今回のテーマはトリプタン製剤!
片頭痛の治療薬です。
現在国内では5成分10種類がラインナップされています。私はイミグランとレルパックス、マクサルト以外の存在を、記事を書くにあたり初めて知りました(^^;)
があります。剤型が多く、使い方や注意点も製剤ごとに異なるからです。私は扱う機会がそれほど多くないので、なかなか覚えられません。記憶はほぼ白紙の状態…。苦手分野の一つです。
そこで今回は、足りない知識を補い、曖昧な記憶をクリアにするべく、トリプタン製剤5成分10種類の特徴についてまとめたので共有したいと思います。
トリプタン製剤の基本

まずは基本情報から。
種類
はじめにトリプタン製剤の種類を確認します。冒頭で述べたように、全部で5成分、10種類です。
イミグランは剤型が豊富です。注射(アンプル)と点鼻に加えて、自己注射用のキット製剤もあります。使い分けは後述しますね。
一方で、錠剤の改良型として、ゾーミッグはRM錠(Rapid Melt in mouth :口腔内速溶錠)、マクサルトはRPD(Rapid Dissolution:口腔内崩壊錠)があります。いずれも水なしで服用できるタイプです。
また、いずれにおいても経口剤はジェネリックが発売されており、エレトリプタンは先発(レルパックス)に設定がないOD錠があります。
販売日を見ると、アマージ以降、ここ最近は新薬・新剤型が登場してないんですね。
作用機序

続いて、トリプタン製剤の作用機序について。片頭痛の発生メカニズムと合わせて押さえておきましょう。
大きく①血管説と②三叉神経血管説の2つがあります。
①血管説
5-HTが過剰に放出
②三叉神経血管説
CGRP、サブスタンスPが放出
上記を踏まえて、作用機序を確認します。
トリプタン製剤はセロトニン1Bと1Dの選択的作動薬です。
以下のように、片頭痛が起こる経路を両方を抑えます。
②CGRPの放出抑制
※カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide;:CGRP)
トリプタン製剤に選択性を持たせたのは何故か?
非選択性だと血管収縮により心血管疾患の発症や悪化、血圧上昇など全身性の副作用を引き起こす危険性が高まるからです。トリプタン製剤は脳動脈とその近傍に多く存在するセロトニン1Bと1D受容体に選択的に作用することで、副作用の軽減を図っています。
片頭痛の治療薬

慢性頭痛の診療ガイドライン2013によると、片頭痛の治療は薬物療法がメインです。大きく2本の柱からなります。
- 急性期治療(頓挫療法)
- 予防療法
ポイントを簡単に押さえておきましょう。
治療薬の種類
- アセトアミノフェン
- NSAIDs
- エルゴタミン
- トリプタン
- 制吐剤
重症度に応じた層別治療が推奨されています
アセトアミノフェン、NSAIDs(アスピリン、ナプロキセンなど)±制吐剤
トリプタン±制吐剤(メトクロプラミド、ドンペリドン)
トリプタン±制吐剤
トリプタン製剤は作用機序からしても片頭痛の特異的治療薬です。出番は、中等度から重度の頭痛とNSAIDsが効果不十分な時である点は押さえておきましょう。
ちなみにエルゴタミン製剤はどうか?
最近はほとんど見かけませんが、トリプタンで頻回に頭痛が再燃する場合の選択肢になるそうです。吐き気の副作用が起こりやすく、妊娠中や授乳中も禁忌であるため、第一選択で使用することはほぼありません。
予防薬の種類
- ロメリジン(ミグシス)
- プロプラノロール(インデラル)
- バルプロ酸(デパケン)
- アミトリプチリン(適応なし)
- カンデサルタン、リシノプリル(適応なし)
Ca拮抗薬のロメリジンやバルプロ酸は有名ですね。まさか、ACE阻害薬やARBが使われるのは知らなかったです。予防薬は、片頭痛発作が月2回以上、6日以上ある時に考慮するとされています。
抗CGRPモノクローナル抗体製剤が登場!
エムガルティは片頭痛発作の発症抑制に適応があります。加えて、同CGRP薬のアイモビーグ、アジョビも発売されました。別記事で特徴を解説していますので、合わせてご確認下さいね。


トリプタン製剤の特徴・比較

ここからは、各製剤の特徴について、比較しながら解説します。ポイントは大きく5つです。
- 適応と剤型
- 用法用量
- 禁忌
- Tmaxと半減期
- 相互作用
順番に見ていきましょう。
適応と剤型

まず一つ目。適応と剤型に注目します。ポイントは2つです。
①群発頭痛に使える薬剤あり!
トリプタン製剤は片頭痛の治療薬ですが、加えて、群発頭痛に使える製剤あります。
- 片頭痛…すべてのトリプタン製剤
- 群発頭痛…イミグラン注・キット
特に、イミグラン皮下注キット(自己注射)は有用!
なぜなら、群発頭痛は発作が夜間に起こることが多く、医療機関へ受診が難しいことに加えて、持続時間が比較的短く、医療機関到着時には収まっている可能性もあるからです。
片頭痛と群発頭痛の違いについて
症状をざっくりまとめると下記です(慢性頭痛の診療ガイドライン2013参照)
②剤型による使い分け
トリプタン製剤は剤型ごとに、以下のように使い分けます。
- 標準…経口剤
- 経口困難(吐き気、嘔吐など)…注射薬、点鼻薬
- 外出時…RPD錠(口腔内崩壊)、RM錠(速溶性)
基本は普通錠ですが、経口投与が難しいなら注射又は点鼻が選択肢に上がります。吐き気が強い場合等ですね。水なしで飲めるRPD、RM錠は外出時に向いています。
用法用量の違い

次に投与方法について。ここがトリプタン製剤のややこしいところです。ポイントは大きく3つあります。
①追加投与のタイミングは3パターン
- 1時間以上
-
イミグラン注キット
- 2時間以上
-
イミグラン錠・点鼻、ゾーミッグ錠・RM錠、レルパックス錠、マクサルト錠・RPD錠
- 4時間以上
-
アマージ錠
剤型に注目すると覚えやすいです。
錠と点鼻は2h以上、注射は1h、例外としてアマージは半減期が長い(後述)ので4h以上というふうに。
②増量できる薬剤は4種類!
一部のトリプタン製剤は効果不十分の時に、次回から倍量を投与できます。
1回量を増量できる薬剤
- イミグラン錠
- ゾーミッグ錠
- 同RM錠
- レルパックス錠
メリットは調節性に優れる点ですね。頭痛の強さに合わせて投与量を調節できます。
③1日の最大投与量は2パターン!
1日の最大投与回数が異なります。
【通常量×2】の薬剤は1日2回、【通常量×4】の薬剤は1日4回ですね。
【通常量×4】は増量できる薬剤が該当します。イミグラン錠とゾーミッグですね。増量後も1日2回を限度に投与できます。一方で、レルパックスは例外です。増量できる薬剤ですが、通常量×2なので。増量後は追加投与ができない点は気をつけましょう。
禁忌

続いて禁忌に注目です。ポイントは3つあります。※併用禁忌は後述します
①基礎疾患のチェックが必須!
トリプタン製剤は共通の禁忌項目があります。特に押さえておきたいのが下記です。
- 心筋梗塞の既往、虚血性心疾患又はその症状・兆候のある患者、異型狭心症(冠動脈攣縮)のある患者
- 脳血管障害や一過性脳虚血性発作の既往のある患者
- 末梢血管障害を有する患者
- コントロールされていない高血圧症の患者
心血管疾患や血圧などへの影響が懸念されます。脳動脈への選択性が高いとはいえ、全身の血管収縮作用があるからです。投与前に基礎疾患や血圧などのチェックが欠かせません。
②肝機能と腎機能も要確認!
トリプタン製剤は肝機能や腎機能に合わせて投与制限があります。血中濃度の上昇、AUC増大により、副作用のリスクが高まるからです。
処方監査の時には投与の可否について確認を徹底しましょう。マクサルトとアマージは肝機能と腎機能、両方チェックですね。
③減量基準あり!
禁忌に該当しなくても、肝機能や腎機能に合わせて減量基準があります。
ゾーミッグとアマージは1日投与量に注意が必要!
肝機能障害患者又は腎機能障害患者では、血中濃度が上昇するおそれがあるので、1日の総投与量を2.5mgとすること
アマージ錠 添付文書
中等度又は重度肝機能障害患者[血中濃度が上昇するおそれがある。特に重度肝機能障害患者では、1日の総投与量を5mg以内とするなど慎重に投与すること
ゾーミッグ錠 添付文書
Tmaxと半減期

続いてTmaxと半減期に注目します。ポイントは3つです。
①速効性が期待できる製剤
速効性を求めるなら
【イミグラン注・キット】、続いて【イミグラン点鼻】、【その他】の順番です。
Tmaxの比較だけならイミグラン点鼻よりもレルパックスの方が早いけど、点鼻は投与10分後に第一のピーク認めるとのこと。下記のように、鼻腔内から速やかに吸収されます。
本剤は鼻腔内投与後速やかに吸収され、投与10分後に鼻腔粘膜からの吸収による最初のピークを認め、1.5時間後には嚥下により消化管から吸収された第2のピークを認めた。消失半減期(t1/2)は約2時間であった。
イミグラン点鼻、インタビューフォーム
②RM錠とRPD錠は口腔内から吸収されない
ゾーミッグRMやマクサルトRPDは普通錠とほぼ同等です。早く効きそうなイメージですがそうではありません。Tmax、半減期は普通錠とほぼ変わらないからです。
③アマージの効果は持続性!?
アマージは他のトリプタン製剤と比べて明らかに半減期が長いです。
相互作用

最後に相互作用について。トリプタン製剤は併用禁忌・注意薬が多いです。代謝酵素の違いにより、製剤ごとに種類も異なります。ポイントは下記2つです。
①薬効による相互作用:共通点
薬効重複による相互作用は各トリプタン製剤に共通です。
エルゴタミン製剤や5-HT1B/1D受容体作動薬との併用は禁忌(24h以内)
血圧の上昇と血管攣縮のリスク(心血管イベント等)があります。24時間以内は禁忌、投与する場合にはそれ以上の間隔が必要です。
同じ薬効重複でもSSRI、SNRIとの併用は可。
しかし、セロトニン症候群のリスクがあり、前駆症状のモニタリングが欠かせません。
②代謝酵素による相互作用:相違点
- イミグラン…MAO阻害薬(禁忌)
- ゾーミッグ……MAO阻害薬(禁忌)、CYP1A2阻害薬(注意)
- レルパックス…CYP3A4阻害薬(禁忌、注意)
- マクサルト…MAO阻害薬(禁忌)
- アマージ…なし
一方で、代謝酵素による相互作用は成分ごとに異なります。
MAO-Aで代謝されるイミグランとゾーミッグ、マクサルトはMAO阻害薬と禁忌です。
添付文書には具体的に製品名の記載がないですが、セレギリン、ラサギリン、サフィナミド等が該当すると考えられます。それから、気になるのがリネゾリド。非選択的なMAO阻害作用があり、血中濃度の上昇が懸念されます。
ゾーミッグとレルパックスはCYPとの相互作用に注意です。
特にCYP3A4は種類が多く、併用薬のチェックが必須ですね。一方で、アマージは代謝酵素を介した相互作用がありません。使い勝手が良さそうですね。
まとめ

今回は、トリプタン製剤5成分10種類の特徴についてまとめました。製品ごとのポイントは下記のとおりです。
- イミグラン…4剤型、点鼻と注射は経口困難時に有用、速効性もあり
- ゾーミッグ…2剤型、RM錠は水なしでOK、増量可、CYP1A2注意!
- レルパックス…増量可(※その場合、追加投与×)、CYP3A4注意!
- マクサルト…2剤型、RPD錠は水なしでOK、増量不可、相互作用少なめ
- アマージ…半減期が長い、肝機能・腎機能障害→減量、相互作用が少ない
記事を書きながら、製剤ごとに棲み分けがされていると感じました。剤型や投与方法、相互作用、肝機能・腎機能から患者さんごとに薬剤を選択するかたちですね。日常業務(処方監査や処方提案等)にお役立て頂けたらうれしいです♪