な内容を補足しながら説明していきますね。
脳梗塞とは?
大きく心原性脳塞栓症と非心原性脳梗塞に分類されます
さらに、非心原性脳梗塞は、細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」と太い血管が詰まる「アテローム血栓性脳梗塞」に分かれます。それぞれの特徴は以下のとおりです。
- 心原性脳塞栓症…心臓でできた血栓が脳に運ばれて脳の太い血管が詰まる
- 非心原性脳梗塞
- ラクナ梗塞…脳の細い血管が詰まる、日本人に最も多い
- アテローム血栓性脳梗塞…動脈硬化によって脳の太い血管が詰まる
脳梗塞の治療薬は?
脳梗塞のタイプによって、抗血小板薬または抗凝固薬を使い分けます。
・心原性脳塞栓症…抗凝固薬
・非心原性脳梗塞…抗血小板薬
心原性脳塞栓症は、凝固因子フィブリン主体の血栓症なので、抗凝固療法を行うのが一般的です。一方で、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では、動脈内にできる血小板主体の血栓が原因で起こるため、抗血小板療法が行われます。
また、一過性脳虚血発作(TIA)に使われるのも抗血小板薬です。TIAは、その後に脳梗塞を発症する可能性が高く、非心原性脳梗塞に準じた治療を行います。
DAPTの出番は?
DAPTを使うのは、抗血小板薬が適応になる以下の3タイプです。
・ラクナ梗塞
・アテローム血栓性脳梗塞
・一過性脳虚血発作(TIA)
しかも、急性期に限定して使用されます。発症初期は、凝固能亢進によって血栓ができやすく、梗塞に伴う神経脱落症状が進行しやすいからです。ここで、DAPTの威力が発揮されるんですね。
脳卒中治療ガイドラインでは、梗塞に伴う神経症状の悪化と再発を防ぐために、急性期は抗血小板療法を強化したDAPTが推奨されています。
抗血小板薬2剤併用(アスピリンとクロピドグレル)投与は、発症早期の軽症脳梗塞患者の、亜急性期(1ヶ月以内を目安)までの治療法として勧められる(推奨度A エビデンスレベル高)
脳卒中治療ガイドライン2021「改訂2023」
DAPTの期間
では、DAPTは脳梗塞の急性期にどのくらい続けるのか?
上記の通り、1ヶ月以内が目安になります。慢性期の再発予防にDAPTは推奨されていないからです。ガイドラインにも以下のように明記されています。
長期の抗血小板薬2剤併用は、単剤と比較して、有意な脳梗塞再発予防効果は実証されておらず、むしろ出血性合併症を増加させるために、勧められない(推奨度D エビデンスレベル高)。ただし、頚部・頭蓋内動脈狭窄・閉塞や血管危険因子を複数有する非心原性脳梗塞には、シロスタゾールを含む抗血小板薬2剤併用は妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)。
脳卒中治療ガイドライン2021「改訂2023」
DAPTの組み合わせ
脳梗塞の【慢性期】に使用する抗血小板薬は、以下の4種類があります。
現段階で非心原性脳梗塞の再発予防に有効な抗血小板薬(本邦で使用可能なもの)はアスピリン75〜150mg/日、クロピドグレル75mg/日、シロスタゾール200mg/日(推奨度Aエビデンスレベル高)、プラスグレル3.75mg/日(推奨度Bエビデンスレベル中)である
脳卒中治療ガイドライン2021「改訂2023」
急性期には、この中からDAPTを選択します。一般的なのはアスピリンとクロピドグレルの組み合わせですね。最近ではシロスタゾールが選択されるケースも増えています。
残念ながら、チクロピジンを使用する場面はほとんどありません。PCI後と同じですね。
\プラスグレルも脳梗塞に使用できるようになりました!/
適応は虚血性脳血管障害(大血管アテローム硬化又は小血管の閉塞に伴う)後の再発抑制(脳梗塞発症リスクが高い場合に限る)です。詳しくは別記事にまとめているので合わせてご覧くださいね。
DAPTの有効性
ここで、脳梗塞急性期においてDAPTの有効性を示した試験を紹介します。
CHANCE試験
- 対象…発症24時間以内の軽症脳卒中またはハイリスクTIA患者5170名
- 方法…2群に分けて抗血小板薬投与
①アスピリンにクロピドグレルを21日間併用した群(DAPT)
②アスピリン単独群(SAPT) - 有効性の主要評価項目…90日以内の脳卒中再発
- 安全性の主要評価項目…GUSTO出血基準の中等度~重篤な出血
結果は以下のとおり
SAPTに比べて脳卒中発生率を低下させ、出血リスクを増加させないことが示されました
DAPTの方がこのDAPT21日間というのがポイントで、出血リスクを増加させなかった理由の1つと考えられています。脳梗塞の急性期では、有効性と安全性のバランスをとるためにも、DAPTの期間は必要最小限にした方が良いということです。
まとめ
今回は、DAPTをテーマに臨床で適応となる2つの場面について解説しました。
本記事のポイント
- DAPTの適応1つ目
→PCI後の冠動脈ステント血栓症予防。アスピリン+チエノピリジン系薬が標準レジメン。患者さんごとに病態、出血リスク、虚血リスクを考慮してDAPT期間を決定する。日常よく見かけるDAPTといえばコレ。 - DAPTの適応2つ目
→脳梗塞急性期における神経症状の悪化と再発の予防。アスピリンとクロピドグレル、シロスタゾール、3剤の中から2剤の組み合わせがガイドラインでも推奨。脳梗塞後は出血のリスクも高いので、急性期から亜急性期に限定して使用。
日常業務にお役立ていただけたらうれしいです(^_^)