抗菌薬が効かないけど、どの薬に変えればいいの?
ときどき聞かれますよね。感染症の専門医がいない病院では薬剤部が相談窓口なっていると思います。私の病院はまさにそうです。
この質問はかなり難易度が高いと思います。初回の抗菌薬選択なら、ガイドラインとかを見たらそれなりに対応できますが、無効時の「次の一手」はハッキリと書かれた資料等は見当たらず(私の調べ)、どう回答すべきかよくわからないからです。
新人の頃は
じゃあ、もっと広いスペクトルの抗菌薬に変更してはどうでしょうか?
と、安易に答えてしまうこともありました。
でも、この対応は適切ではありません。誤った抗菌薬の選択や耐性菌の誘導に繋がる可能性があるからです。抗菌薬の適正使用、耐性菌防止の観点でまずい対応の一つだとといえます。
では、どうすればいいのか?
・抗菌薬が効かない理由は何か、アセスメントすることです!
今回は「抗菌薬が効かないけど、どの薬に変更したらいいの?」と医師から相談されたときにどのように対応すべきか?薬剤師が押さえておきたい3つの視点を紹介します。
医師からの相談事例(やりがちな回答)
医師からの質問内容を具体的に挙げて考えていきましょう。
以前、こんな問い合わせがありました
薬剤師さん、ちょっと相談です。
◯◯の手術で入院された80歳のおばあちゃん。手術後に尿路感染を起こしたので、CTRX(セフトリアキソン)を5日間使ったんだけど、良くなっていません。尿の性状は綺麗になってるんだけど、CRPや白血球は高いままだし、38度台の発熱も続いています。抗菌薬を変えるとしたら何がいいですか?
よくやりがちな回答はこちら
セフトリアキソンが効かないなら、もっと広いスペクトルの抗菌薬に変更してはどうでしょうか?例えば、ニューキノロン系やカルバペネム系とかが選択肢になります。
これはやみくもに抗菌スペクトルを広げてしまう提案ですね。最終的にこの判断をせざるを得ないケースは多いものの、何も考えずに「広域スペクトルの抗菌薬を選択する」のは正しくありません。これをやってしまうと、抗菌療法のスペクトルがどんどん拡大(エスカレーション)して、多剤併用療法にまで発展していく恐れがあるからです。
エスカレーションの実例
抗菌スペクトル
- グラム陽性球菌
- グラム陰性桿菌(広くカバー)
抗菌スペクトルが拡大
- グラム陽性球菌
- グラム陰性桿菌(さらに広域にカバー)
- 嫌気性菌もプラス
- 耐性菌(ESBL産生菌等)にも効く
抗菌スペクトルがさらに拡大
- グラム陽性球菌(MRSA、腸球菌もカバー)
- グラム陰性桿菌(さらに広域にカバー)
- 嫌気性菌もプラス
- 耐性菌(ESBL産生菌等)にも効く
抗菌スペクトルが真菌までフルカバー
- グラム陽性球菌(MRSA、腸球菌にも)
- グラム陰性桿菌(さらに広くカバー)
- 嫌気性菌もプラス
- 耐性菌(ESBL産生菌等)にも効く
- 真菌にも抗菌力が及ぶ
\抗菌スペクトルについては別記事にまとめています/
もちろん、これで上手くいくケースもあるかも知れませんが、不要な抗菌スペクトルは抗菌薬適正使用の観点からできるだけ避けるべきだと思います。腸内細菌叢の撹乱によるクロストリジウム・ディフィシル感染症の誘発や薬剤耐性菌の誘導に繋がる可能性もあるからです。
「抗菌薬が効かない」→「抗菌スペクトルが外れている」といった思考だけでは、「もっと広域に効く薬剤を選択する」以外の選択肢が出てきません。患者さんの背景や病態とか関係なく、抗菌薬の種類だけを見て一律の対応になってしまいます。
抗菌薬が効かない時の対処法(3つの視点から介入)
ここからが本題!
抗菌薬が効かないけど、どの薬に変えればいいの?
薬剤師の対応は
・抗菌薬が効かない理由は何か、アセスメントすること!
抗菌薬の選択が正しいのか、改めてチェックしましょう!
抗菌薬が効かない理由の検討手順
上記3つのポイントを順番に検討すると、抗菌薬が効かない理由が見えてきます(もちろん、わからない場合もありますが…)
実を言うと、「抗菌薬が効かない理由の検討」は、「適切な抗菌薬を選択するための手順(下記)」をもう一度チェックして、修正を行う作業に他なりません。感染臓器→起炎菌→抗菌薬の順番に、再検討を行います。
順に見ていきましょう。
感染症が起こっている場所は正しい?
1つ目の視点は
・感染臓器の再チェックです!
当初の感染場所は本当に正しいのか、もう一度確認です。カルテに加えて、医師、看護師からの聞き取り、患者さんの状態を確認するなど、自分の目、耳で感染源を再考します。
先ほどの例では、尿路感染が改善していない可能性が否定できないにせよ、ほかに感染源はないのかを考えます。
◯◯の手術で入院された80歳のおばあちゃん。手術後に尿路感染を起こしたので、CTRX(セフトリアキソン)を5日間使ったんだけど、良くなっていません。尿の性状は綺麗になってるんだけど、CRPや白血球は高いままだし、38度台の発熱も続いています。抗菌薬を変えるとしたら何がいいですか?
ほかに可能性のある感染源
- 肺炎、誤嚥性肺炎…
- カテーテル感染…中心静脈から栄養管理をしている人(血流感染の可能性も)
- 胆管炎、胆嚢炎
- CDI
高齢者や嚥下機能が低下している人は誤嚥による肺炎の可能性があります。CVカテーテルが挿入されている人では血流感染の可能性も否定できません。血液検査で肝機能異常があれば、胆道系の感染症を併発している可能性も考えます。
あと、忘れてはいけないのがCDIです。クロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium difficile infection)の略で、抗菌薬の投与により、腸内細菌叢が乱れるのが主な原因とされています。おもな症状は発熱や腹痛、下痢などです。腸内で異常増殖したC.difficile の毒素により引き起こされます。重症例では偽膜性腸炎を呈する場合もあるので、見落とさないように注意が必要です。
\CDIの治療薬は別記事にまとめています/
抗菌薬投与中に新たな臓器で感染が起こる可能性は少なくありません。抗菌薬が効かない!となったら、どこが感染臓器なのか?もう一度確認することが大切です。医師と一緒に感染臓器を見直してみましょう。
新たに感染臓器が見つかったときは?
感染臓器から推定される細菌をターゲットに、抗菌薬を提案します。感染臓器→起炎菌→抗菌薬という基本の流れを実践するだけです。
・尿路感染にCDIを発症している可能性があります。CDトキシンをチェックして、メトロニダゾール(又はバンコマイシン散)の投与を考慮してはどうでしょうか?
・炎症所見が改善しないのは誤嚥性肺炎を起こしてる可能性が考えられます。嫌気性菌をカバーした抗菌薬(スルバクタム/アンピシリン、セフメタゾール等)への変更を考慮してはどうでしょうか?
例えば、こんな感じで回答できます。
非感染性の場合もあります
- 腫瘍熱
- 膠原病
- 薬剤熱
そもそも感染症ではないケースですね。炎症所見が改善しないのは細菌感染ではない可能性もあります。
特に薬剤熱を見落とさないようにしたいです。多くの薬が原因となり、全身状態は良くなってるのに、発熱を繰り返します。バイタルは安定して、食事も食べられるようになった、でも発熱が……。そんなときには、薬剤熱を疑って、抗菌薬を中止するのも選択肢の一つです。
感染症ありきでは、間違った方向に進んでいても気づきません。感染臓器が見当たらないときには、非感染性の可能性もチェックすることが大切です。感染症じゃないのにエスカレーションの提案は避けたいですよね。
感染症の原因菌は正しい?
2つ目の視点は
・起炎菌の答え合わせです
抗菌薬が効かないのは、推測した起炎菌が違っている可能性があります。正しい起炎菌はどれなのか?大きく3つのケースに分けて考えるとわかりやすいです。
- 培養結果に分離菌(+)感受性なし
- 培養結果に分離菌(ー)
- 培養結果に分離菌(+)感受性あり
①分離菌(+)感受性なし
抗菌薬を投与する前の細菌培養で、原因とされる細菌が検出されたけど、抗菌薬が効かないケースですね。
◯◯の手術で入院された80歳のおばあちゃん。手術後に尿路感染を起こしたので、CTRX(セフトリアキソン)を5日間使ったんだけど、良くなっていません。尿の性状は綺麗になってるんだけど、CRPや白血球は高いままだし、38度台の発熱も続いています。抗菌薬を変えるとしたら何がいいですか?
たとえば、先ほどの例なら、大腸菌をターゲットにCTRXを使用したけど、ESBL産生の大腸菌が検出された場合です。
対応は
培養結果をもとに臨床効果が期待できる抗菌薬を提案すればオッケーです(当然、医師も培養結果を見ているので、その中からどの薬剤を選べばいいかを聞かれるかたちです)
・ESBL産生の大腸菌はCTRXを分解するので効果が期待できません。カルバペネム系やβラクタマーゼ阻害剤入りの抗菌薬などへの変更はどうでしょうか?
\分離菌に対応する第一選択の抗菌薬は下記を参考にして下さいね/
一方で、気をつけたいのが定着菌・コンタミの可能性!
- 喀痰からMRSA
- 喀痰からカンジダ
- 血液培養から表皮ブドウ球菌
など、上記のように常在菌が検出される場合です。培養の結果は必ずしも起炎菌を表しているとは限りません。たまたま紛れていた少数の細菌を増やす可能性も十分にあるからです。もちろん、感染性を否定できない場合には、それに対応する抗菌薬を選択します。ここは医師と検討ですね。
コンタミや定着菌の可能性が高ければ、結果をそのまま活用することができません。→②へ
②分離菌(ー)
もう一度、起炎菌が何なのか?を推定するところからやり直しです。
大きく3つのケースが考えられます。
- そもそも培養オーダーを出していない(結構多い…)
- 培養オーダーを出したけど細菌が検出されなかった(残念…)
- 分離されたけど起炎菌と扱うことができない(コンタミや定着菌の可能性を考えて)
対応は
振り出しに戻って、もう一度起炎菌を推定するしかありません。
でも、最初と違っていいこともあります。それは先行投与薬剤の存在。代替薬の選択肢を絞り込むことができます。移行性や投与量に問題なければ、スペクトルに入っていない細菌が起炎菌である可能性が高いと考えられるからです。
◯◯の手術で入院された80歳のおばあちゃん。手術後に尿路感染を起こしたので、CTRX(セフトリアキソン)を5日間使ったんだけど、良くなっていません。尿の性状は綺麗になってるんだけど、CRPや白血球は高いままだし、38度台の発熱も続いています。抗菌薬を変えるとしたら何がいいですか?
先ほどの尿路感染症に対するCTRXでいうなら、カバーできないESBL産生の腸内細菌や腸球菌などが次のターゲットになります。
・セフトリアキソンでカバーできていない細菌はESBL産生の大腸菌、クレブシエラなどの腸内細菌や腸球菌などが挙げられます。カバーできる薬剤への変更が必要でしょうか?
という風に、先行投与薬剤の抗菌スペクトルは、次のターゲットを考えるうえでの参考情報として活用できます。利用しない手はありませんよね。
抗菌薬が効かないし、しかも起炎菌がはっきりわからないのは困りものです。しかし、同じくらい困るのが③のケースです。
③分離菌(+)感受性あり
効くはずなのに、効かない原因とは?
はじめに予測した細菌を狙って抗菌薬を投与し、予想が的中したのに、なぜか効いていないケースです。うーーん、と悩み込んでしまいます。
対応は
抗菌薬が効かない原因の検索です。
- 検出された細菌が起炎菌でない
- または別の起炎菌が存在している
可能性は否定できないにせよ、抗菌薬が移行しにくい膿瘍を形成している可能性も考えられます。CTなど画像診断によって膿瘍の存在を確認する流れです。膿瘍があれば抗菌薬治療にも限界があります。治療の基本はドレナージ!(膿を排出する方法)です。むやみに抗菌薬の種類を変更したり、投与量を増やしたりしても効果が望めないので外科的な治療を優先します。
抗菌薬の使い方は適切か?
3つ目の視点は
・抗菌薬の使い方に注目です!
ポイントは2つです。
- PK-PD理論をもとに投与設計がされているのか?
- 抗菌薬の移行性は問題ないのか?
順番に見ていきますね。
PK-PD理論に基づいて投与されているか?
いくら起炎菌にバッチリ感受性がある薬剤が投与されていても、投与方法がマズイと期待した効果は得られません。細菌の増殖を抑制できるだけの薬剤濃度を生体内で得ることができないからです。
改めて、PK-PD理論に基づいた適切な投与方法であるのかを確認します。
- 時間依存性…ペニシリン系、セフェム系などのβラクタム薬
- 濃度依存性…アミノグリコシド系、フルオロキノロン系など
たとえば、ペニシリン系やセフェム系などは時間依存性の抗菌薬です。1日の投与量が同じなら、分割投与してMIC以上の濃度を保つ投与方法を選択します。
一方で、ニューキノロン系やアミノグリコシド薬は、濃度依存性の抗菌薬です。1日投与量が同じなら、高い血中濃度を得るために1回にまとめて投与した方が高い効果が期待できます。
\PK-PD理論は下記にまとめています/
抗菌薬が効かないのは、もしかして、投与方法がPK-PD理論を加味していないことが原因ではないのか?と疑ってみることも薬剤師に必要な視点ですね。
組織移行性を考慮した薬剤の選択がされているか?
起炎菌に感受性がある薬剤を選択できていても、感染組織への移行が悪いと期待した効果は得られません。
改めて、抗菌薬の組織移行性はどうなのかを確認します。
移行性が問題となるケースは大きく2つです。
- 髄膜炎
- 前立腺炎
髄膜炎では、第1世代、第2世代セフェム系薬の選択は適切ではありません。いくら感受性があっても移行性が悪く臨床効果が得られないからです。第3世代のセフェム系など、髄膜移行に優れた薬剤を選択します。
前立腺炎では、βラクタム薬など水溶性の薬剤よりもフルオロキノロンやST合剤など脂溶性が高い薬剤の方が移行性がよく、望ましいとされています。(特に経口投与の場合)
抗菌薬が効かないのは、感染臓器に抗菌薬が届いていない可能性を疑うことも大切です。組織移行性を考慮した抗菌薬の選択と投与設計、薬剤師が介入できる部分ですね。
まとめ
今回は「抗菌薬が効かない」と言われた時の対処法について紹介しました。
本記事のポイント
「抗菌薬が効かない時の対処法」は下記3つの視点を検討することです!
- 感染症が起こっている場所は正しい?
→ほかの感染源をチェック!肺炎治療中に尿路感染やカテーテル感染を起こす可能性あり。非感染性の評価も忘れずに(腫瘍熱、膠原病、薬剤熱など) - 感染症の原因菌は正しい?
→起炎菌を改めてチェック!培養結果や先行薬の抗菌スペクトルを参考に、起炎菌を特定もしくは推測。起炎菌とスペクトル一致の場合、膿瘍の可能性も確認。 - 抗菌薬の使い方は適切か?
→PK-PD理論、抗菌薬の移行性などをチェック!
記事を書きながら、抗菌薬が効かないと言われたら、「もっと強い(抗菌スペクトルが広い)抗菌薬に変えよう」と単純に考えるのではなくて、抗菌薬が効かない原因をアセスメントし、適切な対応・処方提案ができるスキルが薬剤師にも必要だと改めて感じました。耐性菌の防止、抗菌薬の適正使用を進めていきましょう♪