痛み止めといえばNSAIDs。
中でも、慢性的な痛みによく使われているのは、COX-2(コックスツー)阻害薬。セレコキシブや選択性の高いエトドラク、メロキシカムなどですね。
メリットは、副作用が起こりにくいこと。
胃にやさしいし、腎臓にも負担が少ないとか……で、安全性の高さが売りですね。
しかし、です。
・本当に、そうなのか?
・そう言い切ってよいのか?
というのが今回のテーマ。
本記事では、COX-2阻害薬にまつわる3つのピットフォールを解説します。キーワードは胃、腎、心血管です。
さっそく、見ていきましょう。
COX-2阻害薬の胃粘膜障害リスク
COX-2阻害薬は胃の負担がかかりにくいのはよく知られた事実です。
胃粘膜障害はなぜ起こる?
痛み止めNSAIDsで胃炎や胃潰瘍が起こりやすいのは、胃粘膜において恒常的に発現してるCOX-1を阻害するからです。(※シクロオキシゲナーゼ:COX)
COX-1は、プロスタグランジンを産生して粘液の分泌や胃血流量の増加など、組織の機能を維持します。COX-1阻害作用が強い非選択的NSAIDsの投与は、胃の恒常性を破綻させ、胃炎や胃潰瘍などを引き起こすのです。
COX-2阻害薬は消化管出血のリスクを軽減
一方で、COX-2選択的阻害薬は胃にやさしいNSAIDsです。なぜなら、COX-1の作用が弱いからですね。
ガイドラインでも消化管障害のリスクを軽減するために、COX-2阻害薬の投与がバッチリ推奨されてます。
一次予防の場合には
・潰瘍予防のためにCOX-2選択的阻害薬の使用が推奨。
できるだけCOX-2阻害薬を選択するのがおススメです。一次予防ではPPIの併用はなしで、COX-2阻害薬の単独療法が基本になります。
一方、二次予防では?
・NSAIDs潰瘍再発予防のためにPPIまたはPGの併用が推奨。
NSAIDsの投与を継続する場合には潰瘍予防薬の併用が行われます。よく見かけるNSAIDsプラスPPI療法ですね。
プロスタグランジン製剤(PG)は下痢の頻度が高いので、忍容性の高いPPIを用いるのが一般的です。NSAIDsの種類はとくに指定がなくてPPIを併用すればOK。
しかし、よりリスクが高い出血性NSAIDs潰瘍の二次予防の場合はどうか?
・再発予防のためにCOX-2阻害薬とPPIまたはPGの併用が推奨されています。
ハイリスク例では潰瘍予防薬の併用だけでは足りず、NSAIDs自体をCOX-2阻害薬に変更して潰瘍リスクを極力下げるわけですね。
消化管障害リスクを軽減できるのが、COX-2阻害薬の売りです!
参考文献)消化性潰瘍診療ガイドライン2015
ピットフォール
じゃあ、消化管障害のリスクが高い人には、とりあえず、COX-2阻害薬を処方しておけば安心なのか?
というと、そうではなくて、COX-2阻害薬にも弱点があります。
・傷ついた粘膜が治癒するのを妨げてしまう。
COX-2は炎症時に誘導され、傷ついた粘膜を修復してくれます。不快な痛みや腫れを起こすのでいつも悪者扱いされがち……ですが、実は生体にとって大事な役割があるのです。
COX-2阻害薬は、組織にダメージを与えない。
だけど、ダメージの回復を遅らせてしまう!ここが弱点です。
となると、NSAIDs潰瘍というのは、以下2つの要因で起こっている理解になります。
- COX-1阻害による粘膜障害
- COX-2阻害による組織治癒の遅延
COX-2阻害薬といえども、ノーリスクではないし、低用量アスピリン(LDA)などNSAIDsとの併用で潰瘍リスクの増加が指摘されています。
COX-2阻害薬はLDAと併用すると潰瘍リスクが上がる?
2014年に報告された海外の大規模なメタ解析。
NSAIDsやLDAなどの単剤療法に比べて併用療法の方が上部消化管出血リスクが高いことが示されました。
結果は以下のとおりです。※内服薬なしを1とした場合の相対リスク(結果一部抜粋)
▽単独療法
・非選択的NSAIDs…4.27倍(4.11-4.44)
・COX-2阻害薬…2.90倍(2.67-3.15)
→COX-2阻害薬の方が低い
▽併用療法
・LDA+非選択的NSAIDs…6.77倍(6.09-7.53)
・LDA+COX-2阻害薬…7.49倍(6.22-9.02)
→LDAを併用すると、どちらもリスクが増加
参考文献 )Gastroenterology. 147:784-792.2014.
単独療法ではリスクが低いCOX-2阻害薬であっても、LDAと併用すると消化管出血のリスクが増加します。併用によってCOX-2阻害薬のメリットが失われるのです。
一般的な感覚では、消化管障害リスクが低いとされるCOX-2阻害薬にも、組織の治癒を妨げるというピットフォールがあります。
COX-2阻害薬の腎障害リスク
NSAIDsで腎障害が起こるのはなぜ?
NSAIDsで腎障害が起こるのはよく知られています。
プロスタグランジンの合成を阻害するNSAIDsは、糸球体の輸入細動脈を収縮し、糸球体内圧減少による糸球体ろ過量(GFR)の低下を招くからです。
・しかも、もともと腎機能が低下した高齢者やCKD患者ではその影響が強く、eGFR30未満の場合にはNSAIDsの投与は禁忌になってます。
参考文献)薬剤性腎障害診療ガイドライン2016
「腎機能が良くないしCOX-2阻害薬にしとこうかなぁー」
ときどき耳にする言葉ですよね?!
NSAIDsは腎臓に負担がかかるのはよく知られた事実。けれども「安全性が高いCOX-2阻害薬であれば大丈夫」と、考えてしまう傾向があるように思います。
ピットフォール
では、COX-2阻害薬は非選択的NSAIDsよりも腎臓に負担がかかりにくいのか?
答えはNOです。
腎障害のリスクはどちらも変わりません。
なぜなら、胃粘膜組織と違って腎臓では恒常的にCOX-2が発現しているからです。
ここを誤解されてる人、意外と多くて作者もCOX-2阻害薬の方が安全だと思ってました。でも、そうではなくてCOX-2阻害薬を選択しても、腎障害のリスクを軽減させることはできません。
「腎機能が良くないしCOX-2阻害薬にしとこうかなぁ?」
という誤解に遭遇したら「非選択的NSAIDsとCOX-2阻害薬、どちらも腎障害のリスクは変わらないので、アセトアミノフェンなどへの変更は可能でしょうか?」と、処方提案を進めて誤解を解く必要があります。
胃(イ)で安全だからといって、腎(ジン)でも同じことがいえるわけではありません。正しい知識を発信していきましょう。
COX-2阻害薬の心血管リスク
COX-2阻害薬は心血管イベントのリスクを増加させるという報告があります。
胃粘膜障害の副作用が少ない一方で、心血管イベントのリスクには注意が必要です。
心血管イベント増加により販売中止されたCOX-2阻害薬
一番有名なのは、ロフェコキシブ(国内未承認)
下記の試験で、心血管イベントリスク増加の報告を受けて、販売中止に追い込まれました。
・2000年、VIGOR試験の後解析
→ナプロキセンに比べて、心血管イベントが2.38倍に増加
(JAMA.2001;286:954-9.)
・その後のAPPROVe試験(大腸ポリープ再発予防)
→プラセボに比べて心血管イベントが1.92倍に増加
(N Engl J Med 2005;352:1092-102.)
・2005年、CABG後の疼痛コントロール試験
→パレコキシブ(プロドラッグ、注射)に続く、バルデコキシブ経口がプラセボに比べて、心血管イベントを約3.7倍に増加
(N Engl J Med 2005;352:1081-91.)
世界では心血管リスクを理由に、COX-2阻害薬が軒並み市場から姿を消すことになった過去があります。
国内で承認されてるCOX-2阻害薬セレコックス®︎は?
では、セレコキシブはどうなのか?
2005年のAPC試験(大腸ポリープ再発予防)
→プラセボに比べて、心血管系事象のリスクが400mg/日群、800mg/日群でそれぞれ、2.3倍、3.4倍に増加。(N Engl J Med 2005;352:1071-80.)
用量依存性にリスクが上昇することが判明、試験は中止になりました。
セレコキシブでもやはり、リスクが増加するーー!
しかし、その後のpreSAP試験(大腸ポリープ再発予防)
→プラセボに比べて、心血管リスクが400mg×1/日で有意差なしという結果に。(N Engl J Med 2006;355:885-95.)
セレコックスは心血管リスクに累積性が認められず、ロフェコキシブなどのように販売中止を免れました。
ちなみに、最近になって報告されたPRECISION試験。
これは、FDAが指示したセレコキシブの安全性を検証するための臨床試験です。
・対象者…心血管リスクがあって、慢性関節炎で疼痛管理が必要な患者
・一次エンドポイント(心血管死、非致死的心筋梗塞、脳卒中)
結果は以下のとおりでした。
・セレコキシブ群で2.3%(209mg/平均1日用量)
・ナプロキセン群で2.5%(852mg/平均1日用量)
・イブプロフェン群で2.7%(2045mg/平均1日用量)
(N Engl J Med 2016;375:2519-29.)
→同等であることが示されました。
セレコックスの心血管リスクは他のNSAIDsと比べて変わらない。しかし、添付文書の警告には以下の記載があり、引き続き注意が必要です。
外国において、シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害剤等の投与により、心筋梗塞、脳卒中等の重篤で場合によっては致命的な心血管系血栓塞栓性事象のリスクを増大させる可能性があり、これらのリスクは使用期間とともに増大する可能性があると報告されている
COX-2阻害薬がイベントリスクを増加させる理由
どうして、COX-2阻害薬は心血管イベントを増加させるのか?
有名なのはFitzGeraldの仮説。
いわゆる、血小板凝集を促進するTXA2(トロンボキサンA2)と抑制するPGI2(プロスタサイクリン)の不均衡説です。
順番に説明しますね。
まず、COX-2阻害薬は血小板では作用を示しません。
血小板ではCOX-1のみで、COX-2は発現していないからです。アスピリンのようにTXA2を抑制し抗血小板作用を示すことはない。
一方で、血管内皮では、COX-1よりもCOX-2が優位に発現しています。COX-2阻害薬は血小板凝集を抑制するPGI2の産生を低下し、血小板凝集を促進する。
つまり、PGI2に比べてTXA2の作用が相対的に強くなって心血管リスクを増加させるという仮説です。
ちょうど、低用量アスピリンとは逆の作用ともいえますね。
NSAIDs全般で心血管リスクが増加する?!
一般的にはCOX-1を強く阻害すると胃粘膜傷害、COX-2を強く阻害すると心血管イベントのリスクが増加すると考えられます。
つまり、COX-2選択性が高いNSAIDsは心血管イベントリスクが高いといえるのです。
ところが、COX-2阻害薬だけでなく、非選択性NSAIDsでも心血管イベントを増加させるとの報告もあります。
ADAPT試験。
約2400人の被験者を対象に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のアルツハイマー病予防効果を検証した試験です。
→ナプロキセンはプラセボに比べ、心血管イベントのリスクを1.57倍に増加することが明らかに。
(PLoS Clin Trials 2006;1:e33.)
この結果から、一概にCOX-2選択性だけをもって心血管イベントリスクを説明するのが難しいのが現状です。
FDAは「低用量アスピリンを除くCOX-2阻害薬を含む全てのNSAIDsは心血管リスクを増加させる危険性がある」として添付文書に警告を記載しています。
[心血管系リスク]
・NSAIDは生命にかかわる重篤な心血管系血栓事象、心筋梗塞、脳卒中のリスクを増大させる可能性がある。このリスクは使用期間とともに増大する可能性がある。心血管系疾患またはそのリスク因子を伴う患者ではリスクがさらに高い可能性がある。
・本剤は冠動脈バイパス術(CABG)の周術期疼痛治療に対して禁忌である。
COX-2を少しでも阻害するNSAIDsは心血管イベントを生じる可能性があるという見解です。
COX-2阻害薬(またはCOX-2に作用するNSAIDs)は、心血管リスクを念頭に、投与の可否を検討することが大切です。心血管イベントリスクのある人では投与を避けるか、投与する場合でも短期間の投与が望ましいと考えられます。
まとめ
最後にまとめておきますね。
ポイントは以下のとおりです。
- 胃粘膜障害のリスク
・COX-2阻害薬は胃炎や胃潰瘍を引き起こすリスクを低下させるのがメリット
・NSAIDs潰瘍は”COX-1阻害による粘膜障害”と”COX-2阻害による組織治癒遅延”の2つの要因で起こるという理解
・COX-2阻害薬はノーリスクではないし、特にLDA、非選択的NSAIDsとの併用ではリスクが増大する - 腎障害のリスク
・COX-2阻害薬は腎臓に負担がかかりにくいと思われがちですが、それは誤解
・COX-2は腎臓で恒常的に発現しているので、腎臓ではCOX-2阻害薬のメリットは発揮できない。 - 心血管リスク
・COX-2阻害薬は心血管イベントリスクの増加が報告されている
・機序は、FitzGeraldの仮説、血小板(COX-1のみ発現)では、TXA2を阻害しない一方で、血管内皮細胞(COX-2優位)においてPGI2を阻害し、相対的に血小板凝集を促すというもの。
・FDAはCOX-2阻害薬に限らず、アスピリンを除くCOX-2を阻害するNSAIDs全般でリスクが増えるとしている。
COX-2阻害薬は副作用のリスクを軽減するために開発された経緯もあって、一般的には「非選択的NSAIDsよりも安全性が高い」と思われています。しかし、使う場面や患者さんの状態によっては「COX-2選択的阻害薬を選んでおけば大丈夫」というわけではないことを覚えておきましょう。
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今回はCOX-2阻害薬をテーマに、COX-2阻害薬にまつわる3つのピットフォールを紹介しました。
「非選択的NSAIDsとCOX-2阻害薬どちらがよいか?」日常業務で立ち止まって考える機会、ときどきあります。そんな時に、目の前の患者さんにとって妥当な方を選択できるように知識を整理しておきたいですね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。