今回のテーマはマスーレッド!
一般名はモリデュスタットナトリウム、国内5番目となるHIF-PH阻害薬です。
製品名 | 一般名 | 販売日 |
---|---|---|
エベレンゾ | ロキサデュスタット | 2019年11月 |
ダーブロック | ダプロデュスタット | 2020年8月 |
バフセオ | バダデュスタット | 2020年8月 |
エナロイ | エナロデュスタット | 2020年12月 |
マスーレッド | モリデュスタット | 2021年4月 |
マスーレッドはどのような特徴があるのか?
気になりますよね。もちろん、遅れて発売されるからには、今までの薬剤よりも優れた点があるはず!と期待が膨らみます。一方で、さほど変わらなかったという残念な結果が待っているかも知れません。
それならハッキリさせよう!
ということで、マスーレッドの特徴について、下記4つのポイントを比較しながら考察しました。共有したいと思います。
- 適応
- 用量調節
- アドヒアランス
- 相互作用
順番に見ていきましょう。
マスーレッドの適応
まずは一つ目のポイント、適応に注目します。
マスーレッドの適応は腎性貧血です。以下3つのケースに用います。
- 血液透析(HD:Hemo Dialysis)
- 腹膜透析(PD:Peritoneal Dialysis)
- 慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)
対象患者は、ほかのHIF-PH阻害薬と同じです。実は以前に違いがあったのはご存知ですか?エベレンゾは発売当初、HDとPDのみでしたが、2020年11月にCKDの適応が追加されました。
ということで
今ではHIF-PH阻害薬の間で相違はありません。
適応の違いから薬剤を使い分けることはなくなったわけですね。
HIF-PH阻害薬とESAの使い分けは?
従来の注射薬であるエリスロポエチン製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)とHIF-PH阻害薬はどちらを先に使えばいいのか?
ESAとHIF-PH阻害薬の選択は、個々の患者の状態や嗜好、通院頻度、ポリファーマシーや服薬アドヒアランス等に応じて、医師が判断する。
HIF-PH 阻害薬適正使用に関するrecommendation
マスーレッドの用量設定
続いて2つ目のポイント、用量設定のわかりやすさ。
3段階の評価は以下2つの基準で行いました。
- 開始用量(透析とCKD)
- 投与量調節の段階数
①開始用量(透析とCKD) | ②投与量調節の段階数 | 評価 |
---|---|---|
同じ | 少ない | |
異なる | 少ない | |
異なる | 多い |
たとえば、マスーレッドは星1つですね。以下のように①開始用量が異なるし、②投与量調節も8段階と多いからです。
マスーレッドの場合
- ①開始用量
-
CKD HD・PD 25〜50mg 75mg - ②投与量調節の段階数
-
マスーレッドは投与量の設定がややこしい
透析の有無で用量設定が異なるし、維持量まで頻回に処方変更が必要なケースもあるからです。また、薬剤師の視点からは複数の規格を取り扱わなければならないのもデメリットですね。在庫はできるだけ抱えたくないので…。
逆の見方をすると用量の調節性に優れる
5mg〜200mgの範囲内で効果や副作用を見ながら小刻みに用量を調節できるので。ここはメリットといえるかも知れません。
一方で、投与方法がわかりやすいのはバフセオ
4段階(150、300、450、600)で、開始用量(1回300mg)もHDとCKDで変わりません。非常にシンプルです!
用量設定の違いに注目するとHIF-PH阻害薬の間でも差があります。皆さんはどれが好みですか?電車に例えるなら、特急列車か普通列車かの違いだと思います。目的地(維持量)まで最短ルートをとるか、時間をかけながらゆっくりとゴールを目指すかの違いですかね。
目的地かどうかは到着しないとわからないので、特急の場合は通り越してしまう(副作用、過剰効果)可能性が高くなります。ここは要注意!
以上から、マスーレッドは用量設定が煩雑ですが、忍容性を見ながら維持量を目指せる点は強みだといえます。
製品名 | ①開始用量(透析とCKD) | ②投与量調節の段階数 |
---|---|---|
エベレンゾ | HD | CKD8段階 |
ダーブロック | HD | CKD8段階 |
バフセオ | HD | CKD4段階 |
エナロイ | HD | CKD5段階 |
マスーレッド:アドヒアランスへの影響
続いて3つ目のポイント、服薬アドヒアランスに注目です。
評価の基準は下記です。投与回数と食事の影響から判断しました。
①投与回数 | ②食事の影響 | 評価 |
---|---|---|
1日1回 | なし | |
1日1回 | あり | |
週に3回 | なし |
マスーレッドは惜しくも星2つの評価ですね。
1日1回投与はアドヒアランスの点で優れています。これだけなら星3つでした。ワンランク下がったのは、食後投与の条件つきだからです。
マスーレッドは食事の影響を受けます!
マスーレッドは空腹時に飲むと血中濃度が低下し、期待した効果が得られない可能性があります。ここは服薬説明の時に注意ですね。
一方で、バフセオとダーブロックは食事の影響を受けません
食前、食後どちらで飲んでもOKです。しかも1日1回投与。ここは2剤の強みですね。
ちなみにエベレンゾは?
飲み方が変則的です。たぶん透析患者さんの利便性を考えてのことだと思いますが、意見が分かれる部分です。CKDの人やアドヒアランスが悪い人では飲み忘れの心配がありますね。
バフセオとダーブロックは万人向けタイプ、エベレンゾは特別なケース(医療者が透析日に服薬を見守る)に向いています。マスーレッドとエナロイは基本的に誰にでも適していますが、仕事などで食事のリズムが不規則な人には使いにくいイメージですかね。
このように、HIF-PH阻害薬の間で投与方法に差があります。結局のところ、患者さんのアドヒアランスやライフスタイルに合わせて、柔軟に対応できるかどうかの違いですね。
製品名 | 投与方法 | 食事の影響 |
---|---|---|
エベレンゾ | 週に3回 | なし |
ダーブロック | 1日1回 | なし |
バフセオ | 1日1回 | なし |
エナロイ | 1日1回食前または就寝前 | あり |
マスーレッドの相互作用
最後に4つ目のポイント、相互作用に注目です。
評価基準は下記です。①併用頻度が高い金属イオン製剤の有無、②併用注意薬の種類(+α)をもとに行いました。
①金属イオン製剤の有無 | ②併用注意薬の種類(+α) | 評価 |
---|---|---|
なし | なし | |
あり | 少ない | |
あり | 多い |
マスーレッドは相互作用が多く、星1つの評価です。
併用薬や相互作用のチェックが欠かせません。併用注意薬は大きく2つのグループに分かれます。
マスーレッドは金属イオン製剤と併用注意です。吸収率低下により、効果減弱の可能性があります。併用時には前後1時間以上の間隔が必要です。また、UGT1A1(グルクロン酸転移酵素)を介した相互作用もあります。
一方で、ダーブロックは併用注意がほとんどありません。金属イオンの相互作用もないし、代謝酵素の影響も受けないからです。さすが星3つですね。
エナロイはここでも2番手です
バランス型ですね。別記事に特徴や位置付けについてまとめているので合わせてご覧いただけたらと思います。
このように相互作用に着目すると、マスーレッドはやや使いにくい印象があります。CKDや透析の患者さんは併用薬が多く、鉄剤や金属イオンを含む下剤や胃薬等を飲まれているケースが多いからです。他のHIF-PH阻害薬と同様にチェックが欠かせませんね(^_^;)
製品名 | ①金属イオン製剤の有無 | ②併用注意薬の種類(+α) |
---|---|---|
エベレンゾ | 金属イオン | リン結合性ポリマー、スタチンなど |
ダーブロック | CYP2C8、リファンピシン | |
バフセオ | 金属イオン | BCRP、OAT3等 |
エナロイ | 金属イオン | リン吸着薬等 |
まとめ
今回はマスーレッドの特徴について、他のHIF-PH阻害薬と比較しながら考察しました。
適応は共通ですが、用量設定や投与方法、相互作用等に違いがあり、患者さんごとに薬剤を使い分けるかたちです。それなりに個性的で棲み分けができています。
マスーレッドのプロファイルをまとめると下記です
1番の魅力は投与量の調節性に優れる点!
用量設定は煩雑ですが、効果や副作用等に合わせて小刻みに調節できるのはメリットだといえます。
また、アドヒアランスの点でもまずまずの評価です。「1日1回食後」は汎用性があるので、幅広く対応できます。
一方で、併用注意薬が多いのは弱点ですね。金属イオンによる吸収不良、UDPグルクロン酸転移酵素阻害によるクリアランス低下に気をつけなければなりません。
国内5番目に登場するマスーレッド、巻き返しができるのか?発売後の使用動向を見守りたいと思います♪