今回のテーマはイノラス配合経腸液!
2019年6月に発売された半消化態の栄養剤です。
イノラス配合経腸用液はどのような特徴があるのか?
勉強がてら調べたので共有したいと思います。
ポイントは大きく4つです
- 分類…半消化態栄養剤
- 特徴…高カロリー、高たんぱく、液量が少ない
- 利点…少量で効率的に栄養を補給できる!
- 臨床の位置付け…高齢者や低体重の方、CKDや心不全の人など、周術期にも
さっそく見ていきましょう。
イノラスの分類:半消化態栄養剤

イノラスは半消化態栄養剤に分類されます。
ご存知のとおり、経腸栄養剤は大きく以下の3種類です。
- 半消化態栄養剤
- 消化態栄養剤
- 成分栄養剤
いずれも糖質や脂質の成分は大きく変わりません。違いは窒素源の形態(タンパク質、ペプチド、アミノ酸)です。
分類 | 特徴 | 商品名 |
---|---|---|
半消化態栄養剤 | 腸管で消化を要する (窒素源:たんぱく質) | イノラス エンシュアリキッド エンシュアリキッド・H エネーボ ラコール |
消化態栄養剤 | 腸管で一部消化が必要 (窒素源:アミノ酸、ジまたはトリペプチド) | ツインライン |
成分栄養剤 | 腸管で消化を要しない (窒素源:アミノ酸) | エレンタール |
イノラスの窒素源はタンパク質なので、腸管で消化を受けて吸収されます。逆にいうと、消化機能が低下した人には向いていません。消化吸収不良を起こすからです。
栄養剤は、消化管の機能によって選択します。たとえば、しばらく絶食が続いた人では、消化吸収機能が落ちているので、消化が不要な成分栄養剤から始めます。その後、消化機能の回復に応じて、消化体栄養剤や半消化態栄養剤へ変更し、最終的には普通の食事に移行するかたちです。
下図のように、消化機能に合わせて段階的に栄養剤の形態をアップしていきます。
(消化機能低下→消化を要しない栄養剤を選択)
(消化機能やや改善→消化を要する栄養剤を選択)
イノラスの特性:高カロリー、高たんぱく、液量が少ない
イノラス特徴は何かというと
ハイカロリー・高タンパク質である点です
1mLあたりのカロリーとタンパク質が高めに設定されています。
・カロリー…1.6kcal/mL
・タンパク質…6.4g/100mL
同様に国内で使用できる高濃度の栄養剤は3種類です。
製品名 | 会社名 | 販売日 |
---|---|---|
エンシュア・H | アボットジャパン | 1995年10月 |
エネーボ配合経腸用液 | アボットジャパン | 2014年5月 |
イノラス配合経腸用液 | 大塚製薬 | 2019年6月販売 |
3種類の高濃度製剤を比較すると
①カロリーが高いのは?
- イノラス…1.6kcal/mL
- エンシュア・H…1.5kcal/mL
- エネーボ…1.2kcal/mL
②たんぱく質が多いのは?
- イノラス…6.4g/100mL
- エネーボ…5.4g/100mL
- エンシュアH…5.3g/100mL
③液量が一番少ないのは?
- イノラス…187.5mL
- エンシュア・H …250mL 、エネーボ…250mL
結果、高濃度タイプの栄養剤で最も“濃い”のはイノラスです。
参考までに、標準製剤であるエンシュアリキッドとラコールも比べてみると、その差は歴然としています。
製品名 | カロリー (kcal/mL) | タンパク質 (g/100mL) |
---|---|---|
イノラス187.5mL | 1.6 | 6.4 |
エンシュアリキッド250mL | 1 | 3.5 |
ラコールNF配合経腸用液200mL | 1 | 4.4 |
イノラスはカロリーで160%、たんぱく質で約150〜200%増しです。ちなみに、栄養補助食品も1.5〜2.0kcal/mLの高濃度タイプのものがあります。なんと4.0kcal/mLの製剤なんてのもありました!(テルモのテルミールアップリード)
イノラスの利点:少量で効率的に栄養補給できる
イノラスのメリットは何か?
少量で効率的に栄養補給ができる点です
上述のように高濃度の栄養剤だからですね。成人用量は3〜5パウチ(900〜1500kcal)、562.5〜937.5mLに設定されています。高濃度の製剤に比べても、1日投与量が低めです。
他の製剤との比較
製品名 | 標準量(kcal) | 標準量(mL) |
---|---|---|
イノラス | 900〜1500 | 562.5〜937.5 ※3〜5パウチ |
エネーボ | 1200〜2000 | 1000〜1667 ※4〜6.7缶 |
エンシュア・H | 1500〜2250 | 1000〜1500 ※4〜6缶 |
エンシュアリキッド | 1500〜2250 | 1500〜2250 ※6〜9缶 |
ラコール | 1200〜2000 | 1200〜2000 ※6〜10パウチ |
1日の液量は1000mLを切っており、特に経管投与の場合には、注入時間の短縮により離床が進むし、介護者の負担も軽くなるメリットもあります。
加えて、イノラスは3パウチで1日に必要なビタミンと微量元素を補うことができます。ここもメリット。必要エネルギーの少ない(低体重、活動量の低い)人でも、長期服用にビタミンや微量元素の欠乏を回避できます。
(製品の治療学的・製剤学的特性)
維持エネルギー量の低い患者の栄養管理にも配慮し、1パウチ300kcalの投与で1日に必要なビタミン・微量元素の約 1/3 を充足できるように配合設計した。
イノラス配合経腸用液 インタビューフォーム
最新の栄養学的知見に基づいた設計
ヨウ素やセレン、クロム、モリブデンなどの微量元素、加えてコリンやカルニチンなどが配合されています。ちなみに、エネーボにはヨウ素が、エンシュア・Hにはヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、カルニチンが入ってません。
高濃度栄養剤の比較
イノラス | エネーボ | エンシュアH |
---|---|---|
ヨウ素 セレン クロム モリブデン | セレン クロム モリブデン | |
コリン カルニチン | コリン カルニチン | コリン |
イノラス:臨床の位置付け
イノラスはどのような人に適しているのか?
大きく3つのケースが考えられます。
①低体重、活動量の少ない人
②心機能、腎機能が低下している人
③たんぱく質を強化したい場合
①低体重や活動量の少ない人に有用
1日3パウチ(900kcal)で1日に必要なエネルギーとタンパク質、ビタミン、微量元素等を投与できるからです。30〜40kgの人では1日750〜1200kcal(25〜30kcal/kgで計算)が目安、イノラスなら1日3〜4パウチで栄養管理ができるし、長期栄養管理であっても微量元素が欠乏する心配がありません。
一方で、従来の薄い栄養剤では、標準投与量が1500〜2000kcalで設定されており、低用量の場合には、タンパク質やビタミン、微量元素が不足する可能性がありました。
最近ではNSTチームで低体重や活動量の低い人に介入する機会が増えており、少量で効率的に栄養補給できるイノラスは有用性が高いと思います。
②心機能、腎機能が低下している人に有用
1日の投与量(900〜1200kca)が562.5〜937.5mL(3〜4パウチ)に抑えられるからです。CKDや心不全などを合併した人では、心機能や腎機能に対する負担を最小化できます。特に水分制限のある方に有用です。
一方で、従来の栄養剤(1kcal/mL)では1日の投与量が900〜1200mLになります。その差は300mL/日です。結構大きいのではないでしょうか。
イノラスは濃度が濃い分、水分負荷を軽減できるのが魅力です。心不全やCKDの方にも使い勝手が良いと考えられます。
ただし、1パウチあたりの水分含有率は約75%と低いので、脱水にならないように水分量の調節が必要です。特に、経管投与の場合ですね。
③たんぱく質を強化したい場合
高タンパク製剤の利点を活かせる場面ですね。手術後や熱傷、外傷などたんぱく質の需要が亢進した患者さんの栄養管理に有用だといえます。上述のようにイノラスは1パウチあたり19.2gのタンパク質を供給できるからです。
特に周術期では通常の食事に加えて投与することで早期回復を促す効果も期待できると思います。
イノラス:Question & answer

イノラスは下痢を起こしやすい?
濃度が濃いので気になりますよね。
経腸栄養剤ごとの浸透圧は下記です。
製品名 | 浸透圧(mOsm/L) |
---|---|
イノラス | 約670 |
エンシュア・H | 約540 |
エネーボ | 約350 |
ラコール配合経腸用液 | 約330〜360 |
エンシュアリキッド | 約330 |
ツインライン | 約470〜510 |
エレンタール | 約913 |
イノラスは約670mOsm/Lと高めです。さすがに、成分栄養剤(エレンタール)ほどではないにせよ、浸透圧が高く、下痢の副作用が懸念されます。
第3相比較試験(検証的試験)では、
107例中、11例(10.3%)に副作用を認め、
下痢は5件(4.7%)、軟便は1件(0.9%)でした。
ラコールとの比較試験では、
下痢、軟便の頻度は同じでした。
どちらも50例中、それぞれ下痢が2件、軟便が1件。
イノラスは脂質成分に消化吸収の良いMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)を配合し、下痢が起こりにくいよう設計されていますが、浸透圧が高めなのがやや心配です。経管投与では投与速度をゆっくりにするなど対応が必要ですね。
イノラスの気になる味は?
ヨーグルトフレーバーとりんごフレーバーの2種類があります。
試飲会では、酸味があってサッパリした風味で飲みやすいという意見が多かったです。
個人的には、りんごフレーバーが好みでした。
イノラスはトロミをつけることが可能?
嚥下機能が低下した人は、サラサラした液体のままでは誤嚥のリスクがあります。経管投与でも、吐き気や逆流による誤嚥、下痢などの注入トラブルが懸念されるケースは少なくありません。
イノラスは、市販のとろみ剤でトロミをつけて服薬することが可能です。経管投与に際しては、REF-P1などの粘度調整食品を投与後にイノラスを注入すると胃内で固まります。(メーカー確認)
まとめ

今回はイノラス配合経腸用液の特徴について解説しました。
本記事のポイント
- 分類…半消化態栄養剤
- 特徴…高カロリー、高たんぱく、液量が少ない
- 利点…少量で効率的に栄養を補給できる!
- 臨床の位置付け…高齢者や低体重の方、CKDや心不全の人など、周術期にも
イノラスは少量で効率的に栄養補給できるのが魅力!記事を書きながら、活用できる場面は結構多いと感じました♪