今回のテーマはワンパル1号・2号輸液!
- アミノ酸
- 糖・電解質
- ビタミン
- 微量元素
上記の栄養素をワンバッグに収めた高カロリー輸液です。最近、採用している施設も増えている印象ですねーー。
ワンパル輸液はどのような特徴があるのか?
- 製剤における5つのメリット
- 投与前に注意すべき3つのポイント
から解説&考察しました。
ワンパル輸液の基本

まずは基本情報から。類似薬エルネオパNFとの比較は下記です。
製品名 | ワンパル | エルネオパNF |
会社名 | エイワイ-陽進堂 | 大塚製薬工場 |
規格 | 1号・2号 | 1号・2号 |
容量(mL) | 800/1200 | 1000/1500/2000 |
1日用量 | 1600mL | 2000mL |
成分(mL中) | 1号800・2号800 | 1号1000・2号1000 |
糖質(g) | 120・180 | 120・175 |
アミノ酸(g) | 20・30 | 20・30 |
脂質 | なし | なし |
ビタミン | 13種 | 13種 |
微量元素 | 5種 | 5種 |
総熱量(kcal) | 560・840 | 560・820 |
非たんぱく熱量 | 480・720 | 480・700 |
NPC/N比 | 158・158 | 153・149 |
概要を簡単に押さえておきます。
ワンパルとエルネオパNFは中心静脈から投与する高カロリー輸液です。いわゆるTPNで使う輸液ですね。
静脈栄養は投与経路から2つに分かれます。
- 末梢静脈栄養(Peripheral Parenteral Nutrition:PPN)
- 中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)
TPNの適応場面は?
- 消化管が使えず
- 長期間(2週間以上)
の静脈栄養療法が必要な場合です。
もちろん、消化管が使える時は経口摂取や経腸栄養が基本です。医薬品の場合、経腸栄養剤(エンシュアやラコール、イノラス等)が適応ですね。PPNの出番ではありません。

一方で、消化管が使えない場合でも短期間(2週間以内)ならPPNが適応になります。ビーフリードやパレプラスなど。今後、エネフリードも発売される見込みです。

ワンパルはTPN療法に用いる輸液です。以下のように、長期間にわたり絶食が予測される場合が適応になります。
- 重症急性膵炎
- 腹膜炎
- 腸閉塞、麻痺性イレウス
- 難治性嘔吐、下痢
- 活動性の消化管出血など
ここからは、ワンパル輸液における製剤のメリットを見ていきますね。
ワンパル輸液のメリット

ワンパル1号・2号輸液は何が良いのか?押さえておきたいポイントは5つあります。
- 調製作業が簡便
- 開通漏れ防止機能に優れる
- 低用量で1日の所要栄養量を補給
- 水溶性ビタミンの増量、ビタミンKの減量
- 鉄の減量
順番に解説しますね。
調製作業が簡便
ワンパルは糖質とアミノ酸、電解質に加えて、ビタミン剤と微量元素がワンバッグに配合されたキット製剤になります。輸液バッグに両手で圧をかけて各室を開通、しっかり混和すれば準備完了です!超簡単ですねーー。
一体化のメリットは大きく4つあります。
- 混注作業の手間を削減
- ビタミンやミネラルの投与漏れを防止
- 微生物汚染、異物混入を防げる
- 針刺しを防止できる
国内で使用できるキット製剤は全部で6種類!栄養素の構成から下記4群に分類できます。
ワンパルとエルネオパNFはビタミンとミネラルも一体化した製剤です。調製にかかる手間やリスクを軽減できるのが一つ目のメリットですね。
開通漏れ防止機能に優れる

高カロリー輸液を開通せずに投与してしまったけど、大丈夫ですか?
という問い合わせ、頻度は高くないにせよコンスタントに薬剤部にかかってきます。非開通の投与によるリスクは下記です。
- 高血糖、電解質異常(高濃度の糖質、電解質の投与)
- 嘔気、嘔吐出現(アミノ酸の投与速度↑)
大塚製薬工場、エルネオパNF1号輸液の製品Q&Aより
ワンバッグ製剤は投与前の開通漏れがつきものです。輸液バッグに注意喚起の記載があるものの、多忙な業務の中でついうっかり忘れてしまう可能性がありますよね。
でも、安心してください!
ワンパルは開通漏れがゼロの製剤になります。
下記のように、点滴ルート穿刺口の直前に空室があり、開通作業を行わずに投与できない仕組みになっているのです。

- (混注口)
- 大室(糖、電解質、ビタミン)
- 中室(アミノ酸、ビタミン)
- 小室T(微量元素)
- 小室V(主にビタミン)
- ★空室
- (点滴ルート穿刺口)
空室がポイントですね。考えた人すごい!
エルネオパNFは開通作業なしに下室のみ投与できてしまう構造であるのに対し、ワンパルは開通後はじめて投与できる仕組み。安全に投与できるのが2つ目のメリットですね。
低用量で1日分の所要栄養量を補給
ワンパルは低用量で1日に必要な栄養を補給できます。1日用量についてワンパルとエルネオパを比較すると下記です。
カロリーはほぼ変わらないけど、水分量はかなり違います。ワンパルの方が1日400mLの水分負荷を抑えることができるわけです。低用量である点が3つ目のメリット!
水分制限の関係で仕方なく高カロリー輸液の投与量を低く設定しているケースを見かけませんか?当院では以前に医師から「エルネオパの3号液ないの?」と、聞かれたこともあります。つまり、もっと濃い(低用量で高カロリー投与できる)輸液はないのかという意味です。
臨床の現場では少なからず、水分負荷を抑えたいというニーズがあります。
ワンパルは水分量を抑えつつ高カロリーを投与できる輸液です。低体重の方や心不全の合併例に適した輸液だといえます。ここが、エルネオパNFとの一番の違いですね。
水溶性ビタミンの増量、ビタミンKの減量

ワンパルはAMA/FDA処方(2000年改訂)に基づき、水溶性ビタミンが増量されています。ネオパレンと比較すると下記です。
※ワンパル1号・2号800mLとネオパレン1号・2号1000mLの比較
ワンパルはネオパレンに比べて、静脈栄養で不足しがちな水溶性ビタミンが強化されています。ちなみにエルネオパNFもほぼ同等です。FDA2000処方に準拠した時点でエルネオパからエルネオパNF(New Formula:新しい組成)へと改名されたのは記憶に新しいですね。
また、ワンパルはビタミンKが減量されています。ネオパレンとの比較は下記です。
※ワンパル1号・2号800mLとネオパレン1号・2号1000mLの比較
なぜなのか?というと、ワルファリンとの相互作用(同薬の効果減弱)を最小化するためです。DOACの普及により処方自体が減ったものの、弁置換術後や重度の腎機能障害のある方はワルファリンを服用されていますからね。
ワンパルはエルネオパNF同様に、水溶性ビタミンの増量とビタミンKの減量により、TPN療法における安全性がさらに高まった製剤だといえます。
鉄の減量
ワンパルは鉄が減量されています。TPN療法中に鉄の蓄積を軽減するためです。
エレメンミック注をもとに日本人の食事摂取基準(2015年版)、ESPENガイドラインを考慮して、鉄の含有量が減りました。1日投与量あたりの鉄含有量を比較すると下記です。
ワンパルはエレメンミック注の半量です。TPN療法中は、鉄の蓄積を防ぐために定期的な血清フェリチンのモニタリングも必要ですね。
ワンパル輸液、投与時の注意点

もちろん、ワンパル輸液も万能ではありません。使用に際して注意すべき点は大きく3つあります。
- アミノ酸の不足に注意!
- 脂肪が入っていない!
- 腎機能障害患者に不向き!
順番に見ていきましょう。
アミノ酸の不足に注意!

ワンパルはアミノ酸の不足が問題になるケースがあります。もちろん、ほかのキット製剤にもいえることですけどね。
多くの場合は問題ありません。「1号と2号」「800mLと1200mL」の組み合わせによりタンパク質必要量を充足できるからです。ワンパルの用量ごとのアミノ酸量は6パターンになります。
- 2号 1600mL…60g
- 2号 1200mL…45g
- 2号 800mL…30g
- 1号 1600mL…40g
- 1号 1200mL…30g
- 1号 800mL…20g
アミノ酸の必要量は患者さんの年齢や病態ごとに変わりますが、0.8~1.0g/kgとするのが一般的です。たとえば、体重ごとのタンパク質必要量は下記になります。
- 体重60kg…48~60g/日
- 体重50kg…40~50g/日
- 体重40kg…32~40g/日
- 体重30kg…24~30g/日
①と②はいずれも20~60gの範囲内であり、ワンパルの規格、用量の組み合わせ6パターンにより、1日のタンパク必要量を満たすことができます。
たとえば、体重50kgの場合、必要水分量を考えて2号1200mLか1号1600mLどちらかを選択すればOKです。だから、通常はキット製剤で事足ります。
しかし、タンパク質の必要量が多い人は注意です。キット製剤では不十分なケースがあります。
たとえば周術期や外傷、熱傷など異化亢進の状態では、1日1.2~2g/kgのタンパク質が必要になるます。50kgの人では1日のアミノ酸必要量が60~120gとなり、6パターンでは対応が困難な場合も出てくるわけです。
つまり、ワンパルはキット製剤であり投与が簡便である反面、固定用量であるため特別なケースに対応できないという弱点があります。
では、ワンパルでアミノ酸量が不足する場合どうすればいいか?
大きく2つの方法があります。
- 基本液から処方設計
- ワンパルにアミノ酸製剤を混注
①は難易度が高めです。ハイカリック等の基本液をもとに、アミノ酸製剤や電解質補正液、ビタミンやミネラル製剤などを加えて、1からメニューを組み立てる方法ですね。栄養の知識が備わってないとむずかしいし、調製に手間がかかるのも難点……。
一方で、②は簡単です。ワンパルにアミノ酸製剤を加えるだけなので特に難しくありません。以下のようにアミパレンを混注するだけで、タンパク質を強化したメニューの出来上がりです。NPC/N比もちょうどいい感じ…。
- ワンパル2号1600mL…158
- 上記+アミパレン200mL…113
- ワンパル2号1200mL…158
- 上記+アミパレン200mL…104
NPC/N比とは?
非たんぱく質カロリー窒素比のこと。投与されているアミノ酸を蛋白合成に利用するために、どのくらいのエネルギー(糖質と脂質の総和)が必要かをあらわす指標です。
病態ごとに以下のように決まっています。
- 重症熱傷や外傷等…100
- 通常の状態…150〜200
- 慢性腎不全…300〜500
脂肪が入っていない!

ワンパルだけでは安全にTPN療法が行えません。脂肪が含まれておらず、必須脂肪酸の欠乏症や肝機能障害等の代謝性合併症を起こす可能性があるからです。もちろん、ミキシッドを除く、キット製剤にいえることですね。
ガイドラインにも、脂肪乳剤投与の必要性が明記されています。意外と忘れがちなので気を付けましょう。
・静脈栄養施行時には、必須脂肪酸欠乏症予防のため、脂肪乳剤は投与しなければならない。
・静脈栄養施行時には、肝機能障害ならびに脂肪肝発生予防のために脂肪乳剤投与は有用である
静脈経腸栄養ガイドライン第3版
脂肪乳剤を加えるメリットは大きく4つです。
- 効率的な熱源(9kcal/g)
- 必須脂肪酸の欠乏症予防
- 代謝性合併症の予防
- 水分量を減らせる
特に④が魅力だと思います。カロリーを増やそうと思うと、同時に水分量も増え、高齢者や心不全のある場合には心臓に負担がかかるからです。ワンパルに脂肪乳剤を追加すれば、十分なカロリーを補給しつつ、水分負荷を軽減できます。
カロリーの上乗せ(+80kcal)に加えて、水分負荷(−150mL)を抑えることが可能です。アミノ酸量が少し減る分、NPC/N比はやや上昇しますが、高齢者や心機能低下例では積極的に活用できるメニューだと思います。
ワンパルにイントラリポスをうまく組み合わせて、安全なTPN療法をサポートしましょう。脂肪乳剤の必要性は下記に詳しくまとめているので、是非ご覧いただけたらと思います。

腎機能障害患者に不向き!

ワンパルを含めキット製剤の弱点ですね。慢性腎臓病(CKD)の方には向いていません。アミノ酸の排泄が遅延して高尿素血症を起こす可能性があるからです。
では、どうすればいいのか?
1から処方設計が必要です。ハイカリック等のTPN基本液(糖電解質液)に腎不全用アミノ酸製剤(ネオアミューやキドミンなど)を組み合わせたメニューに変更します。
代替メニューは下記です。あくまで一例ですよ。ポイントはNPC/N比を300〜500に調節する点。アミノ酸量を減らした分、タンパク合成を促すために、糖質エネルギーの強化を行います。
(※上記メニューは糖質が増えるので糖尿病の既往がある人は注意です。その場合は糖質を脂肪に置き換える工夫で対応ですね^_^)
このように、腎不全患者さんでは高尿素血症を防ぐために、キット製剤から腎不全用アミノ酸製剤に組み替えたTPNメニューへの変更を考慮します。
ただし、例外があるのはご存知ですか?下記の2つのケースです。
- 透析患者
- 熱傷や手術後などの場合
透析患者さんは通常のアミノ酸製剤を投与できます。腎不全用のアミノ酸製剤に置き換える必要はありません。なぜなら、透析でアミノ酸が除去されるためです。アミノ酸の減量により栄養状態の悪化を招く恐れがあるので、キット製剤のままで大丈夫!
もともとは禁忌の扱いでしたが、2020年9月に添付文書が改訂されました。
禁忌
重篤な腎障害のある患者又は高窒素血症の患者(いずれも透析又は血液ろ過を実施している患者を除く)[窒素及び水・電解質負荷の増加により、症状が悪化するおそれがある。]
ワンパル1号・2号輸液添付文書より
続いて、重症熱傷や手術後ではタンパク質の需要が増えます。先ほど述べたとおりですね。腎不全用アミノ酸製剤に変えると、十分量のアミノ酸を投与できず、栄養状態の改善効果が弱まるし、さらなる悪化を招く可能性もあります。
つまり、「腎不全」=「腎不全用のアミノ酸製剤」ではないのです。目の前の患者さんはどのくらいタンパク質が必要なのか、評価することが大切だと思います。
ネオアミユーとキドミンの特徴は下記にまとめているので、是非ご覧くださいね。

まとめ

今回はワンパル輸液の特徴について、製剤のメリットと投与時の注意点から解説&考察しました。
一番の売りは、なんといっても低用量で1日の所要栄養量が補給できる点!
2000mL→1600mLにvolumeを軽減できるのは、低体重の方や心機能が低下した患者さんには有用性が高いと思います。
栄養輸液だけならまだしも、抗菌薬や他の注射剤を併用するケースでは、水分量はできるだけ押さえたいですよね。現場のニーズも高い!\(^-^)/
一方で、ワンパルは個別対応ができないのが弱点です。ほかのキット製剤にもいえることですけど…。
必要栄養量と組成は年齢や体格、病態によって変わるものです。誰でも一律にキット製剤っていうのも違いますよね。
「本当にワンパル輸液が適切なのか」患者さんごとに評価する重要性を改めて感じました♪
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NPC/N比:158→304