ラスビック点滴静注が2021年3月に発売されました!
ラスビック錠の新剤型です。
「内服か注射薬か」の違いでしょ?と思っていたら、
どうやら違うみたい…です
注射薬ならではの、押さえておくべき点があります!
今回は、ラスビック点滴静注(一般名ラスクフロキサシン)の特徴について、クラビット点滴(一般名レボフロキサシン)と比較しながら解説します。
ポイントは大きく5つです。
- 適応が狭い
- 嫌気性菌をターゲット
- ローディング投与
- 経口スイッチできる!?
- QT延長に注意!
では、見ていきましょう。
その前に…
本記事では、注射薬にフォーカスを絞った内容になります。内服薬の特徴や成分自体の特性、薬物動態の利点、臨床における位置付け等は下記に詳しくまとめているので、合わせて読んで頂くとより理解が深まると思います。
ラスビック点滴静注の適応
まず一つ目のポイントから。
ラスビック点滴静注とクラビット点滴静注の適応は大きく異なります
違いはラインを引いた箇所です。
- 肺膿瘍
- 呼吸器領域以外の疾患
①ラスビック点滴は呼吸器領域以外に使えません
膀胱炎や腎盂腎炎等の尿路感染、胆嚢炎、胆管炎、腹膜炎等の腹腔内感染症……その他もろもろに適応がないのです。クラビット点滴と異なり、適応が限定的である点は押さえておきましょう。
一方で、②ラスビック点滴は肺膿瘍に使えます
起炎菌となりやすい嫌気性菌に対して活性があるからです(詳しくは後述します)。レボフロキサシンは抗菌活性が低く、積極的に嫌気性菌をターゲットに用いることはありません。
このように、同じニューキノロン系注射薬でも適応が全然違うわけですね。ラスビックは呼吸器領域に特化したキノロン注射薬になります。
さて、有効性はどちらが優れているのか?
臨床試験の結果を確認しておきましょう。概要は以下のとおりです。
治癒率の群間差は5.3%(95%Cl−1.7%〜12.4%)、非劣性が示されました
ラスビック点滴の効果はクラビット点滴と同等ですね。
また、慢性呼吸器病変の二次感染例、誤嚥性肺炎例、肺化膿症・肺膿瘍を対象とした第3相臨床試験においても、以下のように有効性が認められています。
※主要評価項目:PPSにおける治癒判定時の治癒率…①:PPSにおける治療終了時の有効率…②③
ラスビック点滴静注の抗菌スペクトル
続いて2つ目のポイントです。
先述したように
ラスビック点滴は嫌気性菌に活性を示します
添付文書の感受性菌を比較すると下記です。
ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、腸球菌、モラクセラ・カタラーリス、大腸菌、クレブシエラ、エンテロバクター、インフルエンザ菌、レジオネラ・ニューモフィラ、ペプトストレプトコッカス、ベイヨネラ、バクテロイデス、プレボテラ、ポルフィロモナス、フソバクテリウム、肺炎マイコプラズマ
ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、腸球菌、モラクセラ・カタラーリス、炭疽菌、大腸菌、チフス菌、パラチフス菌、シトロバクター、クレブシエラ、エンテロバクター、セラチア、プロテウス、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア、ペスト菌、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター、レジオネラ、ブルセラ、野兎病菌、ペプトストレプトコッカス、プレボテラ、Q熱リケッチア、トラコーマクラミジア、肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマ
ラインを引いた部分が嫌気性菌になります。ラスクフロキサシンは嫌気性菌にまで抗菌スペクトルを拡大した第4世代のキノロンです。一方で、レボフロキサシンは第3世代のキノロン、嫌気性菌には十分な効果が期待できません。
キノロン薬、世代ごとの抗菌スペクトルは、別の記事にまとめているので合わせてご覧いただけたら幸いです。
ラスビック点滴は嫌気性菌へのスペクトルを生かして、特に下記感染症に有用だと考えられます。
- 誤嚥性肺炎
- 肺膿瘍
誤嚥性肺炎
嫌気性菌の関与が疑われる感染症です。①誤嚥性肺炎では口腔内の細菌(嫌気性菌を含む)が起炎菌になります。必ず嫌気性菌というわけではないですが、カバーのある抗菌薬をセレクトするのが一般的です。
肺膿瘍
こちらも、嫌気性菌のカバーが欠かせません。空洞性の病変(膿瘍形成、低酸素)であり嫌気性菌が原因である可能性が高いからです。
ラスビックは唯一、嫌気性菌をターゲットにできるキノロン系注射薬になります。経口のガレノキサシン(ジェニナック)やモキシフロキサシン(アベロックス)なども抗菌活性を示しますが、注射薬の設定はありません。
ラスビック点滴は第一選択ではない!
「誤嚥性肺炎、肺膿瘍=ラスビック点滴」ではありません。ニューキノロン系薬が第一選択ではないからです。一般的には嫌気性菌のスペクトルがあるβラクタマーゼ配合のペニシリン製剤が使われます。参考までに、経験的治療におけるガイドラインでの推奨は下記です(一部抜粋)。
- 誤嚥性肺炎:重症度高くない・耐性菌低リスク
-
点滴治療
- 第一選択…SBT/ABPC(スルバクタム/アンピシリン)
- 第二選択…CLDM(クリンダマイシン)
- 第二選択…LSFX(ラスクフロキサシン)
JAID/JSC感染症治療ガイド2023より、LSFX点滴静注(第二選択)が追記されました
- 誤嚥性肺炎:重症度高い または、耐性菌高リスク
-
- 第一選択…TAZ/PIPC(タゾバクタムピペラシリン)
- 第一選択…IPM/CS(イミペネム/シラスタチン)
- 第一選択…MEPM(メロペネム)
- 第二選択…CFPM(セフェピム)+CLDM or MNZ(メトロニダゾール)
または - 第二選択…LSFX(ラスクフロキサシン)
- 第二選択…LVFX(またはCPFX:シプロフロキサシン)+CLDM or MNZ or SBT/ABPC
JAID/JSC感染症治療ガイド2023より、LSFX点滴静注(第二選択)が追記されました
第一選択でニューキノロン系の注射薬(内服も)は使いません。βラクタム薬が使えない場合(ペニシリンアレルギー、効果不十分など)に代替薬として考慮するかたちです。現時点(2019年版)で記載はないものの、ラスビック点滴も同様だと考えられます。
ラスビック点滴静注の投与方法:ローディング
3つ目のポイントは負荷投与(ローディング)です。
ラスビック点滴静注とクラビット点滴静注の投与方法が大きく異なります
ラスビックは初日だけ倍量投与です。
なぜ、負荷投与が必要なのか?大きく2つの理由があります。
- 半減期が長いから(推察)
- 早期有効性を加味して
1つ目、速効性を得るためにローディング投与を設定したと考えられます
ラスビック点滴は以下のように半減期が長く、定常状態に達するまでに時間がかかるからです。
- ラスクフロキサシン…15.4時間
- レボフロキサシン…8.05時間
※ラスビック、クラビット点滴静注より
ちょうど、バンコマイシンやテイコプラニンで負荷投与を行うのと同じ理由ですね。感染症は時間との勝負であり、速効性が求められます。
2つ目、早期有効性に優れた投与方法だったからです
国内第II相試験では初日300mg/2日目〜150mg投与(300/150mg群)の方が、初日150mg/2日目〜75mg投与(150/75mg群)に比べて、投与3日目の早期有効率が優れていました。投与終了7日後の治癒率は同程度です。
このように、どちらも1日1回投与だけど、ラスビック点滴は初回が倍量である点がクラビット点滴との違いですね。
ラスビック点滴静注から経口薬への切り替え
続いて4つ目のポイント。
ラスビック点滴静注とクラビット点滴静注、どちらも内服薬があります
だから、状態が安定して、経口投与が可能な時点で、経口スイッチが可能です。
しかし、ラスビックは点滴と内服で1日投与量が違います
ここが、ややこしい…。レボフロキサシンは一緒なんですけどね。
- ラスビック…点滴:150mg/日、内服:75mg/日
- クラビット…点滴:500mg/日、内服:500mg
となると、用量換算はどうすればいいのか?
普通に考えて、ラスビックはバイオアベイラビリティー(BA)は約95%なので、点滴150mg→内服150mg/日の投与が必要になる計算です。
でも、これは承認外の用量になります。
なぜなら、ラスビック錠は承認に際して、150mg/日の方が副作用が多かったため、75mg/日が1日用量として決定された経緯があるからです。
安全性については、75mg投与群と比較して、150mg投与群で副作用の発現割合が高く、また因果関係が否定できない重篤な有害事象(白血球減少症)が本薬150mg群で1例に認められた。以上を踏まえ、国内第III相試験における本薬の用法・用量を75mgQD投与と設定した。
ラスビック錠 審議結果報告書
そうなると、経口スイッチの際は減量を行うしかありません。75mgで効果はあると思いますが、なんか府に落ちない部分ですよね(^_^;)
ちなみに、クラビットはわかりやすい!
BAが約98%なので、消化吸収に問題なければ「点滴用量=内服用量」と計算できます。つまり、クラビット点滴500mg→同錠500mgです。内服薬は500mgで有効性と安全性が確認されているので問題ありません。
ラスビック点滴静注の安全性:QT延長に注意!
最後に5つ目のポイント。
ラスビック点滴静注はQT延長のリスクが高いです。
ここは押さえておきましょう。禁忌項目をクラビットと比較すると違いは明らかです。
ラスビック点滴静注は、QT延長に関する記載(赤マーカーの部分)がズラリ。QT延長のある患者に加えて、リスク因子である低カリウム血症、抗不整脈薬、重度の肝障害等について注意喚起がされています。
ご存知のとおり、キノロン薬はQT延長に注意が必要な薬剤です。その中で有名なのはアベロックス(MFLX)ですね。QT延長試験の対象薬となるくらいハイリスクです。ラスビック点滴はMFLXと同等のリスクとされています。
QT/QTc試験において、本剤は、陽性対象と設定されたキノロン系抗菌薬であるモキシフロキサシン塩酸塩と同様に、臨床用量でQT間隔の延長が認められたことを踏まえると、本剤のQT間隔延長に対する注意喚起はモキシフロキサシン塩酸塩を参考とすることが適当と考えること。
ラスビック点滴静注 審議結果報告書
意外なことに、
ラスビックは点滴と錠剤で禁忌項目が違います。実はラスビック錠はクラビット点滴と同様の記載で、QT延長の項目がありません(上記参照)。剤型により記載が異なるわけです。
なぜこのような違いがあるのか?理由は点滴静注製剤は1回投与量が内服に比べて多いからです。ラスビック点滴のCmax(初回、定常状態)は内服450mg投与時のCmaxに相当することがわかっています。
健康成人のべ172例を対象とした無作為化二重盲検クロスオーバー試験において、ラスクフロキサシン225mg(57例)、450mg(57例)、750mg(58例)単回経口投与時のQT/QTc延長をQTcF(Fridericia法による心拍数補正QT)を用いて評価した結果、225mg投与群が陰性、450mg投与群以上で陽性と判定された。なお、健康成人に450mg経口投与時のCmax(3.44±0.65μg/mL)は、呼吸器感染症患者に本剤の用法・用量投与時のCmax(投与初日4.19±1.11μg/mL、定常状態3.19±0.929μg/mL)と同程度である。
ラスビック点滴静注 添付文書
ラスビック点滴はQT延長に特に注意が必要です。投与に際して心電図の確認、肝機能やカリウム値、併用薬のチェック等が欠かせません。忘れないように気をつけましょう。
まとめ
今回はラスビック点滴静注の特徴について、レボフロキサシン点滴と比較しながら解説しました。5つのポイントは下記です。
- 適応は呼吸器領域に限定!
- 誤嚥性肺炎、肺膿瘍に使える!
- 負荷投与あり(初日300mg)
- 経口スイッチ時は75mgに減量?
- QT延長に注意、ハイリスク!
あと、記事を書きながら思ったのは、
単にラスビック錠の点滴バージョンだと、騙されてはいけないこと
適応、投与方法などが違うし、特にQT延長は注意が必要です。
一方で、共通点は何か?
やはり、第一選択薬ではないこと
ここは、ほかのキノロン薬と共通事項です。基本的にはβラクタム薬などが使えない時の代替薬という位置付けになります。耐性菌防止の観点から、適正使用を進めていくことが大切ですね♪