「耐性菌の出現を防ぐためには、抗菌薬の適正使用が欠かせない」
多剤耐性菌がどんどん出てくる!
なのに、使える抗菌薬がないーーーー。
そんな事態にならないように、できることは何か?
・オススメは細菌ごとに対応する第一選択の抗菌薬をマスターすること!
抗菌スペクトルが無駄に広いと、耐性菌が出現する可能性がある一方で、ピンポイントで効く抗菌薬を選択すれば耐性菌の予防につながります。
今回は、臨床でよくあつかう細菌をピックアップ!対応する第一選択薬について解説します。
臨床で問題となる細菌は2タイプ!

グラム陽性球菌と陰性桿菌に分けて考える
臨床で問題となる感染症を引き起こす細菌は大きく2タイプです。
- グラム陽性球菌(Gram‐positive coccus : GPC)
- グラム陰性桿菌(Gram‐negative rod : GNR)
もちろん、グラム陽性“桿菌”や陰性“球菌”だっています。でも、まずはこの2つを覚えておけばOKです。
「このクスリはグラム陽性球菌に強い」とか「グラム陰性桿菌まで広くカバーできる」というふうに、日常的によく使う言葉です。
違いはグラム染色での染まり方
青紫色に染まるのが陽性菌、赤色に染まるのが陰性菌です。
あとは形で区別するだけです。
- グラム陽性球菌 …●
- グラム陰性桿菌 …■
丸く見えるか四角に見えるかの違いです。検査技師さんが顕微鏡でのぞいて判断します。
陽性球菌は3タイプ、陰性桿菌は3グループに分ける

以下のように分類できます。
- 陽性球菌…①連鎖球菌、②ブドウ球菌、③腸球菌
- 陰性桿菌…①PEK、②HM、③SPACE
細菌の種類、グループによって起こる感染症はだいたい決まってます。PEKとかHMは細菌の頭文字を並べたもので、後で紹介します。
コレ、かなり重要!覚えておくと、きっと役に立ちます!
グラム陽性球菌の種類
連鎖球菌とは
代表的なのは以下の2種類です。
●肺炎球菌 (Streptcoccus pneumoniae)
●A群連鎖球菌(Streptcoccus pyogenes)
ほかにもありますが、この2つはとくに大事。どちらも咽頭や皮膚の常在菌です。
名前のまんまですね。中耳炎や髄膜炎を起こす菌としても有名です。
咽頭炎や蜂窩織炎の起炎菌です。筋肉が壊死していく壊死性筋膜炎の原因になることもあります。
ブドウ球菌とは
覚えておきたいのは、以下の2つです。
●黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
●表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)
皮膚や鼻粘膜にいる常在菌です。
血液を固める酵素を産生する黄色ブドウ球菌の方が一般的に毒性が強いとされています。
手術後の創部感染やカテーテル、人工骨頭など異物にくっつきやすく、血流感染や関節炎、骨髄炎の原因になります。
腸球菌とは
以下の2つを覚えます。
●フェカーリス(Enterococcus faecalis)
●フェシウム(Enterococcus faecium)
フェカーリスは効きやすい、フェシウムは効きにくいのが特徴です。
どちらも腸管にいる常在菌。尿路感染や、ときに心内膜炎を起こす場合もあります。
グラム陽性球菌●は3つのタイプに分けて、それぞれが生息してる場所と問題となる感染症をセットで覚えておきましょう。
グラム陰性桿菌の種類
PEKとは
下記、3つの細菌の頭文字をとって「ペック」。
■ プロテウス(Proteus mirabilis)
■ 大腸菌(Escherichia coli)
■ クレブシエラ(Klebsiella pneumoniae)
みんな腸内に生息している常在菌です。
特に大腸菌がメジャーですね。大腸菌は腸管穿孔などにより腹腔内感染症の原因となることもあります。
クレブシエラは別名、肺炎桿菌。
名前のとおり肺炎の起炎菌となる場合もあります。
広域のβラクタマーゼで、抗菌薬を分解して薬効を消失させる厄介なものです。ESBLの有無によって抗菌薬の選択が大きく変わります。(後から説明しますね)
HMとは
以下のとおりです。
■ インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)
● モラクセラ・カタラーリス(Moraxella Catarrhalis)
鼻粘膜や咽頭にいる常在菌です。
副鼻腔炎やCOPD増悪時の原因菌になります。
インフルエンザ菌は莢膜の有無で以下のように分類されます。
- 莢膜のあるHib
- 莢膜のないNTHi
Hibの方はヒブワクチンで予防することができますね。
モラクセラ・カタラーリス!実はグラム陰性球菌です。●
SPACEとは
下記、頭文字をとってスペースです。
■セラチア(Serratia marcescens)
■緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
■アシネトバクター(Acinetobacter baumannii)
■シトロバクター(Citrobacter freundii)
■エンテロバクター(Enterobacter cloacae)
病原性は強くないけど、耐性が強く抗菌薬が効きにくいのが特徴です。医療関連肺炎やカテーテル感染、尿路感染、手術部位感染など、さまざまな感染症の原因になります。
SとC、Eは腸内細菌科。でも、健常な人には定着していません。PEKと違う点ですね。
P、Aはブドウ糖非発酵菌、環境に生息しています。
特に浸潤環境を好み、病院の濡れたシンク、水道蛇口、気管チューブなどを感染経路とすることが多いです。
抗菌薬の選択を考えるときには、PAとSCEに分けて考えるとわかりやすい。(後ほど紹介)
グラム陰性桿菌■は、PEK、HM、SPACEの3つのグループに分けて知識を整理しておきましょう。
第1選択の抗菌薬を覚える

第一選択薬はピンポイントで効く抗菌薬!
・臨床効果が期待できる、一番スペクトルが狭い抗菌薬のことです。細菌ごとに第一選択の抗菌薬は決まってます。
最終的には感受性試験結果を見てからの判断になりますが、細菌名を聞いてパッと薬剤名が浮かぶようになっておきたいです。順番に見ていきますね。
陽性球菌
連鎖球菌●
第一選択薬は以下のとおりです。
- PCG(ペニシリンG)
- またはABPC(アンピシリン)
PCGは古典的ペニシリン。半減期が短く1日4〜6回投与する必要があります。でも、効果が強くて、キレも良いのが特徴です。
ABPCはアミノペニシリンと呼ばれ、PCGよりもスペクトルが拡大し、腸内細菌のPEまでカバーできる。Kにはもともと効きません。
壊死性筋膜炎の場合にはクリンダマイシンを併用することがあります。レンサ球菌の毒素産生を減らす目的です。
※penicillin-resistant Streptcoccus pneumoniae、ペニシリン耐性肺炎球菌のことです。
抗菌薬の選択は下記になります。
- PCG、ABPCの高用量投与
- CTRX(セフトリアキソン)、CTX(セフォタキシム)※第3世代セフェム
ブドウ球菌●
第一選択薬は下記のとおり。
- 黄色ブドウ球菌…CEZ(セファゾリン)
- 表皮ブドウ球菌…VCM(バンコマイシン)
黄色ブドウ球菌にはCEZが第一選択です。
予防抗菌薬は手術の種類によるものの、黄色ブドウ球菌をターゲットにCEZが選択されるのが一般的です。
黄色ブドウ球菌は大きく3つに分類されます。
第一選択薬は下記のとおりです。
- ペニシリナーゼ非産生→ABPCでも可
- ペニシリナーゼ産生(MSSA)→CEZ
- ペニシリン結合蛋白変化(MRSA)→VCM
でも、全体の数%と少ないので、積極的に使用することはありません。感受性があれば使える程度です。
methicillin-susceptible Staphylococcus aureusの略です。国内で使えるMSSA専用の抗菌薬はないので、CEZが代替として使われています。
・MSSA専用のメチシリンは間質性腎炎の副作用が相次ぎ販売中止になりました。(海外で使用されてるナフシリンやオキサシリンは国内未承認)→ないので、仕方なくCEZですね。
ペニシリン結合蛋白(PBP)の変化により、メチシリンにも耐性を示します。
腸球菌●
第一選択それぞれ以下のとおり。
- フェカーリス…ABPC
- フェシウム…VCM
フェカーリスはABPCが第一選択です。
腸球菌はセファロスポリン系の抗菌薬が効きません。
連鎖球菌と違う点ですね。だから、ペニシリンを使います。
ペニシリンが効かないのでVCMを選択します。でも、適応外なので保険で切られたという話も聞くので注意が必要です。
vancomycin-resistant enterococciの略で、LZD(リネゾリド)の出番です。滅多にありませんし、あると大変ですね。
陰性桿菌
PEK■
第一選択薬は下記です。
- プロテウス…CEZ(or ABPC)
- 大腸菌… CEZ(or ABPC)
- クレブシエラ…CEZ
ABPCはPEに使えるケースもありますが、Kには効きません。感受性試験結果をみてABPCが使えるかを判断します。
スペクトルの広さはABPC<CEZなので、できればABPCを選択したいところです。
ESBLはextended-spectrum β-lactamaseの略。日本語では基質拡張型βラクタマーゼといいます。
・ペニシリナーゼの強力版で、ペニシリン加えて、第1から第4世代セファロスポリンを広く分解する酵素です。
CEZが無効になるだけでなく、セファロスポリン全般の効力が消失します。
ESBL産生のPEK、薬剤の選択は下記です。
- カルバペネム系
- TAZ/PIPC(タゾバクタム/ピペラシリン)
- 軽症〜中等症、CMZ(セフメタゾール)
βラクタマーゼに安定なカルバペネム、第2世代のセファマイシン系またはβラクタマーゼ阻害剤を配合したTAZ/PIPCなどが選択肢になります。
HM■
第一選択薬は以下のとおりです。
- インフルエンザ菌…CTM(セフォチアム)
- モラクセラ・カタラーリス… CTM
第2世代セファロスポリンが第一選択になります。
耐性度によって、感受性のある薬剤が変わります。
- ペニシリナーゼ非産生…ABPC
- ペニシリナーゼ産生…CTM
- ペニシリン結合蛋白変化(BLNAR)…CTRX
※BLNER(beta-lactamase negative ampicillin-resistance)
ABPCが使えるケースはあるものの、BLNARの場合にはCTRXが第一選択になります。
SPACE■
第一選択薬は?
- セラチア(S)
- 緑膿菌(P)
- アシネトバクター(A)
- シトロバクター(C)
- エンテロバクター(E)
SCEとPAに分けて考えるとわかりやすいです。順番に説明します。
SCEの第一選択は?
セラチア、シトロバクター、エンテロバクターには下記です。
- CTRXまたはCFPM(セフェピム)
第3世代や4世代のセファロスポリンを選択します。
SCEはAmpCを産生する場合があります。
βラクタマーゼの一種で、AmpCはセファロスポリン第1世代から第3世代を無効化し、セファマイシンも分解してしまいます。βラクタマーゼ阻害剤の効果も期待できません。
特にエンテロバクターに注意が必要です。
AmpC誘導のSCEの場合には、第一選択薬は以下のようになります。
- 第4世代セフェムのCFPM
- カルバペネム系など
PAの第一選択薬は?
緑膿菌、アシネトバクターは下記です。
- PIPC(ピペラシリン)またはCAZ(セフタジジム)
PIPCとCAZは覚えておきましょう。
・緑膿菌やアシネトバクターはAmpC誘導や抗菌薬の透過性低下、排出ポンプなどほかの耐性化機序も多くあるので、感受性試験の確認が必須です。
耐性度が強い場合には、第4世代セフェムやカルバペネム、ニューキノロン系、アミノグリコシド系などから、感受性のある薬剤を選択することになります。
第一選択薬を押さえた上で、感受性試験結果をもとに抗菌薬を選択するのが基本です。
抗菌薬を選択するときのピットフォール

第一選択薬を決定するときに、陥りやすいピットフォールを紹介します。
MICが低い=第一選択ではない!
異なる抗菌薬のMIC値を比べて、第一選択薬を決めるのはダメです。
ときどき誤解している人がいます。
感受性試験のMIC値を眺めて、「一番低い抗菌薬はどれかなあ」といって、抗菌薬を選択してしまう。
細菌の増殖を抑えることができる最小濃度のことです。低い方が抗菌活性が強いといえます。
ある細菌に対して、MIC<1とMIC<0.25のクスリを比較して低い方を第一選択薬として選んでしまう傾向があって、誤解されている医師も少なくありません。
・たしかに、試験管レベルではMICが低い方が強い抗菌薬といえけど、生体内でも同じことが言えるかというと、そうではありません。
投与量も違えば投与方法だって異なります。しかも、薬物動態も違うので、感染巣でin vitroと同じ条件が再現できるわけではないのです。
感受性試験から、異なる薬剤ごとのMICをタテに読んで比べるのは間違っています。
正しくは、結果表のSIRを確認する!
- S(susceptible:感性)…臨床効果が期待できる。
- I (intermediate:中間)…SとIの中間。高用量であったり、移行性が良い場合には使用できる場合も。
- R(resistant:耐性)…臨床効果が保証されない
臨床効果が期待できて、抗菌スペクトルが一番狭い薬剤を選択するのが基本になります。
・第一選択薬は細菌の種類ごとに決まっているので、あとは感受性があるのかをSIRでチェックするという流れです。
組織移行性を考慮する
組織移行性を考慮して選択することが大切です。
感受性があって臨床効果も期待できる抗菌薬であっても、組織に到達できないと意味がありません。炎症部位に届かないと効果自体が得られないのです。
たとえば、黄色ブドウ球菌であれば、通常CEZが第一選択になります。蜂窩織炎や手術部位感染では最適な治療薬といえますね。
髄膜炎の場合はどうでしょうか?
CEZは第一選択薬としてふさわしくありません。第一世代、第二世代セファロスポリンは髄液への移行性が悪いからです。
このケースでは、髄膜移行に優れた第3世代セファロスポリンが第1選択になります。髄膜炎では移行性を考慮して抗菌薬の選択することが不可欠なのです。
前立腺も移行性を考慮する!
たとえば、尿路感染症で起炎菌が大腸菌であれば、普通に考えてABPCやCEZが第一選択になります。
でも、細菌性前立腺の場合はどうか?
前立腺は抗菌薬が移行しにくい組織です。たとえば、内服薬で治療する場合には、吸収が良くて組織移行の良い脂溶性が高い薬剤が選択されます。ST合剤やニューキノロン系薬などですね。
・細菌の種類ごとに第一選択薬が決まっています。でも、感染組織まで届かないと期待する効果が得られません。抗菌薬の移行性まで考えて提案することが大切なのです。
まとめ

最後にまとめておきますね。
『細菌ごとに対応する第一選択の抗菌薬をマスターする』
ポイントは以下のとおりです。
▽グラム陽性球菌と陰性桿菌に分けて考える
- ●陽性球菌は3種類、■陰性桿菌は3グループに分ける
- ●GPC…連鎖球菌、ブドウ球菌、腸球菌
- ■GNR…PEK(大腸菌、プロテウス、クレブシエラ)、HM(インフルエンザ菌、モラクセラ)、SPACE(セラチア、緑膿菌、アシネトバクター、シトロバクター、エンテロバクター)
▽細菌ごとに代表的な感染症と第一選択薬を覚えておく
- ●連鎖球菌…肺炎、髄膜炎、咽頭炎、蜂窩織炎など→PCGかABPC
- ●ブドウ球菌…皮膚粘膜組織感染、カテーテル感染など→CEZ(MRSAはVCM)
- ●腸球菌…主に尿路感染、血流感染→ABPC(フェシウムはVCM)
- ■PEK…主に尿路感染→CEZ(ABPCが使える場合も、ESBLはカルバペネム、βラクタマーゼ阻害剤入り、CMZなどを選択)
- ■HM…主に上気道感染→CTM(BLNARはCTRX)
- ■SPACE…広く院内感染症→CTRX、CAZ、PIPC、CFPM、カルバペネム(耐性度によって使い分ける)
▽抗菌薬選択時に陥りやすいピットフォール
- MICをタテ読みして、MICが低いのが第一選択薬?→NO。スペクトルが最も狭く臨床効果が期待できる抗菌薬が第一選択薬!感受性SIRをチェック!
- 細菌名だけを見て第一選択薬を決定?→NO。組織への移行性も考慮して抗菌薬を選択(髄膜炎、前立腺炎など)
参考文献)
・サンフォード感染症治療ガイド2018
・JAID/JSC感染症治療ガイド2014
・レジデントのための感染症診療マニュアル第2版
今回は、細菌ごとに対応する第一選択薬をテーマに押さえておきたいポイントを解説しました。
「起炎菌が同定されたら、第一選択薬への変更が可能か?」日頃から意識することが耐性菌防止への第一歩ですーー♪
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