【成分栄養剤】エレンタールの特徴と臨床の位置付けを解説!

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今回のテーマはエレンタール配合内用剤!

国内初の成分栄養剤です。もともとは宇宙食として開発され、その後に病態栄養に応用されたのが起源になります。知らなかったです^_^

ご存知のとおり、経腸栄養剤の種類はいくつかあります。

その中で、成分栄養剤である

・エレンタールの特徴は何か?
・また、どの場面で使用するのか?

勉強がてら調べたので共有したいと思います。

目次

エレンタールの基本情報

先述のようにエレンタールは成分栄養剤です。

まずは、そもそも成分栄養剤とは何かを解説します。

経腸栄養剤の種類は大きく3つ。

  1. 成分栄養剤
  2. 消化態栄養剤
  3. 半消化態栄養剤

代表的な製品を比較すると下記です。

分類成分栄養剤消化態栄養剤半消化態栄養剤
商品名エレンタール配合内用剤ツインラインNF配合経腸用液エンシュア・リキッド
糖質デキストリンデキストリンデキストリン
精製白糖
たんぱく質アミノ酸乳たん白加水分解物カゼイン
大豆タンパク質
脂質大豆油サンフラワー油
トリカプリリン
コーン油
脂質含量0.65%約13%約17%
消化不要ほぼ不要必要
浸透圧高め高め低め
各添付文書より作成

いずれの栄養剤も糖質の主成分はデキストリン(デンプンを加水分解したもの)です。一方、脂質の種類は様々ですね。エネルギー源と必須脂肪酸の補給目的で配合されています。ちなみに、トリカプリリンは吸収が良く、速やかにエネルギーとして利用される中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)です。

糖質と脂質は、製剤を特徴づけるだけの大きな差はありません。

一方で、押さえておきたいのは下記4項目です。

  1. 窒素源の成分
  2. 消化の要否
  3. 脂質の含有量
  4. 浸透圧

この違いに注目すると、理解が深まります。

順に見ていきましょう!

窒素源の成分

エレンタールの窒素源アミノ酸のみです

経腸栄養剤は窒素源の違いで分類されます。

  • 成分栄養剤…アミノ酸のみ
  • 消化態栄養剤…アミノ酸、ジペプチド、トリペプチド
  • 半消化態栄養剤…ポリペプチド、タンパク質

半消化態→消化態→成分栄養剤の順に、たんぱく質のペプチド結合が切れてバラバラになっていきます。ツインラインは乳たんぱくの加水分解物に含まれるアミノ酸とジ・トリペプチドを、エンシュアはたんぱく質(カゼインや大豆たんぱく)そのものが窒素源です。

消化の要否

エレンタールは成分栄養剤であり、腸管における消化を必要としません

遊離アミノ酸は速かに小腸上皮から吸収されるからです。

同様に、消化態栄養剤のツインラインもほぼ消化が必要ありません。一部ペプチドからアミノ酸へ消化されたのちに吸収されるものの、小腸上皮にはジ・トリペプチドをそのまま吸収する経路があるからです。

一方で、エンシュアなど半消化態栄養剤は消化を必要とします。タンパク質のままでは吸収されないからです。胃液に含まれるペプシンや膵液の成分であるトリプシンやキモトリプシン、エラスターゼなどによって、アミノ酸へ分解された後に吸収されます。

消化の要否は大事な視点!

どの栄養剤を選べばいいのか?検討するときに必要だからです。エレンタールとツインラインは消化管の機能が低下したケースに選択します。一方で、半消化態栄養剤は、消化管の機能が正常な人に使うのが基本です。

脂肪の含有量

エレンタールは脂肪含量ごくわずかです

含有量(1製品あたり)三大栄養素中の割合
エレンタール配合内用剤0.51g約0.65%
ツインラインNF配合経腸用液11.12g約13%
エンシュア・リキッド8.8g約17%
各製剤、電子添文より

ここがほかの栄養剤と大きく異なる点。脂質の含有量はかなり違います。ツインラインとエンシュアは脂肪含量がほぼ同じくらいです。

脂肪含有量が少ないメリットは?

大きく2つです

  1. 消化機能が低下した患者さんに使いやすい
  2. 脂質を制限すべき病態にも使える

後述します。

一方で、デメリットも!

必須脂肪酸が不足する可能性があります。

例えば、α-リノール酸やリノレン酸ですね。ここは気をつけるべき点です。

長期間にわたる栄養療法では脂肪乳剤の静脈投与を考慮する必要があります。

浸透圧

エレンタールは成分栄養剤であり、浸透圧が高めです

代表的な製剤と比べるとその差は明らかですね

浸透圧(mOsm/L)
エレンタール配合内用剤約761
ツインラインNF配合経腸用液約470〜510
エンシュア・リキッド約330
各製剤、電子添文より

下痢が起こりやすい!

エレンタールは下痢の副作用に対する注意が欠かせません。浸透圧が高く、腸管上皮の毛細血管から水分を腸管内へ引き込む作用が強いためです。浸透圧は粒子の数に比例するので、成分栄養剤の方が高くなります。

副作用発現率は以下のとおりです

(副作用等発現状況の概要)

副作用発現率は28.6%(2,339件/8,170例)、主な副作用は下痢12.9%、腹部膨満感4.4%、血中AST(GOT)・ALT(GPT)・Al-P上昇3.7%、悪心2.1%、嘔吐1.6%、腹痛1.5%等であった。 (再審査終了時)

エレンタール配合内用剤 添付文書

もちろん、消化態栄養剤、半消化態栄養剤でも下痢を認めます。承認時の副作用報告を見ると、ツインラインでは36.4%(111/365)、エンシュアでは21.2%(53/250)でした。結構高い確率で起こることがわかります。

エレンタールの下痢対策は?

以下2つの方法があります

  1. 希釈濃度を低く設定する
  2. 注入速度を下げる(経管投与の場合)

少量から投与を開始して、消化器症状を確認しながら増量していくのが一般的です。

エレンタールを臨床で使う場面

成分栄養剤エレンタールはどのようなケースで使用されるのか?

大きく2つあります。

  1. 栄養剤として使用する
  2. 疾患の治療に使用する

順番に説明します。

栄養剤として使用する

エレンタールは吸収不全や腸管安静が必要な病態の栄養療法に使用します。

たとえば下記のケースです。

  • 短腸症候群
  • 重症急性膵炎
  • 消化機能低下例(絶食期間が長い)
  • 周術期

短腸症候群

まずは病態を簡単に確認します。

短腸症候群は、腸管の広範囲にわたる切除により消化吸収機能が著しく低下した状態を指します。切除に至る原因は、イレウスや腸管を栄養する血管の血栓症、クローン病などです。腸管の表面積低下により、水分や電解質、栄養素、ビタミンなどの吸収に支障をきたします。

短腸症候群の栄養管理は、3つの病期に分けて考えます。

STEP
(術直後期)

手術後はTPN管理が基本です。

STEP
(回復適応期)

水様性下痢が改善すれば経腸栄養剤を開始します。吸収が良いエレンタールやツインラインを選択するのが一般的です。忍容性があれば半消化態栄養剤を選択することもできます。

STEP
(安定期)

退院に向けてTPNを離脱し、経腸栄養へ移行するのが基本です。しかし、小腸の残存が少なく吸収障害が強い場合にはTPNの離脱が難しく、在宅静脈栄養法(Home Parenteral Nutrition:HPN)を選択することもあります。

エレンタールは短腸症候群など吸収不全の病態で、まず選択される栄養剤です(ツインラインもOK)

短腸症候群に対する治療薬が登場しました!

詳細はこちらの記事をご覧くださいね。

重症急性膵炎

重症膵炎急性期は、TPN管理が基本です。膵臓の安静を保つために高カロリー輸液で十分な栄養管理を行い、全身状態を見ながら経腸栄養剤の投与を開始します。

栄養剤は吸収が良く脂肪含有量の少ない成分栄養剤を選びます。膵臓への刺激を最小限にするためです。医薬品であればエレンタールが選択肢になります。

重症膵炎の急性期では、膵臓の負担を最小化するための栄養剤を選択するのがポイントです。

絶食期間が長い場合

経腸栄養剤を開始する時点で、絶食期間が長い場合には、吸収の良い栄養剤を選択します。小腸絨毛が萎縮し、十分に栄養を吸収できない状態だからです。

目安として絶食期間が2週間以上の場合には、成分栄養剤や消化態栄養剤が選択されます。医薬品であれば、エレンタールやツインラインです。少量からはじめます。経管投与の場合には、少量をゆっくり投与し、徐々に投与量、速度をアップしていく感じです。

消化管機能に回復に合わせて、栄養剤の形態を順次変えていきます。たとえば、成分栄養剤→消化態栄養剤→半消化態栄養剤→経口摂取(3分粥→5分粥→全粥→普通食)などのようにです。

これは大事な視点!栄養剤の選択は形態を考えることから始まります。カロリーや栄養素の組成はあとからで大丈夫。まずは患者さんの消化機能を評価です。

周術期

最近では手術後の早期経口・経腸栄養が盛んです。胃がんや大腸がんなどの手術後、できるだけ早期から経腸栄養を始めることが推奨されています。

術後はできるだけ早期から食事あるいは経腸栄養を開始する。ただし、ここの状態や術式を考慮する

静脈経腸栄養ガイドライン第3版

基本的には、標準組成の経腸栄養剤を用います。医薬品であれば、エンシュア・リキッドやラコールNF配合経腸用液などです。

術後の合併症対策では、成分栄養剤が選択されるケースもあります。例えば、縫合不全で栄養チューブを十二指腸や空腸に留置した場合には、吸収が良く、消化液分泌を抑制できるエレンタールが選択肢です。

また、膵液ろうを認めた場合には、膵臓への負担が少ないエレンタールの選択が適しています(いずれも経腸栄養が可能な場合です)

空腸ろうの場合には、成分栄養剤や消化態栄養剤が使用されることが多いです。術後の経口摂取が難しいケースでは、あらかじめ空腸に栄養チューブを留置して、早期から経腸栄養を始めることがあります。選択されるの吸収に優れたエレンタールやツインラインです。

疾患の治療に用いる

エレンタールはクローン病治療に用います。栄養補給はもちろん、病状の改善効果も期待できるからです。栄養療法は、通常の薬物療法(5-ASA、ステロイド等)に併用または単独で行います。

クローン病は炎症性腸疾患(IBD)の一つです。他に有名なのは潰瘍性大腸炎ですね。原因ははっきりしませんが、口から肛門まで全消化管に炎症性のびらんや潰瘍ができ、下痢や腹痛、血便などの症状を認めます。

栄養療法は、大きく3つの場面が想定されます。

  1. 活動期(軽症から中等症、中等症から重症)
  2. 活動期(重症)
  3. 寛解維持期

順番に見ていきます。

活動期(軽症から中等症、中等症から重症)

クローン病の寛解導入目的で、エレンタールとツインラインが選択されます。

栄養剤の選択のポイントは?

抗原性のないアミノ酸やペプチドを窒素源とし、脂肪含有量が少ない栄養剤が望ましいとされています。腸粘膜における免疫応答を抑制したり、下痢、腹痛など病状の悪化を防ぐためです。医薬品であれば、第一選択はエレンタールですね。

成分栄養剤や消化態栄養剤が使用できない時には、半消化態栄養剤で代用することもできます。

経腸栄養療法を行う場合は、成分栄養剤(エレンタール)あるいは消化態栄養剤(ツインライン等)を第一選択として用いる。但し、受容性が低い場合には半消化態栄養剤(ラコール等)を用いてもよい。

クローン病治療指針(2023年3月改訂)

活動期(重症)

症状が重篤の場合には、絶食によるTPN管理が基本です。

たとえば、腸管狭窄が強い場合や、消化管に瘻孔を認める場合などは、腸管安静のもと高カロリー輸液による栄養管理が実施されます。十分なエネルギーと必須脂肪酸の補給目的に脂肪乳剤との併用が必須です。

病状が安定した時点で、経腸栄養(その後経口摂取)へ移行します。

寛解維持期

在宅経腸栄養療法(home enteral nutrition:HEN)としてエレンタールやツインラインを選択します。

基本的には食事と併用する形です。必要カロリーの半分程度を成分栄養剤や消化態栄養剤で補います(場合によっては半消化態栄養剤も可)。

クローン病の患者さんは、吸収障害があり、頻回の下痢による栄養素の喪失が起こりやすい状態です。エレンタールを使用する場合には、必須脂肪酸の欠乏や脂溶性ビタミン、セレンなど微量元素の不足に注意しなければなりません。

在宅栄養療法では、1日摂取カロリーの半分量以上に相当する成分栄養剤や消化態栄養剤の投与も寛解維持に有用であるが、栄養剤の投与や選択にあたっては患者個々のQOLやADL・受容性などを考慮すべきであり、受容性が低い場合には半消化態栄養剤を用いてもよい

クローン病治療指針(2023年3月改訂)

セレンの注射薬が登場!

詳細は下記をご確認くださいね。

エレンタールは在宅成分栄養経管栄養法指導管理料の対象

エレンタールは在宅成分栄養経管栄養法指導管理料の対象になります。2500点/月です。在宅で、成分栄養経管栄養法を行なっている患者さん(入院患者は除く)に必要な指導管理を行なった場合に算定できます。

在宅成分栄養経管栄養法とは、諸種の原因によって経口摂取ができない患者又は経口摂取が著しく困難な患者について、在宅での療養を行っている患者自らが実施する栄養法のこと

対象疾患

原因疾患は関係ありません。短腸症候群やクローン病など成分栄養経管栄養法が必要と医師が認めた場合です。

栄養剤の要件

アミノ酸、ジペプチド、トリペプチドを主なたんぱく質源とし、未消化態たんぱくを含まないものです。つまり、エンシュアやラコールなどの半消化態栄養剤は算定できません。成分栄養剤のエレンタールや消化態栄養剤のツインラインが対象になります。

注入ポンプ加算1250点

経腸栄養ポンプを使用した場合に算定できます。腸ろうからの投与や小児でポンプを使用するケースです。在宅成分栄養経管栄養法指導の加算であり、エレンタールとツインラインを使用した場合に限ります。

在宅経管栄養法用栄養管セット加算2000点

栄養剤の注入に必要な物品に対して算定できます。栄養バッグや栄養管セット、接続チューブなどです。

まとめ

今回はエレンタール配合内用剤の特徴について、消化態栄養剤、半消化態栄養剤と比較しながら解説しました。

ポイントは以下のとおりです。

  1. 成分栄養剤(窒素源…アミノ酸、脂肪含量が少ない)
  2. 臨床の位置付け(①栄養剤と②治療薬)
  3. 栄養剤として(短腸症候群、重症膵炎、消化管機能低下例、周術期など)
  4. 治療薬として(クローン病の活動期、寛解維持期)
  5. 在宅成分栄養経管栄養法指導管理料の対象。注入ポンプ加算、栄養管セット加算も算定

記事を書きながら思ったのは、「消化管の機能に合わせた栄養剤の選択」が大事である点。薬の知識だけでなく、病態や栄養の知識も不可欠だと感じました。

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