今回のテーマはJAK阻害薬!
気がついたら経口薬が6種類に増え、最近では外用薬まで登場しているではないですか。たしかに近頃、ちらほらと見かける機会が増えましたね。
私は正直いって、このあたりの薬がよくわかってないです。日常業務でほぼ扱わないので…。薬剤師だからといって全ての薬を網羅してるわけではないですよね(言い訳)
「リウマチの患者さんが飲んでいる」
「免疫抑制作用がある?」
くらいの知識しかありません。少なすぎ…(^_^;)
なので、処方箋で見かけると軽いパニックを起こします。
- なんで飲んでるの?
- 用量は合ってるの?
- 相互作用とか大丈夫?
- 入院中も飲んでいいの?
- 何に気をつけたらいいの?
頭の中はハテナだらけ!そこで、勉強がてら知識を整理しました。
JAK阻害薬に馴染みのない薬剤師が最低限押さえておきたい特徴と処方監査のポイントを共有したいと思います。処方を見た時に慌てなくても済む程度の内容ですので、あらかじめご了承下さいね。
それでは見ていきましょう。
JAK阻害薬の基本情報

まずはJAK阻害薬の基本から。
JAK阻害薬の種類
現在国内で使用できるJAK阻害薬は全部で7種類あります。
一般名と合わせて販売日の順に並べると下記です
商品名 | 一般名 | 販売日 |
---|---|---|
ゼルヤンツ | トファシチニブ | 2013年7月 |
ジャカビ | ルキソリチニブ | 2014年9月 |
オルミエント | バリシチニブ | 2017年9月 |
スマイラフ | ペフィシチニブ | 2019年7月 |
リンヴォック | ウパダシチニブ | 2020年4月 |
ジセレカ | フィルゴチニブ | 2020年11月 |
コレクチム軟膏 | デルゴシチニブ | 2020年 6月 |
最近、立て続けに販売されているんですね。一般名はややこしいけど、◯◯チニブという部分が共通です。まずは、商品名を覚えておきましょう。
JAK阻害薬の作用機序
続いて作用機序!
言葉で説明するより図を見た方がわかりやすいです。

JAKとは?
ヤヌスキナーゼ(Janus kinase)の略で、チロシンキナーゼの1種です。図のように、4種類(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)に分類されます。
JAKの働きは?
STAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)を介して、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、エリスロポエチンなど)の刺激を核内へ伝えるのが役割です。
JAK阻害薬と生物学的製剤の比較

JAK阻害薬の特性は何か?生物学的製剤との違いを比べるとわかりやすいです。
たとえば、関節リウマチには以下の生物学的製剤が使用されます。
押さえておきたいポイントは大きく3つです。
- 経口薬 vs 注射薬
- 細胞内 vs 細胞外
- 非選択性 vs 選択性
①経口薬が強み
JAK阻害薬は経口製剤であり、簡便に投与できます。注射による侵襲がなく、(自己注射の場合)手技の理解も不要です。
②作用点が違う
JAK阻害薬は低分子であり、細胞内へ移行して効果を発揮します。一方で、生物学的製剤は高分子です。刺激を伝えるサイトカインを細胞外でブロックします。
③非選択的に作用
作用機序の図からもわかるように、JAK阻害薬は複数のサイトカインの働きを非選択的に調整します。TNF、IL、エリスロポエチン、トロンボポエチンなど。一方で、生物学的製剤はモノクローナル抗体であり、特定のサイトカインに選択的に作用します。
違いは、ざっとこんな感じです。
JAK阻害薬:投与前のチェック
JAK阻害薬の処方は増えていますが、誰にでも使えるわけではありません。専門医が必要性と許容性を吟味して適切な管理のもと用いる薬だからです。
投与前の注意事項が警告にあります。真っ赤な文字で長々と書いており、読む気が失せるので、最後までしっかりと読んでいない人も多いのではないでしょうか。要約すると下記2つのリスクについて書いてあります。
- 感染症(結核や肺炎、敗血症、ウイルス感染等)や悪性腫瘍発現のリスクがある
→患者説明が必要、有益性が上回る場合のみ投与 - 結核の発症、既感染者における症状の顕在化及び悪化
→結核の有無を確認(十分な問診及び胸部X線検査、インターフェロンγ遊離試験、ツベルクリン反応検査等で)
どちらも免疫抑制作用に起因するリスクになります。ちなみに外用剤であるコレクチム記載がありません。局所作用でありリスクが低いためですね。
JAK阻害薬の注意すべき副作用

JAK阻害薬はどのような副作用に気をつければいいのか?医薬品リスク管理計画書(RMP)には、以下の記載があります。
- 重篤な感染症(結核、肺炎、ニューモシスチス肺炎、敗血症、日和見感染症を含む)
- 帯状疱疹
- 好中球減少、リンパ球減少、ヘモグロビン減少
- 肝機能障害
- B型肝炎ウイルスの再活性化
- 消化管穿孔
- 間質性肺疾患
- 静脈血栓塞栓症
薬剤師としてどう関わればいいのか?ポイントは大きく3つあると思います。
まず①感染症の発現に注意が必要です
警告にあるとおりですね。発熱や倦怠感、持続する咳など前駆症状の説明・フォローが求められます。特に帯状疱疹は頻度が高いようです。
また②検査値のチェックも欠かせません
骨髄機能や肝機能など。投与前と投与中において定期的に確認する必要があります。
それから③薬剤性の評価!
消化管穿孔、間質性肺疾患、静脈血栓塞栓症など。イメージしにくい副作用ですが、要注意です。入院経緯と服薬歴から、薬剤性を疑えるかどうかは重要だと思いました。
ここまでは、経口JAK阻害薬、全体にいえることです。
JAK阻害薬:処方監査のポイント

ここからは、個別の特徴を見ていきましょう。処方監査のポイントを順に読み進めていくと、各薬剤の特徴(違い)がぼんやり見えてきます。チェック項目は全部で6つです。
STEP1…適応

まずは適応の確認です。
- ゼルヤンツ
-
- 既存治療で効果不十分な関節リウマチ
- 中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)
- オルミエント
-
- 既存治療で効果不十分な下記疾患な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
- アトピー性皮膚炎
- SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素吸入を要する患者に限る)※2021/4/23追加承認
- スマイラフ
-
- 既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
- リンヴォック
-
- 既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
- 関節症性乾癬※2021/5/27追加承認
- アトピー性皮膚炎※2021/8/25追加承認
- ジセレカ
-
- 既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
- ジャカビ
-
- 骨髄線維症
- 真性多血症(既存治療が効果不十分又は不適当な場合に限る)
ポイントは2つです。
①関節リウマチ(RA)に使える(ジャカビは除く)
基本的にRAに用いる薬です(ジャカビは除く)。2つ目の適応として、ゼルヤンツは潰瘍性大腸炎(UC)に、オルミエントはアトピー性皮膚炎に使えます。さらに、3つ目の適応として、SARS-CoV-2による肺炎が追加されました。
また、リンヴォックも適応追加されましたね。2つめの適応として関節症性乾癬、3つめの適応としてアトピー性皮膚炎です。このように、JAK阻害薬は適応の拡大が進んでいます
また②JAK阻害薬は第一選択ではありません
既存治療で効果が不十分な場合という文言がくっついていることから明らかです(SARS-CoV-2は記載なし)。
たとえば、RAの場合はメトトレキサートが効果不十分な場合に併用または切り替えで使います。
・過去の治療において、メトトレキサート(MTX)8mg/週を超える用量を3ヶ月以上継続投与してもコントロール不良の関節リウマチ患者
全例市販後調査のためのフィルゴチニブ使用ガイド、日本リウマチ学会 ※他のJAK阻害薬も同内容
・現時点において安全性の観点からMTXを投与できない患者(感染症リスクの高い患者、腎機能障害・間質性肺炎のためMTXを投与できない患者など)は原則として対象としないことが望ましい
過去の治療において、メトトレキサートをはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬等による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与すること。
各添付文書
UCとAD、関節症性乾癬も同様です。
潰瘍性大腸炎
ゼルヤンツ錠 添付文書
過去の治療において、他の薬物療法(ステロイド、免疫抑制剤又は生物製剤)による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与すること。
アトピー性皮膚炎
オルミエント錠、リンヴォック錠 添付文書
ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤等の抗炎症外用剤による適切な治療を一定期間施行しても、十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に用いること。
関節症性乾癬
リンヴォック錠 添付文書
既存の全身療法(従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(以下「csDMARD」)等)で十分な効果が得られない、難治性の関節症状を有する患者に投与すること
まとめると、スマイラフ以降のJAK阻害薬はRAのみ適応、ゼルヤンツはUC、オルミエントはAD、リンヴォックは関節症性乾癬、ADにも使えます。条件として既存治療がうまくいかない時です。SARS-CoV-2はどのような位置付けになるのか注視していきたいと思います。
STEP2…禁忌

続いて、禁忌に該当しないかを確認します。項目は大きく5つです。
- 重篤な感染症、活動性結核
- 好中球数500/mm3未満、リンパ球数が500/mm3未満、ヘモグロビン値が8g/dL未満の患者
- 妊婦又は妊娠している可能性のある女性
- 過敏症の既往
- 腎機能・肝機能によって禁忌の薬剤あり
※ゼルヤンツ、オルミエント、スマイラフは共通
※ジセレカとリンヴォック…好中球数1000/mm3未満
※ジャカビは③と④のみ
※SARS-CoV-2による肺炎は別途設定あり
JAK阻害薬は①免疫抑制により感染症を悪化させる恐れがあります
受診・入院経緯等を確認の上、該当するなら中止の可否を主治医に相談しましょう
また、JAK阻害薬は②骨髄抑制を起こします。
GM-CSFやEPO、TPO等のシグナル伝達を妨げるからです。上記のように薬剤によって基準が異なる(ジセレカとリンヴォックは厳しい)ので注意が必要ですね。
加えてJAK阻害薬は③動物実験で催奇形性の報告があります。
当然、④過敏症の既往確認が必要です。
あとJAK阻害薬は⑤腎機能と肝機能のチェックが欠かせません(後述します)
STEP3…用法用量
続いて、飲み方が適切なのか?投与方法の確認です。
製品名 | 併用注意 |
---|---|
ゼルヤンツ | RA:5mg×2 UC:導入10mg×2(維持5mg×2、増量可) |
オルミエント | RA・AD:4mg×1(適宜2mgに減量) SARS-CoV-2による肺炎:4mg×1(14日まで) |
スマイラフ | RA:150mg×1食後(適宜100mgに減量) |
リンヴォック | RA:15mg×1(適宜7.5mgに減量) 関節症性感染:15mg×1 AD:15mg×1(30mgに増量可) |
ジセレカ | RA:200mg×1(適宜100mgに減量) |
ジャカビ | 5mg~25mg×2(真性多血症は10mgから開始) |
押さえておきたいのは3点です。
①ゼルヤンツは適応ごとに初期用量が異なります
RA≦UCですね。
②ゼルヤンツとジャカビは1日2回服用です
一方で、オルミエント以降の製剤は1日1回、服薬アドヒアランスの悪い人に向いています。
③スマイラフは食事の影響がある点は盲点ではないでしょうか
以下のように、食後投与の方が吸収が良く、空腹時に飲むと効果減弱が懸念されます。
日本人健康成人(18例)にペフィシチニブ150mgを単回経口投与したとき、空腹時投与に比べ食後投与ではCmaxは56.4%、AUClastは36.8%増加した
スマイラフ添付文書
STEP4…腎機能

JAK阻害薬の一部は腎機能のチェックが欠かせません。数値によって投与量を減量したり、禁忌になる場合があるからです。
腎機能に応じた用量調節が不要!
リンヴォックとスマイラフはCKDの患者さんにも使いやすいです。尿中排泄率が低く、腎機能に合わせた用量調節が必要ないからです(リンヴォック…24%、スマイラフ…12.5〜16.8%)
オルミエントとジセレカは禁忌の設定あり!
eGFRのチェックが欠かせません(オルミエント…未変化体69%、ジセレカ…約87%が未変化体+活性代謝物)
- オルミエント…△減量:中等度、×禁忌:重度
- ジセレカ…△減量:中等度又は重度、×禁忌:末期腎不全(eGFR<15)
それから、ゼルヤンツとジャカビは減量を考慮!
(ゼル…未変化体30%、ジャ…未変化体1%未満だが、活性代謝物のAUC上昇)
- ゼルヤンツ…△減量:中等度又は重度
- ジャカビ…△減量を考慮:腎機能障害
こうしてみると、薬剤ごとに対応が異なり煩雑な印象がありますね。ややこしい…。
STEP5…肝機能

腎機能と同様に、JAK阻害薬の一部は肝機能の程度によって減量や禁忌の設定があります。
オルミエントとリンヴォックは使いやすい
肝機能によって減量不要、禁忌の設定もないからです。ただし、重度の方は臨床試験行っていない点は留意しておきましょう。
一方で、その他のJAK阻害薬の対応は以下のとおり
- ゼルヤンツ…△減量:中等度×禁忌:重度
- スマイラフ…△減量:中等度、×禁忌:重度
- ジセレカ…×禁忌:重度
- ジャカビ…△減量を考慮:肝機能障害
ゼルヤンツとスマイラフは中等度(Child-Pugh分類 B)で減量、重度(Child-Pugh分類 C)で禁忌(ジセレカも)です。
ジャカビは禁忌ではありませんが、減量基準が広く設定されています。軽度肝機能障害(Child-Pugh分類 A)以上でAUCの上昇や半減期の延長が見られるからです(添付文書参照)
こうしてみると、薬剤ごとに基準が異なり煩雑ですね。オルミエントとリンヴォック以外はChild-Pugh分類による肝機能の評価が欠かせません。
STEP6…相互作用

最後に相互作用の確認!
JAK阻害薬はCYPやP糖タンパクの基質になります。いずれも併用禁忌薬はありませんが、一部の薬剤で併用注意の記載がある点は押さえておきたいです。
スマイラフとジセレカは併用注意薬がありません。使い勝手が良い印象ですね。一方で、その他の薬剤は薬物代謝酵素やトランスポーターによる相互作用があります。以下のとおりです。
製品名 | 用法用量 |
---|---|
ゼルヤンツ | ・CYP3A4阻害剤(マクロライド系抗生物質、ノルフロキサシン等、アゾール系抗真菌剤、カルシウム拮抗剤、アミオダロン、シメチジン、フルボキサミン、抗HIV剤、抗ウイルス剤、グレープフルーツ ・CYP2C19阻害剤(フルコナゾール) ・CYP3A4誘導剤(抗てんかん剤、リファンピシン、リファブチン、モダフィニル、セイヨウオトギリソウ含有食品 |
オルミエント | OAT3(プロベネシドのみ) |
リンヴォック | ・CYP3Aを強く阻害する薬剤(イトラコナゾール、リトナビル、クラリスロマイシン等) ・CYP3Aを強く誘導する薬剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等、セイヨウオトギリソウ含有食品) |
ジャカビ | ・強力なCYP3A4阻害剤(イトラコナゾール、リトナビル、クラリスロマイシン等) ・CYP3A4及びCYP2C9を阻害する薬剤(フルコナゾール等) ・CYP3A4阻害剤(エリスロマイシン、シプロフロキサシン、アタザナビル、ジルチアゼム、シメチジン等) ・CYP3A4誘導剤(リファンピシン、フェニトイン、セイヨウオトギリソウ含有食品等) |
特にゼルヤンツとジャカビは多いですね。併用薬のチェックが漏れないように気をつけなければなりません。それにリンヴォック、オルミエントが続きます。こうしてみると、またしても薬剤ごとにまちまちです。本当にややこしい…。
まとめ

今回は、経口JAK阻害薬の特徴と処方監査のポイントについてまとめました。
JAK阻害薬は処方監査を強化すべき!
記事を書きながら、改めてそう思いました。
上述のように免疫抑制作用に起因するリスクとベネフィットを十分に考えて処方すべき薬剤であるだけでなく、安全に使用するための確認項目や内容も薬剤ごとに異なるからです。
たとえば、◯◯という薬は腎機能によって投与量が変わるとか、△△は肝機能障害があると使えないとか、□□は併用注意薬が多いとか…。
薬剤ごとに丁寧な確認作業が求められます。
もちろん全部を覚える必要はありません。頻繁に遭遇しないので。でも、大まかな特徴と処方監査のポイントを頭の片隅においておくと、処方を見かけた時には慌てずに対処できると思います♪