腎機能に応じた投与量かどうかの確認は、薬剤師が行う大切な仕事の一つです。
処方箋に並んだ薬品名を眺め、腎排泄型薬剤をパッと区別し、「あっ、この薬は要注意!」と、危険を察知できれば、仕事がはかどります。
一方で、見逃すと大変です。血中濃度上昇により副作用の危険性が高まります。
「そんな状況は避けたい!」ですよね。
そこで今回は、
腎排泄型薬剤のなかでも「見逃すと危険な薬」を厳選しました!
独自ランキング形式で紹介します。
さっそく第5位から発表していきますね。
第5位)抗ヘルペスウイルス薬

第5位は
抗ヘルペスウイルス薬!
みんな知っているように、腎排泄型薬剤の代表です。尿中未変化体排泄率が高く腎機能に合わせた投与量の調節が必要になります。帯状疱疹や単純ヘルペスなどの治療薬で、皮膚科専門医だけでなく一般医も処方する臨床でよく見かける薬です。
腎排泄型の薬剤は3つあります
一般名 | 商品名 |
---|---|
アシクロビル | ゾビラックス錠・顆粒・点滴 |
バラシクロビル | バルトレックス錠・顆粒 |
ファムシクロビル | ファムビル錠 |
特徴を簡単に確認すると、アシクロビルは投与回数が多く1日5回です。バイオアベイラビリティが低いためですね。一方、バラシクロビルはプロドラッグ化により吸収率が改善、1日3回投与になりました。ファムシクロビルは活性体ペンシクロビルのプロドラッグです。中枢移行が低く精神障害が起こりにくいのが特徴ですね。
参考までに、
最近発売された抗ヘルペス薬アメナメビル(アメナリーフ)は腎排泄型ではありません。ヘリカーゼ-プラマーぜ複合体阻害剤で、排泄経路が肝臓であるため腎機能障害がある方にも通常量使用できます。

過量投与のリスクは下記です!
(過量投与)急性腎障害、精神神経症状(錯乱、幻覚、激越、意識低下、昏睡等)が報告されている
バルトレックス錠 添付文書
アシクロビルの尿中未変化体排泄率は約85%です。投与量の殆どが腎臓から排泄されます。しかも、タンパク結合率は9〜33%と低く、遊離型の脳内移行が良いので過量投与の場合、容易に精神障害が発現します。
腎障害にも注意!
糸球体ろ過に加えて尿細管分泌される抗ヘルペスウイルス薬は、溶解度を超えた成分が尿細管で結晶化し閉塞性の腎障害を起こ可能性があるからです。
服用中は水分補給が欠かせません。特に脱水症状を起こしやすいケースでは、多めの水分摂取が必要です。高熱や下痢症状を認める人も注意ですね。
9.1.1 脱水症状をおこしやすいと考えられる患者(腎障害のある患者又は腎機能が低下している患者、高齢者等)適切な水分補給を行うこと。
ゾビラックス点滴静注 添付文書
また、NSAIDs併用も要注意。プロスタグランジン産生阻害により、腎血流量を低下させるからです。排泄遅延に伴う副作用や腎障害の発症リスクを増加させる可能性があります。
第4位)腎排泄型の抗不整脈薬

第4位は
腎排泄型の抗不整脈薬です。
ピルシカイニド、ソタコール、シベンゾリンなどですね。
尿中未変化体排泄率が高く、腎機能に応じた投与量設計が必須です。また、血中濃度の安全域が狭いため、定期的なTDMと副作用モニタリングが欠かせません。
尿中排泄率が高いNaチャネル遮断薬
過量投与のリスクは?
(過量投与)過量投与又は高度の腎機能障害により、本剤の血中濃度が上昇した場合、刺激伝導障害(著明なQRS幅の増大等)、心停止、心不全、心室細動、心室頻拍(Torsades de pointesを含む)、洞停止、徐脈、ショック、失神、血圧低下等の循環器障害、構語障害等の精神・神経障害を引き起こすことがある。
サンリズムカプセル 添付文書
腎機能のチェック漏れは命に関わります。うっかり見逃して心停止になることは何としても避けないといけないですね。
特に、ピルシカイニドは要注意!
尿中未変化体排泄率は約86%と高く、CKDや透析患者さんでは腎機能に合わせた投与設計が欠かせないからです。2021年7月に医療事故も発生しています。別記事で安全対策(腎機能チェックの重要性)について書いているのであわせてご確認くださいね。

シベンゾリンも注意!
2012年7月に心停止による死亡2例(高度の腎機能障害患者)の報告を受けて適正使用情報が発行されました。

3つの注意点は以下のとおりです。
- 腎機能に応じた投与量調節
- 少量から開始(高齢者の場合)
- 定期的なTDM
第3位)神経障害性疼痛治療薬プレガバリン

第3位は
神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(リリカ)です。
もともと「帯状疱疹後神経痛」の適応で発売。その後、「末梢性神経障害性疼痛」「繊維筋痛症に伴う疼痛」と次々に適応が追加され、今では中枢領域も含めた幅広い適応があります。
もう、神経痛だったら何でもリリカって感じですね。
腎機能障害のある人は減量が必要!
尿中未変化体排泄率は約90%と高く、腎機能に合わせた投与量の調節が欠かせないからです。過量投与は副作用のリスク増加させます。
(腎機能障害患者)クレアチニンクリアランス値を参考として本剤の投与量及び投与間隔を調節すること。本剤は主として未変化体が尿中に排泄されるため、血漿中濃度が高くなり副作用が発現しやすくなるおそれがある
リリカカプセル 添付文書
注意すべき副作用は下記です!
(国内プラセボ対照試験)主な副作用は、浮動性めまい(31.1%)、傾眠(28.6%)、便秘(12.1%)、末梢性浮腫(11.7%)であった。
リリカカプセル 添付文書
発現頻度は総じて高い傾向があります。その後の調査で、特に65歳以上の高齢者で副作用が起こりやすいことがわかりました。
転倒のリスクにも注意が必要です!
PMDAの添付文書情報メニューから2つのキーワード『重大な副作用』と『転倒』で検索すると、3剤がヒットします。
リリカと同効薬のタリージェ、パーキンソン病治療薬アジレクト。
プレガバリンは「転倒」が重大な副作用と記載された数少ない薬(以前は唯一)です。服用により転倒し骨折に至ったとの報告もあり、2012年7月に発行された「リリカカプセル®︎適正使用のお願い」で注意喚起がされています。

ポイントは下記です。
- めまい、傾眠、意識消失に加えて、転倒に対する注意喚起を行うこと
- CKD患者や高齢者では、副作用が起こりやすいので初回はできるだけ少量から忍容性を確認しながら効果を見ながら用量を増やすこと
プレガバリンには「潜在的な骨折リスク」があり、リスク軽減のために腎機能に合わせた投与量調節が欠かせません。特に高齢者やCKD患者では要注意ですね。
「初回は少量から開始すること」も大切だと思います。実際に副作用の確認を行なっていると、ふらつきや浮動感の訴えは多い印象があるからです。忍容性を確認しながら投与量を調節していくのが基本ですね。
第2位)ビグアナイド系糖尿病薬メトホルミン

さて、第2位は、
糖尿病治療薬のメトホルミン。
糖尿病薬で初めて心血管イベントの抑制作用が示された薬剤です。米国のガイドラインでは2型糖尿尿の第一選択薬に位置付けられています。国内でも使用頻度が増えていますが、まだまだDPP-4阻害薬が一番使われている印象があります。副作用が怖い…というイメージがまだまだ強いのかもしれません。
尿中未変化体排泄率は85%と高い!
メトホルミンはeGFR30未満、透析患者に禁忌です。
(禁忌)重度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)のある患者又は透析患者(腹膜透析を含む)
メトグルコ錠 添付文書
eGFR30以上であれば投与可能ですが、eGFR30-45では有益性投与となっています。血中濃度の上昇により副作用の出現が懸念されるからです。
(用法及び用量に関連する注意)特に、eGFRが30mL/min/1.73m2以上45mL/min/1.73m2未満の患者には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること
メトグルコ錠 添付文書
以前の判断基準は、「中等度腎機能障害は禁忌で、血清クレアチニン値が、成人では男性1.3mg/dL、女性1.2mg/dL以上の場合には投与しない」と国内臨床試験の除外基準をもとに、性別ごとに血清クレアチニン値から投与の可否を判断していました。その後、eGFRを用いた腎機能評価方法に改められ、「eGFRが30mL/min以上」がメトホルミンを投与できる条件となり、30〜45mL/minでは乳酸アシドーシスのリスク因子を考慮して慎重に投与します。
また、以下のように腎機能に応じて最大投与量が決まっています。
eGFR(mL/min/1.73m2) | 最大投与量 |
---|---|
45≦ eGFR<60 | 1500mg |
30≦ eGFR<45 | 750mg |
過量投与のリスクは下記です
(過量投与)乳酸アシドーシスが起こることがある。
メトグルコ錠 添付文書
メトホルミンは血中濃度の上昇により乳酸アシドーシスを起こす可能性があります。肝臓における糖新生(アミノ酸や乳酸からグルコースを生成)を過度に妨げることにより、乳酸が体内に蓄積しやすくなるからです。
乳酸アシドーシスを防ぐためには
投与前の腎機能チェックに加え、服用中の脱水予防についての指導も大切です。メトホルミン服用中は適度な水分補給が欠かせません。Recommendationには、脱水予防の具体的な指針も記載されています。
・シックデイの際には脱水が懸念されるので、いったん服薬を中止し、主治医に相談する
メトホルミンの適正使用に関するRecommendation
・脱水を予防するために日常生活において適度な水分摂取を心がける
・アルコール摂取については、過度の摂取患者では禁忌であり、摂取を適量にとどめるよう指導する。また、肝疾患などのある症例では禁酒させる。
第1位)抗凝固薬ダビガトラン

第1位は、
ダントツで、抗凝固薬のダビガトラン(プラザキサ)です。
同薬は経口抗トロンビン薬で、通称DOAC(DOAC)と呼ばれています。メリットは、定期的な血液検査が要らず、頭蓋内出血のリスクも低い、さらに薬や食べ物との相互作用も少ないことです。
発売当初はワルファリンに代わる抗凝固療法薬として注目されましたが、発売後から5ヶ月足らずで、重篤な出血性副作用が81例、そのうち5例の死亡が報告があり、ブルーレターが発行されました。

過量投与のリスクは、
出血の副作用。超有名ですよね。
出血の頻度は?
プルーレター発行後、しばらくしてダビガトランの市販直後調査結果が報告されました。
2011年3月から6ヶ月間の報告件数は以下のとおりです。
- 重篤な出血事象は139例、そのうち15例が死亡
- 死亡例15 例のうち13 例は腎障害あり
→うち6例はeGFR30未満【禁忌】 - 139例中で腎機能障害を認めたのは76例
→うち22例はeGFR30未満【禁忌】 - 出血部位は約6割が消化管出血、約2割が頭蓋内出血
出血事象が見られた患者さんの多くに腎機能障害が認められ、中には禁忌の人もおられました。この報告から腎機能チェックの甘さが露呈されたわけです。
未変化体尿中排泄率は80%!
ダビガトランは他のDOACと比べる飛び抜けています。
- ダビガトラン(プラザキサ) …80%
- リバーロキサバン(イグザレルト) …30〜40%
- エドキサバン(リクシアナ) …35%
- アピキサバン(エリキュース) …27%
腎機能に合わせた厳密な投与量調節が必要で、処方前のeGFRチェックが欠かせません。別記事でDOACの処方監査についてポイントまとめたのであわせてご覧くださいね。

バイオアベイラビリティ(BA)も低い!
約6.5%。ダビガトランがP糖蛋白の基質となり消化管腔へ排出されるためです。多くの薬剤との相互作用に注意が必要になります(添付文書を参照)。
血中濃度上昇による出血性合併症の危険が高まるので併用薬のチェックも欠かせません。
まとめ

今回は腎排泄型薬剤のなかでも「見逃すと危険な薬」を厳選、独自ランキング形式で紹介しました。
処方箋を見て、注意すべき腎排泄性薬剤はないか?
安全な薬物療法をサポートするために、危険を察知できる確かな目を持っておきたいですね。
毎回添付文書や書籍を確認する余裕はないので、普段目にする機会の多い薬剤と腎機能別の投与量をまとめておくと、処方監査もスムーズに行えます♪