今回のテーマはオンデキサ静注用!
待ちに待った第Ⅹa因子阻害薬の中和剤です。
どのような特徴があるのか?
先行発売のトロンビン阻害薬プリズバインドと比較しながら解説します。
オンデキサとプリズバインドの基本情報
まずは基本情報の比較から。
製品名 | オンデキサ静注用 | プリズバインド静注液 |
---|---|---|
販売年月 | 2022年5月 | 2016年11月 |
一般名 | アンデキサネット アルファ | イダルシズマブ |
規格 | 200mg(粉末) | 2.5g/50mL(溶液) |
分類 | 直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤 | ダビガトラン特異的中和剤 |
作用機序 | 第Xa因子のデコイタンパク質 | モノクローナル抗体フラグメント(Fab) |
適応 | 直接作用型第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン又はエドキサバントシル酸塩水和物)投与中の患者における、 ①生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時の抗凝固作用の中和 | 以下の状況におけるダビガトランの抗凝固作用の中和 ①生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時 ②重大な出血が予想される緊急を要する手術又は処置の施行時) |
禁忌 | 過敏症の既往歴がある患者 | 過敏症の既往歴がある患者 |
投与方法 | 2パターン ・A法とB法 ※ボーラス投与+持続投与 ※単独投与 | 1パターン ・2.5g×2のみ ※急速静注又は点滴静注 ※単独投与 |
抗凝固療法の再開 | 止血後、速やかに再開を考慮 | 止血後、速やかに再開を考慮 |
薬価 | 200mg…338,671円 | 2.5g…203,626円 |
ポイントは大きく4つです。
- 作用機序
- 適応
- 投与方法
- 抗凝固療法の再開
順番に見ていきましょう。
オンデキサとプリズバインドの作用機序
一つ目のポイントは作用機序について。
大きく違います!
・オンデキサ…ヒト第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質
・プリズバインド…(ダビガトランに対する)ヒト化モノクローナル抗体フラグメント(Fab)
デコイタンパク質?モノクローナルフラグメント?
順に説明します。
オンデキサの作用機序
オンデキサはデコイ(=おとり)タンパク質(=第Xa因子の格好をした偽物)です。アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバンなど第Xa因子阻害薬とくっついて補足し、第Xa因子(ホンモノ)への結合を妨げます。
- オンデキサは凝固作用があるのか?
-
第Xa因子に構造が似ていますが、それ自体は凝固作用は示しません。
(作用部位・作用機序)アンデキサネット アルファは、第Xa因子の活性部位であるセリンをアラニンに置換しているため、プロトロンビンを活性化させる触媒作用はなく、生体由来の第Xa因子が持つ凝固促進作用は除かれている
オンデキサ静注用 インタビューフォームただし、オンデキサはTFPI(組織因子経路インヒビター)との結合親和性を有し、間接的に凝固反応を促す可能性が示唆されています。「TFPIと第Xa因子の複合体」による凝固反応に対するネガティブフィードバックを抑制する可能性があるからです。
本薬の各種血漿中凝固関連タンパク(TFPI、ATIII、α-2-Macroglobulin、α-1-Antitrypsin、FVII、FX、プロトロンビン、FV)との結合親和性を、表面プラズモン共鳴アッセイにより内因性 FXa と比較検討した。その結果、本薬は TFPI に対して FXa と同程度の結合親和性を示し(本薬及び FXa に対する Kd 値 は、それぞれ 0.64~0.70 及び 0.85~14.5 nmol/L)、TFPI 以外に本薬との顕著な結合親和性を示すものはなかった。
オンデキサ静注用、審議結果報告書
オンデキサは低分子ヘパリンであるエノキサパリン(クレキサン)の抗凝固作用にも拮抗します。アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)を介して第Xa因子に結合する同薬にも親和性を示すからです。
ヒト血漿に各間接作用型第 Xa 因子阻害剤(0.5〜1.0IU/mL又は1.0μg/mL)と各種濃度のアンデキサネッ ト アルファを加えてプレインキュベーションした後、市販のヘパリンアッセイキットの試薬及び第Xa因子発色基質を用いて残存する第Xa 因子(ウシ第Xa 因子)活性を測定した。その結果、アンデキサネット アルファはATIII依存性間接作用型第Xa因子阻害剤であるエノキサパリンの抗第Xa因子活性を用量依存的に中和した
オンデキサ静注用 インタビューフォーム
ちなみに米国では、エノキサパリン治療中の生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時における抗凝固作用の中和に係る効能・効果で、申請、審査中です(オンデキサ、審議結果報告書より)
国内でも適応が拡大されるかも知れませんね…。
プリズバインドの作用機序
一方で、プリズバインドはモノクローナル抗体のFab(=抗体の一部分、ターゲットと結合する部分)です。ダビガトランと結合して、トロンビンの結合を阻害します。
Fabとは抗体はパパインによりH鎖の中央部分で切断され、可変領域側を含む部位をFab(Fragment antigen binding)、定常領域側を部位をFc(Fragment crystalizable)と呼びます。
- プリズバインドは凝固作用があるのか?
-
トロンビンと複数の構造的類似性がありますが、凝固作用はありません。プリズバインドはダビガトランに特異性が高いのが特徴です。
表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いて,様々なトロンビン基質に対するイダルシズマブの結合能を測定した結果,イダルシズマブはダビガトランを除いて,これらのトロンビン基質に結合しなかった。 また,種々の凝固試験法を用いて,ヒト血漿中におけるイダルシズマブのダビガトラン結合部位のトロンビン様酵素活性を測定した結果,イダルシズマブが血漿又は血小板に対して,トロンビン様酵素活性により血栓形成促進作用を示さないことが明らかになった。
プリズバインド静注用 インタビューフォーム
オンデキサとプリズバインドの適応
続いて2つ目のポイント、適応について。
ここも違いがあります!
・オンデキサ…直接作用型第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン又はエドキサバントシル酸塩水和物)投与中の患者における、生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時の抗凝固作用の中和
・プリズバインド…以下の状況におけるダビガトランの抗凝固作用の中和(生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時、重大な出血が予想される緊急を要する手術又は処置の施行時)
ポイントは2つです。
- 対象薬剤の違い
- 使用場面の違い
①対象となる薬剤が異なります
オンデキサの対象薬剤は3種類です。以下の第Ⅹa因子阻害薬の凝固作用を中和します。
一般名 | 商品名 | 剤型・規格 |
---|---|---|
アピキサバン | エリキュース | 錠2.5mg 錠5mg |
リバーロキサバン | イグザレルト | 錠2.5mg(2022/10追加) 錠10mg 錠15mg OD錠10mg OD錠15mg 細粒分包10mg 細粒分包15mg |
エドキサバン | リクシアナ | 錠15mg 錠30mg 錠60mg OD錠15mg OD錠30mg OD錠60mg |
一方で、プリズバインドは1剤のみです。トロンビン阻害薬ダビガトランの抗凝固作用を中和します。
トロンビン阻害薬
一般名 | 商品名 | 剤型・規格 |
---|---|---|
ダビガトラン | プラザキサ | カプセル75mg カプセル110mg |
もう一つは②使用場面の違いです
直接作用型第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン又はエドキサバントシル酸塩水和物)投与中の患者における
以下の状況におけるダビガトランの抗凝固作用の中和
オンデキサは出血時のみ。生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時に用います。
一方で、プリズバインドは出血時だけではありません。緊急手術又は処置時に使用できます。
ここは注意!
・オンデキサは重大な出血が予想される手術又は処置時の投与は未承認です。
※日本人を含む当該患者集団を対象とした国際共同治験が進行中とのことです(オンデキサ静注用、審議結果報告書より)
オンデキサとプリズバインドの投与方法
続いて3つ目のポイント、投与方法について。
ここも大きく異なる点です!
・オンデキサ…非常に複雑
①A法とB法、②ボーラス投与+持続投与
・プリズバインド…シンプル
①1用法のみ、②急速または点滴静注
オンデキサの投与方法
第Ⅹa因子阻害薬の
- 種類
- 投与量
- 最終投与からの経過時間
上記3つの項目から用法用量を選択します。
(用法及び用量に関連する注意)
オンデキサ静注用200mg 電子添文
本剤は、直接作用型第Xa因子阻害剤の種類、最終投与時の1回投与量、最終投与からの経過時間に応じて、以下のとおり投与すること。
A法とB法の2パターンから選択!
残存する抗凝固作用の程度が大きい場合はB法(高用量)、小さい場合はA法(低用量)を選ぶかたちです。
でも、これを現場で正しく判断するのは難しいと思いました。薬剤の種類と1回投与量は自施設の患者さんであったり、お薬手帳や診療情報提供書等があればわかります。でも、最終投与からの経過時間は把握が簡単ではありません。ご本人に聞き取れる状況とは限らないし、患者さんごとにライフスタイルも異なる(朝食後や夕食後の時間は人それぞれ)からです。結局、経過時間は不明ということでB法を選択するケースが多い気がします。
A法とB方法の違い
ポイントは2つです。
- 用量の違い(AとBの相違点)
- ボーラス+持続投与(AとBの共通点)
まず①A法とB法では用量が異なります。ボーラス、持続投与ともにB法はA法の2倍です。
必要バイアル数はAが5本、Bが9本と2倍ではありません。取り出すときに注意ですね。
②A法とB法いずれもボーラス投与と持続投与を組み合わせて投与します。速効性と持続性を担保するための投与方法です。ここは共通点ですね。
- 輸液ポンプとシリンジポンプ、どちらを用いるの?
-
投与量(全量)から考えるとA法は輸液ポンプ又はシリンジポンプ、B法は輸液ポンプを用いるかたちになります。A法とB法、それぞれのボーラスと持続投与について、溶解後の投与量と投与速度まとめると下記です。
A B ボーラス 全量40mL
3mL/minで投与
(180mL/h)
約13分かかる全量80mL
3mL/minで投与
(180mL/h)
約26分かかる持続 全量48mL
0.4mL/minで投与
(24mL/h)
120分かかる全量96mL
0.8mL/minで投与
(48mL/h)
120分かかるオンデキサ静注用 投与方法から作成
調製手順
ここはかなり大変だと思います。
ポイントは3つです。
- 溶解用の注射用水が必要!
- 投与に際して空容器が必要!
- 泡立ちに注意!
①オンデキサは溶解用の注射用水がいります。1バイアルあたり20mLなので必要分を用意しなければなりません。
- A法の場合…注射用水の100mLボトル(20mL×5)
- B法の場合…注射用水100mLを2本(20mL×9 余り20mL)
20mLのプラスチックアンプルも可ですが、輸液ポンプを用いる場合はボトルを用います。
②溶解した薬液は空のボトル(注射用水)戻して投与します(輸液ポンプ使用時)。再利用する形です。他の輸液に希釈できない点は押さえておきたいところ。又、点滴バッグを用いるときはその材質が指定されています。
(薬剤調製時の注意)20G以上の注射針を装着した注射筒を用いて、投与量に応じて必要量の溶解液をバイアルから採取する。バイアルから採取した溶解液は希釈せずに使用すること。点滴バッグによる投与を行う場合は、ポリオレフィン製又はポリ塩化ビニル製の点滴バッグを用いることが望ましい
オンデキサ静注用 電子添文
③オンデキサは泡立たないように慎重に調製を行います。タンパク製剤であり泡立ちやすいからです。緊急時であっても落ち着いて操作する必要があります。
ざっと見た感じかなり大変だと思いました。特に、20mLを必要本数分抜き取るのにかなりの時間を要するはずです。20G以上の針(細め)を使用しなければならないので、シリンジを引く力も大きく、時間がかかります。
プリズバインドの投与方法
一方で、プリズバインドの投与方法は簡便です。
希釈が不要!
1バイアル2.5g当たり50mLで溶解済の製剤だからです。オンデキサのように注射用水で溶解する手間がかかりません。
投与方法は1パターン
1回5g(2.5gを2バイアル)を10〜20分かけて投与します。
(用法及び用量)通常、成人にはイダルシズマブ(遺伝子組換え)として1回5g(1バイアル2.5g/50mLを2バイアル)を点滴静注又は急速静注する。ただし、点滴静注の場合は1バイアルにつき5~10分かけて投与すること。
プリズバインド静注用 電子添文
手技は2パターン
点滴静注と急速静注が選択できます。点滴静注の方法は3つ。自然滴下、輸液ポンプ、シリンジポンプを用いることができます。
このように、同じ中和剤であっても投与方法は大きく異なります。オンデキサは煩雑だし、調製に時間がかかるので、あらかじめ手順は頭に入れておいた方が良く、ICU担当の薬剤師も協力して速やかに行える体制が必要だと感じました。
オンデキサとプリズバインド:抗凝固薬の再開時期
最後に4つ目のポイント、抗凝固薬の再開について。
オンデキサとプリズバインド、電子添文の表記は下記です。
止血後は、血栓塞栓症のリスクを低減するため、患者の状態を十分に観察し、抗凝固療法の再開の有益性と再出血のリスクを評価した上で、できる限り速やかに適切な抗凝固療法の再開を考慮すること。
ダビガトランの抗凝固作用を中和することにより血栓症のリスクが増加するため、止血後は、速やかに適切な抗凝固療法の再開を考慮すること。なお、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の投与は本剤の投与から24時間後に再開可能であり、他の抗凝固剤の投与は本剤投与後いつでも再開可能である
オンデキサ静注用、プリズバインド静注液、電子添文より
- プリズバインド投与後、抗凝固薬再開のタイミングは?
-
個別検討によりできる限り速やかにです。ダビガトランの場合は24時間後が目安になります。
ダビガトランの抗凝固作用を中和することにより血栓症のリスクが増加するため、止血後は、速やかに適切な抗凝固療法の再開を考慮すること。なお、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の投与は本剤の投与から24時間後に再開可能であり、他の抗凝固剤の投与は本剤投与後いつでも再開可能である。
プリズバインド静注用 電子添文 - オンデキサ投与後、抗凝固薬再開のタイミングは?
-
個別検討により、できる限り速やかにです。
止血後は、血栓塞栓症のリスクを低減するため、患者の状態を十分に観察し、抗凝固療法の再開の有益性と再出血のリスクを評価した上で、できる限り速やかに適切な抗凝固療法の再開を考慮すること
目安としては、投与終了後24時間以降が再開のタイミング(第Ⅹa因子阻害薬の場合)になると考えられます。オンデキサの消失半減期が約5時間であり、薬効が消失するまで20〜25時間かかると推測できるからです。
アンデキサネット アルファの消失半減期は約5時間であり、比較的速やかに体内から消失するため、患者が医学的に良好な状態に回復すれば直ちに直接作用型第Xa因子阻害剤による抗凝固療法を再開することが可能です。
オンデキサ 適正使用ガイド 抗凝固療法の再開について
まとめ
今回はオンデキサの特徴をプリズバインドと比較しながら解説しました。
本記事のポイント
オンデキサ | プリズバインド | |
---|---|---|
分類 | デコイタンパク質 | モノクローナル抗体(Fab) |
適応 | 出血時のみ | 出血時と手術・処置時 |
対象薬 | アピキサバン リバーロキサバン エドキサバン | ダビガトラン |
投与方法 | ボーラス+持続 | 点滴静注又はワンショット |
抗凝固薬の再開 | 個別検討(第Ⅹa因子阻害薬の場合、消失半減期5hを考慮) | 個別検討(ダビガトランの場合、24時間後が目安) |
記事を書きながら思ったのは、
「オンデキサの投与方法が煩雑であること」
プリズバインドと比べると大きな違いになります。
出番が少ない中で、緊急時に慌てず調製を行い、正しい手技と速度で投与できるように、定期的な使用方法の確認など現場における日頃の備えが必要だと思いました。