今回のテーマはダフクリア錠!
一般名はフィダキソマイシン、18員環のマクロライド骨格を有するニュークラスの薬剤です。
・ダフクリアの特徴は何か?
・従来薬バンコマイシン散との違いは何か?
勉強がてら調べたので、共有したいと思います!
ダフクリア錠とバンコマイシン散の比較
まずは基本情報の比較から。
ダフクリア錠200mg | バンコマイシン塩酸塩散0.5g | |
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販売 | 2018年9月 | 1981年 |
一般名 | フィダキソマイシン | バンコマイシン |
略号 | FDX | VCM |
作用機序 | RNAポリメラーゼ阻害 | 細胞壁合成阻害 |
投与経路 | 経口 | 経口 |
適応 | 感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む) | 感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)、骨髄移植時の消化管内殺菌 |
適応菌種 | クロストリジウム・ディフィシル | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、クロストリジウム・ディフィシル |
用法用量(感染性腸炎) | 1回200mgを1日2回経口投与する | 1回0.125〜0.5gを1日4回経口投与(用時溶解)。年齢、体重、症状により適宜増減可 |
薬価 | ¥4,012.8/錠 | ¥813〜909.6/瓶 |
共通点は大きく3つです
- CDI治療薬
- 経口薬
- ほとんど吸収されない
- クロストリジウム・ディフィシル感染症の略
(Clostridium difficile infection:CDI) - 抗菌薬の使用等による消化管細菌叢の乱れによって起こる腸管感染症
- 原因菌はC.difficile(偏性嫌気性菌、グラム陽性桿菌)
- C.difficileの産生するトキシンによって下痢や腹痛、腸炎などを引き起こす
- 重篤な合併症として中毒性巨大結腸症や麻痺性イレウスなどがある
- 偽膜性大腸炎は内視鏡検査によって診断される
投与経路 | 商品名 | 一般名(略号) |
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経口 | フラジール内服錠250mg | メトロニダゾール(MNZ) |
経口 | バンコマイシン塩酸塩散0.5g | バンコマイシン(VCM) |
注射 | アネメトロ点滴静注500mg | メトロニダゾール(MNZ) |
経口 | ダフクリア錠200mg | フィダキソマイシン(FDX) |
イヌにおける絶対バイオアベイラビリティは3%以下と低値であった。ヒトにおける本剤の絶対バイオアベイラビリティは不明であるが、経口投与後の本剤の吸収は極めて低いと考えられる。
通常、経口投与によってほとんど吸収されず、高い糞便中濃度が得られる。ただし、腸管に病変のある患者において、吸収され尿中に排泄されたとの報告がある。
一方で、相違点は大きく6つです
- 作用機序
- 抗菌スペクトル
- 有効性(臨床の位置付け)
- 服用方法
- 腎障害患者への投与
- コスト
順番に見ていきましょう!
ダフクリア錠とバンコマイシン散の作用機序
相違点①
・ダフクリア…RNAポリメラーゼ阻害
・バンコマイシン…細胞壁合成阻害
どちらもC.Difficileの増殖を抑制しますが、作用機序が異なります。ダフクリアはRNAポリメラーゼ阻害剤です。細菌由来のRNAポリメラーゼの働き(mRNA転写→タンパク質生成)を妨げて抗菌作用を発揮します。
一方で、バンコマイシンは細胞壁合成阻害剤です。細胞壁の構成成分であるペプチドグリカン前駆体のD-アラニル-D-アラニンに結合し、細胞壁が作られるのを妨げます(抗菌作用)。
ダフクリア錠とバンコマイシン散の抗菌スペクトル
相違点②
・ダフクリア…狭域
C. difficile +α(一部のグラム陽性菌)
・バンコマイシン…やや狭域
グラム陽性菌(C. difficileを含む)
ここはダフクリアの強みだといえます。C. difficileと一部のグラム陽性菌にのみ作用し、腸内細菌叢の乱れを最小化できるからです。CDIは抗菌薬投与等によって腸内環境が破綻しC. difficileの異常増殖を来たす病態であるため、狭域スペクトルの特性は投与後の再発リスク低減に繋がります。
一方で、バンコマイシンはダフクリアに比べて抗菌スペクトルが広めです。大抵のグラム陽性菌に効きます。注射製剤の場合、MRSAはもちろん、腸球菌(E.feacium)による感染症の第一選択であるし、術後創部感染(黄色ブドウ球菌が関与)の予防において、ペニシリンやセフェム系薬がアレルギー等で使えない時の代替薬です。C. difficile以外の感染症にもよく使われます。
ダフクリア錠とバンコマイシン散の有効性
相違点③:ダフクリアの有効性
・治癒率…バンコマイシンと同等(非劣性)
・再発率…バンコマイシンに比べて低い(優越性)
海外第3相臨床試験(米国、カナダ)
- 対象…16歳以上のCDI患者664例
- 方法…フィダキソマイシン1回200mg、1日2回投与(10日間)
- 比較…バンコマイシン1回125mg、1日4回投与(10日間)
- 主要評価項目…治癒率【治験薬最終投与日(±2日)又は試験中止時に医師により治癒又は無効と判定】
- 副次評価項目…再発率【後観察時(36〜40日目)又は後観察前に再発がみられたときに、一定の基準で再発あり又は再発なしと判定】
- 探索的評価項目…治癒維持率【治験薬最終投与時に治癒と判断され、再発がなかった患者の割合と定義】
結果は以下のとおり
治癒率、再発率、治癒維持率
フィダキソマイシンは治癒率がバンコマイシンと同等でした。一方で、再発率と治癒維持率はバンコマイシンよりも優れていました。
国内臨床試験では、治癒維持率(主要評価項目)はFDX群67.3%、VCM群65.7%と、非劣性マージンを下回りバンコマイシンに対する非劣性が検証できませんでしたが、再発率はフィダキソマイシンの方が低いという結果でした(FDX群19.5%、VCM群は25.3%)
ダフクリア(フィダキソマイシン)は再発例や難治例(2回以上の再発を繰り返す)に推奨されています。「再発率の低さ」を生かした選択ですね。あと、重症例においてはバンコマイシンが使えない時の代替薬です。
\ バンコマイシン散の位置付けは、下記にまとめています /
ダフクリア錠とバンコマイシン散の服用方法
相違点④
・ダフクリア…1日2回
・バンコマイシン…1日4回
ダフクリアはバンコマイシンに比べて服薬負担が軽減できます。服薬回数が1日2回とバンコマイシン(1日4回)に比べて少ないからです。しかも、錠剤を1回1錠飲むだけでOK。用時懸濁の手間、苦味があるバンコマイシンよりも飲みやすいと思います。
ダフクリア錠とバンコマイシン散:腎障害患者への投与
相違点⑤
・ダフクリア…減量不要
・バンコマイシン…減量不要(重度腎障害+重篤な腸管病変のある方は注意)
先述のようにどちらもほとんど吸収されず、消化管で効く薬です!だから腎機能が悪い人でも減量の必要はありません。ここは共通点ですね。
一方で、注意すべきは
副作用のリスクが高まります!
「消化管バリアの破綻による吸収増加」と「腎臓からの排泄遅延」により血中濃度が上昇する可能性があるからです。
(重要な基本的注意)偽膜性大腸炎等の腸管病変が重篤でかつ高度の腎障害患者(血液透析中等)では、本剤の経口投与により蓄積を起こす可能性があり、バンコマイシン塩酸塩の静脈内投与で報告されているものと同様な副作用が発現する危険性があるので注意すること。
バンコマイシン散 電子添文
実際、下図のようにバラツキはありますが、血中濃度はそこそこ上がります。VCM点滴静注のトラフ値が20μg/mL以上で副作用リスクが高まることから、「バリア破綻による吸収」と「排泄遅延」の影響は軽視できません。
対応は副作用のモニタリング強化です。加えてガイドラインによると、Ccr<15で2g/日を長期投与する場合にはTDMを考慮するとの記載もあります。
重症偽膜性大腸炎に長期2g/日投与により血中濃度異常上昇することがあるため要注意.TDM 実施を考慮する
薬剤性腎障害診療ガイドライン2016
ちなみにダフクリアの方はどうか?
というと、腎機能低下による影響はほとんど認められておりません。腸炎による吸収増加は多少あったとしても、排泄遅延がない分(ほぼ糞中排泄)、VCMほどの血中濃度上昇は認められないという理解ですかね。
・クロストリジウム・ディフィシルによる腸炎患者に本剤200mgを1日2回反復経口投与したときの腎機能正常患者、軽度、中等度及び重度の腎機能低下患者の投与3~5時間後の血漿中薬物濃度を比較した結果、腎機能に伴う血漿中フィダキソマイシン及びOP-1118濃度の変動は見られなかった
・健康成人男性に本剤100mg及び200mgを経口投与したとき、フィダキソマイシン及びOP-1118の尿中への排泄率は非常に低く(0.594%以下)、そのほとんどがフィダキソマイシン及びOP-1118として糞中に排泄される(日本人及び外国人データ)。
ダフクリア錠 電子添文
ダフクリア錠とバンコマイシン散のコスト
相違点⑥
・ダフクリア…かなり高価
・バンコマイシン…やや安価
ダフクリア錠200mg | バンコマイシン散 0.5g | |
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薬価 | ¥4,012.8/錠 | ¥813〜909.6/瓶 |
用法用量 | 1回200mg・1日2回 | 1回0.125g・1日4回 (1回0.5g・1日4回) |
1日の費用 | 8,025円 | 813〜909.6円 (3,252〜3,638.4円) |
10日間の費用 | 80,250円 | 8,130〜9096円 (32,520〜36,384円) |
ダフクリアはかなり高額な薬剤です!1コース(10日)で薬代は約8万円もかかります。バンコマイシン(低用量)の10倍近くですね。高用量と比較しても2倍以上コストアップです。
まとめ
今回は、ダフクリア錠の特徴について、従来薬バンコマイシン散と比較しながら解説しました。
本記事のポイント
ダフクリアの特性は大きく2つ。
①再発率低減と②服薬負担の軽減ですね。
フィダキソマイシン | バンコマイシン | |
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略号 | FDX | VCM |
商品名 | ダフクリア錠200mg | バンコマイシン塩酸塩散0.5g |
作用機序 | RNAポリメラーゼ阻害 (タンパク合成↓) | 細胞壁合成阻害 |
スペクトル | 狭域 | やや狭域 |
服薬負担 | (1回1錠・1日2回) | 少ない(用時溶解・1日4回) | 大きい
治癒率 | 同等 | 同等 |
再発率 | 優越性 | |
臨床の位置付け | 再発例・難治例に | 重症例・再発例に |
腎障害時の投与 | 通常量 | (重篤な腎障害+腸管病変は注意) | 通常量
コスト | かなり高い | (低用量) | やや安い
日常業務にお役立て頂けたら幸いです!