今回のテーマはエネフリード!
アミノ酸・糖・電解質・脂肪・水溶性ビタミンを含む栄養輸液です。
注目すべきは脂肪を含む点ーー。
従来のビーフリードに脂肪乳剤をワンバッグ化したのがエネフリードです。
エネフリード ≒ ビーフリード+脂肪乳剤の図式ですね。
どのような特徴があるのか、メリットとデメリットは?
ビーフリードとの比較を加えながら考察しました。
個人的にはすごく期待している製剤です。理由は本文を読めば分かってもらえます(^-^)/
※2020年9月に承認、今後発売予定です。
エネフリードの特徴

まずはエネフリードの基本情報について。ビーフリードとの比較は下記です。
製品名 | エネフリード | ビーフリード |
規格(mL) | 550・1100 | 500・1000 |
用法用量 | 550〜2200mL | 500〜2500mL |
糖質 | 37.5g・75g | 37.5g・75g |
アミノ酸 | 15g・30g | 15g・30g |
脂質 | 10g・20g | なし |
ビタミン | 水溶性ビタミン9種 | チアミン |
総熱量(kcal) | 310・620 | 210・420 |
非たんぱく熱量 | 250・500 | 150・300 |
NPC/N比 | 105 | 64 |
ポイントは3つあります。
- PPNで使う栄養輸液
- 脂肪乳剤を一体化
- ビタミンを強化
順番に見ていきましょう。
PPNで使う栄養輸液
エネフリードは末梢静脈から投与する栄養輸液です。ビーフリードも同じですね。栄養療法は大きく2種類に分類できます。
- 中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)
- 末梢静脈栄養(Peripheral Parenteral Nutrition:PPN)
投与経路の違いですね。どのように使い分けるのかというと、静脈栄養の期間によって決まります。一般的な目安は下記です。
- 2週間以上…TPN
- 2週間以内…PPN
※ASPEN(米国静脈経腸栄養学会)ガイドライン
PPNは長期間の栄養療法に向いていません。末梢からは浸透圧の関係で、十分な濃度の栄養輸液を投与できず、次第に栄養状態の悪化を招くからです。PPNでは浸透圧比が3までの輸液を用います。
では、具体的にエネフリードはどのような時に使われるのか?PPNの選択場面は大きく2つです。
- 経口摂取や経管栄養では、必要カロリーが充足できない時(補助的に)
- 腸閉塞や胃腸炎、周術期等で消化管が使えない時(短期間のみ)
逆にそれ以外はTPNが適応になります。消化管が使えず長期間に渡ってトータルに栄養療法が必要な場合ですね。
ここで、PPNに用いる栄養輸液を確認しておきます。
エネフリードを含めると7製品です。配合成分の違いから以下のように4通りに分けられます。
①と②の糖質・アミノ酸濃度はほとんど変わりません。ブドウ糖は7.5%、アミノ酸は2.7〜3.0%の範囲です。違いはビタミンB1が入っているかどうか。VB1はTPN輸液と同様にアシドーシスの予防ですね。
③と④はいわゆるPPN輸液の進化版です。VB1以外の水溶性ビタミンも配合されたのがパレプラスですね。そして本記事のテーマであるエネフリードはさらに進化を遂げています。
では、エネフリードは何が変わったのか、ビーフリードと比較しながら見ていきますね。
脂肪乳剤を一体化
エネフリード、最大の特徴です。PPN輸液で唯一脂肪乳剤がワンバッグ化された製剤になります。ここがメーカーのセールスポイント!
イントラリポスの追加投与がなくても大丈夫です。
脂肪の配合により得られた特徴は2つあります。
- カロリーアップ
- NPC/N比の上昇
カロリーアップ
エネフリードとビーフリードの総熱量の比較は下記です。
エネフリードは一袋あたり約100kcal多めのカロリーを投与できます。大豆油10g(イントラリポス20%50mLに相当)が含有されているためです。
ちなみに大豆油10gをカロリー換算(脂質は9kcal/g)すると90kcalになります。残りの10kcalは乳化剤である卵黄レシチン(リン脂質)1.2g分のカロリーです。
NPC/N比
エネフリードとビーフリードのNPC/N比は下記のとおりです。
NPC/N比とは、非たんぱく質カロリー窒素比(non-protein calorie/nitrogen:NPC/N比)のこと。投与したアミノ酸がタンパク合成に使われるかをみるための指標です。
エネフリードの方がNPC/N比が高いのは、分母のN(アミノ酸に含まれる窒素量)は一定で、分子のNPC(糖質と脂質のカロリー)が増えたからです。
アミノ酸投与の目的は何か?タンパク質の合成を促すためです。しかし、非たんぱく熱量が十分でなければ、エネルギーとして消費されます。目的を達成できないわけですね。
エネフリードは脂肪の一体化によりNPC/N比が上昇しました。投与したアミノ酸が効率的にタンパク質合成に使われる効果が期待できますね。
NPC/N比は病態ごとに決まっています。
- 外傷、術後、熱傷…100〜150
- 基準値…150〜200
- 腎不全…300〜500
ビタミンを強化

エネフリードはビーフリードに比べて脂肪が配合されただけではありません。FDA2000処方に準拠して水溶性ビタミン9種類が配合されました。
ビタミンの組成は③水溶性ビタミン・アミノ酸・糖電解質液であるパレプラスと同じです(含有量はやや異なる)。
さらに、ビタミンB1の量がほぼ2倍に増えました。
PPNでは水溶性ビタミン剤の投与が推奨されています。ビタミンB1は糖質代謝に不可欠であるし、脂溶性ビタミンに比べて水溶性ビタミンは短期間であっても欠乏症に陥りやすいためです。(静脈経腸栄養ガイドライン)
エネフリードはビタミンB1の増量に加え、PPNで不足しがちな水溶性ビタミンを配合しています。混注の手間を減らし、細菌汚染や針刺し事故のリスクを軽減できる製剤といえますね。
エネフリードのメリット

ここからはエネフリードの臨床におけるメリットについて考察します。大きく3つです。
- バランスのとれたPPN管理が簡便に!
- 高カロリーを投与できる!
- 水分量を減らせる
順番に見ていきますね。
バランスのとれたPPN管理が簡便に!
エネフリードは栄養バランスがとれたPPN療法が簡便に行えます。脂肪乳剤の一体化により、漏れなく三大栄養素を補給できるし、別途イントラリポスのオーダーが不要だし、配合変化を気にして別に点滴ルートをとらなくてもよいからです。
ここが最大のメリット!
でも、よく考えるとビーフリードに脂肪乳剤を追加すればいいだけの話で、エネフリードである必要はありませんよね。
しかし、脂肪乳剤の存在感は薄く、PPNで使用することは稀です。
私の施設ではほとんど見かけません。見渡せば、糖質のみか糖質+アミノ酸のうすーい輸液メニューばかり。脂肪乳剤を投入してガッツリ栄養管理なんてゼロに近い状況です。ほかの施設でも無脂肪のPPNが多いと聞きます。
なぜPPNメニューに脂肪乳剤が追加されないのか?
そもそもPPNで脂肪乳剤を投与するという考えが浸透していない、これが大きな理由だと思います。脂肪乳剤といえばTPNで使用する理解が一般的ですからね。(無脂肪のTPNもかなり多いですけど…)
脂肪乳剤を一体化したエネフリードの登場により、脂肪の必要性が現場に浸透する効果が期待できます。PPNメニューの常識が変わるかも知れないですね(^-^)

高カロリーを投与できる!
エネフリードは脂肪乳剤のワンバッグ化により、一袋でハイカロリーを投与できます。1日4袋を投与した場合、1240kcalです。なんとビーフリードの約1.5倍ですね。
ビーフリードをエネフリードに変えるだけで、十分なカロリーが投与できます。2つ目のメリットです。
基本的にPPNメニューはカロリー不足がついて回ります。末梢静脈から投与できる輸液濃度に限度があるからです。投与したくてもできないわけですね。
そのせいもあって、PPN管理中に栄養状態が悪化するケースは少なくありません。特に経口摂取や経腸栄養への移行がうまくいかず、PPNが長期に及ぶ場合ですね。筋肉がやせ、アルブミン値など栄養指標の低下が問題になります。
「栄養状態は簡単に悪くなるけど、良くするのは難しい」NST活動を行う中で常々感じることです。
一袋でハイカロリー投与できるエネフリードは、PPN療法でよく遭遇する栄養状態の悪化に歯止めをかける効果が期待できます。
まあ、ビーフリードでも脂肪乳剤を追加すればいいだけの話なんですけど…(^_^;)
水分量を減らせる!

エネフリードは水分負荷を抑えることができます。たとえば、ビーフリードとエネフリード、1日630kcal投与した場合の水分量は下記です。
同じカロリーを投与しても、エネフリードの方が水分負荷を軽減できます。脂肪乳剤の一体化によりカロリーアップを図りつつ、水分量を抑えることができるからです。3つ目メリットですね。
ご存知の通り、PPNはどうしても水分量が増える傾向があります。浸透圧の関係で、薄い濃度の輸液を増やしてカロリーを確保しないといけないからです。
若年者ではうすーい輸液を若干多めに負荷してもそれほど問題になりません。一方で、高齢者では浮腫や心不全などを引き起こす可能性があります。過剰な水分は心機能や腎機能に負担がかかるからです。
カロリーアップと水分軽減を両立したエネフリードは、心不全や腎不全の方、高齢者においても使いやすい栄養輸液だといえます。
エネフリードのデメリット

一方で、エネフリードも万能ではありません。脂肪乳剤の一体化によるデメリット(注意点)は大きく3つです。
- 感染に注意!
- 配合変化に注意!
- 遮光カバーが必要!
順番に解説します。
感染に注意!
エネフリードは感染に注意しなければなりません。脂肪乳剤の一体化により、微生物汚染のリスクがさらに高くなったからです。除菌用フィルターを使用できない(脂肪が目詰まりする)ので、万が一細菌汚染が起こった場合に、敗血症を引き起こす可能性もあります。
ここは気をつけたいところですね。投与に際して遵守すべき点は下記です。
末梢静脈カテーテル等刺入部位及び輸液ラインの接合部は常に清潔にしておくこと。輸液ラインは閉鎖式輸液ラインなどを使用することが望ましい。連日投与する場合は輸液ラインを24時間毎に交換すること。
エネフリード添付文書
もともとビーフリード自体、細菌汚染に弱いといわれています。混注の禁止や長時間にわたる持続点滴の制限など感染対策を行なっている施設もあるくらいです。
エネフリードは脂肪乳剤の一体化により、さらに微生物汚染が懸念されるので、感染対策の観点から、施設ごとに使用手順を決めておくことが大切だと思います。
配合変化に注意!

エネフリードは混注ができません。脂肪乳剤の一体化により配合変化を起こす可能性が高いからです。また、液体が白色なので配合変化に気がつきません。
基本的には単独投与になります。投与に際しての注意事項は下記です。
・本剤に他の薬剤を混注しないこと。本剤の輸液ラインの側管から他の薬剤を投与しないこと。
エネフリード添付文書より
併用薬剤が複数ある場合には、ビーフリード+イントラリポスの方が使い勝手がよいと思います。側管投与のタイミングを考えて、脂肪乳剤の投与時間をある程度柔軟に調整できるからです。
もちろん、エネフリードの場合でもメインルート(エネフリード)を一時的に止めて、側管投与の前後に生食フラッシュを行うことにより、配合変化を防ぐことは可能ですが…。
エネフリードは脂肪のワンバッグ化により、配合変化に注意が必要です。併用薬剤や点滴ルートの状況を見ながら、安全に投与できるよう薬剤師の介入が欠かせないといえます。
遮光カバーが必要!?

エネフリードの投与中は遮光袋の使用を考慮する必要があります。水溶性ビタミンの分解を避けるためです。
ビタミンの光分解を防ぐため、遮光カバーを用いるなど十分に注意すること。
エネフリード添付文書
ちなみに、ビーフリードは基本的に遮光カバーは必要ありません。
ビーフリード輸液に他の薬剤を混合せず、室内散乱光下にて投与する場合は、遮光カバーをつける必要はありません。しかし、直射日光など光が強く当たる場合や、光分解されやすいビタミン剤などを混合した場合には、遮光カバーを用いるなど十分注意してください
大塚製薬工場ホームページQ&A
エネフリードはビタミンB1に加えて、水溶性ビタミンを含みます。持続点滴で使用する場合には念のため遮光カバーを用いた方がよいと考えられます。
まとめ

今回はエネフリードの特徴について、ビーフリードとの比較を加えながら解説しました。
正直いうと、エネフリードは使い勝手が良くありません。配合変化、微生物汚染等の理由を考えると…。しかも、脂肪乳剤の投与を躊躇するケースではそもそも使えないわけです。
結局、脂肪乳剤の必要性が浸透していない現状では、エネフリードに対する需要はそれほど高くないと思います。予想を裏切って欲しいわけですが…。
一方で、脂肪乳剤は、①栄養バランスの改善、②効率的な熱源、③水分量を減らせるというPPN療法において大きなメリットがあります。
「ここをもっと意識すべきーー!」
エネフリードの登場により、「PPNにも脂肪乳剤を積極的に活用しよう」という考えが当たり前になればいいなと、記事を書きながら改めて思いました。
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