パキロビッドパックが2022年2月10日に特例承認されました。
新型コロナウイルス感染症の治療薬です。
先行発売の
ラゲブリオカプセルとの共通点と相違点は何か?
ポイントをまとめたので共有したいと思います。
パキロビッドとラゲブリオの基本情報
まずは基本情報を比較します。
パキロビッド | ラゲブリオ | |
---|---|---|
一般名 | ニルマトレルビル /リトナビル | モルヌピラビル |
作用機序 | ウイルス増殖抑制 (プロテアーゼ阻害剤・ウイルスのタンパク合成阻害) | ウイルス増殖抑制 (核酸アナログ、ウイルスRNAの複製エラー) |
規格 | パック600 パック300 | カプセル200mg |
投与量 | 1回300mg/100mg | 1回800mg |
投与回数 | 1日2回 | 1日2回 |
投与期間 | 5日 | 5日 |
適応 | SARS-CoV-2による感染症 軽症〜中等症I | SARS-CoV-2による感染症 軽症〜中等症I |
発症日からの日数 | 5日以内 | 5日以内 |
入院死亡抑制効果 | 89% | 31% |
対象年齢 | 成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児 | 18歳以上 |
重症化リスク因子 | ・60歳以上 ・BMI 25kg/m2超 ・慢性腎臓病 ・慢性肺疾患 ・心血管系疾患・高血圧 ・1型又は2型糖尿病 ・限局性皮膚がんを除く活動性のがん ・免疫抑制疾患又は免疫抑制剤の継続投与 ・喫煙者 ・鎌状赤血球症 ・神経発達障害又は医学的複雑性を付与するその他の疾患 ・医療技術への依存 | ・61歳以上 ・BMI 30kg/m2以上 ・慢性腎臓病 慢性閉塞性肺疾患 重篤な心疾患 糖尿病 活動性のがん |
腎障害時の投与 | 非推奨…eGFR<30 減量…30≦eGFR<60 (1回150mg/100mg) | 通常量 |
肝障害時の投与 | 通常量 リトナビル:血中濃度上昇の恐れ | 通常量 |
相互作用 | 併用注意…多数 | 併用禁忌…多数記載なし |
妊婦・妊娠の可能性のある人への投与 | 有益性投与 | 禁忌 |
食事の影響 | 特になし | 特になし |
一包化の可否 | 不可(データなし) | 可(無包装で90日間安定) |
粉砕・脱Capの可否 | 不可(データなし) | 条件付き可(使用経験あり) |
簡易懸濁の可否 | 不可(データなし) | 条件付き可(使用経験あり) |
薬価 | 300:¥12538.6/シート 600:¥19805.5/シート | ¥2357.8/cap |
ここからは共通点と相違点を見ていきましょう。
パキロビッドとラゲブリオの共通点
共通点は大きく3つです。
- 適応
- 投与方法
- 発症からの期間
簡単にポイントを確認します。
適応
パキロビッドとラゲブリオは適応が同じです。
・パキロビッド…SARS-CoV-2感染症
・ラゲブリオ…SARS-CoV-2感染症
どちらも、軽症から中等症Iまでの患者さんに使います。
軽症と中等症Iの違いは
肺炎があるかどうか。酸素飽和度の目安は軽症が96%以上で呼吸困難を認めません。一方で、中等症は95%以下で、多くの場合に呼吸苦を認めます。
中等症Iと中等症IIの違いは
酸素投与を必要とするか。中等症Ⅰは酸素投与が必要ありません。一方で、中等症Ⅱは酸素飽和度が93%以下で酸素投与を必要とします。自力で呼吸をすることが難しい状態だからです。
軽症といっても
無症状の人は適応ではありません。以下のように添付文書にも記載があります。
(用法及び用量に関連する注意)
SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。
パキロビッドパック、ラゲブリオカプセル 添付文書
パキロビッドカプセルは下記症状が1つ以上認められることが臨床試験の選択基準です。
咳、息切れ、呼吸困難、発熱(38℃超)又は熱っぽさ等、悪寒又は震え、疲労、筋肉又は体の痛み、下痢、悪心、嘔吐、頭痛、咽頭痛、鼻詰まり又は鼻水
投与方法
パキロビッドとラゲブリオは投与方法も同じです。
・パキロビッド…1日2回・5日間
・ラゲブリオ…1日2回・5日間
どちらも1日2回で5日間投与します。
抗ウイルス薬
・レムデシビル…1日1回・点滴静注・5〜10日間(軽症は3日間)
中和抗体薬
・ゼビュディ…1日1回・点滴静注・単回
・ロナプリーブ…1日1回・点滴静注・単回
発症からの日数
パキロビッドとラゲブリオは、発症から投与できるまでの期間が同じです。
・パキロビッド…5日以内
・ラゲブリオ…5日以内
どちらも発症後5日以内に投与を行わなければなりません。
(用法及び用量に関連する注意)臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
パキロビッドパック、ラゲブリオカプセル 添付文書
抗ウイルス薬
・レムデシビル…7日以内(臨床試験)
中和抗体薬
・ゼビュディ…7日以内(添付文書)
・ロナプリーブ…7日以内(添付文書)
パキロビッドとラゲブリオの相違点
ここからは相違点について。
大きく10個です。
- 作用機序
- 対象年齢
- 有効性
- 重症化リスク因子
- 相互作用
- 腎機能
- 妊婦・妊娠の可能性がある方への投与
- 一包化の可否
- 粉砕・脱カプセルの可否
- 簡易懸濁の可否
作用機序
パキロビッドとラゲブリオは作用機序が異なります。
・パキロビッド…ウイルスRNAのたんぱく合成を阻害
・ラゲブリオ…ウイルスRNAの複製を阻害
ラゲブリオは核酸アナログ製剤です。ウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼによりRNAに取り込まれ、エラーを引き起こすことにより増殖を妨げます。
一方で、パキロビッドの成分であるニルマトレルビルはプロテアーゼ阻害剤です。タンパク生成の過程を阻害し、同じくウイルスの増殖を抑えます。
(作用機序)ニルマトレルビルはSARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(Mpro:3CLプロテアーゼ又はnsp5とも呼ばれる)を阻害し(IC50=19.2nmol/L)、ポリタンパク質の切断を阻止することで、ウイルス複製を抑制する。
パキロビッドパック 添付文書
- メインプロテアーゼとは?
-
ウイルスに特有のタンパク質分解酵素のこと。増殖に必要なタンパク質の大きなかたまりを素材ごと(たとえば、スパイクタンパク、膜タンパク、エンベロープタンパクなど)に切り分ける働きがあります。
- リトナビルは何のために配合されているのか?
-
ニルマトレルビルの効果を増強するためです。リトナビルはニルマトレルビルの代謝を妨げて血中濃度を高める作用(リトナビルブースト)があります。
(作用機序)リトナビルは検討した最高濃度(3μmol/L)までSARS-CoV-2に対して抗ウイルス活性を示さなかった。リトナビルはニルマトレルビルのCYP3Aによる代謝を阻害し、血漿中濃度を増加させる。
パキロビッドパック 添付文書
対象年齢
パキロビッドとラゲブリオは投与患者の対象年齢が異なります。
・パキロビッド…成人及び小児(12歳以上かつ体重40kg以上)
・ラゲブリオ…成人(18歳以上)
パキロビッドは小児にも適応があります。ただし40kg以上という条件付きです。一方で、ラゲブリオは18歳以上が対象で、小児には使えません。
有効性
パキロビッドとラゲブリオの有効性は以下のとおりです。
入院または死亡のリスク
・パキロビッド…89%低下
・ラゲブリオ…31%低下
参考までに、臨床試験の結果も合わせてご確認くださいね。
ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)
- 対象…18歳以上のSARS-CoV-2による感染症患者2,246例(重症化リスクあり)
- 方法…ニルマトレルビル300mg及びリトナビル100mgを併用で1日2回5日間投与
- 比較…プラセボ
結果は以下のとおり
- 主要評価項目:入院または死亡(発症3日目以内投与)
・投与群…0.7%(入院5例、死亡0例)
・プラセボ…6.5%(入院44例、死亡9例) - 副次評価項目:入院または死亡(発症5日目以内投与)
・投与群…0.8%(入院8例、死亡0例)
・プラセボ…6.3%(入院66例、死亡12例)
→3日以内投与で89%、5日以内投与で88%、入院又は死亡のリスクを抑制しました
パキロビッドの方が数字的には優れています。ここが両薬剤の位置付けを決めるポイントです。経口薬でありながら、従来の点滴製剤とほぼ同等の効果が期待できます。
抗ウイルス薬
・レムデシビル…87%低下(実薬0.7%:プラセボ5.3%)
中和抗体薬
・ゼビュディ…79%低下(実薬1%:プラセボ7%)
・ロナプリーブ…70.4%低下(実薬1%:プラセボ3.2%)
重症化リスク因子
パキロビッドとラゲブリオは重症化リスク因子に違いがあります。
パキロビッドパック、ラゲブリオカプセル 添付文書より
個人的に気になったのは
パキロビッドがBMI25超、喫煙、高血圧でも使用できる点!
特に、BMIの基準が低めに設定されているので、対象患者は増えると思います。BMIが30に届かずに対象外となっていた人が結構おられたので。あと、喫煙者の定義が具体化されています。最近、禁煙して1ヶ月以上が経過している人は重症化リスクからはずれるわけですね。
加えて、Covid-19診療の手引きに記載がある重症化リスク因子も勘案して、最終的に投与の要否・可否を判断します。
新型コロナウイルス感染症covid-19診療の手引き:重症化リスク因子
- 65 歳以上の高齢者
- 悪性腫瘍
- 慢性呼吸器疾患(COPD など)
- 慢性腎臓病
- 糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- 心血管疾患
- 脳血管疾患
- 肥満(BMI 30 以上)
- 喫煙
- 固形臓器移植後の免疫不全
- 妊娠後半期
- 免疫抑制・調節薬の使用
- HIV 感染症(特に CD4 <200/ μ L)
ラゲブリオは、重症化リスク因子を有さない方にも投与できるようになりました。2022年9月15日、一般流通により適格性情報チェックリストの提出が不要になったタイミングからです。高熱や呼吸器症状等から重症化の恐れがある場合に限り、医師の判断により重症化リスク因子がない方も投与の対象になります。
添付文書上、本剤の投与対象は重症化リスク因子を有する患者が中心ですが、審査の過程における議論からは、高熱や呼吸器症状等の相当の症状を呈し重症化のおそれがある場合など、本剤の投与が必要と判断された患者に対しては投与可能と考えられます
製品基本Q&A ラゲブリオカプセル 重症化リスク因子がない患者への投与は可能ですか?
相互作用
パキロビッドとラゲブリオは相互作用に大きな違いがあります。
比較すると
・パキロビッド…禁忌44成分、注意も多数
・ラゲブリオ…記載なし
ここはラゲブリオに優位性があります。併用禁忌、併用注意ともに記載がないからです。
(薬物相互作用)モルヌピラビル及びNHCは主要な薬物代謝酵素及びトランスポーターの基質ではない。また、モルヌピラビル及びNHCは主要な薬物代謝酵素及びトランスポーターに対する阻害作用又は誘導作用を示さなかった。
ラゲブリオカプセル 添付文書
一方で、パキロビッドは相互作用は山ほどあります。リトナビルが薬物代謝酵素CYP3Aや薬物トランスポータのP-gp、BCRPに対する阻害作用を示すからです。
(相互作用)本剤はCYP3Aを強く阻害する。また、ニルマトレルビル及びリトナビルはCYP3Aの基質である。他の薬剤との相互作用は、可能なすべての組み合わせについて検討されているわけではないので、併用に際しては用量に留意して慎重に投与すること
パキロビッドパック 添付文書
パキロビッドカプセル:禁忌44成分(2024年3月現在)
片頭痛治療薬
エレトリプタン(レルパックス) ジヒドロエルゴタミン
降圧薬
オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン(レザルタス配合錠) アゼルニジピン(カルブロック)
降圧薬、慢性心不全薬
エプレレノン(セララ)
慢性心不全薬
イバブラジン塩酸塩(コララン)
抗不整脈薬
アミオダロン(アンカロン) ベプリジル(ベプリコール) フレカイニド(タンボコール) プロパフェノン(プロノン) キニジン
抗凝固薬
リバーロキサバン(イグザレルト)
抗血小板薬
チカグレロル(ブリリンタ)
抗結核薬
リファブチン(ミコブティン) リファンピシン(リファジン)
抗精神病薬
ブロナンセリン(ロナセン) ルラシドン(ラツーダ) ピモジド
頭痛治療薬
エルゴタミン・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン(クリアミン)
子宮収縮薬
エルゴメトリン ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩 メチルエルゴメトリン(パルタン)
肺高血圧症治療薬
シルデナフィル(レバチオ) タダラフィル(アドシルカ)
勃起不全改善薬
バルデナフィル(レビトラ)
高脂血症治療薬
ロミタピド(ジャクスタピッド)
抗悪性腫瘍薬
ベネトクラクス※(ベネクレクスタ) アパルタミド(アーリーダ)
※再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期の場合
抗不安薬/抗てんかん薬
ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)
抗不安薬/催眠鎮静薬
クロラゼプ酸二カリウム(メンドン) エスタゾラム(ユーロジン) フルラゼパム(ダルメート) トリアゾラム(ハルシオン)
睡眠薬
スボレキサント(ベルソムラ)
麻酔薬/抗てんかん薬
ミダゾラム(ドルミカム、ミダフレッサ)
抗てんかん薬
カルバマゼピン(テグレトール) フェノバルビタール(フェノバール) フェニトイン(ヒダントール、アレビアチン) ホスフェニトイン(ホストイン) メペンゾラート臭化物・フェノバルビタール(トランコロンP配合錠)
抗真菌薬
ボリコナゾール(ブイフェンド)
セイヨウオトギリソウ
St. John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート含有食品
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病
フィネレノン(ケレンディア)
がん悪液質治療薬
アナモレリン(エドルミズ)
特に使用頻度の高い、降圧剤、抗凝固薬、抗不整脈薬、抗てんかん薬、抗不安薬、睡眠薬は要注意だと思います。見逃しそうで怖いですね。
パキロビッドは併用薬の確認と事前説明が欠かせません!
添付文書にも以下の記載があります。
(重要な基本的注意)本剤は併用薬剤と相互作用を起こすことがあるため、服薬中のすべての薬剤を確認すること。また、本剤で治療中に新たに他の薬剤を服用する場合、事前に相談するよう患者に指導すること
パキロビッドパック 添付文書
ここは薬剤師の腕の見せどころです。疑義照会であとから処方の変更を行うのは煩雑なので、同意を取る段階で、処方医と薬剤師の連携も必要だと思いました。お薬手帳の活用やかかりつけ薬局との連携にかかっている部分ですね。
といっても、お薬手帳の過信は禁物です!
安全に活用するための方法について考察しています。参考にしていただけると幸いです。
併用注意の扱いはどうする?
これは非常に難しいと思いました。全部の併用注意薬を一つずつ確認して対応を検討するのは労力と時間を要するからです(スルーでいいと言ってるわけではありません)。仮に併用注意だからといって、パキロビッドの投与を避けるかというとそんなことは通常ないと思います。併用注意の危険性よりも、投与の必要性が上回るケースがほとんだと考えられるからです。
できることといえば、服薬後のフォローだと思います。5日間の投与期間において、どのように介入すべきか個別判断が必要ですね。
ちなみに、
併用時に減量を考慮すべき薬剤もあります。対応が煩雑ですね。
イブルチニブ、エンコラフェニブ、ベネトクラクス※〈再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の維持投与期、急性骨髄性白血病〉、トラゾドン
※ベネトクラクスは減量が明記されています。
腎機能障害時の対応
パキロビッドとラゲブリオは腎障害時の対応にも違いがあります。
比較すると
・パキロビッド…eGFR<30は非推奨、30≦GFR<60は減量
・ラゲブリオ…記載なし
ここもラゲブリオが有利な点です。腎排泄型ではないので腎機能に応じた減量も必要ありません。
健康成人にモルヌピラビル800mgを1日2回5.5日間反復経口投与した際、NHCの尿中排泄率は3%であった(外国人データ)。
ラゲブリオカプセル 添付文書
パキロビッドは腎機能の確認が欠かせません!
ニルマトレルビルの主な排泄経路が腎臓だからです。腎機能正常者に比べて、中等度低下例で約1.9倍、重度低下例で3倍にAUCが上昇します。
パキロビッドは腎機能に応じて投与の可否、投与量が決まる点は押さえておきましょう。
(用法及び用量に関連する注意)中等度の腎機能障害患者(eGFR[推算糸球体ろ過量]30mL/min以上60mL/min未満)には、ニルマトレルビルとして1回150mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与すること。重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は推奨しない
減量時の対応は?
ここは驚きました。余分な薬を抜薬して調剤を行うかたちだからです。パキロビッドは1日分が一枚のシートになったパック製剤、そこから減量するニルマトレルビルを抜き出して、専用のシールを貼って交付します。
(薬剤調製時の注意)シート1枚には通常用法・用量の1日分(朝及び夕方の2回分)のニルマトレルビル錠(計4錠)及びリトナビル錠(計2錠)が含まれる。中等度の腎機能障害患者に対する用法・用量が処方された場合、朝及び夕方の服用分それぞれから、ニルマトレルビル錠2錠のうち1錠を取り除き、取り除いた箇所に専用のシールを貼り付けて交付すること
パキロビッドパック 添付文書
シールは下図のようなもの
減量に対応したパキロビッドパック300が登場しました
中等度腎機能障害の方には、こちらを使います。
妊婦・妊娠の可能性のある患者への対応
パキロビッドとラゲブリオは妊婦・妊娠の可能性のある患者への対応が異なります。
比較すると
・パキロビッド…有益性投与
・ラゲブリオ…禁忌
ここは、パキロビッドの方が使い勝手がよい部分です。ラゲブリオと違って有益性投与になります。
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。妊娠ウサギにニルマトレルビルを投与した実験において、臨床曝露量(AUC)の10倍に相当する用量で胎児体重の減少が認められている。また、妊娠ラットにリトナビルを投与した実験において、胎盤を通過して胎児へ移行することが報告されている
パキロビッドパック 添付文書
一方で、ラゲブリオは禁忌の対応です。
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。動物実験で胎児毒性が報告されている。妊娠ラットの器官形成期にモルヌピラビルを投与した実験において、N-ヒドロキシシチジン(NHC)の臨床曝露量の8倍に相当する用量で催奇形性及び胚・胎児致死が、3倍以上に相当する用量で胎児の発育遅延が認められている。また、妊娠ウサギの器官形成期にモルヌピラビルを投与した実験において、NHCの臨床曝露量の18倍に相当する用量で胎児体重の低値が認められている
ラゲブリオカプセル 添付文書
また、妊娠する可能性のある方へ投与する場合には、ラゲブリオ投与中及び投与後少なくとも4日間は避妊を行う必要があります。
一包化の可否
パキロビッドとラゲブリオは一包化の可否に違いがあります。
・パキロビッド…不可
・ラゲブリオ…可
ラゲブリオはボトル包装のまま調剤を行うのが基本ですが、服薬管理が困難なケースでは一包化で対応可能です。無包装で90日間の安定性が確認されています。一方で、パキロビッドは1シートに1日分がセットされており、1回に半シート分ずつを指で押しだして飲むかたちです。無包装での安定性は確認されておらず、一包化は推奨されていません。
- (ラゲブリオ)は分包・一包化はできますか?
-
基本的には、ボトル包装単位での処方が推奨されます。ただし、無包装安定性試験により、90日まで安定である結果が得られています。
- (パキロビッドは)なぜ一包化してはいけないのですか?
-
本剤の自動分包機への適合性や分包後や無包装状態での安全性に関する検討は行なっていないため、一包化を推奨していません。
粉砕・脱カプセルの可否
パキロビッドとラゲブリオは粉砕・脱カプセルの可否に違いがあります。
・パキロビッド…不可
・ラゲブリオ…条件付き可
ラゲブリオは以下の使用経験から脱カプセルによる投与(
粉末を水に用時溶解、 粉末を直接投与 データなし)ができると考えられます。カプセルが大きく、嚥下が難しい場合でも服薬可能です。一方で、パキロビッドは粉砕や噛み砕いて投与した場合の体内動態や安全性、有効性に関するデータがなく、嚥下困難な方には投与できません。- (ラゲブリオ)脱カプセルの可否、使用経験は?
-
<使用経験:懸濁液の経口投与>
第Ⅰ相臨床薬理試験において外国人健康成人にボトル入りの粉末モルヌピラビル(有効成分) 50~800 mgを水に用時溶解し単回経口投与しました。 その結果、懸濁液を単回投与した被験者の血漿中NHCの曝露量(AUC)は、カプセルで同じ用量のモルヌピラビルを単回投与した他の被験者の血漿中NHCの曝露量と類似していました。なお、評価したすべての用量のモルヌピラビルの忍容性は概して良好で、重篤な有害事象は認められませんでした。なお、脱カプセルした粉末を直接経口投与した経験はありません
- (パキロビッド)粉砕やかみ砕いてはいけない理由を教えてください
-
粉砕したりかみ砕いて服用した場合の、体内動態や安全性及び有効性のデータは取得しておりません。したがって、粉砕したりかみ砕いての投与は推奨しておりません
簡易懸濁の可否
パキロビッドとラゲブリオは簡易懸濁の可否に違いがあります。
・パキロビッド…不可
・ラゲブリオ…条件付き可
ラゲブリオは以下の使用経験から簡易懸濁による投与(
脱カプセル後に4capを水40mLで溶解して1時間以内に投与、 カプセル剤をそのままを微温湯に入れる データなし)ができると考えられます。一方で、パキロビッドは簡易懸濁による投与の体内動態や安全性、有効性に関するデータがなく、投与は推奨されていません。- (ラゲブリオ)懸濁・簡易懸濁投与の可否、使用経験は?
-
<使用経験:脱カプセル後に懸濁し、経鼻胃管/経口胃管で投与>
外国人入院患者を対象とした臨床試験(001試験)では、カプセルを嚥下できなくなった患者には、本剤の懸濁液を経鼻胃管又は経口胃管にて投与することが許容されていました。懸濁液を経管投与された5症例のNHCの血中濃度は、カプセル製剤を経口投与された患者の血中濃度の範囲内であり投与方法による差は示唆されませんでした。簡易懸濁法(カプセル剤そのままを微温湯に入れる)での投与経験もありません。また、懸濁後の安定性データはなく、「何度まで安定か」など安定な温度に関する情報もありません。胃瘻、腸瘻での使用経験もありません。
- (パキロビッド)なぜ、簡易懸濁をしてはいけないのですか?
-
簡易懸濁による投与は、承認された投与方法ではなく、体内動態や安全性および有効性に関するデータは取得しておりません。そのため、簡易懸濁を推奨していません。
まとめ
パキロビッドは有効性が高い!
ここが魅力。軽症から中等症Iの患者において、入院と死亡リスクを89%抑制できます。一方で、併用薬と腎機能のチェックが欠かせません。44成分の併用禁忌と多くの併用注意薬があるし、腎機能に応じて投与できなかったり、減量が必要なケースもあるからです。ある意味、薬剤師の関与が欠かせない薬剤だといえます。
それに対して、ラゲブリオはイマイチ有効性が見劣りします。しかし、使い勝手はまずまずな印象。カプセルが大きく飲みにくいのは置いといて、相互作用がないし、腎機能障害のある方にも通常量投与できます。
経口薬の使い分けは
第一選択はパキロビッド。代替薬としてラゲブリオ。
という感じですね。
今回は、パキロビッドとラゲブリオを比較しながら共通点と相違点を解説しました。記事を書きながら、薬剤師として安全な使用を全力でサポートしたいと強く思いました♪