国内で6成分目のGLP-1受容体作動薬が登場しました。
その名はオゼンピック、一般名はセマグルチドです。
実は2018年3月に2mg製剤が承認されていた!
しかし、維持量が0.5mgであり、1本で28日処方となるため、新薬の処方制限である14日ルールに引っかかり薬価収載に至らず…。
今回0.25mg、0.5mg、1.0mgの単回使用できる新剤型を提げて薬価収載されました。
本記事ではオゼンピックの特徴について、同じく週一回型のトルリシティと比較しながら解説します。
オゼンピックの特徴:トルリシティと比較

まずはざっくりと基本情報の比較から。
商品名 | オゼンピック | トルリシティ |
一般名 | セマグルチド | デュラグルチド |
規格 | 0.25mg・0.5mg・1.0mg | 0.75mg |
適応症 | 2型糖尿病 | 2型糖尿病 |
用法用量 | 初回…0.25mg/週 維持…0.5mg/週 最大…1.0mg/週 |
0.75mg/週 |
禁忌 | ・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 ・糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の患者 ・重症感染症、手術等の緊急の場合 |
|
半減期 | 145h(0.5mg) | 108h |
薬価 | 0.25mg…¥1,547 0.5mg…¥3,094 1.0mg…¥6,188 |
0.75mg…¥3,396 |
※オゼンピック、トルリシティ添付文書より
共通点
どちらもGLP-1受容体作動薬です。
GLP-1とはGlucagon-like peptide-1の略。小腸から分泌される消化管ホルモンです。
すい臓のβ細胞に働きグルコース濃度依存的に血糖効果作用を示します(加えて消化管運動の抑制や食欲抑制作用もあり)。
適応は2型糖尿病です。インスリン分泌能がまだ残されている患者さんが対象で、1型糖尿病には使えません。
どちらも週1回型の製剤です。参考までに、国内で使用できるものは以下になります。
- リラグルチド…ビクトーザ(daily)
- エキセナチド…バイエッタ(daily)
- リキシセナチド…リキスミア(daily)
- エキセナチド…ビデュリオン(weekly)
- デュラグルチド…トルリシティ(weekly)
- セマグルチド…オゼンピック(weekly)
相違点

ここからは、オゼンピックとトルリシティの違いを見ていきます。
大きく5つです。
- 分子構造の違い
- 併用可能薬の違い
- 操作方法の違い
- 用法用量の違い
- 投与忘れ時、対応の違い
順に見ていきますね。
1)分子構造の違い
どちらもweeklyの製剤です。血中半減期が長いのが特徴ですね。しかし、半減期を延長させた製剤設計が異なります。
下記です。
- アミノ酸の配列に長鎖脂肪酸を付与→血中アルブミンと結合性UP
- アミノ酸の修飾→DPP-4による分解抑制
- アミノ酸配列に改変ヒトIgG4 Fc領域→分子量を増加、吸収をゆっくりに、腎クリアランスを低下
- アミノ酸の修飾→DPP-4による分解抑制
生体でのクリアランスを下げて、DPP-4(GLP-1の分解酵素)の作用を妨げるという目的は一緒だけど、アプローチが若干違うわけですね。
半減期は大きくは変わりません。どちらも4、5日くらいです。しかし、構造を比較すると結構な差があります。下記です。

オゼンピックは分子量が4113.58のところ、トルリシティは約63000です。サイズがかなり違いますね。
2)併用可能薬の違い
いずれも適応は2型糖尿病です。しかし、併用できる糖尿病薬に違いがあります。
- オゼンピック…DPP-4阻害薬以外と併用可
- トルリシティ…DPP-4阻害薬とインスリン以外と併用可
オゼンピックはインスリンと併用可。basalインスリンとの併用療法で有効性が示されているからです。※第III相国際共同試験
一方で、DPP-4阻害薬とは併用できません。作用が似ているからですね。
トルリシティは両方不可です。
オゼンピックの方がインスリンと併用できる点で適応場面は広めですね。
3)操作方法の違い
どちらも1回使い切りのオートインジェクションタイプです。しかし、操作方法が若干異なります。
- オゼンピック…注射部位に当てて、本体を押す
- トルリシティ…注射部位に当てて、本体上部のボタンを押す
本体を注射部位に押し当てて自動注入を開始するか、注入ボタンを押して作動するかの違いです。
使い勝手はどちらがいいのか?
難しい質問ですね。手が不自由でボタンが押しにくい人はオゼンピックの方がいいかも知れません。本体を握る力があればなんとか投与できます。
ちなみに針のサイズはどちらも一緒。29ゲージ、6mmです。痛みは少なそうな印象ですね。
4)用法用量の違い
段階的にドーズアップするか、固定用量かの違いがあります。
- オゼンピック…徐々に増やしていく、初回0.25mg(4週間)→維持0.5mg→(4週間、効果不十分)→最大量1.0mg
- トルリシティ…固定用量0.75mg
オゼンピックは用量調節を行えるのがメリットです。
初回量が少なく、GLP-1製剤で起こりやすい消化器症状を軽減できる可能性があります。トルリシティは投与初期に胃部不快感が出やすい印象があるので…。また、効果不十分の際に増量できるのもいいですね。
トルリシティは0.75mgの一規格です。投与方法がわかりやすい反面、症状に合わせて投与量調節ができません。
有効性、安全性を考慮して用量調節できるのがオゼンピックのいいところですね。
5)打ち忘れ時の、対応の違い

週一のGLP-1製剤は毎週曜日を決めて打ちます。しかし、忘れることも多いですよね。
「オゼンピックを打ち忘れたけど、どうすればいいですか?」
患者さんから聞かれるのはもちろん、医療機関でも看護師さんから相談を受ける場合もきっとあります。
対応は下記です。
- オゼンピック…気付いてから、次回投与日まで2日(48時間)未満なら、スキップ
- トルリシティ…気付いてから、次回投与日まで3日(72時間)未満なら、スキップ
オゼンピックで具体的に見てみましょう。
仮に投与日が日曜10時だとします。日曜10時以降〜木曜日(計5日)のうちに気づけばその時点で投与可です。もし、金または土曜日(計2日)に気づくとスキップして、次回の日曜日に1回分のみ使用します。
投与忘れが懸念される人はどちらの製剤が有利か?
というとオゼンピックですね。忘れても最悪、木曜日までに気づいたら投与できるからです。トルリシティは水曜日まで気がつかないと次回まで投与できません。
スキップはできるだけ避けるべきです。なぜなら、1回分の投与を完全に忘れると定常状態に戻るまで約3週間かかる(オゼンピックの場合)とシミュレーションされているからです。
投与忘れは血糖コントロールに乱す可能性が高いので要注意ですね。
オゼンピックの有効性:トルリシティと比較

オゼンピックとトルリシティはどちらが効果が高いのか?
比較したのがSUSTAIN7試験。メトホルミン単独療法におけるセマグルチドとデュラグルチドの有効性を比較したものです。以下のように低用量と高用量で検討しました。
- 対象者… 2型糖尿病患者 1199人
- 方法…セマグルチド0.5mg、1.0mgとデュラグルチド0.75mg、1.5mgを1:1:1:1で割付け、40週間投与。
- 主要評価項目…HbA1c、ベースラインからの変化量
- 副次評価項目…体重、ベースラインからの変化量
結果は以下のとおりでした。
セマグルチド 0.5mg |
デュラグルチド 0.75mg |
セマグルチド 1.0mg |
デュラグルチド 1.5mg |
|
HbA1c低下率 | -1.5% | -1.1% | -1.8% | -1.4% |
-0.40%[95%Cl -0.55,-0.25]p<0.001 | -0.41%[95%Cl -0.57,-0.25]p<0.0001 | |||
体重減少度 | -4.6kg | -2.3kg | -6.5kg | -3.0kg |
-2.26kg[95%Cl -3.02,-1.51]p<0.001 | -3.55kg[95%Cl -4.32,-2.78]p<0.001 |
HbA1cと体重減少について、低用量、高用量どちらにおいても、セマグルチドの方が有効性が高いという結果でした。
ということは、トルリシティ0.75mgで効果不十分なケースにオゼンピック0.5mg又はさらに強い効果を期待するなら1.0mgが有力な選択肢になります。
一方で、もともと痩せた人は注意です。あまり体重を減らす必要がない場合にはトルリシティを選択するのもありかも知れないですね。
SUSTAIN7試験の結果は、オゼンピックとトルリシティの使い分けを考える際に活用できると思いました。
オゼンピックの安全性:トルリシティと比較

SUSTAIN6試験
セマグルチドの心血管に対する安全性を検証した海外の臨床試験です。結果、プラセボに比べて主要な心血管イベントを増加させないことが示されました。
概要は下記です。
- 対象者… 2型糖尿病患者 3297 人(心血管障害合併83%)
- 方法…標準治療にセマグルチド0.5mg、1.0mgを追加、プラセボと比較、追跡期間の中央値2.1年
- 主要評価項目…MACE:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中
- 結果…セマグルチド群6.6%、プラセボ群8.9%(HR0.74、95%CI 0.58-0.95、非劣性:p<0.001,優越性:p=0.002)
参考文献)SUSTAIN6試験
セマグルチドはプラセボに比べて、心血管イベントリスクを26%低下させるという結果でした。
安全性に加えて有効性まで示されたわけです。ただし、優越性検定が事前に設定されてなかった(事後解析)ので解釈には慎重さが求められます。
では、トルリシティの方はどうなのか?
REWIND試験
デュラグルチドもプラセボに比べて心血管イベントを増加させないことがわかりました。
概要は下記です。
- 対象者… 2型糖尿病患者 9901 人(心血管障害合併32%)
- 方法…標準治療にデュラグルチド 1.5mg/週を追加、プラセボと比較、追跡期間の中央値5.4年
- 主要評価項目…MACE:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中
- 結果…デュラグルチド群12.0%、プラセボ群13.4%(HR0.88、95%CI 0.79-0.99、優越性:p=0.026)
参考文献)REWIND試験
デュラグルチドはプラセボに比べて心血管イベントリスクを12%低下させました。増加させないだけでなく有意な差をもって抑制できたわけです。
SUSTAIN6試験に比べて心血管障害を合併した人の割合が少なく、心血管リスクが低い人においても有用性が確認されました。
ただし、投与量が国内の2倍量に相当するので解釈に注意が必要です。
オゼンピックやトルリシティを含めGLP-1アナログ製剤は、HbA1cや体重減少に加えて心血管イベントを抑制できる効果が注目されています。
参考までに

海外の位置付け
米国糖尿病学会(ADA)の診療ガイドライン2020年度版では
心血管疾患の既往またはハイリスク例では、メトホルミンに加えてGLP-1製剤が推奨されています。
HbA1cの基準値や個別の目標値に関係なくです。
昨今のエビデンスが集積され、心血管ハイリスク例では優先的にオゼンピック含めGLP-1アナログ製剤を選択する流れに変わってきています。メトホルミンに続く第二選択薬という位置付けです。
国内の位置付け
一方で国内の方はどうか?
糖尿病標準診療マニュアル(第16版)によるとインスリンの適応がなければ以下のステップで薬剤を選択する流れです。
- まずは、メトホルミン
- 反応なければ、DPP-4阻害薬を上乗せ
- さらに反応なければ、少量SUかSGLT-2阻害薬かα-GI
- それでも反応なければ、多剤併用やインスリン、GLP-1作動薬を考慮
海外とは位置付けが異なるようですね。
GLP-1作動薬はかなり後の選択肢になります。血糖コントロールに難渋する場面で登場する薬という扱いですね。
たしかに、処方の動向を見てると、順番的にはこんな感じです。GLP-1製剤よりもDPP-4阻害薬を選択する傾向が強いと思います。
今後、オゼンピック含めGLP-1作動薬の位置付けがどうなっていくのか、注目ですね。
まとめ

今回はオゼンピック注の特徴について、トルリシティと比較しながら解説しました。
記事を書き終えて印象に残ったのは
オゼンピックの有効性の高さ。トルリシティが効果不十分の際には代替薬として候補に上がると思いました。さらに、増量できるのも良いですね。
そして気になるのはやはり操作性。どちらが使いやすいのか?サンプルが届いたらまっ先に確認したいですね。
あとは、セマグルチドの可能性。実は内服投与できる製剤が国内でも承認審査中です。週1回の注射とはいえやはり侵襲を伴うもの。簡便に投与できる経口剤が登場すれば、治療の選択肢がさらに広がります。
オゼンピックの登場で、GLP-1注射薬のラインナップが増えました。どのように使い分けがされるのか、動向に注目ですね♪
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