循環器系薬

エンレスト錠(慢性心不全治療薬)の特徴は?

今回のテーマはエンレスト!

一般名はサクビトリルバルサルタンナトリウム水和物。慢性心不全の治療薬です。

バルサルタン!?という聞き覚えのある名前に、アレっと思った人も多いのでは?

エンレストは2種類の成分が混合された新しい機序を有する薬剤です。

「アンギオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬」
(angiotensin receptor neprilysin inhibito:ARNI)

別名「アーニイー」と呼ばれます。エンレストはどのような特徴があるのか?

ポイント絞って解説しますね。

エンレストとは?

まずは基本情報の確認から。

商品名 エンレスト
一般名 サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物
規格 50mg、100mg、200mg
適応症 慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)
用法用量 1回50mgを開始用量として1日2回経口投与。忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量
禁忌 ・過敏症の既往歴のある患者
・ACE阻害薬を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者
・血管浮腫の既往歴のある患者
・アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者
・重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある女性

順番にポイントを確認しますね。

サクビトリル+バルサルタンの化合物

エンレストは下記2種類の溶解液を混ぜて結晶化した化合物です。

  • サクビトリル
  • バルサルタン

混合比率はモル比1対1。エンレスト100mgあたり、サクビトリル48.6mg、バルサルタン51.4mg相当が入っている計算です。だいたい半量ずつと覚えておくとわかりやすいですね。

エンレストの化学構造式は下記です。

投与後、速やかに分離します。バルサルタンはそれ自体に薬効がありますが、サクビトリルはプロドラッグです。吸収後、エラスターゼにより分解を受けて活性代謝物になります。

慢性心不全に効く仕組み

エンレストが心不全に効く仕組みを詳しく見てみましょう。バルサルタンの効果は知ってる人も多いですが、サクビトリルって何?っていうのが第一印象ですよね。

それぞれの薬効分類は下記です。

  • サクビトリル…ネプリライシン(NEP)阻害薬
  • バルサルタン…アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬

バルサルタンはARBですね。国内では高血圧症に適応があります。アンギオテンシンⅡのAT1受容体に対する結合を妨げ、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を抑制するのが作用機序です。

RAASは一時的には心機能低下(心不全)に対する代償機構として働きます。末梢血管抵抗を上げたりNaの貯留により循環血漿量を維持する働きがあるからです。

しかし、長期的には心筋細胞の肥大、増殖など心筋リモデリングを亢進して、心機能低下の原因になります。ARBの効果は下記です。

▽ARBの効果
  • 全身血管抵抗↓
  • 体液量の増加↓
  • 心筋細胞の肥大・繊維化↓

一方で、サクビトリルはネプリライシン(NEP)阻害薬です。NEPとはメタロペプチダーゼのこと。ナトリウム利尿ペプチドであるANPやBNPを分解する酵素です。

サクビトリルの活性代謝物はNEPを妨げ、ナトリウム利尿ペプチドの働きを高めます。利尿効果と血管拡張作用により心臓の負担を和らげるのが作用機序です。RASSとはちょうど逆の作用ですね。

▽NEP阻害薬の効果
  • 全身血管抵抗↓
  • Na利尿効果↑
  • 心筋細胞の肥大・線維化↓

エンレストはダブルアクションです。「RAAS抑制」と「Na利尿ペプチド系亢進」、この2つの機序により心不全の悪化や進行を抑制します。

2つの組み合わせは相性がいい!

実はNEPはアンギオテンシンⅡの基質にもなります。サクビトリルだけではRAASを亢進させる可能性があるわけです。エンレストはARBと組み合わせることで、RAASの亢進を抑えることができます。理にかなっているのですね。

慢性心不全の長期予後を改善する

慢性心不全の治療薬は処方目的の違いにより大きく2つに分けられます。

  • 自覚症状を改善する薬
  • 長期予後を改善する薬

順番に解説します。

自覚症状を改善する薬

たとえば下記です。

  • うっ血症状の改善…利尿薬、血管拡張薬
  • 心拍出量の改善…強心薬
  • 心拍リズム調節…抗不整脈薬、ジギタリス製剤

息苦しさや肺うっ血などには利尿薬や血管拡張薬などを用います。心拍出量を増やすためには強心剤、リズムを調整するためには抗不整脈薬などを選択するわけです。自覚症状を改善する薬は速やかに効果が現れるのが特徴ですね。

一方で、すぐには効果が出にくい(実感しづらい)薬があります。慢性心不全患者の長期予後を良くする薬です。

長期予後を改善する薬

慢性心不全に関与する神経体液性因子は大きく3つあります。

  1. RAAS
  2. 交感神経系
  3. Na利尿ペプチド系

長期予後を改善する薬とターゲットとする神経体液性因子は以下のとおりです。

  • ACE阻害薬、ARB、MRA…①RASS
  • βブロッカー…②交感神経系
  • ARNI…①RAAS+③Na利尿ペプチド系

RAA系をターゲットとするのはACE阻害薬やARBですね。最近ではMRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)も使われます。スピロノラクトンやセララや、ミネブロ(心不全適応なし)ですね。

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交感神経系にはβブロッカーです。慢性心不全に適応があるのはカルベジロール(α、β非選択性)とビソプロロール(β1選択性)ですね。

エンレストは、慢性心不全患者の長期予後を改善する薬です。RAASとNa利尿ペプチド系に働き、従来とは異なった機序を有します。

Na利尿ペプチド系に働く注射薬がある!

カルペリチド(αヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド:商品名ハンプ)です。急性心不全や慢性心不全の急性増悪期に使います。ペプチド製剤は消化管で分解されるため、経口投与できません。エンレストはANPの分解酵素をターゲットに、経口投与を可能にした製剤です。ハンプの経口薬といえますね。

エンレストの位置付けは?

臨床効果は?

ACE阻害薬エナラプリルに比べて、心血管死と心不全による入院を減らしました。

ここがエンレストの凄いところ!

エナラプリルといえば、CONSENSUS、SOLVDなど海外の大規模臨床試験で死亡や生命予後を改善する効果が確認された薬剤です。

HFrEFにおいて禁忌を除くすべての患者に対する投与(無症状の患者も含む)が推奨されています。
※急性・慢性心不全診療ガイドライン2017

そのエナラプリルよりも、治療成績が良かったのがエンレストです。かなり注目度が高い薬剤だといえます。

臨床試験の結果は下記です。

▽海外第Ⅲ相試験(PARADIGM-HF試験)

  • 対象…ACE阻害薬又はARBを含む慢性心不全に関する既存治療下で左室駆出率(LVEF)が低下した慢性心不全(HFrEF)患者8442例
  • 方法…エンレスト群200mg×2 vs エナラプリル群10mg×2
  • 主要評価項目…心血管死又は心不全による初回入院
  • 結果…エンレスト群21.8%、エナラプリル群26.5% ハザード比0.80(0.73-0.87)

エンレストはエナラプリルに比べて、心血管死と心不全による入院リスクを20%低下させたという結果です。驚きですね。

適応となる患者さんは?

エンレストはどのような場面で使用するのか?

適応患者の選択について、添付文書に下記の記載があります。

「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。

具体的に見ていきましょう。PARALLEL-HF(国内臨床試験)の対象者は下記です。

NYHA心機能分類がII〜IV度のHFrEF患者

NYHA心機能分類とは心機能の重症度を評価するためのものです。身体活動の制限レベルに応じて4グループに分かれます。

  • I …(無症候性)日常の身体活動において、強い倦怠感、呼吸困難、動悸等がない
  • II …(軽症から中等症)日常の身体活動で症状あり
  • Ⅲ…(重症)日常の身体活動以下で症状あり
  • Ⅳ…(難治性)安静時にも症状あり

エンレストが適応になるのは心疾患があって、日常生活に何らかの心不全症状を認める場合です。加えて、「左室駆出率35%以下」のHFrEF患者さんが対象です。

心不全は左室駆出率に応じて、以下のように分類します。

  • LVEFの低下した心不全…40%未満
    (heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF
  • LVEF の保たれた心不全…50%以上
    (heart failure withpreserved ejection fraction:HFpEF

エンレストはACE阻害薬やARBから切り替えて治療する場合の選択肢の一つです。

5. 効能又は効果に関連する注意
5.1 本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。

第一選択はやはりACE阻害薬、忍容性がない場合にARBを選択します。じゃあ、次かと言うとそうではなくて、通常βブロッカーやMRAなどを加えた後です。それでも効果がイマイチという時にエンレストの投与を検討します。

臨床試験における前治療のスクリーニング基準は下記です。

  • ACE阻害薬又はARBの投与あり
  • β遮断薬の投与あり(禁忌又は忍容性が不良な場合を除く)
  • ミネラルコルチコイド拮抗薬(MRA)は、腎機能、血清カリウム値、及び忍容性を考慮の上、すべての患者で投与を検討

エンレストは、エビデンスのある心不全治療薬を複数使ってるけど、治療に難渋しているケースが対象になります。特に心不全の悪化で入院を繰り返す患者さんに有用だと思います。

海外のガイドラインでは

ESCガイドライン2016では、最適な既存治療下にある症候性のHFrEF患者に対して、心不全入院と死亡リスクを更に低下させるためにACE阻害薬(忍容性がない場合はARB)からANRIへの切替えが推奨されています。

Eur Heart J 2016; 37: 2129-200

まず、ACE阻害薬(またはARB)とβブロッカーを選択します。NYHA分類II-IV、HFrEF(LVEF<40%)の人が対象です。

効果不十分の時(LVEFが35以下)にMRAを投与します。それでも症状が残存する時に、ACEまたはARBからエンレストに切り替えという流れです。

今後国内のガイドラインでも、同様の位置付けになると予想されます。

慢性心不全治療薬コラランはご存知ですか?

心不全治療薬の最適治療下で、洞調律で安静時心拍数70回/分以上を条件にイバブラジン(商品名:コララン)が選択されます。エンレストと同様にHFrEF患者さん(LVEF35%以下)が対象です。

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エンレストの注意すべき副作用

ここからはエンレスト投与に際して注意すべき副作用を見ていきますね。大きく4つあります。

  1. 低血圧
  2. 高カリウム血症
  3. 腎機能障害
  4. 血管浮腫

低血圧

エンレストは低血圧に注意が必要です。AT1受容体拮抗作用に加えて、NEP阻害作用による利尿効果を併せ持つので、投与中は血圧のモニターが欠かせません。

低血圧の発生頻度は下記のとおりでした。

エンレスト
(4203例)
エナラプリル
(4229例)
低血圧に関連する有害事象 24.4% 18.6%
中断または用量調節あり 9.8% 7.0%

※PARADIGM-HF試験

エンレストの方がエナラプリルに比べて高い傾向が見られました。投与中に約1割の人が中断または用量調整を行なっています。

特に発現頻度が高かったケースは下記です。

  • 高齢者(65歳以上、75歳以上)
  • 腎機能低下
  • MRA併用あり

添付文書においても注意喚起がされています。

重要な基本的注意
8.2 症候性低血圧があらわれるおそれがあるため、特に投与開始時及び増量時は患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること

エンレストの開始初期や増量時は特に血圧の変動をフォローしていく必要があります。血圧の目標値は個々のケースで異なるので、自覚症状と合わせて、減量または中断の要否につき主治医と相談するかたちですね。

腎機能障害

注意すべき副作用2つ目は腎機能障害。発現頻度は下記です。

エンレスト
(4203例)
エナラプリル
(4229例)
腎機能障害に関連する有害事象 16.2% 17.6%
中断または用量調節あり 4.3% 5.2%

※PARADIGM-HF試験

エナラプリルと同じくらいの確率でした。

どうして、腎機能が低下するのか?というと、RAASの抑制は輸出細動脈を拡張させ、糸球体濾過圧の低下を招くからですね。特に下記のケースではエンレストの頻度が高めでした。

  • 高齢者(65歳以上)
  • 腎機能低下
  • 糖尿病合併
  • 利尿薬併用
  • MRA併用

エンレスト投与中は、血圧に加えて腎機能(CREやeGFR)の確認が必須ですね。NSAIDsの併用も腎機能障害のリスク因子です。できれば避けた方がいいと思います。ちなみに併用注意です。

高カリウム血症

続いて3つ目は高カリウム血症です。エンレストはRAASの抑制により高K血症を引き起こす可能性があります。抗アルドステロン作用により、尿細管でNaの再吸収とKの排泄が妨げられるのが原因ですね。

発生頻度は以下のとおりでした。

エンレスト
(4203例)
エナラプリル
(4229例)
血清カリウム高値 20.8% 22.3%
中断または用量調節あり 3.3% 3.7%

※PARADIGM-HF試験

エンレストは、エナラプリルと同程度という結果でした。特に注意が必要なのは下記のケースです。

  • 腎機能障害あり
  • カリウム保持性利尿薬併用

腎機能が低下するほど、またはカリウム保持性利尿薬の併用により、高カリウム血症の頻度が高い傾向が見られました。

引用)PARADIGM-HF試験の本薬群での血清カリウム高値(5.5mEq/L以上)の発現割合は、登録時のeGFR(mL/min/1.73m2)が
・90以上で15.8%
・60以上90未満で19.2%
30以上60未満で24.9%
と、eGFRが低下するほど高かった。また、カリウム保持性利尿薬 (MRAを含む)の併用については
併用ありで22.3%
・併用なしで18.2%
と、併用ありで発現割合が高かった。

エンレストは併用薬にも注意が必要です。下記は高カリウム血症のリスクを上げる可能性があります。

  • カリウム保持性利尿薬
  • カリウム補給製剤
  • アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬
  • アリスキレンフマル酸塩
  • ドロスピレノン・エチニルエストラジオール
  • スルファメトキサゾール・トリメトプリム
  • シクロスポリン

エンレストは投与中、カリウム値のモニタリングが欠かせません。特に一緒に処方される機会が多いK保持性利尿薬やMRA併用時には、K値の変動を注意深く見守ることが大切ですね。

血管浮腫

4つ目は血管浮腫です。エンレストはNEP阻害作用により血管浮腫のリスクがあります。 血管透過性亢進作用のあるブラジキニンはNEPの基質になるからです。

エンレスト
(4203例)
エナラプリル
(4229例)
血管浮腫に関連する有害事象 1.12% 1.02%
血管浮腫判定委員会で血管浮腫判定された事象 0.45% 0.24%

※PARADIGM-HF試験

頻度はエナラプリルと同程度でした。

発現機序からエンレストはACE阻害薬との併用が禁忌になります。併用によりブラジキニンの蓄積が助長されるからですね。ACE阻害薬からの切り替えの際には、エンレスト投与36時間前に中止する必要があります。

重要な基本的注意

血管浮腫があらわれるおそれがある。これらの薬剤が投与されている場合は、少なくとも本剤投与開始36時間前に中止すること。また、本剤投与終了後にこれらの薬剤を投与する場合は、本剤の最終投与から36時間後までは投与しないこと。

逆にエンレストをACE阻害薬に戻す場合にも同様に36時間の間隔が必要です。

血管浮腫は呼吸困難を起こし命に関わる可能性があります。相互作用のチェックが欠かせません。忘れないように気をつけたいですね(^_^)

ACE阻害薬とNEP阻害薬の合剤!

オマパトリラートという名前で開発が進んでいました。しかし、重篤な血管浮腫の副作用が発現、開発が断念された経緯があります。ブラジキニンへの影響がないARBを組み合わせたエンレストは安全性に配慮された製剤というわけですね。

まとめ

今回は慢性心不全治療薬エンレストについて特徴をまとめました。

記事を書いていて思ったのは、エンレストの服薬を続けることの大切さ。

高齢化に伴い心不全で命を失う人が増えています。病院で働いてると心不全で入院を繰り返す人に関わることも多いです。

エンレストはACE/ARB、βブロッカー、MRA等で最適治療がされているにも関わらず、入院を繰り返す患者さんに有効性が期待できます。ニーズがありそうですよね。

一方で、副作用にも注意が必要です。低血圧や腎機能障害などを防ぎながら服用を続けることが、長期予後の改善に欠かせません。もちろん、服薬アドヒアランスも重要ですね。

「副作用をうまく回避しながら、できるだけ長く服薬する」

エンレストの有効性を患者さんが享受するためにも、薬剤師が医師と連携しながら、慢性心不全患者さんの治療をサポートしていくことが大切だと感じました。

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