2020年9月にエナロイが承認されました!
国内4番目のHIF-PH阻害薬ですね。
「エナロイ錠は、ほかのHIF-PH阻害薬と比べてどうなの?」
気になる人も多いはず!
いつもなら、エナロイの特徴を順に解説していくところを、今回は趣向を変えて記事を書きます(^^)/
上記問いに対して、あえてツッコミが入る回答(別に間違ってないけど、詰めが甘い答え)を例示しながら、それにツッコミ(解説)を入れながらエナロイ錠の特徴に迫りたいと思います!
逆に分かりにくかったらすいませんm(._.)m
全部の回答と解説を読むと、HIF-PH阻害薬エナロイ錠のプロファイルがわかるように構成しました。最後までお付き合い頂けたら嬉しいです♪
それでは始めます!
エナロイは他のHIF-PH阻害薬と比べて何が良いのか?
下記4つの視点から考察しました。
- 適応に注目!
- アドヒアランスに着目!
- 使い方をピックアップ!
- 相互作用にフォーカス!
ツッコミが入る回答を順番に見ていきましょう。
①適応に注目!
エナロイ錠は、ほかのHIF-PH阻害薬と比べてどうなの?
保存期と透析、両方に適応があるのがメリットです!
先輩薬剤師の問いかけに、新人薬剤師が答えてます。この回答はどうでしょうか?
エナロイは①保存期の慢性腎臓病(CKD)と②血液透析(HD)・腹膜透析(PD)患者の腎性貧血に適応があります。
しかし、今となってはインパクトに欠けますね。①CKDと②HD,PDに適応を持つバフセオとダーブロックがすでに市場にあるからです。エベレンゾも2020年11月頃に①CKDの適応が拡大される見込みとのこと(※追記、11月27日に承認されました!)
適応に関して、エナロイの優位性はありませんね。もう適応の違いを理由に、優劣はつけられません。残念ながら…。
近々、エナロイを含めHIF-PH阻害薬は、以下のように保存期CKDとHD・PDの両方に使えるのが当たり前の時代になります。
参考までに
エナロイの有効性を確認しておきましょう。
→ Hbの差0.09g/dL(95%CI:−0.07〜0.26)…非劣性マージン−0.75を上回りました。血液透析患者を対象とした国内第3相臨床試験でも同様の傾向が見られ、非劣性という結果でした。
続いて2つ目の回答に進みましょう。
②アドヒアランスに着目!
エナロイ錠は、ほかのHIF-PH阻害薬と比べてどうなの?
1日1回なので、アドヒアランスの向上が期待できますよ!
新人薬剤師さんはここで挽回したい!
この回答はどうか?確かに、エナロイはエベレンゾに比べると飲み忘れのリスクが少ないと思います。
週3回投与(月水金や火木土とか)は服薬管理が煩雑だからです。曜日によって飲んだり飲まなかったりと…飲み間違えそう(^_^;)
もちろん、ケースによりますよ。透析日に持参していただき、透析後に医療者確認のもと確実に服用してもらう方法もあるので…。
でも、普通に考えると1日1回、毎日飲むエナロイの方が、アドヒアランスは良さそうですね。
しかし、ダーブロックやバフセオと比べると、またしても優位性はありません。どちらも1日1回投与だからです。
それどころか、劣る可能性があります
なぜなら、エナロイは投与時点が食前又は就寝前に限られるからです。以下のように、食後に飲むとCmaxとAUCが低下します。
健康成人男性に本剤100mgを食後に単回経口投与した時のCmax及びAUCinfは,空腹時投与と比較してそれぞれ47%及び26%低下した
エナロイ錠、電子添文より
他のHIF-PH阻害薬と比較してみましょう。AUCの低下率は下記です。
※各種インタビューフォームより
エナロイ錠は食事の影響が大きく、空腹時に飲まなければなりません。ここが他のHIF-PH阻害薬と大きく異なる点ですね。
- エナロイ…1日1回食前または就寝前
- エベレンゾ…週3回投与
- バフセオ…1日1回
- ダーブロック…1日1回
エナロイ錠は飲み忘れが多い人は不向きです
もちろん、食前や就寝前に薬を飲んでる人の場合は特に問題ありません。一包化でまとめて服薬できるからです。一方で、1日1回朝食後だけ飲んでる人(コンプライアンスが悪くあえてそうしている)では新たに服薬時点が増え、飲み忘れのリスクが懸念されます。
認知機能が低下した高齢者や、薬の種類が多いCKDや透析の患者さんはアドヒアランス不良の傾向があるので、エナロイはやや使いにくいかも知れませんね。
アドヒアランスを考えると
バフセオとダーブロックに軍配が上がります。両剤の比較は別記事にまとめているので、合わせてご覧くださいね。
③使い方をピックアップ!
エナロイ錠は、ほかのHIF-PH阻害薬と比べてどうなの?
用量調節がシンプルで、わかりやすいです!
今度こそ、挽回なるか!?
この回答はおおむね正解ですね。エナロイは用法用量がわかりやすいです。
でも、HIF-PH阻害薬の中でエナロイが最も優れているわけではありません。ランキングをつけるなら第2位です。惜しいーー。
製品名 | 評価 |
---|---|
バフセオ | |
エナロイ | |
ダーブロック エベレンゾ |
「使い方がシンプルでわかりやすい」かどうかは下記2つの視点で評価しました。
- 開始用量:CKDとHDの違い
- 投与量:調整段階の数
具体的に見てみましょう。
①開始用量:適応による違い
エナロイはCKDとHDで開始用量が異なります。国内第2相試験で、週あたりのHb上昇速度に用量反応性が見られ、CKDでは2mg、HDでは4mgからHb値の上昇が認められたからです。
- CKD…2mgから開始(最大8mg)
- HD…4mgから開始(最大8mg)
HIF-PH阻害薬は以下のように開始用量の設定に違いがあります。
エナロイとダーブロックはCKDとHDで開始用量が異なります。処方時には注意ですね。エナロイは上述のとおり、ダーブロックはCKDが2mgまたは4mg(ESAからの切り替え)、HDが4mgです。
エベレンゾは開始用量が共通ですが、ややこしい印象があります。ESA未治療で50mg、切り替えで70mg(低用量ESA)又は100mg(高用量ESA)とやや複雑だから…。
一方で、バフセオはわかりやすい!開始用量が300mgと共通で、ESAによる切り替えの有無も関係ないからです。
ということで、エナロイは開始用量が異なる点で、バフセオに優位性を示せません。
②投与量、調整段階の数
エナロイは5段階の用量が設定されています。Hb値をモニターしながら段階的に増量や減量を行うための投与量の目安が決められているのです。
Hbの定期的なモニターが欠かせない!
エナロイも含めHIF-PH阻害薬は、開始後は2週に1回(エベレンゾは1〜2週に1回)、投与中は4週に1回の頻度が推奨されています(各種電子添文より)
HIF-PH阻害薬の調整段階数と投与量を比較してみましょう。
- エナロイ…5段階
→1・2・4・6・8mg - エベレンゾ…8段階
→20・40・50・70・100・120・150・200mg - ダーブロック…8段階
→1・2・4・6・8・12・18・24mg - バフセオ…4段階
→150・300・450・600mg
段階数が少ない方がシンプルで分かりやすいです。ここでもバフセオに優位性がありますね。エナロイがそれに続くかたちです。
一方で、段階数が多いと用量設定が煩雑になります。維持用量までのステップが多く、用量変更の機会が増えるからです。エベレンゾとダーブロックは用量調節が面倒な印象ですね。細やかに投与量を調整できる点をメリットと考えることもできますが……。
ランキングを改めて確認すると、バフセオが堂々の第1位!開始用量が共通で、段階数も少ないからですね。エナロイはもう一歩届かず第2位です。エベレンゾとダーブロックは、第3位…仕方ないですね。
④相互作用にフォーカス!
エナロイ錠は、ほかのHIF-PH阻害薬と比べてどうなの?
相互作用が少なく、使いやすさが売りですね!
この回答はその通り!エナロイは相互作用が少なく使いやすいです。
でも、ランキングにするとエナロイはまたも第2位!残念、上にはうえがいるんですね。
製品名 | 評価 |
---|---|
ダーブロック | |
エナロイ | |
バフセオ エベレンゾ |
エナロイはわずかに薬物代謝酵素CYPで代謝されます。主なものはCYP2C8とCYP2C9、CYP3A4です。しかし、臨床的に問題になるほどではなく、併用注意にCYPの記載はありません。
注意すべきはリン吸着薬と多価陽イオン含有薬です!
腎性貧血の患者さんはどちらも併用する可能性が高いですが、特に鉄剤との併用はネックだと思います。HIF-PH阻害薬は赤血球の生成を促す作用から鉄の必要量が増し、併用の機会がより多いからです。
エナロイは多価陽イオン含有薬との併用にあたり、下記の投与間隔が必要になります。
本剤と併用した場合,本剤の作用が減弱するおそれがあるため,併用する場合は,投与後3時間又は投与前1時間以上間隔をあけて本剤を投与すること。
エナロイ電子添文より
幸いにも、エナロイは食前投与なので、食後の鉄剤であれば効果減弱を回避できます。食事前の30分と食事後の30分で、計算上は1時間の間隔をあけることができるからです。食事にかかる時間(20〜30分くらい)も入れるとまずクリアできると思います。
参考までに、HIF-PH阻害薬の相互作用をまとめると下記です。
※各種添付文書より
エナロイはHIF-PH阻害薬の中で、相互作用は少なめですが、ダーブロックには敵いません。ダーブロックは多価陽イオン製剤と併用が可能で、注意薬も少ないのが魅力です。ランキング堂々の第1位ですね。
バフセオとエベレンゾはトランスポーターの相互作用(BCRPとOAT)もあります。併用注意薬の種類が多く、薬歴のチェックが欠かせないですね(^_^;)
まとめ
さて、エナロイ錠は他のHIF-PH阻害薬に追従できるのか?
今回のテーマでしたね。
結論をいうと、追従できる可能性はあります。4番手という時点で出遅れているにせよ、他のHIF-PH阻害薬が飛び抜けているかというと現状そのような印象はありません。
まだまだ、横並びの状態だと思います。
記事を書きながら「どのHIF-PH阻害薬が一番優れているのか?」現時点で答えを出すのは難しいと感じました。
結局にところ、何を第一に考えるかですよね。
- アドヒアランス
- 用法用量(シンプルさ、微調整ができる)
- 相互作用(使い勝手の良さ)
- コストなど
薬剤師としては、やはりアドヒアランスと相互作用を重視したいところですね。本当いうと、薬の理解度やライフスタイル、併用薬等を考慮して患者さんごとに最も適した製剤を選択するのがベストだと思います。ただ、採用薬や在庫の絡みでむずかしいですけどね…。
エナロイはHIF-PH阻害薬の中で、どのような位置付けになるのか?今後の動向に目が離せませんね♪
5番目のHIF-PH阻害薬マスーレッドが登場しました。下記に特徴をまとめているので合わせてご覧いただけたら幸いです!