大塚製薬の新・経腸栄養剤イノラス。
・2019年6月から使用できるようになりました。イノラス配合経腸用液が発売された!どんな特徴がある栄養剤なのか?
さっそく見ていきましょう。
イノラスを理解するための5つのポイント

大きく5つのポイントがあります。
- 高カロリー、高たんぱく、液量が少ない
- 3パウチで1日に必要な栄養素を補給できる
- 分類は半消化態栄養剤
- 少量で効率的に栄養を補給できる!
- 高齢者や低体重の方、CKD、心不全の人など、周術期にも使いやすい
順番に解説します。
高カロリー、高たんぱく、液量が少ない
イノラスは濃い経腸栄養剤です。
高濃度製剤のラインナップは3種類あります。
- エンシュア・H…アボットジャパン、1995年10月販売
- エネーボ配合経腸用液…アボットジャパン、2014年5月販売
- イノラス配合経腸用液…大塚製薬、2019年6月販売
3種類の組成、カロリー、たんぱく質、液量を比較してみましょう。
カロリーが高いのは?
- イノラス…1.6kcal/mL
- エンシュア・H…1.5kcal/mL
- エネーボ…1.2kcal/mL
たんぱく質が多いのは?
- イノラス…6.4g/100mL
- エネーボ…5.4g/100mL
- エンシュアH…5.3g/100mL
液量が一番少ないのは?
- イノラス…187.5mL
- エンシュア・H …250mL ②エネーボ…250mL
高濃度タイプの栄養剤で最も“濃い”のはイノラスです。
標準製剤であるエンシュアリキッドとラコールも一応、組成を確認すると、その差は歴然としてます。
・イノラス187.5mL
→1.6kcal/mL、たんぱく質6.4g/100mL
・エンシュアリキッド250mL
→1kcal/mL、たんぱく質3.5g/100mL
・ラコールNF配合経腸用液200mL
→1kcal/mL、たんぱく質4.4g/100mL
イノラスはカロリー、たんぱく質がかなり強化されている製剤で、カロリーは160%、たんぱく質は約150〜200%増しです。
ちなみに、栄養補助食品も1.5〜2.0kcal/mLの高濃度タイプのものがあります。なんと4.0kcal/mLの製剤なんてのもありました!(テルモのテルミールアップリード)
・イノラスは、少量でハイカロリー、高たんぱくが投与できる経腸栄養剤です。医薬品ではNO.1ですね。
3パウチで1日に必要なビタミン、微量元素を補給できる
1日3パウチ、900kcalで1日に必要なビタミン、微量元素が摂取できる!
・イノラスは、ヨウ素やセレン、クロム、モリブデンなどの微量元素、加えてコリンやカルニチンなどが配合されてます。
ちなみに、エネーボでは、ヨウ素が非含有。エンシュア・Hにはヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、カルニチンが入ってません。
生体代謝に必要で、長期の栄養管理で欠乏しがちな成分を最新の栄養学的知見に基づき配合したのがイノラスです。
分類は半消化態栄養剤
経腸栄養剤の種類は大きく3種類です。
糖質や脂質の成分は大きく変わらないものの、たんぱく質の形態が違います。
- 半消化態栄養剤…窒素源はたんぱく質で、腸管で消化を要する。
→イノラス、エンシュアリキッド・H、エネーボ、ラコール - 消化態栄養剤…アミノ酸やジまたはトリペプチドを窒素源とし、一部消化が必要
→ツインライン - 成分栄養剤…アミノ酸のみを窒素源とし、消化を要しない→エレンタール
どの栄養剤を選択するかは、消化管の機能によって決定します。
たとえば、しばらく絶食が続いた人を考えてみましょう。
栄養剤の選択は以下のとおりです。
・(負担がほとんどない)成分栄養剤→(負担がやや少ない)消化態栄養剤→(負担がある)半消化態栄養剤→経口食(普通の食事)
というふうに、消化機能に合わせて段階的に栄養剤の形態をアップしていきます。
・イノラスは半消化態栄養剤に分類。消化吸収の機能が正常(軽度低下も可)な人が適応です。
少量で効率的に栄養を補給できる!
成人用量は3〜5パウチ、900〜1500kcal、562.5〜937.5mLに設定されてます。
1日投与量が低めになっているのが特徴です。
他の製剤はどうか?比較してみましょう。
- イノラス
→900〜1500kcal、562.5〜937.5mL(3〜5パウチ) - エンシュア・H
→1500〜2250kcal、1000〜1500mL(4〜6缶) - エネーボ
→1200〜2000kcal、1000〜1667mL(4〜6.7缶) - エンシュアリキッド
→1500〜2250kcal、1500〜2250mL(6〜9缶) - ラコール
→1200〜2000kcal、1200〜2000mL(6〜10パウチ)
イノラスは1日の投与カロリー、投与量がもっとも低く設定されており、少量で効率的に栄養を補給できる製剤です。
液量は1000mLを切っており、経管投与の場合には、注入時間の短縮により離床が進むし、介護者の負担も軽くなるメリットもあります。
高齢者や低体重の人、心不全やCKDの人、周術期にも使いやすい
少量で効率的に栄養補給ができるイノラス、どのような人に適しているのか?
大きく3つのケースが考えられます。
- 低体重、活動量の低い人
- 心機能、腎機能が低下している人
- たんぱく質を強化したい場合
低体重や活動量の低い人に有用
経腸栄養剤で栄養管理をされている人は高齢化も進んでおり、低体重や活動量の低い患者さんでは、1日の必要カロリーも少なくなります。
・簡易的に一日に必要カロリーが25〜30kcal/kgだとすると、40kgの人では、1000〜1200kcalが投与カロリーの目安です。
イノラスなら1日3〜4パウチで栄養管理ができるし、長期間であっても微量元素が欠乏する心配がありません。
心機能、腎機能への負担が少ない
CKDや心不全などを合併した人では、投与量(液量)が増えると負担が大きくなります。
・1日の投与量が562.5〜937.5mLに抑えられるのはメリットです。
一方で、1パウチあたりの水分含有率は約75%と低いので、特に経管投与の患者さんでは脱水にならないように水分量の調節が必要になります。
たんぱく質が強化された栄養剤
低栄養の患者さんはもちろん、手術後や熱傷、外傷などたんぱく質の需要が亢進した患者さんにも有用です。
手術後の回復を良くするために、術前から投与するのも良いと考えられます。
・イノラスは高齢者や低体重の患者さんはもちろん、心不全やCKD患者さんに使いやすく、周術期の栄養管理に有効な栄養剤だと思います。
Question & answer

イノラスは下痢を起こしやすい?
浸透圧が約670mOsm/Lと高め。
液量が少なく濃い製剤なので、ほかの栄養剤と比べても高くなっています。
- イノラス…約670mOsm/L
- エンシュア・H…540mOsm/L
- エネーボ…約350mOsm/L
- ラコール配合経腸用液…330〜360mOsm/L
- エンシュアリキッド…約330mOsm/L
- ツインライン…約470〜510mOsm/L
- エレンタール…約913mOsm/L
さすがに、成分栄養剤(エレンタール)ほどではないにせよ、浸透圧が高く、下痢の副作用が懸念されます。
・第3相比較試験(検証的試験)において107例中、11例(10.3%)に副作用を認め、下痢は5件(4.7%)、軟便は1件(0.9%)でした。
・ラコールとの比較試験では、下痢、軟便の頻度は同じでした。(どちらも50例中、それぞれ下痢が2件、軟便が1件)
※引用文献…新薬と臨牀,2019;68:572-594
イノラスは脂質成分に消化吸収の良いMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)を配合し、下痢が起こりにくいよう設計されてますが、浸透圧が高めなのがやや心配です。
対応は経管投与では投与速度をゆっくりにするなどですね。
気になる味は?
ヨーグルトフレーバーとりんごフレーバーの2種類があります。
試飲会では、酸味があってサッパリした風味で飲みやすいという意見が多かったです。
個人的には、りんごフレーバーが好みでした。
トロミをつけることができるの?
嚥下機能が低下した人は、サラサラした液体のままでは誤嚥のリスクがあります。
経管投与では、吐き気や逆流による誤嚥、下痢などの注入トラブルが懸念されるケースも。
・イノラスは、市販のとろみ剤でトロミをつけて服薬することが可能です。経管投与に際しては、REF-P1などの粘度調整食品を投与後にイノラスを注入すると胃内で固まります。(メーカー確認)
患者さんの状態に合わせて投与方法を選択することが可能です。
まとめ

最後にまとめておきますね。
イノラス配合経腸用液のポイントは以下のとおりです。
- 高カロリー、高たんぱく、液量が少ない
- 3パウチで1日に必要な栄養素を補給できる半消化態栄養剤
- 少量で効率的に栄養を補給できる!
- 高齢者や低体重の方、CKD、心不全の人などにも使いやすい!(周術期もOK)
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今回はイノラス配合経腸用液についてまとめました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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