アウィクリ注の特徴【持効型インスリンと比較しながら解説】

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令和6年6月24日、アウィクリ注が承認されました。

一般名は『インスリン イコデク』、なんと週1回投与の持効型インスリン製剤(Basal insulin)です。
毎日の注射から解放されるということで、かなり注目が集まっています。

アウィクリ注の特徴は何か?
今までの持効型インスリン製剤との違いは何か?

電子添文の情報をもとに、まとめたので共有したいと思います。

目次

アウィクリ注と持効型インスリンとの比較

まずは、アウィクリ注と国内で使える持効型インスリン製剤(3成分)の比較から。

ざっとこんな感じです!

スクロールできます
一般名インスリン イコデクインスリン デグルデクインスリン デテミルインスリン グラルギン
製品名アウィクリトレシーバレベミルランタスXRランタス
会社名ノボノボノボサノフィサノフィ
販売年月日未定2013年3月2007年12月2015年9月2008年6月
一般名インスリン イコデクインスリン デグルデクインスリン デテミルインスリン グラルギンインスリン グラルギン
投与回数1週間に1回1日1回1日1回
又は1日2回
1日1回1日1回
投与時点指定なし指定なし1日1回:夕食前又は就寝前
1日2回:朝食前及び夕食前、又は朝食前及び就寝前
指定なし朝食前・就寝前
初期量30~140単位4〜20単位4〜20単位4〜20単位4〜20単位
維持量
トータル
30~560単位4〜80単位4〜80単位4〜80単位4〜80単位
デバイスフレックスタッチフレックスタッチフレックスペンソロスターソロスター
単位調節10単位1-80単位1-60単位1-80単位1-80単位
空打ち2単位2単位3単位2単位
注入保持6秒6秒5秒10秒
保管総量300単位は6週間以内、総量700単位は12週間以内8週間6週間6週間4週間
カートリッジペンフィルペンフィルカート
バイアルバイアル
BS注BS注ミリオペン「リリー」、BS注カート「リリー」、BS注キット「FFP」
+超速効型インスリンライゾデグ
+GLP-1アナログゾルトファイソリクア
各製剤、電子添文より作成

アウィクリ注の特徴について、押さえておきたいポイントは大きく4つです。

  1. 適応
  2. 投与回数
  3. 投与量
  4. デバイス
  5. 有効性

順に見ていきましょう!

アウィクリの適応

アウィクリトレシーバレベミルランタス
効能又は効果インスリン療法が適応となる糖尿病
効能又は効果に関連する注意2型糖尿病患者は、急を要する場合以外は、あらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分行ったうえで適用を考慮する
1型糖尿病患者を対象とした臨床試験において、連日投与のBasalインスリンと比較して本剤で低血糖の発現が多く、また、同一患者において複数回発現した場合も多かった。1型糖尿病患者においては、本剤の有効性及び安全性を十分に理解し、連日投与のBasalインスリン等を用いたインスリン治療を選択することも検討したうえで、本剤の適用を慎重に考慮すること。また、2型糖尿病患者を対象とした臨床試験においても、1型糖尿病患者と比較すると低血糖が発現した患者の割合は低いものの、対照群との比較においては同様の傾向が認められていることを考慮したうえで、本剤の適用の可否を判断すること
各製剤、電子添文より

ポイントは3つです。

①アウィクリ注はインスリン療法が適応となる糖尿病に使用します。従来の持効型インスリンと同様に1型糖尿病や2型糖尿病の患者さんが対象です。

インスリン療法は下記の通り、いくつかの種類があります。アウィクリ注は持効型インスリンの改良版であり、1型糖尿病ではBasal-Bolus療法(投与回数は週1回になる)、2型糖尿病ではBOTやBasal-plus療法で使用するかたちです。

インスリン療法の種類

1型糖尿病
  • Basal-Bolus(ベーサル・ボーラス)療法
    速効型インスリン3回/日+持効型インスリン1回/日
  • 持続皮下インスリン注入療法(Continuous Subcutaneous Insulin Injection:CSII)
    皮下にカニューレを設置、ポンプで持続的に、または追加で超速効型インスリンを注入
2型糖尿病
  • Basal Supported Oral Therapy:BOT
    経口糖尿病薬+持効型インスリン
    (経口薬で効果不十分な場合に持効型インスリンを加える)
  • Basal-plus療法
    BOT+超速効型インスリン1回/日
    (BOTで効果不十分な場合に、食後血糖値が最も高い時点に超速効型をプラス)
  • インスリン2回注射法
    配合溶解型インスリンや中間型インスリンを2回/日使用
  • インスリン3回注射法
    超速効型インスリンを3回/日使用

アウィクリ注の選択は慎重に行います

低血糖の対する懸念があるからです。臨床試験において連日投与の持効型インスリンに比べて低血糖の発現回数が多く、効能効果に関連する注意事項に、適用は慎重に判断するようにとの記載があります。

では、③アフィクリ注はどのようなケースで選択するのか
薬剤の特性から考察すると、以下3つです。

注射回数を減らしたい人

アウィクリ注は週1回投与であり、注射に伴う負担軽減が期待できます。薬剤の特性を最大限活かせる場面です。従来製剤は1日1回とはいえ、毎日の注射は大変。注射回数の減少は、QOLの向上にも繋がります。特に仕事の関係で、毎日一定のタイミングで投与を行うのが難しい人では特に有用ですね。

自己注射の導入が困難な人

アウィクリ注はインスリン導入のハードルを下げてくれます。手技の理解が難しく、導入を見送るケースでも、週1回ならご家族の協力や往診等で対応できるケースが出てくるからです。また毎週通院時に持参して、医療機関で投与してもらうのもありだと思います。

週1投与のGLP-1受容体作動薬と併用する人

アフィクリ注はweeklyのGLP-1アナログ製剤と相性が良いと思います。投与時点を揃えて、アドヒアランスの向上が期待できるからです。最近では、2型糖尿病患者のBOTやBasal-plus療法において、トルリシティやオゼンピックを併用しているケースをよく見かけます。あと、ソリクアやゾルトファイなど配合注(basalインスリン+GLP-1アナログ)からの切り替えもありかも…。

アウィクリの投与回数

アウィクリ注の投与方法は週1回です!

今までの持効型インスリンよりも、ずっと長く効きます。ここが最大の魅力ですね。

なぜ、アウィクリ注は週1回投与で良いのか?

ヒトインスリンに「icosanedioic acid(C20)を含む側鎖」の付加により、アルブミンとの結合親和性が向上し、血中に長くとどまることができるからです。半減期は164時間と長く、約7日にわたり血糖降下作用が続きます。

Biomedicines .2024;12:900.
アウィクリ注 電子添文、薬物動態より
アウィクリと持効型インスリンの半減期、作用時間を延長させる仕組みは?

下表にまとめました。アミノ酸の置換や欠失、脂肪酸の付加等により、半減期を延長させる工夫が施されています。薬剤ごとのアプローチの違いは、なかなか面白いですね^ ^

スクロールできます
アウィクリトレシーバレベミルランタス
一般名インスリン イコデクインスリン デグルデクインスリン デテミルインスリン グラルギン
投与タイミング週1回1日1回1日1回又は1日2回1日1回
半減期164h(1型糖尿病患者24例、薬物動態試験)18h(1型糖尿病患者22例、薬物動態試験)5.9h(ヒト、薬物動態試験、皮下投与)18.2h(IGlarBS注キット「FFP」薬物動態より)
9.75h(IGlarBS注キット「FFP」薬物動態より)
構造の改変アミノ酸置換アミノ酸欠失アミノ酸欠失アミノ酸置換・付加
icosanedioic acid(C20)を含む側鎖を付加ヘキサデカン二酸を付加ミリスチン酸(C14)を付加
半減期延長の仕組み主にアルブミンとの結合親和性向上(血中:長時間とどまる)マルチヘキサマーの形成アルブミンとの親和性向上(注射部位:解離速度低下緩徐に吸収、血中:長時間とどまる)アルブミンとの結合親和性向上(血中:長時間とどまる)等電点を中性へ(注射部位:沈澱形成により溶解性低下緩徐に吸収)
各製剤の電子添文、インタビューフォームより作成

アウィクリの投与量

アウィクリ連日投与basalインスリン(トレシーバ、レベミル、ランタス)アウィクリ/連日投与basalインスリン
初期量30140単位/420単位/=従来型の7
下限は単位設定が10単位ごとであり、およそ7倍
維持量30560単位/480単位/=従来型の7
下限は単位設定が10単位ごとであり、およそ7倍
各製剤、電子添文より作成

アウィクリの投与量は連日投与basalインスリンの7倍量です

毎日投与する単位数を、週1回にまとめて(7倍)投与するという理解ですね。

アウィクリの投与単位を検討する上での注意点があります。ここは重要!
ポイントは3つです。

Basalインスリン未治療の場合

アウィクリ注は1週間に70単位以下を目安にします。初期量の上限は140単位でありその半量ということです。

Basalインスリンの投与を受けていない患者に本剤を投与する際には、本剤開始時の投与量は70単位以下を目安とし、低用量からの投与を考慮するなど慎重に投与を開始すること。

アウィクリ注、用法及び用量に関連する注意
Basalインスリンから切り替える場合(維持量=2回目以降)

アウィクリ注の単位数はbasalインスリンの1日単位数の7倍量を目安にします。ランタス注の投与量が10単位/日であるなら、アウィクリ注の投与量は70単位です。簡単ですね。

 7.4.1本剤を1週間に1回投与する投与量は、それまで連日投与していたBasalインスリンの1日総投与量の7倍に相当する単位数を目安とすること。

アウィクリ注、用法及び用量に関連する注意

一方で、ランタス注6単位/日の場合は、アウィクリ注は40単位又は50単位/週を目安にします。なぜなら、デバイスの単位設定が10単位ごとであり、1単位ずつ細かく調整できないからです。ここは血糖コントロールの状況や低血糖のリスク等を勘案して判断するかたちになります。

Basalインスリンから切り替える場合(初回は維持量の1.5倍量を考慮)

アウィクリ注の単位数は『basalインスリンの1日単位数の7倍量1.5倍を目安にします。ここは対応が煩雑…。以下のように、2型糖尿病患者では負荷投与が推奨されているのに対して、1型糖尿病患者では原則実施との記載だからです。

 7.4.2連日投与のBasalインスリン製剤から本剤への切り替え時に血糖値が上昇するおそれがある。血糖値の上昇を防ぐため、2型糖尿病患者においては、初回投与時のみ、本剤の投与量を7.4.1項で示した単位数を1.5倍に増量して投与することが推奨されるが、患者の血糖コントロールと低血糖のリスクのバランスを考慮して増量の必要性を慎重に判断すること。1型糖尿病患者においては、初回投与時のみ、原則として本剤の投与量を7.4.1項で示した単位数を1.5倍に増量して投与すること。ただし、患者の血糖コントロール及び低血糖の発現リスクを踏まえ、初回投与量の増量の必要性を慎重に判断すること。

アウィクリ注、用法及び用量に関連する注意

1.5倍量は初回のみです。2週目以降はbasalインスリンの1日単位数の7倍量です。ここは医療安全の点で、注意が必要だと感じました。患者さんの理解が十分でないと、誤って前回投与量を投与する可能性があります。

初回投与量を増量した場合、2回目の投与の際は、7.4.1項で示した単位数を投与すること。3回目以降の投与量は、血糖コントロール、低血糖の発現状況等の患者の状態に加えて、本剤の作用特性を考慮して調整すること。

アウィクリ注、用法及び用量に関連する注意

アウィクリ注のデバイス

アウィクリ注のデバイスはフレックスタッチです!

トレシーバと同じですね。フレックスペンよりも操作感に優れます。

あと、アウィクリ注はカートリッジ製剤であるペンフィルの設定がなく、使い切りのプレフィルド製剤になります。

フレックスタッチとフレックスペンの違い
フレックスタッチフレックスペン
ダイアル表示の違い白地に黒文字
見やすい
黒地に白文字
注入ボタンの違い単位数が増えても、ボタンが伸びない
押しやすい
単位数が増えるにつれて、ボタンが伸びる
空打ちの際の薬液の出方勢いが強い
わかりやすい
勢いが弱い
フレックスタッチとフレックスペンの違い
ノボ ノルディスクファーマ株式会社 参考資料

アフィクリ注の有効性

気になるアフィクリ注の有効性と安全性はどうか?

1型糖尿病、2型糖尿病の成人患者4000人以上を対象にしたONWARDS試験(6つのグローバル第3相臨床試験)の中から、インスリンイコデク(アウィクリ注)とインスリングラルギン(ランタス注)の有効性・安全性を比較したONWARDS1試験の結果は以下のとおりです。

  • 対象:インスリン治療歴のない2型糖尿病患者492名
  • 介入:Insulin icodecを週に1回投与
  • 比較:Insulin glargineを1日1回投与
  • 結果:52週時点のHbA1cの変化量
平均HbA1c値の変化量(52週時点)

インスリンイコデク群の方がインスリングラルギン群に比べて有意に大きかった
(非劣性:p<0.001、優越性:p=0.02)

目標血糖範囲内(70~180 mg/dL)時間率(副次評価項目)

インスリンイコデク群の方がインスリングラルギン群に比べて有意に高かった
(優越性:p<0.001)

重度低血糖イベント発生率

インスリンイコデク群の方がインスリングラルギン群に比べて高かった

N Engl J Med 2023;389:297-308

週1回投与のアフィクリ注は連日投与のランタス注よりも優れた有効性を示しています。新規導入や切り替えも進みそうな印象ですね。一方で、低血糖の頻度は高い傾向が見られています。ここは注意が必要ですね。

アウィクリ注の気になるところ

電子添文を読む限り、下記2点が気になりました。

アウィクリ注の低血糖リスクです。過量投与になった場合やシックデイの時に、低血糖を引き起こし、それが遷延する恐れがあります。長時間作用のメリットが逆に仇になるわけです。1度回復しても、再発に備えないといけません。

低血糖は臨床的に回復した場合にも、再発することがあるので継続的に観察すること。本剤は週1回投与する薬剤であり、その作用は持続的であるため、回復が遅延するおそれがある。なお、本剤の臨床試験では、低血糖は各投与後の2~4日に最も多く認められている

アウィクリ注 重大な副作用、低血糖

②あと、アフィクリ注の周術期対応。一般的には、絶食中はスライディングスケールで血糖値に合わせて、必要量のインスリンを投与しますが、アフィクリ注投与中の方はどうするのか?手術前に連日投与のbasalインスリンへの切り替えを行うのでしょうか。その場合には以下の注意喚起がされています。従来の持効型インスリンと違って対応が煩雑ですね。

連日投与のBasalインスリン製剤と比較して半減期が長いため、本剤から連日投与のBasalインスリン製剤へ切り替える際には、以下の点を考慮すること。

・本剤の最終投与後の朝食前自己血糖測定値等の血糖値を参照し、連日投与のBasalインスリン製剤の投与開始時期を検討すること。
・切り替え時の1日あたりの投与量は、本剤の週1回投与量の7分の1量を目安とすること。
・切り替え時及びその後一定期間は血糖モニタリングを慎重に行うこと。

アウィクリ注 重要な基本的注意

まとめ

今回は、週1回投与の持効型インスリン製剤、アウィクリ注の特徴をまとめました。

やはり週1回投与のメリットはかなり大きいです!ここが最大の強みですね。

アウィクリ注の選択は、注射に伴う負担が減り、QOLの改善が得られます。加えて、アドヒアランスの向上に繋がれば治療効果も良くなるし。また自己注射が困難なケースへの導入にも期待したいところですよね。

一方で、低血糖リスクが懸念されます。長時間作用のメリットは裏を返せば遷延化の恐れに他ならないからです。慎重な投与量設定と投与後のフォローをしっかりと行う必要があります。

あと、単位数の設定ミスや従来製剤との混同によるインシデントも気がかりです。注目度が高く、処方量が増えそうな分、気を引き締めて安全使用を進めていきたいですね^ ^

目次