2020年11月27日、フォシーガに慢性心不全の適応が追加されました。
しかも、糖尿病の有無に関係なく使える!
もう糖尿病薬の枠組みを超えてしまったわけです。驚きですね。
さあ、フォシーガをどんどん使って心不全を治療しよう!
と、世の中が動きそうなムードを感じます。まあ、有効性が期待できるので、当然なんですけどね。
でも、ちょっと待ってください!日頃、心不全患者のケアを担当している薬剤師は思うわけです。
心不全だからといって誰でもフォシーガでいいの!?
今回は、そんな問題提起(過剰な心配かも?)から、適応追加のニュースを聞いて咄嗟に感じた3つの懸念事項について書きました。
フォシーガの慢性心不全に対する有効性
心配な点を述べる前に、まず慢性心不全に対する有効性を確認しましょう。
→左室駆出率が低下した慢性心不全患者(HFrEF)において、ダパグリフロジンはプラセボに比べて有意な差をもって心不全の悪化または心血管死の発現率を低下させました(ハザード比0.74;95%CI 0.65~0.85;P<0.001)
①心不全の悪化と②心血管死を別々に見ても有効性が認められています
※HR0.70;95%CI0.59~0.83
※HR0.82;95%CI 0.69~0.98
2型糖尿病の有無に関わらず主要評価項目のリスク減少が見られました(サブグループ解析)
標準治療にフォシーガを上乗せすると、①心不全の悪化(静脈内治療を要する入院と緊急受診)と②心血管死を抑制できます。しかも、2型糖尿病の既往歴があるかないかに関わらずです。
SGLT2阻害薬が出た頃は、まさか心不全の薬になるとは考えもしなかったわけで、ただただ驚くしかないですね(^-^;
今後、フォシーガに続き、ジャディアンス、カナグルも糖尿病以外の適応拡大に向け臨床試験が進行中です。SGLT-2阻害薬の比較は下記に詳しくまとめているので、合わせてご覧下さいね。
フォシーガ投与時に懸念される3つのこと
ここからが本題です。慢性心不全にフォシーガを使うにあたり、気がかりな点が3つあります。
- 脱水リスクの増大
- 栄養状態のさらなる悪化
- コストアップ
順番に見ていきましょう。
1)脱水リスクの増大
「フォシーガが慢性心不全に使える」と聞いて、真っ先に心配になりました。
だって、
「脱水が起こりやすい人」に「脱水を起こしやすい薬」を投与するわけですから
フォシーガが脱水を引き起こす可能性があります
SGLT-2阻害薬は近位尿細管における糖の再吸収を阻害して、尿糖とともに水分を排泄させるからです。血糖降下作用に加えて利尿効果もありまあう。
本剤の利尿作用により多尿・頻尿がみられることがある。また、体液量が減少することがあるので、適度な水分補給を行うよう指導し、観察を十分に行うこと。特に体液量減少を起こしやすい患者においては、脱水や糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、脳梗塞を含む血栓・塞栓症等の発現に注意すること
フォシーガ添付文書
添付文書にあるように、フォシーガは「脱水を起こしやすい薬」として、脳梗塞や深部静脈血栓症、肺塞栓症などの発現に注意が欠かせません。
一方で、心不全の患者さんは脱水症を起こしやすい
理由は利尿剤を飲んでいる人が多いからですね。
もともと心不全の病態は水分貯留です。浮腫や胸水、それによる息切れ、呼吸苦などが主な症状になります。なので、通常脱水は起こりにくい状態です。しかし、利尿薬を併用することが多いので、脱水状態に注意が欠かせません。
しかも、複数の利尿薬を組み合わせて飲んでる人がほとんどです。ループ利尿薬、チアジド系、抗アルドステロン薬など。特に、サムスカは要注意ですね。利尿効果が飛び抜けて強いですから。SGLT-2阻害薬と利尿剤の併用は、下記のように注意喚起がされています。
脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する。
SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation
さらに、重症の心不全では水分制限により脱水リスクが高まります。水分のIN/OUTバランスがOUTに偏りやすく、容易に脱水症を招くからです。
心不全は利尿剤の併用等により「脱水を起こしやすい病態」だといえます。
このように考えると、脱水のリスクにおいて、フォシーガと慢性心不全は相性が良いとはいえません。ココが一つ目の懸念事項です。
SGLT-2阻害薬は利尿薬という側面があります。脱水予防の重要性を意識しないと本当に危ないですよ。
2)栄養状態のさらなる悪化
これは心不全の患者さんすべてに当てはまるわけではありません。しかし、栄養障害のある人では、さらなる悪化が懸念されます。
なぜなら、
「低栄養で痩せ細った人」に「体重減少作用がある薬」を投与するわけなので
フォシーガは体重減少作用があります
糖質の排泄により不足したエネルギーを代償するために、貯蔵の脂肪や筋タンパク質が分解されるからです。インスリン非依存的に働くSGLT-2阻害薬の利点ですね。
どのくらいのグルコースを排泄するのか?
というと、1日あたり50〜60gです。約200〜240kcal(お茶碗一杯分のご飯に相当)のエネルギーを失う計算です。
細身で痩せた人ではカロリー不足による栄養障害を招く可能性があります。
本剤投与による体重減少が報告されているため、過度の体重減少に注意すること。
フォシーガ添付文書より
フォシーガは体重減少作用があり、栄養状態を低下させる可能性から、とくに低体重の人には慎重に投与しなければなりません。SGLT2阻害薬はBMIが高い人向きですね。
一方で、心不全は低栄養と密接に関係があります
なぜなら、病態から栄養障害が起こりやすいからです。具体的には大きく3つの機序が考えられます。
- 心拍出量の低下による腸管の血流不足(消化吸収↓)
- 交感神経亢進による代償作用(エネルギー消費↑)
- CKD合併によるタンパク質制限(異化亢進)
心不全の人はサルコペニアのリスクが高いのはご存知ですか?
サルコペニアとは加齢により筋肉量が減少し身体機能が低下している状態のことです。転倒による骨折や寝たきりのリスク因子として最近の話題ですね。
心不全の患者さんは、先述のように栄養障害が起こりやすいことに加え、労作時の息切れ等から身体活動量も低下し、栄養状態悪化のリスクと隣り合わせだといえます。
SGLT-2阻害薬は栄養状態の悪い人には慎重投与
75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。
SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation
このように考えると、フォシーガは、栄養状態を低下させる可能性がある点で、低栄養やサルコペニアのリスクを(潜在的に)抱えた慢性心不全患者さんには不向きだと思います。ココが2つ目の懸念事項です。
栄養評価なしに投与するのは危ないですよ。
3)コストアップ
これはフォシーガに慢性心不全の適応が追加になるニュースの前から気になっていました。最近になって慢性心不全の新薬が続々と登場し、治療費が増加傾向にあるからです。
そんな状況の中で、さらに高薬価の薬が治療のラインナップに加わります。もう慢性心不全の治療はお金持ちじゃないと受けられない時代になりそう……。
じゃあ、どのくらいのコストがかかるのか?
慢性心不全の治療薬は処方目的から大きく2種類に分かれます
最近登場したHCNチャネル遮断薬(コララン)、ARNI(エンレスト)、sGC刺激薬(ベリキューボ)はご存知ですか?
\別記事に詳しくまとめているのでご確認くださいね/
この中で、薬価が高いものをピックアップしてみましょう
予想できますか?ベスト5をランキングすると下記です。
商品名 | 1日投与量 | 1日あたりの薬価 |
---|---|---|
サムスカOD錠 | 15mg分1 | 1295.5円 (後発品626.7円) |
フォシーガ錠 | 10mg分1 | 250.7円 |
コララン錠 | 5〜15mg分2 | 165.8〜403.8円 |
ベリキューボ錠 | 2.5〜10mg分1 | 130.5〜398.7円 |
エンレスト錠 | 100〜400mg分2 | 130.4〜402.6円 |
サムスカがダントツなのは周知のとおりですよね。それにフォシーガ、コララン、ベリキューボ、エンレストが続く形です。もうサムスカがある時点で、ハイコストなのに、さらに上乗せするそこそこ高い薬剤がズラリ並んでいます。
ちなみに、慢性心不全の患者さんにフォシーガを追加すると、
30日で7,521円、1年で91,505円コストアップになります
自己負担は割合に応じて決まるわけですが、そこそこの負担増ではないでしょうか。加えて、医療費の問題や施設入所が困難(老健など薬剤費が包括払いの場合)となるケースも出てきます。
慢性心不全の薬は、多種類の組み合わせ、長期間の投与(忍容性がある限り)、新薬が多い点でもともと薬代がかさみます。その上に、さらにフォシーガが上乗せされると、コストアップが大変な状況に…。
減薬の視点を持たないと、コスト増に歯止めがかかりません…。
まとめ
今回はフォシーガに慢性心不全、適応追加のニュースを受けて感じた3つの懸念事項を述べました。
誤解があると良くないので断っておきますが、何もフォシーガの処方にSTOPをかけたいわけじゃありません。
むしろ、積極的に使うべき薬だと思います。
ただし、「必要性と許容性を十分に吟味して」という条件付きです
当たり前ですけどね……(^-^;
心不全の悪化と心血管死を抑制できるのは大きなメリット!その反面、問題点もあるのです。
脱水のリスクや栄養状態、コストなどを考慮すると、見送ることが望ましいケースもそれなりにあると思います。投与の必要性に加え、許容性をしっかりと勘案して投与すべき薬剤だと記事を書きながら強く感じました♪