今回のテーマはアブストラル舌下とイーフェンバッカル!
一般名はフェンタニルクエン酸塩、がん性疼痛の治療薬です。
両者の共通点と相違点は何か?
まとめたので、共有したいと思います。
アブストラルとイーフェンの比較表
製品名 | アブストラル舌下錠 | イーフェンバッカル錠 |
---|---|---|
発売 | 2013年12月 | 2013年10月 |
一般名 | フェンタニルクエン酸塩 | |
規格 | 100μg・200μg・400μg | 50μg・100μg・200μg・400μg・600μg・800μg |
作用機序 | μオピオイド受容体作動薬 | |
適応 | 強オピオイド鎮痛剤を定時投与中の癌患者における突出痛の鎮痛 | |
投与経路 | 舌下 | 上顎臼歯の歯茎と頬の間で溶解 |
用法用量 | 開始用量:100μg 用量調節期:1回100、200、300、400、600、800μgの順に一段階ずつ適宜調節し、至適用量を決定する 用量調節期の追加投与 1回100~600μgのいずれかの用量で十分な鎮痛効果が得られない場合には、投与から30分後以降に同一用量までの本剤を1回のみ投与可 至適用量決定後の維持期 1回の突出痛に対して至適用量を1回投与することとし、1回用量の上限は800μgとする 用量調節期の追加投与を除き、前回の投与から2時間以上の投与間隔をあけ、1日あたり4回以下の突出痛に対する投与にとどめること | 開始用量:50又は100μg 用量調節期:1回50、100、200、400、600、800μgの順に一段階ずつ適宜調節し、至適用量を決定する 用量調節期の追加投与 1回50~600μgのいずれかの用量で十分な鎮痛効果が得られない場合には、投与から30分後以降に同一用量までの本剤を1回のみ投与可 至適用量決定後の維持期 1回の突出痛に対して至適用量を1回投与することとし、1回用量の上限は800μgとする 用量調節期の追加投与を除き、前回の投与から4時間以上の投与間隔をあけ、1日当たり4回以下の突出痛に対する投与にとどめること |
禁忌 | ・本剤の成分に対し過敏症のある患者 ・ナルメフェン塩酸塩水和物を投与中の患者又は投与中止後1週間以内の患者 | |
薬価 | 100μg:536.1円 200μg:759.9円 400μg:940.7円 | 50μg:485.0円 100μg:669.1円 200μg:863.2円 400μg:1,361.5円 600μg:1,547.9円 800μg:1,812.6円 |
アブストラルとイーフェンの共通点
まずは共通点から。大きく3つあります。
- がん性疼痛治療薬
- レスキュー薬
- 臨床の位置付け
がん性疼痛治療
1つ目の共通点
アブストラルとイーフェンはがん性疼痛の治療薬です
ご存知のとおり、がん性疼痛治療薬は大きく3つに分類されます。どちらも、成分はフェンタニルクエン酸塩、強オピオイド鎮痛薬です。
- 非オピオイド鎮痛薬
…アセトアミノフェン、NSAIDs - 弱オピオイド鎮痛薬
…コデイン、トラマドール - 強オピオイド鎮痛薬
…モルヒネ、オキシコドン、タペンタドール、ヒドロモルフォン、フェンタニル
がん性疼痛は、痛みの強さに合わせて薬剤を選択します。
- 軽度の痛み…非オピオイド
- 軽度〜中等度の痛み…弱オピオイド
- 中等度〜重度の痛み…強オピオイド
下図のWHOが提唱する三段階の除痛ラダーは有名ですね。強オピオイドのアブストラルとイーフェンは中等度から重度のがん性疼痛に用います。
WHOがん性疼痛に関するガイドラインは2018年の改訂により、がん疼痛5原則から除痛ラダーの文言(by the ladder:除痛ラダーにそって効力の順に)が削除されています。段階的に痛み止めを選択する必要はなく、患者ごとの痛みの強さに合わせて、初回から強オピオイドを選択することも可能になりました。
同分類(強オピオイド)のタペンタドールとヒドロモルフォンの特徴は別記事に詳しくまとめているので、ご覧くださいね。
レスキュー薬
2つ目の共通点
アブストラルとイーフェンは突出痛に用いるレスキュー薬です
がん性疼痛は下記2つの痛みからなります。
- 持続痛(1日の大半を占める)
- 突出痛(一過性の痛み)
がん性疼痛の治療は
定時投与薬でベースの痛みを抑えながら、突出痛にはレスキュー薬を用いるのが基本です。アブストラルとイーフェンはレスキュー薬に分類されます。
超即効型オピオイド(Rapid onset opioids:ROO)の略です。一方で、従来の短時間作用型オピオイドは、SAO(Short-acting opioid)といいます。
ROOは効果発現までの時間が短いのが特徴です!
- SAO…約30分
- ROO…約10〜15分
ROO製剤はSAO製剤の弱点を改良!
SAO製剤は効果発現までのタイムラグがあったからです。最大の痛みから遅れて効き始める可能性が問題視されていました。アブストラルとイーフェンは、今すぐ抑えたい痛みにタイミングを合わせることができます。SAOの弱点を改善した製剤だといえますね。
成分は同じものを選択するのが一般的です。たとえばベースの痛みはオキシコドンで抑えながら、突出痛には速放性製剤であるオキノームを使う形ですね。アブストラルとイーフェンは、基本的にフェンタニル製剤と組み合わせて用います。
- モルヒネ…MSコンチン+オプソ
- オキシコドン…オキシコンチン+オキノーム
- フェンタニル…フェントステープ+アブストラルまたはイーフェン
- ヒドロモルフォン…ナルサス+ナルラピド
臨床の位置付け
3つ目の共通点
アブストラルとイーフェンはどのような場面で選択されるのか?
大きく3つあります。
- 経口投与が困難な場合(悪心、嘔吐、嚥下機能低下など)
- 消化管が使用できない時(消化管閉塞など)
- 突出痛のコントロール不良時
基本的にはフェンタニル外用剤のレスキュー薬として用います。経口投与が難しかったり、消化管を使用できない時、又はオピオイドスイッチングの時です。
さらに、突出痛の疼痛管理が不十分な時にも有用だと思います。突出痛は患者さんの苦痛に直結しやすく、QOLの低下につながるからです。ROOの利点を活かす場面ですね。
アブストラルとイーフェンの相違点
ここからは違いを見ていきますね。
大きく2つあります。
- 剤型の違い
- 用法用量の違い
剤形の違い
1つ目の相違点
・アブストラル…舌下錠
・イーフェン…バッカル錠
舌下錠とは、唾液でスッと溶けて口腔内から速やかに吸収される剤型です。狭心症発作時に飲むニトログリセリン舌下錠が有名ですね。メリットは肝初回通過効果を受けない点です。
一方で、バッカル錠とは何か?口腔内の歯茎と頬のあいだに錠剤を挟み、唾液で溶かしながら口腔粘膜から吸収させる剤型です。昔はバリダーゼバッカル錠(消炎酵素製剤)という製剤があったみたい…。今はイーフェンバッカルだけですね。
バッカル錠は投与方法がやや煩雑!
服用時の注意事項があります。
本剤が溶けるまで、上顎臼歯の歯茎と頬との間に置いておくこと。また、30分経っても本剤の一部が口腔内に残っている場合、水等で嚥下してもよい
イーフェンバッカル錠 添付文書
剤型だけでいうなら、アブストラルの方が断然使いやすいと思います。
用法用量の違い
2つ目の相違点
アブストラル | イーフェン | |
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開始用量 | 1回100μg | 1回50〜100μg |
最大用量 | 1回800μg | 1回800μg |
投与量 | 6パターン (100、200、300、400、600、800) | 6パターン (50、100、200、400、600、800) |
投与錠数 | 4錠まで (規格の異なる製剤を同時服用不可) | 4錠まで (規格の異なる製剤を同時服用不可) |
投与回数 | 1日4回まで | 1日4回まで |
追加投与 | 可(用量調節期) | 可(用量調節期) |
投与間隔 | 2時間以上 | 4時間以上 |
アブストラルとイーフェンの服用方法から違いを確認しておきましょう。
ポイントは2つです
- 開始用量
- 投与間隔
開始用量の違い
・アブストラル…開始用量100μg
・イーフェン…開始用量50-100μg
アブストラルの開始用量は一律100μg
わかりやすいですね。ベースのオピオイド製剤の量に関係ありません。
イーフェンの開始用量は50〜100μg
開始用量に幅があります。どのように使い分けるのか?下記のように、定時投与オピオイド薬の量によって、どちらかを選択します。
定時投与中の強オピオイド鎮痛剤としてモルヒネ経口剤30mg/日以上60mg/日未満又は同等の鎮痛効果を示す用量の他の強オピオイド鎮痛剤を定時投与中の患者では、1回の突出痛に対してフェンタニルとして50μgから投与を開始することが望ましい。
イーフェンバッカル錠 添付文書
海外に比べて国内のオピオイド投与量は少なめです。そこで、イーフェンは安全性に配慮して低規格50μgが設定されました。
アブストラルは海外用量と同じ
国内臨床試験では、定時投与オピオイド薬の低用量群、高用量群において、有効性と安全性に顕著な差は見られなかったからです。
- 低用量群:1日用量が経口モルヒネ60mg、経口オキシコドン40mg、フェンタニル貼付剤25μg/hr未満
- 高用量群: 1日用量が経口モルヒネ60mg、経口オキシコドン40mg、フェンタニル貼付剤25μg/hr以上
このように、両者は開始用量に違いがあります。副作用のリスクが高い場合には、低用量から開始できるイーフェンの方が良いかも知れませんね
投与間隔の違い
同じROO製剤ですが、投与間隔が異なります。
・アブストラル…投与間隔2h以上
・イーフェン…投与間隔4h以上
なぜ違うのか?
海外と同様の投与間隔を設定したからです。国内臨床試験も上記の投与間隔で有効性と安全性が確認されました。
ちなみに、どちらも1日4回までしか投与できません。このように、投与間隔と1日の投与回数に制限があるのは、過量投与に伴う呼吸抑制等の副作用を防ぐためです。
従来型レスキュー薬は投与間隔、投与回数の制限なし!
痛みが改善するまで繰り返し投与できます。
たとえば、ガイドラインによれば、経口の場合は1時間ごと、経静脈投与、皮下投与においては15〜30分ごとに追加投与が可能です(がん疼痛の薬物療法に関わるガイドライン2014)
用量調節期は追加投与可!
2時間又は4時間あけなくても投与できます。ここがややこしいところですね。
たとえば、突出痛に対してアブストラル(イーフェン)を使用、30分後に痛みを評価、改善なければ、その時点でもう1回分追加投与できるのです。
ここで以下の疑問が出てきますよね。合わせて確認しておきましょう。
- 追加投与は1日4回の投与制限に含まれるか
-
含まれません。
1回の突出痛に1回追加投与が可能です。
1日4回の突出痛に対して、1日最大8回投与できます(突出痛4回、追加投与4回)
※用量調節期のみ(用量が決まったら、追加投与は不可)
- 追加投与後の次回投与(突出痛に対して)までの間隔は?
-
前回突出痛から2時間以上あける(アブストラル)
前回突出痛から4時間以上あける(イーフェン)
※追加投与の時点から計算しない
Question and Answer
この記事を書くにあたって疑問に思ったことを調べたので共有します。
- なぜ、用量調節期間があるのか?
- 舌下錠とバッカル錠を誤って飲んでしまったらどうなるの?
なぜ、用量調節期があるのか?
至適投与量と定時オピオイド薬の投与量に相関が認められないからです
下図のとおり
つまり、鎮痛効果に個人差があるので、至適投与量を決めるための用量調節期が設定されているわけです。
たとえば100μgから始めて、その後追加投与の感触を見ながら、200→300→400→600→800の順に患者さんに合わせて投与量を決めます。ベースのオピオイドが高用量だからといって、アブストラルやイーフェンの量も多くなるとは限らないのです。
従来のレスキュー薬の場合は?
1回用量は定時投与薬の1日用量から求めます。
- モルヒネ速放性製剤…モルヒネ1日用量の1/6
- オキシコドン速放性製剤…オキシコドン1日用量の1/8〜1/4
たとえば、オキシコドンを1日20mgだったら、オキノーム散2.5〜5mg/回に相当します。わかりやすいですね。
アブストラルとイーフェンは効果に個人差があり、個々で投与量を決めるために用量調節期が必要になります。
1回の突出痛に対して1回の本剤投与で十分な鎮痛効果が得られるよう、一段階ずつ漸増して、患者毎に用量調節を行うこと。
アブストラル舌下錠、イーフェンバッカル錠、添付文書
誤って、飲んでしまったら?
アブストラルとイーフェン、どちらも見た目が錠剤なので誤って飲み込んでしまう可能性があります。「飲んでしまったけど、どうすれば良いか」と、患者さんや看護師さんからときどき相談されることもありますよね。
アブストラルの場合
誤って飲んでしまったら、一回分投与とカウントします
だから、
とっさにもう一錠追加してはいけません。過量投与により副作用の可能性が高くなるからです。
誤って飲み込んだ場合も1回の投与とし、再投与は避けること。
アブストラル添付文書
アブストラルの経口投与は効果があるのか?
だいたい30%くらいの効果だと予想されます。経口投与したときのデータは不明ですが、イーフェンバッカルの経口投与が31%であり、ほぼ同程度と考えることができるからです。
フェンタニル400μg静脈内投与時のAUC0-∞から算出した本剤400μgバッカル投与、本剤800μg経口投与及びOTFC800μg口腔粘膜投与時の絶対的バイオアベイラビリティ(BA)はそれぞれ65、31及び47%であった。
イーフェンバッカル 審査報告書
だから、経口投与だからといって効果がないわけではありません。約半分くらいの効果が遅れて現れると予測されるので、経口投与時の再投与には注意が必要ですね。
イーフェンの場合
誤って飲んでしまった場合の対応が添付文書にありません
では、どうすればいいのか?
アブストラルと同様に再投与は避けた方がよいと考えられます。先述のように、イーフェン経口投与のバイオアベイラビリティはバッカル投与に比べて約半分であり、遅れて血中濃度が上昇し副作用のリスクが高まるからです。
まとめ
今回はアブストラル舌下とイーフェンバッカルの共通点と相違点について解説しました。
ポイントは以下のとおりです。
アブストラル舌下とイーフェンバッカルの登場によりがん性疼痛治療薬の選択肢が増えました。疼痛管理はQOLを維持するために欠かせません。記事を書きながら、患者さんごとに最適な薬剤の選択を提案できるスキルが必要だと感じました。