栄養管理、NST

アセレンド注の特徴・使い方【セレン欠乏症を見逃さないためのポイントも考察!】

今回のテーマは「アセレンド注」

一般名は亜セレン酸ナトリウム、低セレン血症の治療薬です。

セレンって何か知ってますか?

必須微量元素の一つですね。セレン欠乏症は滅多に起こりません。土壌等、自然界に広く存在し、食品とともに体内に取り込まれるからです。通常は大丈夫…。

しかし、食事から摂取できない人やうまく吸収できない人では、容易にセレン欠乏症が起こり、心筋障害や心不全等を招く可能性があります。

では、セレン欠乏症を防ぐためにどうすればいいのか?

本記事では前半にアセレンドの特徴・使い方を解説、後半でセレン欠乏症を見逃さないためのポイントを考察しています。

アセレンドの特徴・使い方

まずはアセレンドの基本的な特徴と使い方を確認しておきます。

ポイントは大きく5つです。

  1. 待望の低セレン血症治療薬
  2. 対象は食事から十分にセレンが取れない人
  3. 配合変化に注意
  4. 過剰症にも注意
  5. 細やかな用量調節が必要

待望の低セレン血症治療薬!

アセレンドは国内初、「低セレン血症」の治療薬です。

待ちに待った、現場のニーズに応えた製剤になります。従来は病院内でセレンの注射製剤を作る必要があり、調製にかかる設備が整った大病院や大学病院等でしか対応ができなかったからです。

アセレンド登場により、以下のメリットがあります。

  • 多くの施設で治療ができる
  • 調製にかかる労力が減る(院内製剤から医薬品へ)
  • 院内製剤の調製ミスによる事故をなくせる

2017年に京都大学医学部付属病院で、院内製剤であるセレン注射剤の調製ミスがあり、指示量の約738倍という高濃度のセレン投与により死亡事故が起こったのは記憶に新しいところです。

参考)院内製剤投与後急変死亡事例に係る調査結果について

アセレンドは国内初の低セレン症の治療薬!今までよりも多くの施設で安全に低セレン血症を治療できるのが利点ですね。

食事から十分にセレンが取れない人が対象!

アセレンドは注射製剤です。経口投与できない場合にも点滴静注又は静脈内投与によりセレンを補給できるのがメリットになります。

しかし、低セレン血症だからといって誰でもアセレンドというわけではありません。経口摂取できる場合には食事や栄養剤からセレンを投与するのが基本だからです。添付文書にも以下の記載があります。

効能・効果に関連する使用上の注意

食事等により十分にセレンを摂取できない患者に使用すること。

アセレンド添付文書より

では、具体的にアセレンドはどのような人に使うのか?

大きく2パターンあります。

  1. 高カロリー輸液で栄養療法を行う人
  2. 経口摂取や経腸栄養でも、消化管機能が低下している人

アセレンドは主に①TPNの患者さんが対象になります。国内の注射用微量元素製剤(エレメンミック)は、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素の5種類だけで、セレンを含まないからです。①はアセレンド使用の典型ですね。

また、②短腸症候群や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)などの患者さんも、アセレンドがよい適応になります。消化吸収の低下により、食事や栄養剤からの摂取では不十分だからです。経静脈的に投与する必要があります。

このように、アセレンドはTPN患者さんと、経腸栄養であっても消化吸収が低下された方に用いる点を押さえておきましょう。

配合変化に注意!

アセレンドは高カロリー輸液に混注して投与するのが一般的です。調製に際して以下の注意点があります。

  • 単独のシリンジを用いる
  • 他の製剤と直接混合しない
  • 還元剤ビタミンC等と混合しない(沈殿→フィルター目詰まり)

参照)アセレンドインタビューフォーム

よく使われる高カロリー輸液(一部の末梢静脈輸液も)とアセレンドの配合は問題ありません。pHや色調の変化は特に認めないという結果でした。

アセレンドと配合できる栄養輸液(例)
  1. エルネオパNF輸液
  2. ワンパル輸液
  3. ビーフリード輸液
  4. パレプラス輸液…など。

詳しくはアセレンド注100μg配合変化表をご確認くださいませ。

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血中濃度測定と細やかな用量調節が必須!

アセレンドは低セレン血症の治療薬です。血中濃度測定によりセレン濃度が基準を下回っていることを確認後、使用する薬剤です。また、過量投与にならないように段階的に用量調節を行います。

用法・用量に関連する使用上の注意

本剤投与開始時及び用量変更時には、血清セレン濃度の確認を行うこと、また、本剤投与中は過量投与に注意し、血清セレン濃度を確認し同一用量を漫然と投与しないこと。

アセレンド100μg添付文書

血清セレン値がいくつの時に治療を始めるのか?セレン欠乏症の診療指針2018によると下記です。年齢ごとに基準が異なります。

年齢
血清セレン値
(μg/dL)
  • 0〜5歳
  • 6〜14歳
  • 15〜18歳
  • 19歳以上
  • 6.0以下
  • 7.0以下
  • 8.0以下
  • 10.0以下

アセレンドの使い方は下記です。成人・小児12歳以上と小児12才未満で、開始用量、維持量、最大投与量、増量幅が決まっています。

成人・小児(12歳以上)小児(12歳未満)
開始100μg1日2μg/kg
※体重50kg以上…100μg
維持50~200μg1〜4μg/kg
※体重50kg以上…50~200μg
最大300μg記載なし
増量幅50μg1μg/kg
※体重50kg以上…50μg
アセレンド100μg添付文書

過剰症に注意!

セレンは欠乏症に注意が必要ですが、先述のように過剰症にも気をつけなければなりません。微量元素であるSeは安全域が狭いからです。

特に腎機能が低下した患者さんでは、より注意が必要だと考えられます。Seの主な排泄経路が腎なので。過剰症状は下記です。

呼気のにんにく臭、疲労、悪心、下痢、腹痛、心筋梗塞、胃腸障害、腎障害、毛髪及び爪の成長異常、末梢神経障害等

アセレンド添付文書より

セレンには解毒剤がありません。アセレンド投与中は血清セレン濃度と過剰症状のモニタリングが欠かせないですね。

金属の解毒剤であるジメルカプロール(バル筋注)はセレン中毒には使用できません。金属単体よりも「ジメルカプロールーセレン結合体」の方が毒性が強くなり、特に腎毒性が高まるからです。

鉄、カドミウム又はセレンの中毒の際には投与しないこと。[これらの金属とジメルカプロールとの結合により毒性の増強をみることがある。]

バル筋注100mg「AFP」添付文書より

セレン欠乏症を見逃さないためのポイント

正直言ってセレン欠乏症の知名度は全然高くありません。私も記事を書くまでほぼ無知の状態…でした^^;

もしかすると、「高カロリー輸液や微量元素製剤に充填されている」と誤解している人もいるかも知れません。一方で、「セレンが入っていない」とわかっていても、危機感を持ってないと欠乏症の存在はスルーしてしまいがちです。

「セレン欠乏症は早期発見が大事!」

だから、セレン欠乏症のことをもっと意識した方が良いと思います。自分も含めて…(^_^*)。

ここからは、セレン欠乏症を見逃さないためにどうすればいいのか?考察しました。

結論をいうと下記のリスク評価が大事です。

  1. 栄養メニューにセリンは含有されているか?
  2. 栄養療法の期間はどのくらいか?
  3. セレン欠乏症状はないか?
  4. 定期的にセリン濃度は測定されているか?

順番に見ていきましょう。

①栄養メニューにセリンは含有されている?

先述したようにアセレンドが適応になるのは下記のケースです。

  • 高カロリー輸液で栄養療法を行う人
  • 経口摂取や経腸栄養でも、消化管機能が低下している人

①の場合は、通常セレンが入っていません。Seを含有する微量元素製剤がないからです。アセレンドが必要かどうか検討に入ります。②の方はどうか?栄養メニューの種類によって異なります。

ここでは医薬品の栄養剤で考えてみましょう。セレン含有の有無を比較すると下記です。

セレンあり
セレンなし
  • エネーボ
  • イノラス
  • ラコール
  • ラコール半固形
  • エンシュア・リキッド
  • エンシュア・H
  • ツインライン
  • エレンタール

①エネーボとイノラスはセレンを含め微量元素を強化した製剤ですね。100kcalあたりのセレン含有量は下記です。

セレン含有量(100kcalあたり)
エネーボ
6.7μg
イノラス
5.6μg

エネーボの方がイノラスより若干多めですね。成人男性のセレン食事摂取基準は30μg/日(日本人の食事摂取基準2015年版)です。600kcalほどでクリアできます。上記薬剤は基本的にセレンの投与が必要ありません。

ただし、先に述べたよう消化吸収機能が低下した人は欠乏症のリスクがあるので、アセレンド投与の必要性を考えた方が良いと思います。

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②ラコール、エンシュアなどは、セレンの投与を考慮すべきです。セレン非含有なので、単独投与の場合には欠乏症リスクがあります。

ところで、添付文書をよく見るとラコールとツインラインにはセレンの含有量が記載されているのはご存知ですか?下記のとおりです。

セレン含有量(100kcalあたり)
ラコール
2.5μg
ラコール半固形
2.6μg
ツインライン
1.2μg
エンシュア・リキッド(H)
N.D
エレンタール
N.D

ラコールとツインラインには、エネーボやイノラスに比べると少ないものの、セレンが入っています。

ただし、これは原料に含まれるもので、成分として配合しているわけではありません。そのため、製品ロットごとに変わる可能性があるし、少量なので欠乏症のリスクは否定できないといえます。アセレンドの投与かセレン含有栄養剤への変更を考慮すべきですね。

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成分栄養剤のエレンタールは短調症候群や炎症性腸疾患などでよく使われます。セレンの欠乏には注意が必要ですね。

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②栄養療法の期間はどのくらい?

上記の栄養メニューでも短期間の投与なら問題ありません。水溶性ビタミンのように速やかに欠乏するわけではないからです。

じゃあ、セレンはどのくらいの期間で欠乏するのか?

これはかなり難しい質問ですね。欠乏症状が出るタイミングは人によってまちまちだからです。ガイドラインでは以下の記載があります。

・本邦で市販されている微量元素製剤にはセレンが含まれていないので、TPN症例ではセレン欠乏症に注意する。

・新生児の静脈栄養…特に、セレンについては、 本邦の微量元素製剤には含まれていないため、3か月を超える静脈栄養を行う場合には、院内製剤(亜セレン酸)で対処し 3〜5μg/kg/日投与する必要がある

静脈経腸栄養ガイドライン第3版

新生児では静脈栄養の場合、3ヶ月が目安となります。

一方で、成人の場合は特に記載がありません。過去の報告によると、セレン欠乏症発症までにかかる期間は1ヶ月から13年で、TPN施行期間と比例しないとされています(セレン欠乏症の診療指針2018)。かなりの幅がありますね……。

基本的には1か月を超える静脈栄養や経腸栄養の場合には、セレン欠乏症のリスクが高いと考えるのが妥当だと思います。

③セレン欠乏症状はない?

セレン欠乏症状はいくつかあります。その中で代表的なものは下記の3つです。

  • 心機能の低下
  • 爪の白色化、変形
  • 筋力低下、筋肉痛

心臓と爪、筋肉に着目ですね。

中でも、爪の白色化と変形は特徴的だと思います。高カロリー輸液、長期投与中の確認ポイントですね。

筋力低下や筋肉痛は判別が簡単ではありません。栄養状態悪化の可能性もあるし、高齢者では腰痛や膝関節症等が持病であることもしばしばだから。

心機能低下は特に注意しなければなりません。不整脈を起こしたり、重症の拡張型心筋症では、心不全から死に至る可能性もあるからです。

セレン欠乏症状の確認は早期発見に欠かせません。日常業務で意識することから始めましょう。下記の診断基準も併せてご確認くださいね。

セレン欠乏症の診断基準とは?

1.下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす

  1.  爪・皮膚…爪白色化・爪変形、皮膚炎、脱毛・毛髪の変色
  2. 心筋障害…心筋症、虚血性心疾患、不整脈、頻脈
  3.  筋症状…下肢の筋肉痛、筋力低下、歩行困難
  4. 血液症状…赤血球の大球性変化、大球性貧血
  5. 検査所見…T3低値、AST・ALT上昇、CPK上昇
  6. 心電図変化…ST低下、T波陰転化

2.上記症状の原因となる他の疾患が否定される 

3.血清セレン値 (μg/dL) 

  • 0~5歳:≦ 6.0  
  • 6~14歳:≦ 7.0 
  • 15~18歳:≦ 8.0 
  • 19歳~:≦ 10.0 

4.セレンを補充することにより症状が改善する

※Definite(確定診断):上記項目の 1.2.3.4 をすべて満たすもの. 

※Probable:セレン補充前に1.2.3を満たすもの.セレン補充治療の適応となる. 

セレン欠乏症の診療指針2018

④定期的にセレン濃度は測定されている?

③の評価で欠乏症の疑いがあれば、セレン濃度を測定します。血清セレン値は基準を下回る場合には、アセレンドの出番です。

欠乏症の疑いがなければ、測定は必要ありません。定期的なリスク評価を続けます。

ただし、ここで気をつけたいのが以下の可能性です。

セレン欠乏症状は出てないけど、実は低セレン血症である

放っておくとしばらくして欠乏症状が出るかも知れません。早期発見・予防の観点からは、血清セレン濃度の測定が望ましいと考えられます。正常値であることの確認だって大事ですよね。

1ヶ月以上TPNを行う場合(新生児では3ヶ月が目安)には、血清セレン値チェックの必要性を主治医と相談することが大切だと思います。

まとめ

今回はアセレンドの特徴とセリン欠乏症を見逃さないためのポイントを解説&考察しました。

アセレンドを低セレン血症の治療薬です。対象は下記の栄養療法を長期間行なっている場合でした。

  • TPN
  • Se非含有のEN
  • Se含有のENでも消化機能が十分でない病態(短腸症候群など)

Se欠乏症を見逃さないためには以下のリスク評価が大事です。

  1. 栄養メニューにセリンは含有されているか?
  2. 栄養療法の期間はどのくらいか?
  3. 心機能低下、爪の白色化、筋力低下などの症状はないか?
  4. 定期的にセリン濃度は測定されているか?

つまり、「セリン欠乏症は大丈夫か?」経管投与や静脈栄養を行っている患者さんを前に、意識できるかにかかっています

記事を書きながらセレン欠乏症の早期発見と予防の重要性を強く感じました。見逃さないようにまずは、意識を高めることが大事ですね♪

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