NSAIDsは腎障害のリスクあり!【予防方法、代替薬を合わせて解説】

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痛み止めNSAIDsの副作用といえば、胃粘膜障害!

超有名ですね。一方で「腎障害」と、真っ先に答える人は少ない印象があります。きっと、胃(イ)がメジャー過ぎて、腎(ジン)の副作用が目立たないからではないでしょうか?

NSAIDsによる腎障害はもっと注目されるべき!

と思ったので、NSAIDsによる腎障害のリスクと予防方法、代替薬について記事にまとめました。

目次

NSAIDsによる腎障害のリスク

NSAIDsは腎障害を引き起こす可能性があります。まずは基本的な知識の確認からです。ポイントは大きく3つあります。

  1. 腎臓は薬剤に障害されやすい理由
  2. 腎障害が起こる4つの機序
  3. 腎障害の頻度

腎臓が薬剤に障害されやすい理由

実は腎臓は薬剤によってダメージを受けやすい臓器の代表です。

理由は大きく3つあります

  1. 血中にあるほとんどの薬物に暴露されやすい
  2. 尿細管内の薬剤濃度が上昇する
  3. 尿細管組織に薬剤が蓄積しやすい

①腎臓は血中へ移行した薬剤に暴露されやすい性質があります。腎臓の大きさ大人の握りこぶしくらいで、重さは150g程度しかないのに、腎血流量は心拍出量の25%を占めるからです。

②尿細管濃度は血中濃度に比べて高くなります。糸球体ろ過された原尿は通常、尿細管内で100倍以上に濃縮されるからです。

③尿細管は薬剤の蓄積が起こりやすいです。尿細管に存在するトランスポーターを介して薬剤の再吸収と分泌がされるからですね。

腎障害が起こる4つの機序

発生機序から4つのタイプに分かれます。

  1. 中毒性
  2. 間接毒性
  3. アレルギー性
  4. 尿路閉塞性

この中から、NSAIDsの機序はどれに当たるのか、順番に見ていきましょう。

中毒性

用量依存的に直接、腎細胞が障害される機序で、急性尿管壊死(ATN)を引き起こします。

代表的な薬剤は、アミノグリコシド系やバンコマイシン、シスプラチン、ヨード造影剤など。稀ですがNSAIDsも原因になります。

用量依存的に起こるため、TDMや投与方法の工夫、補液投与などで薬剤濃度を調節することで予防が可能です。

間接毒性

糸球体ろ過量(GFR)の低下により腎機能が障害されます。

糸球体や腎血管は細い動脈で構成されており、血管収縮や循環量低下など虚血変化によってGFRの低下を招くからです。例えば、NSAIDs、ACE阻害薬やARB、シクロスポリン、タクロリムスなどが原因となります。特にNSAIDsは、間接毒性を機序とする代表的な薬剤です。

腎機能が低下するメカニズム
  • NSAIDs…COX-2を阻害してPGを低下→輸入細動脈収縮により糸球体内圧を下げる
  • ACE阻害薬/ARB…アンギオテンシンⅡを阻害→輸出細動脈拡張により糸球体内圧を下げる
  • シクロスポリン、タクロリムス…輸入細動脈を収縮→糸球体内圧を下げる

水分摂取、補液など腎血流量を維持することで予防できます。

アレルギー性

免疫反応により用量非依存的に過敏症を誘発し、急性間質性腎炎(AIN)を引き起こします。

薬剤の投与量や投与期間に関係なく発症するのが特徴です。腎機能障害に加えて、発熱や発疹、下痢、関節痛などのアレルギー症状や好酸球尿を認める場合もあります。

さまざまな薬剤が原因となり、もっとも多いのはセフェム系やキノロン系などの抗菌薬です。NSAIDsでもまれに起こることがあります。薬剤中止により軽快しない場合にはステロイドによる治療が必要です。

予防することは難しく、薬剤アレルギー歴の聴取が欠かせません!

尿路閉塞性

尿細管で薬剤が結晶化し腎機能が障害されます。水分の再吸収により尿が濃縮され、尿細管や集合管での薬剤濃度上昇が原因です。

腎排泄性で溶解性の低い抗ウイルス薬アシクロビルや抗てんかん薬トピラマート、抗リウマチ薬メトトレキサートなどが代表的な薬剤になります。

予防は適度に水分補給を心がけることですね。

薬剤性腎障害ガイドライン2016

AKIは発症機序から4つに分類されます。NSAIDsのおもな機序は間接毒性です。アレルギー性や中毒性で起こる場合もあります。

腎障害の頻度

NSAIDsと急性腎不全(acute renal injury : AKI)の関連はよく知られています。

どのくらいの頻度でAKIを引き起こすのか?

調べてみると、2007〜2009年にかけて腎臓専門医施設で行われた薬物性腎障害の実態調査によれば、薬剤性腎障害は、全入院患者のうち約1%に認められたそうです。

原因薬剤はNSAIDsがトップ、抗腫瘍薬、抗菌薬、造影剤がそれに続いています。

  1. NSAIDs…25.1%
  2. 抗腫瘍薬…18.0%
  3. 抗菌薬…17.5%
  4. 造影剤…5.7%

「CKDの早期発見・予防・治療標準化・進展阻止に関する調査研究」平成 21〜23 年度総合研究報告書.2012:24‒25.

では、NSAIDsの種類ごとに腎障害リスクは異なるのか?

2015年のシステマティックレビューでは、NSAIDs投与群と非投与群におけるAKI発症リスクを比較したところ、古典的なNSAIDsで有意にリスクが増加することが示されました。

  • インドメタシン…2.21倍(1.61-3.02)
  • イブプロフェン…1.99倍(1.55-2.56)
  • ナプロキセン…1.69倍(1.23-2.32)
  • ピロキシカム…2.19倍(1.27-3.78)
  • スリンダク…1.58倍(1.16-2.16)

また、COX-2選択性の高い薬剤は、統計学的に有意差は示さなかったものの、AKIのリスクを上昇させる傾向が認められました。

  • ジクロフェナク…1.77倍(0.92-3.44)
  • メロキシカム…2.00倍(0.66-6.01)
  • セレコキシブ…1.25倍(0.79-1.97)
  • ロフェコキシブ…1.50倍(0.63-3.58

参考文献)Eur J Intern Med. 2015;26:285‒291

COX-2選択性の高いNSAIDsは腎障害のリスクを増加させない?という結果ですが、サンプルサイズが小さいことが指摘されており、今後の研究が待たれます。

腎障害を防ぐ方法

NSAIDsによる腎障害を防ぐためにはどうすればいいのか?3つの方法を紹介します。

  1. eGFRチェック、処方監査
  2. 脱水予防
  3. 早期発見とモニタリング

順番に見ていきましょう。

eGFRチェック、処方監査

まず一つ目。投与前の処方チェックが欠かせません。AKIのハイリスク例にはNSAIDsを避けるのが基本の対応だからです。

具体的にはeGFR30未満の方は禁忌になります。ガイドラインによれば、腎機能障害がある人へのNSAIDs投与の基準は以下のとおりです。

eGFR30未満は投与禁忌

eGFR59〜30の場合でも、高齢者や高血圧、糖尿病、心不全、利尿薬併用など腎虚血リスクが高い場合には漫然と投与しないこと

参考文献)薬剤性腎障害診療ガイドライン2016

NSAIDsを見たらまず、eGFRが30を超えているかチェック!!です。下回る場合は、中止や他剤への変更が可能かどうか検討する必要があります。

一方、上回る場合でも、油断は禁物!腎虚血リスクのある基礎疾患、利尿薬やACE阻害薬などの併用時にはAKIのリスクが高いからです。短期間の投与や頓服投与などを考慮する必要があります。

患者さんごとにAKIのリスク評価を行い、NSAIDs投与の可否を検討することが大切ですね。eGFRを用いた処方監査の方法は下記に詳しくまとめています。合わせてご覧いただけたら幸いです。

さて、NSAIDsは腎機能評価が必要だといっても、すべての剤型にいえるのか?基本的に、血流へ移行する下記の剤型はeGFRチェックが必要です。

  • 内服薬(ロキソニン、ボルタレン等)
  • 注射薬(フルルビプロフェン、ケトプロフェン等)
  • 坐薬(ジクロフェナク、インドメタシン等)

では、塗布剤や貼付剤、点眼剤はどうか?基本的には必要ありません。血中へ移行する量がわずかだからです。腎臓への影響も小さいと考えられます。添付文書においても禁忌ではありません。

一方で、注意したいのがロコアテープ。経皮吸収が良く、使用量によっては血中濃度が内服薬と同じくらいになるからです。eGFRのチェックが欠かせません。添付文書でも禁忌です。

(禁忌)重篤な腎障害のある患者[プロスタグランジン合成阻害作用による腎血流量の低下等により、腎障害を更に悪化させるおそれがある。]

ロコアテープ、添付文書

あと、最近発売されたジクトルテープも同様。経皮吸収率が良く経口剤に匹敵する血中濃度を示すからです。

透析患者さんはNSAIDsが禁忌なのか?

NSAIDsはeGFR30未満には禁忌です。透析患者さんはeGFRが10未満であるため基本的には使用できません。しかし、無尿の場合には投与するケースもありえます。既に腎機能が廃絶しており、これ以上悪化しないと考えられるからです。ただ、その場合でも、短期間または頓服投与が基本になります。

脱水予防

NSAIDs投与中は脱水予防が欠かせません。もともと、腎臓は脱水や血圧低下などの虚血性変化にとても弱く、血管内脱水で容易に糸球体ろ過量(GFR)の低下が起こるからです。

しかし、通常は問題ありません。腎臓は恒常性を維持する機構を備えているからです。循環血漿量が減少すると、PGの産生により、糸球体の輸入細動脈を広げて糸球体内圧を上げてGFRを保つように働いてくれます。

しかし、NSAIDs投与中は注意しなければなりません。恒常性を維持する反応が妨げられるからです。投与中は脱水に伴う腎血流量の低下が代償されずに、そのままGFR低下に直結する危険性が高まります。

腎障害の予防には、適度な水分補給が欠かせません。脱水予防がより重要なケースは大きく3つあります。

  1. 高齢者やCKD患者
  2. 利尿薬やACE阻害薬、ARBなどを併用
  3. 投与中の下痢や発熱

高齢者やCKD患者

脱水により容易に腎機能が低下します。高齢者やCKD患者では、もうすでに糸球体内圧の低下を補うべく、PG産生による代償機構が働いた状態だからです。NSAIDsの投与は、代償反応を破綻させて容易にGFRの低下を起こします。

だから、より脱水予防が重要です。ただし、心臓や腎臓への負担が心配されるケースでは、過剰摂取にも配慮が必要になります。説明の仕方が難しいですね^_^;

利尿薬やACE阻害薬、ARBなどを併用

GFRを低下させる薬剤との併用に気をつけなければなりません。以下の機序により、腎虚血状態を招きNSAIDs投与によるAKIのリスクをさらに増加させるからです。

AKIを起こすメカニズム
  • 利尿薬…循環血漿量の低下により血管内脱水を起こしやすい
  • ACE阻害薬とARB…輸出細動脈を拡張し糸球体内圧を下げる

NSAIDsとGFRを低下させる薬剤との併用には気をつけたいものですね。

投与中の下痢や発熱

NSAIDs投与中の下痢や発熱症状は脱水を起こす可能性があります。これは意外と盲点かも知れません。

前もって、下痢や発熱時の水分摂取の必要性を説明しておく必要があります。あれもこれも説明することがあって大変ですね。

副作用の早期発見とモニタリング

腎機能低下をいち早くキャッチすることが求められます。AKIは発症後、速やかに薬剤を中止すれば、比較的早い回復が見込まれているからです。一般的には2〜7日、症状が重篤であっても数日から数週間で回復するといわれています。

早期発見のためには、AKIの前駆症状と予防法について患者さんにしっかりと理解してもらうのが大事です。服薬指導時の説明内容を考えてみました。

薬剤師

痛み止めは腎臓に負担がかかることをご存知ですか?尿量が少なくなったり、手足のむくみや体のだるさなどを認めた場合には副作用の可能性があります。速やかに相談してくださいね。それから副作用予防のために適度な水分摂取を心がけましょう。

それから、検査値のチェックも早期発見に欠かせません。自覚症状の聞き取りに加えて下記項目について定期的なモニタリングが必要です。

  • eGFR
  • クレアチニン(Cre)
  • 尿素窒素(BUN)
  • カリウム(K)値……など

NSAIDs服用中は、AKI発症の兆候に目を光らせておくことが大切だと思います。

薬剤性腎障害の評価を簡便に行う方法

実は明確な診断基準は確立していません。AKIやCKDなどの診断基準をもとに行うのが一般的です。

KDIGO 診療ガイドラインによる AKI 診断基準

・48時間以内に血清クレアチニン値が 0.3mg/dL 以上に上昇
・血清クレアチニンの基礎値から 1.5倍 上昇(7日以内)
・尿量 0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続
→の中で1つを満たせば急性腎障害(AKI)と診断

参考文献)AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016

ほかにも、より簡便な方法があります

「薬剤投与後、4週間以内に血清クレアチニン値(Cre)が1.5倍以上に上昇」

これを基準に判断するというもので、原因薬の投与前と投与後のCre値に注目して、1.5倍を超えているかをチェックする方法です。

わかりやすいので、まずはこの指標を用いてスクリーニングを始めてはどうでしょうか?

NSAIDsの必要性を評価することも大事!

疼痛コントロールの確認も忘れてはいけません。痛みがないのにNSAIDsを飲んでいる人、ときどき見かけるからです。

不必要なNSAIDsの投与は、腎障害を含め副作用のリスクを増加させるだけですよね。

服薬説明時に、“そもそもNSAIDsが必要なのか”という視点を持つことが大切だと思います。

NSAIDsの代替薬

eGFR30未満またはAKIリスクから、NSAIDsが使いにくい場合の代替薬はどうすればいいのでしょうか?おもな選択肢は以下の3つが考えられます。

  1. COX-2阻害薬
  2. アセトアミノフェン
  3. トラマドール、プレガバリン

順番に見ていきますね。

COX-2阻害薬

COX-2阻害薬はCKD患者に安全に使用できるか?結論をいうと、CKD患者への投与は推奨されていません。

胃粘膜組織と違って腎臓ではCOX-2が常時発現しており、安全性に定評のあるCOX-2阻害薬であっても腎血流量を減少させるリスクがあるからです。非選択的NSAIDsとAKIのリスクは変わらないという理解ですね。

COX-2阻害薬もCKD患者さんには投与を避けるのが基本の対応です。ガイドラインでもその旨が記載されています。

・COX-2選択阻害薬とCOX-2非選択薬は同等に急性腎障害を発症させるため、COX-2選択性に限らず、NSAIDsの使用の際には虚血性腎障害の発症に注意する必要がある
・COX-2選択阻害薬とCOX-2非選択薬で長期的な腎機能低下を同等に発症させる

参考文献)薬剤性腎障害診療ガイドライン2016

COX-2阻害薬は非選択的NSAIDsに比べて安全性が高いというイメージが強く、腎障害患者にも安全に使用できると誤解されている人も多くいます。正しい情報を発信して、安全管理に努めないといけないですね。

参考記事

アセトアミノフェン

アセトアミノフェンはCKD患者さんに比較的、安全に使用できます。

添付文書では重篤な腎機能障害のある患者には禁忌ですが、アセトアミノフェンは末梢でのCOX阻害作用がなく、NSAIDsのように腎血流量を低下させることはないからです。

ガイドラインでも、CKD患者への疼痛管理はアセトアミノフェンの投与が提案されています。ただし長期使用の安全性ははっきりとしていません。

・疼痛のあるCKD患者への短期投与においては,特に腎血流やGFRの減少している高齢者を中心にアセトアミノフェンはNSAIDsより安全な可能性があり、その使用を提案する。ただし、アセトアミノフェンについても長期投与時の安全性は不確定である。

参考文献)エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018

アセトアミノフェンは代替薬として優れています。NSAIDsと同様に解熱、鎮痛に対する適応があり、肝代謝なのでCKD患者でも投与量の減量はないからです。NSAIDsに代わって選択されるケースは多いですよね。

トラマドール、プレガバリン

トラマドール、プレガバリンはCKD患者に安全に使用できるか?適応と忍容性が許せば使えます。NSAIDsのように腎血流量を低下させる作用がないからです。適応によりますが、代替薬となります。

しかし、腎機能に応じた投与設計が欠かせません。腎臓から排泄される薬剤のだからです。

例えば、トラマドールはeGFRが60未満の場合には、通常量の50%が投与量の目安になります。腎機能障害(軽度を含む)があると半減期、AUCがそれぞれ最大で1.5倍、2倍へ上昇することが報告されているからです。(尿中未変化体排泄率は約30%)

一方でプレガバリンも尿中未変化体排泄率が90%と高く、腎機能に応じた投与量の調節が必須です。添付文書に腎機能別投与量が記載されているので参考にしてくださいね。

それから両薬剤ともに以下のような副作用への配慮も必要です。

  • トラマドール…吐き気や便秘、眠気などオピオイドによる副作用
  • プレガバリン…ふらつきや眠気、高齢者の場合には転倒のリスク

トラマドール、プレガバリンは代替薬となるものの、腎機能に合わせた投与量の調節や適応症、副作用のリスクも考慮する必要があります。

まとめ

今回は「NSAIDsによる腎障害」をテーマに、予防方法や代替薬など適正使用のポイントを解説しました。

本記事のポイント

NSAIDsによる腎障害のリスク

  • ①中毒性②間接毒性③アレルギー性④尿路閉塞性の機序あり
  • NSAIDsは腎臓のCOX-2を阻害、腎血流量の低下を招く(主な機序は②)
  • 非選択的NSAIDs、COX-2阻害薬ともに腎障害のリスクあり

腎障害を防ぐための方法

  • eGFR30未満は禁忌、腎虚血リスクや併用薬もチェック!
  • 脱水予防、水分摂取の励行を勧める
  • 自覚症状と検査値のチェック、AKIの兆候を早期にキャッチ!

NSAIDsの代替薬

  • COX-2阻害薬はリスクを減らせない!
  • アセトアミノフェンは安全性が高くOK
  • トラマドール、プレガバリンは適応と忍容性が許せばOK

「胃(イ)粘膜障害」と「腎(ジン)障害」、NSAIDs投与中は両方のリスクを考えた関わりが大切ですね♪

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