今回のテーマはGLP-1受容体作動薬!
国内で使用できる成分は全部で6種類です。
本邦初はリラグルチド、その後にエキセナチドが続き、最近ではセマグルチドが承認されました。
6種類の成分は何が違うの?
GLP-1作動薬はどのような場面で用いるのか?
そんな疑問に答えるべく
GLP-1受容体作動薬の特徴について、押さえておきたいポイントをまとめました。
さっそく見ていきましょう。
GLP-1受容体作動薬:6成分の比較
GLP-1受容体作動薬の注射製剤は6種類です。基本的事項の比較は以下のとおりです。
一般名 | リラグルチド | エキセナチド | リキセナチド | エキセナチド | デュラグルチド | セマグルチド |
---|---|---|---|---|---|---|
商品名 | ビクトーザ | バイエッタ | リスキミア | ビデュリオン | トルリシティ | オゼンピック |
販売日 | 2010/6 | 2010/12 販売中止 (2024年9月) | 2013/9 | 2015/5 | 2015/9 | 2020/6 |
規格 | 18mg | 5μg,10μgペン | 300μg | 2mgペン | 0.75mg 1.5mg | 2mg |
適応症 | 2型糖尿病 | 2型糖尿病 ※SU,BG,TZD要先行投与 | 2型糖尿病 | 2型糖尿病 ※SU,BG,TZD要先行投与 | 2型糖尿病 | 2型糖尿病 |
用法 | daily 朝または夕 | daily 朝夕食前 | daily 朝食前 | weekly いつでも可 | weekly いつでも可 | weekly いつでも可 |
用量 | 初回…0.3mg 維持…0.9mg …最大1.8mg | 維持…5μg×2 最大…10μg×2 | 初回…10μg 維持…15→20μg 最大…20μg | 2mg | 0.75mg 1.5mg(増量可) | 初回…0.25mg 維持…0.5mg 最大…1.0mg |
糖尿病薬 併用 | ×DPP-4i | ×DPP-4i ×グリニド ×α-GI ×インスリン | ×DPP-4i | ×DPP-4i ×グリニド ×α-GI ×インスリン | ×DPP-4i ×インスリン※ (※◯に変更、2021年1月) | ×DPP-4i |
腎機能障害 時の対応 | 正常者と同じ | 重度…禁忌 軽〜中等度…慎重投与 | 重度…慎重投与 | 重度…禁忌 軽〜中等度…慎重投与 | 正常者と同じ | 正常者と同じ |
半減期(h) | 10-11 | 1.27 | 2.01 | 24以上 | 108 | 145 |
経口GLP-1製剤が登場
2021年2月に経口薬のリベルサス(セマグルチド)が発売されました。詳しくは下記にまとめていますので合わせてご覧いただけたら幸いです。
トルリシティとオゼンピックの比較
下記にまとめています。ぜひお読みくださいませ。
GIP/GLP-1受容体作動薬マンジャロが令和5年4月18日に発売されています。
GLP-1受容体作動薬の由来成分
GLP-1作動薬は成分の由来から大きく2つに分類できます
トカゲ由来のエキセンディン-4
まさか、トカゲの成分から作られたとは!驚きですね。
押さえておきたいポイントは3つです
①ヒトDPP-4に抵抗性を示す
エキセンディン-4または類似成分は、ヒトのDPP-4に抵抗性を示します。トカゲ由来の強みですね(^-^)。
本剤の有効成分であるエキセナチドは化学合成されたペプチドで、トカゲ(Heloderma Suspectum)由来のエキセンディン-4(Exendin-4)と同じ39個のアミノ酸配列を有し、そのN末端配列がヒトGLP-1と異なることから、内因性ペプチド分解酵素であるジペプチジルペプチダーゼ-4による分解に抵抗性を示し、作用が持続する。
ビデュリオン皮下注 電子添文
②抗エキセナチド抗体が出現する可能性
効果減弱の可能性が示唆されています。エキセナチドマイクロスフィア(ビデュリオン)は、高抗体価の患者さんで有効性への影響ははっきりしないものの、注射部位反応が高い傾向が認められました。
タンパク製剤及びペプチド製剤では免疫原性を示すことが知られており、本剤投与により抗体が発現する可能性がある。高抗体価の患者で有効性が減弱する可能性が示唆されている。なお、ほとんどの患者で、抗体価の程度は時間がたつにつれて低下する。海外の臨床試験では、試験終了時点で低抗体価の患者は約45%で認められたが、血糖コントロールは抗体陰性の患者と同様であった。一方、高抗体価の患者は約5%で認められたが、各々の患者の血糖コントロールにはばらつきがあり有効性を予測できるものではなかった。また、注射部位反応は抗体陰性の患者において発現率が低く、高抗体価の患者において発現率が高い傾向が認められた。
ビデュリオン皮下注 電子添文
リキセナチド(リキスミア)も同様の記載があります
潜在的な免疫原性を有する他のタンパク質もしくはペプチドを含む製剤と同様に、本剤の投与による抗リキシセナチド抗体の発現が国内外で実施された臨床試験において認められている。日本人での抗リキシセナチド抗体陽性患者と陰性患者の間の全般的な安全性プロファイルに差はなく、注射部位反応の発生頻度については抗リキシセナチド抗体陽性患者で7.5%(49/650例)であったのに対し、抗体陰性患者では2.5%(6/242例)と差がみられた。
③腎臓で分解される
エキセナチドは糸球体でろ過された後に分解されます。これはデメリットかも知れません(後述します)。
非臨床試験から、本剤は主として腎臓で分解されることにより消失することが示された。ラットに静脈内持続投与した試験において、尿中に未変化体はほとんど存在しなかったことから、本剤は腎臓で糸球体濾過を受けた後に分解されるものと考えられる
バイエッタ皮下注 電子添文
ヒト由来のGLP-1
同様にポイントは3つです
①DPP-4で容易に分解!
ヒト由来のGLP-1アナログはジペプチジルペプチダーゼ-4で簡単に分解されます。半減期は1〜2分くらいです。そのため、以下のように半減期を伸ばす製剤設計がされています。
- リラグルチド…脂肪酸を付与
- デュラグルチド…IgG4Fc領域を付与、アミノ酸配列変更等
- セマグルチド…脂肪酸を付与、アミノ酸配列変更等
②ヒトGLP-1アナログは抗体ができにくい
のがメリットですね。抗体の出現について、添付文書をみるとトルリシティに記載がありましたが、出現頻度はそれほど高くありませんでした。有効性や安全性に対する懸念も問題ないと考えられます。
国内第III相臨床試験における抗デュラグルチド抗体の発現割合は1.4%(13/910例)であった
トルリシティ皮下注 電子添文
③腎臓で分解されない
ヒト由来のGLP-1アナログは生体のDPP-4や中性エンドペプチダーゼによって分解されます。
本剤は、GLP-1に比べて緩やかにDPP-4及び中性エンドペプチダーゼにより代謝されることがin vitro試験において示されている
ビクトーザ皮下注 電子添文
GLP-1受容体作動薬の作用
GLP-1受容体作動薬の作用は大きく4つあります
- インスリン分泌促進
- グルカゴン分泌抑制
- 胃内容物遅延
- 食欲抑制
GLP-1製剤は血糖降下作用を示します。すい臓のβ細胞に働き、グルコース濃度依存的に①インスリン分泌を促進するのが機序です。②グルカゴンの分泌を抑制することも血糖降下に寄与します。
加えて、③胃内容物の排出を遅らせたり、さらに④食欲を抑える効果も。それにより体重減少効果も期待できます。
GLP-1受容体作動薬の適応
GLP-1作動薬は2型糖尿病が適応です
インスリン分泌能が残された患者さんが対象です。1型糖尿病はインスリン治療が適応ですね。
GLP-1作動薬はインスリンの代替ではありません
ここは注意が必要です。同じ注射製剤なので、インスリンと誤解されるケースが少なくありません。誤って切り替えた場合には、高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスを起こす危険性があります。
本剤はインスリンの代替薬ではない。本剤の投与に際しては、患者のインスリン依存状態を確認し、投与の可否を判断すること。インスリン依存状態の患者で、インスリンから本剤に切り替え、急激な高血糖及び糖尿病性ケトアシドーシスが発現した症例が報告されている。
ビクトーザ皮下注 電子添文
糖尿病薬の先行投与が必要な製剤が2つあります
エキセナチド製剤のバイエッタとビデュリオンです
SU(スルホニルウレア)剤、BG(ビグアナイド)剤、TZD(チアゾリジン)系などで効果が不十分な時に使用します。単独療法では有効性と安全性が確認されていないからです。
本剤は、食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤単独療法、スルホニルウレア剤とビグアナイド系薬剤の併用療法、又はスルホニルウレア剤とチアゾリジン系薬剤の併用療法を行っても十分な効果が得られない場合に限り適用を考慮すること。
バイエッタ、ビデュリオン電子添文
その他のGLP-1製剤は先行投与について特に縛りがありません。
GLP-1受容体作動薬の注意すべき副作用
GLP-1受容体作動薬の副作用は大きく3つです
- 低血糖
- 腸閉塞
- 膵炎
GLP-1製剤自体は低血糖のリスクは高くありません。グルコース濃度に依存した血糖降下作用を示すからです。しかし、他剤との併用時にはリスクが上がります。特にSU剤やインスリンとの併用時には低血糖症状に注意が必要です。
また、腸閉塞や膵炎を起こす可能性があります。GLP-1製剤投与中は、下記前駆症状のモニタリングが欠かせません。
- 腸閉塞…高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等
- 膵炎…嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛等
どちらも投与初期に現れやすい胃部不快感症状と区別がつきにくいので要注意です。見逃さないように経過観察を徹底することが大切だと思います。
GLP-1受容体作動薬:糖尿病薬との併用可否
GLP-1製剤は他の糖尿病薬と併用できない組み合わせがあります
保険で査定されたという話もよく聞きます。最近になって併用薬の制限が緩和されたとはいえ、処方の際には気を配ることが大切ですね。
3グループに分けて整理するわかりやすいです。
- DPP-4阻害薬以外ならOK
- DPP-4阻害薬とインスリン以外ならOK
- 制限が多くて要注意!
DPP-4阻害薬以外ならOK
以下の3種類です
- ビクトーザ
- リキスミア
- オゼンピック
併用薬の縛りがほとんどなく、インスリンやスルホニルウレア(SU)薬、ビグアナイド(BG)薬などと普通に併用できます。
DPP-4阻害薬との併用は不可
作用機序が似ているので、普通は一緒に使いません。
逆にいうとDPP-4以外ならOKです。とにかくわかりやすいのは、この3種類ですね。
DPP-4阻害薬とインスリン以外ならOK
・トルリシティです
DPP-4阻害薬に加えて、インスリンも併用できません。
トルリシティを見かけたときには、インスリンとの併用がないかチェックが必要です。忘れないように気をつけましょう。
制限が多くて要注意!
下記2種類です
- バイエッタ
- ビデュリオン
同じエキセナチド製剤です。
インスリンとDPP-4阻害薬に加えて、グリニド薬とα-グルコシダーゼ阻害薬の併用もできません。添付文書の確認が必須の薬剤ですね。
このように分けて整理しておくと、処方監査の時に役立つのでおすすめです。
GLP-1受容体作動薬:腎機能障害患者への対応について
GLP-1製剤は腎機能患者への対応が異なります
大きく3つ分けて覚えておきましょう。
- エキセナチド製剤(バイエッタ、ビデュリオン)
- リキシセナチド
- リラグルチド、デュラグルチド、セマグルチド
エキセナチド製剤は、重度腎機能障害患者は禁忌に当たります。血中濃度上昇に伴い消化器症状が出やすくなるからです。軽度〜中等度では慎重投与になります。
先述のように、同成分は腎臓で分解されるため、以下のようにクリアランスが低下します。
- 軽度(Ccr50-80)…約13%↓
- 中等度(Ccr30-50)…約36%↓
- 重度(Ccr30以下) …約84%↓
※バイエッタ、電子添文より
リキシセナチドは、Ccr30未満の場合に慎重投与という扱い。AUCが1.5倍、Cmaxが1.3倍にそれぞれ増加し、副作用のリスクが高まるからです。
ヒトGLP-1製剤であるリラグルチド、デュラグルチド、セマグルチドは腎機能障害患者に対する制限はありません。正常者と対応は同じです。
GLP-1受容体作動薬:Long actingとShort acting
GLP-1製剤は半減期、作用時間の違いから2つに分類できます
半減期の違いにより血糖降下作用の特性が変わります
- Short actingは食後高血糖をより下げる
- Long actingは空腹時血糖をより下げる
Short actingの特徴
空腹時よりも食後の血糖値を改善する効果に優れる
食前に投与してから、すみやかに効果が現れるからです。Short actingのGLP-1製剤はいずれも食前投与の設定ですね。
一方で、胃内容物の排出遅延作用が強いのが特徴です。そのため、投与後に悪心や嘔吐、食欲不振などの消化器症状を訴えるケースが少なくありません。
逆にいうと、食欲減退作用から体重減少効果が期待できるというメリットがあります。
- 食後高血糖 > 空腹時血糖
- 消化器症状が出やすい
- 体重減少効果が強め
Long actingの特徴
食後よりも空腹時の血糖値を改善する効果に優れます
安定した血中濃度が長期にわたって続くからです。Long actingの製剤は食前に投与する必要はありません。
胃内容物の排出作用や食欲抑制効果もマイルドです。消化器症状の副作用が出にくいのが特徴ですね。
また、半減期が長いGLP-1製剤は投与回数が少なくて済みます
- リラグルチド(ビクトーザ)…daily
- エキセナチド(ビデュリオン)…weekly
- デュラグルチド(トルリシティ)…weekly
- セマグルチド(オゼンピック)…weekly
Long acting製剤は1週間に1回投与です(例外はビクトーザ)。アドヒアランスや利便性の点で有用ですね。
「GLP-1製剤を導入したいけど、自分で毎日打つのはちょっと」という人でも週1回だけなら、なんとかなるケースもあります。家族や医療スタッフの協力があれば、さらに導入のハードルは下がりますよね。
Long actingは煩雑な手技をともなう注射製剤のデメリットを和らげてくれます。
- 食後高血糖 < 空腹時血糖
- 消化器症状が出にくい
- 体重減少作用が弱め
GLP-1受容体作動薬:臨床の位置付け
GLP-1受容体作動薬はどのような場面・順位で使用するのか?
糖尿病標準診療マニュアル2024によると
インスリンの適応がなければ以下のステップで薬剤を選択します。
ここは揺るぎません(2023年版と変わらず)。エビデンスが豊富で、単独で低血糖を起こしにくく、コストも安いのは魅力です。ただし、腎機能が悪いと使えません。
2021年版はDPP-4阻害薬のみでしたが、2022年版からSGLT2阻害薬がステップ2へ格上げされています。心血管疾患やCKD等を合併している場合には、優先的に選択するかたちです。
2023年版も同様でした。ステップ2の薬剤またはαグルコシダーゼ阻害薬、経口GLP-1受容体作動薬から1剤を選択します。2024年版では、SU薬(少量)・グリニド系に代わって、リベルサスへ変更となりました。
リベルサスとDPP-4阻害薬との併用は推奨されていません。ステップ3のオプションとして、SU薬・グリニド系が記載されています。
ステップ2と3の中から、薬剤を追加します。
持効型インスリン製剤との配合剤も選択肢になります。
参考:糖尿病標準診療マニュアル2023
まとめ
今回はGLP-1受容体作動薬の特徴についてまとめました。
記事を書きながら思ったのは、
同じように見えるGLP-1アナログ製剤にも違いがあること
まず、成分の由来。まさかトカゲの成分から作られた製剤があるのは驚きました!
ヒトGLP-1アナログは生体で分解を受けやすく、製剤ごとに工夫がされているのは興味深かったです。
Short actingとLong actingで特性が変わる点
こちらも薬剤師なら押さえておきたいポイントだと思います。
さらに、DM薬の併用可否や腎機能障害患者への対応の違い。これは処方監査で役立つ知識です。きちんと整理しておくことが大切ですね。