ニューキノロン系のスペクトルを理解する【臨床の位置付け、適正使用のポイントも解説】

当ページのリンクには広告が含まれています

抗菌薬の勉強を始めるなら、まずはペニシリンやセフェム系からですよね。

その次はどの系統を学べばいいのか?

おすすめはキノロン系!

適正使用のために押さえておきたい代表的な抗菌薬だからです

ニューキノロン系は抗菌スペクトルが広く経口投与できるのが良いところ。一方で、乱用に伴う耐性菌の問題が指摘されています。また、投与前にチェックすべき項目も少なくありません。

今回は、ニューキノロン系薬をテーマに、薬剤師が押さえておきたいポイントまとめたので共有したいと思います。

目次

ニューキノロン系薬の基本知識

キノロン系薬の一覧

発売日から並べると以下のようになります。

略号一般名商品名発売日
NAナリジクス酸ウイントマイロン1964年内服
PPAピぺミド酸ドリコール1978年内服
NFLXノルフロキサシンバクシダール1984年内服
OFLXオフロキサシンタリビッド1985年内服
CPFXシプロフロキサシンシプロキサン1988年内服
2000年注射
LFLXロメフロキサシンバレオン1990年内服
2000年注射
TFLXトスフロキサシンオゼックス1990年内服
LVFXレボフロキサシンクラビット2000年内服
2011年注射
PZFXパズフロキサシンパズクロス2002年注射
MFLXモキシフロキサシンアベロックス2005年内服
GRNXガレノキサシンジェニナック2007年内服
STFXシタフロキサシングレースビット2008年内服
LSFXラスクフロキサシンラスビック2020年内服
2021年注射

ざっと、13成分です。ナリジクス酸は現在販売されていません(経過措置期限2018年3月)

2008年以降は、新しいキノロンが登場していませんでしたが、2019年12月にラスビック錠が承認、2020年1月に発売されました。別記事に詳しくまとめているので合わせてご覧くださいね。

ニューキノロンとオールドキノロン

キノロン系は大きく2種類に分かれます。

  • オールドキノロン
  • ニューキノロン

ニューキノロンは、ノルフロキサシン(NFLX)以降に発売された抗菌薬です。

NFLX以前のキノロン系をオールドキノロンといいます。ナリジクス酸やピペミド酸などです。遠い記憶ですが、薬学部で習った気がしますね。

ニューキノロンとオールドキノロンは何が違うのか?

大きく2つです。

抗菌スペクトル
組織移行性

ニューキノロンは抗菌スペクトルが広い!

オールドキノロンの抗菌スペクトルは限定的です。一部のグラム陰性桿菌のみに活性を示します。

一方で、ニューキノロンの抗菌スペクトルは広範囲です。多くのグラム陰性桿菌に加えて、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌などグラム陽性球菌、マイコプラズマなど非定型細菌までカバーできるようになりました。今ではさらに嫌気性菌に活性があるタイプも登場しています。

ニューキノロンは組織移行性もアップ!

2つ目の違いは組織の移行性。

オールドキノロンのナリジクス酸は組織移行性が悪く、尿路感染症や腸管感染症のみの適応でした。

一方で、ニューキノロンは体内動態が安定し、血中濃度と組織内濃度が高まりました。腸管や尿路感染などの局所の感染症に加えて、咽頭炎や副鼻腔炎、肺炎なども含め全身の感染症にも使用できます。

ニューキノロンはキノロン骨格の6位にフッ素原子がつくことで抗菌スペクトルが拡大し、組織移行性が改善されました。別名フルオロキノロンといわれる所以です

キノロン系の作用機序

キノロン系薬の作用点は2つあります。

  1. DNAジャイレース
  2. トポイソメラーゼⅣ

いずれも細菌DNAの複製に関わる酵素です。

作用点の違いにより抗菌スペクトルが変わります

①DNAジャイレースに作用…グラム陰性桿菌
②トポイソメラーゼに作用…グラム陽性球菌

従来のキノロンは①の割合が大きく主にグラム陰性桿菌に、世代の新しいキノロン系は、②の割合も高くなり、グラム陽性球菌へのスペクトル、抗菌活性が向上しています。

抗菌スペクトル

書籍によって分類方法は異なりますが、スペクトルに注目すると大きく4世代に分類できます。

第1世代

・グラム陰性桿菌(一部)

第2世代

・グラム陰性桿菌(広く)+ブドウ球菌、非定型細菌

第3世代

・第2世代+レンサ球菌(肺炎球菌を含む)

第4世代

・第3世代+嫌気性菌

第1世代のスペクトルはグラム陰性桿菌の一部のみです。第2世代になると、多くのグラム陰性桿菌やグラム陽性菌、レジオネラやマイコプラズマ、クラミジアなどの非定型細菌まで拡大しています。

第3世代以降の特徴は、肺炎球菌や溶連菌など連鎖球菌に対する抗菌力が強くなった点です。第4世代になるとバクテロイデスやプレボテラのような嫌気性菌にも抗菌活性を示します。

ニューキノロンの世代による抗菌スペクトルの変化は、ちょうど、ペニシリン系とセフェム系が世代が新しくなるとグラム陽性菌からグラム陰性桿菌にスペクトルが強くなっていくのと逆ですね

抗菌スペクトル表:キノロン系

世代ごとの抗菌スペクトルと対応する薬剤名は以下のとおりです。

世代スペクトル抗菌薬
第1世代グラム陰性桿菌(一部)NA、PPA
第2世代グラム陰性桿菌(広く)
+ブドウ球菌、非定型細菌
OFLX、CPFX、LFLX、PZFX
第3世代第2世代
+レンサ球菌
TFLX、LVFX
第4世代第3世代
+嫌気性菌
MFLX、GRNX、STFX

ざっと、こんな感じ。

ニューキノロン系薬の種類と対応するスペクトルはある程度、覚えておいた方がいいと思います。抗菌薬の選択やコンサルテーションで活用できる知識なので。

押さえておきたいニューキノロン薬

といっても、すべてを覚えるのは大変なので、日常良く使われる代表的なものから押さえておくのがオススメです。

・第2世代…CPFX、PZFX
・第3世代…LVFX、TFLX
・第4世代…MFLX、GRNX、STFX

絶対覚えておきたいのは、CPFX(シプロフロキサシン)、LVFX(レボフロキサシン)、MFLX(モキシフロキサシン)の3つです。それ以外は同系統の薬剤なので余裕があればで良いと思います。ここからは、臨床的な位置付けについて見ていきますね。

ニューキノロン系薬、臨床における位置付け

シプロフロキサシンの位置付け

CPFXは緑膿菌を含めたグラム陰性桿菌の感染症に用います

第2世代のCPFXはグラム陰性桿菌に抗菌活性が強く、中でも緑膿菌に優れているからです。

たとえば、腹腔内感染症や院内肺炎など。必要に応じてβラクタム薬やメトロニダゾール(MNZ)、クリンダマイシン(CLDM)などと併用します。

一方で、市中肺炎のエンピリック治療において単独で使用することはありません。肺炎球菌などのグラム陽性球菌や嫌気性菌に活性が期待できないからです。

緑膿菌に使える数少ない経口薬の1つ

CPFXは緑膿菌をターゲットに経口投与できます。

たとえば、発熱性好中球減少症(FN)で外来治療する場合です。

FNは抗がん剤や免疫抑制剤の投与中に、好中球が減少し発熱が生じている状態で、緑膿菌を含めたグラム陰性桿菌、グラム陽性球菌をカバーした抗菌薬の投与を開始します。

入院治療では、セフェピム(CFPM)やピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)などを使用する一方で、外来治療が可能な低リスク例では緑膿菌にもっとも効果が期待できるCPFXが有力な選択肢の一つです。

発熱性好中球減少症

▽経口抗菌薬による経験的治療(低リスク)
・CVA/AMPC 経口250mg×4
CPFX経口400mg×2
・LVFX経口500mg×1
※保険適用外

参考文献)JAID/JSC感染症治療ガイド2019

CPFXが第一選択で使用される場面は少ない!

基本的にシプロフロキサシンは代替薬になります。

抗緑膿菌用のペニシリンやセフェム系薬が用意されているからです。たとえば、ピペラシリン(PIPC)やセフタジジム(CAZ)などが第一選択で使用されます。副作用や移行性の問題でβラクタム薬が使えない時の選択肢の一つです。

ただし、レジオネラ肺炎は例外。第2世代の注射製剤であるCPFXやPZFXが第一選択です。

▽成人細菌性肺炎、Legonella属(入院治療を原則とする)
・LVFX点滴静注500mg×1
CPFX点滴静注300mg×2〜3
PZFX点滴静注500〜1000mg×2
・AZM点滴静注500mg×1

参考文献)JAID/JSC感染症治療ガイド2019

基本的に、CPFXは緑膿菌をターゲットに、βラクタム薬がアレルギーや副作用等で使用できないときに選択する薬剤という理解ですね。

レボフロキサシンとモキシフロキサシンの位置付け

LVFXとMFLXは呼吸器感染症に強いレスピラトリーキノロンです

肺炎の起炎菌、第1位は肺炎球菌!

第3世代以降のLVFX、MFLXは特に肺炎球菌に活性が強いのが売りです。

加えてクレブシエラやインフルエンザ菌、さらには非定型肺炎を引き起こすレジオネラやマイコプラズマなどもカバーできます。しかも、経口投与が可能で、1日1回の投与で済むのもメリット!

レスピラトリーキノロンは患者さんにとって利便性が良いので、特に市中肺炎の外来治療で多く用いられる抗菌薬です。

レスピラトリーキノロンも第一選択の状況は少ない!

LVFX、MFLXは第一選択ではありません。ここはポイント!

非定型細菌の関与がないと判断できれば、経口ペニシリンのクラブラン酸/アモキシシリン(CBA/AMPC)、スルタミシリン(SBTPC)などが使用できるからです。非定型細菌の可能性があっても、マクロライド系やテトラサイクリン系を選択します。

市中肺炎では、第二選択の位置付けです。

▽細菌性肺炎、外来治療の第二選択
LVFX経口500mg×1
・GRNX経口400mg×1
・STFX経口100mg×1〜2
MFLX経口400mg×1
・TFLX経口300mg×2

参考文献)JAID/JSC感染症治療ガイド2019

結核菌の耐性化、診断の遅れにつながる可能性も!

ニューキノロン系薬は抗酸菌にも抗菌活性を示すからです。

リファンピシンやイソニアジド、ピラジナミド、ストレプトマイシン、エタンブトールなどの抗結核薬が使用できないときには、ニューキノロン系薬(LVFXは保健収載)などが代替薬になります。

安易な処方は、診断の遅れや結核菌耐性の危険性もあるので、慎まないといけません。

レスピラトリーキノロンは第一選択ではないし、結核菌の関与が否定できない状況で使用するのは適切ではありません。

レスピラトリーキノロンは温存しておくべき

基本的には第二選択、代替薬という位置付けになります。βラクタム薬やマクロライド系薬がアレルギーや副作用、相互作用等で使用できない場合です。

一方で、COPDなど慢性呼吸器疾患増悪時の気道感染症治療においては、原因菌すべてに優れた抗菌活性があり、臨床効果も期待できるという理由で第一選択になっています。

▽慢性呼吸器疾患の気道感染症、外来治療(第一選択
・GRNX経口400mg×1
LVFX経口500mg×1
・STFX経口100mg×1〜2
MFLX経口400mg×1
・TFLX経口300mg×2

参考文献、JAID/JSC感染症治療ガイド2019

ニューキノロンを選択する場合には、結核の可能性を考慮することが必須です。

また、尿路感染症の外来治療で使用する場合もありますが、キノロン耐性大腸菌の増加が問題になっているので、必要性を十分に考慮した上で使用する必要があります。

抗菌スペクトルが広く、経口投与できるのがメリットである一方で、使用する場面は限定的で、耐性菌の出現を防止するために、できるだけ温存しておくべき抗菌薬だといえます

ニューキノロン系薬、処方前に確認するべきポイント

PK-PD理論に基づいているか?

ニューキノロンは濃度依存性の抗菌薬です。

PK-PDパラメータは

AUC/MICまたはCmax/MIC

効果が1日の投与量に比例し、1日量が同じであれば、1回で投与した方が高い有効性が期待できます

LVFXはもともと用法用量が100mg×3でしたが、有効性、耐性菌防止の観点からPK-PD理論に基づき500mg×1の製剤が開発された経緯があります。MFLX、GRNXは1日1回型です。STFXはもともと1日2回でしたが、1日1回の用法が追加されました。

ときどきLVFX250mg×2という処方をみかけることがあります。有効性、耐性菌防止の観点からは不適切なので、1日1回への変更が必要です。

ちなみに、STFXは1日2回(50mg×2)と1日1回(100mg×1)で、臨床効果が変わりません。患者さんの利便性を考えると1日1回の方がいいですね。

耐性菌選択のリスク低減のために、シタフロキサシンの 1 回 100mg 1 日 1 回投与について、肺炎球菌 に対する有効性及び各種 PK-PD パラメータを、初回承認時の 1 回 50mg 1 日 2 回投与を加えた併合解析で比較検討し、両投与法に差がないことが確認できた

グレースビット インタビューフォーム

腎機能に応じた投与量か?

ニューキノロン薬は、ほとんどが腎臓から排泄されます。排泄経路ごとに分けてみると、LVFX、PZFXが腎排泄型、MFLXは胆汁排泄型。残りは、腎排泄/胆汁排泄型です。

腎排泄型…LVFX、PZFX
腎排泄/胆汁排泄型…CPFX、GRNX、STFX、TSFX
胆汁排泄…MFLX

腎排泄型はもちろん、腎排泄/胆汁排泄型でも腎機能のチェックが欠かせません。高齢者やCKD、透析患者では腎機能の合わせた投与設計が必要だからです。

胆汁排泄型のMFLXは腎機能低下例でも通常量使用できますが、一方で重度の肝障害患者には使えません(禁忌)

安全な薬物療法のために、処方監査や投与設計で必要な視点ですね。

相互作用は問題ないか?

問題になる相互作用は、大きく4つです。

  1. 金属イオンとキレート形成
  2. CYPとの相互作用
  3. QT延長に注意!
  4. NSAIDsとの併用で痙攣

まとめると下表になります。

スクロールできます
種類金属イオン相互作用CYP相互作用QT延長NSAIDs
CPFX併用注意禁忌(チザニジン、ロミタピドメシル酸塩)
注意(テオフィリンなど)
注意(抗不整脈薬クラスⅠA、クラスⅢ)禁忌(ケトプロフェン※外用剤の除く)
PZFXなし注意(テオフィリンなど)なし併用注意
LVFX併用注意なし注意(デラマニド)併用注意
GRNX併用注意ほとんどない注意(抗不整脈薬クラスⅠA、クラスⅢ)併用注意
MFLX併用注意なし禁忌(抗不整脈薬クラスⅠA、クラスⅢ)併用注意
STFX併用注意なしなし併用注意

金属イオンとキレートを形成

ニューキノロン経口薬は金属イオンとの併用により効果が減弱します。キレート形成により吸収率が低下するからです。

経口薬全般が併用注意とされています。

(併用注意)
アルミニウム又はマグネシウム含有の制酸薬等、鉄剤

・水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、硫酸鉄等

クラビット錠、添付文書より

金属カチオンの種類はAl、MG、Fe、Ca、Znなどです。添付文書によって若干記載が異なります。

対応は、「ニューキノロン薬を先に投与し、2時間以上空けてから制酸剤等を投与」です。食間投与や金属イオンを含まない薬剤への変更等が必要ですね。

CYPとの相互作用

一部のニューキノロン薬は薬物代謝酵素CYPの影響を受けます。

特に、CPFXは注意です!

筋緊張緩和剤チザニジンとはCYP1A2を介した相互作用により、Cmaxを約7倍、AUCを約10倍に上昇させるからです。高脂血症治療薬ロミタピドメシル酸塩とはCYP3A4を介した相互作用があります。

ちなみにPZFXもCYP1A2を阻害するため、テオフィリンと併用注意です。

QT延長に注意

一部のニューキノロン薬はQT延長のリスクがあります。心筋のカリウムチャネルの阻害により再分極が妨げられるからです。

特に注意すべきはMFLX

以下の薬剤との併用が禁忌です。

(併用禁忌)

クラスIA抗不整脈薬:キニジン,プロカインアミド等
クラスIII抗不整脈薬:アミオダロン,ソタロール等

本剤を併用した場合,相加的なQT延長がみられるおそれがあり,心室性頻拍(Torsades de pointesを含む),QT延長を起こすことがある

アベロックス、添付文書より

CPFX、GRNXは併用注意とされています。

NSAIDsとの併用に注意

ニューキノロン薬はNSAIDsとの併用によりけいれんの誘発リスクが高くなります。中枢神経系におけるGABA受容体への結合阻害が増強されるからです。

特にCPFXは注意!

ケトプロフェン内服と注射が禁忌になります。特に注意が必要なケースは下記です。

てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴のある患者腎障害のある患者では特に注意すること

シプロキサン添付文書より

アセトアミノフェンへの代替を考慮!

ニューキノロン系薬に疼痛、解熱目的でNSAIDsを併用されるケースが多いので、ハイリスク例では、安全なアセトアミノフェン製剤への変更を提案することも必要だと思います。

まとめ

最後にまとめておきますね。

ポイントは以下のとおりです。

  • ニューキノロンはオールドキノロンの進化版!抗菌スペクトルの拡大、移行性もアップ!
  • スペクトルは4つのグループに分けて理解。新しくなるにつれて、グラム陽性球菌に強くなる。さらに非定型細菌や嫌気性菌もカバー。
  • 第2世代CPFXは緑膿菌用のニューキノロン、経口投与できるのがメリット。
  • 第3世代LVFXと第4世代MFLXはレスピラトリーキノロン。呼吸器感染症の起炎菌を広くカバーしており、特に肺炎球菌に対する抗菌力が強いのが特徴です。
  • ニューキノロンが第一選択になる状況はほとんどない(レジオネラ肺炎等は第一選択)。他は代替薬の位置付けで、βラクタム薬やマクロライド系薬が副作用や相互作用などで使えない時に選択する!

今回は、ニューキノロン薬をテーマに、抗菌スペクトル、臨床における位置付け、投与前のチェックポイントについて解説しました。

ニューキノロン薬はできるだけ温存しておいた方がよい抗菌薬です。薬剤耐性菌が増えて、使えない薬になるのは何としても避けるべきだと思います。

目次