循環器系薬

HIF-PH阻害薬エベレンゾの特徴は?【初!腎性貧血の経口薬、位置付けも考察】

HIF(ヒフ)-PH阻害薬であるエベレンゾが承認されました。

・一般名はロキサデュスタット。腎性貧血、初の経口治療薬です。赤血球造血刺激因子製剤(ESA)に加えて治療の選択肢が広がります。

今回のテーマはエベレンゾ。以下の2点について解説します。
・どのような特徴の薬剤なのか?
・臨床における位置付けは?

※現時点で薬価未収載→令和元年11月19日に収載予定

エベレンゾの特徴は?

ターゲットはHIF(低酸素状態で活性化する転写因子)

HIFとは?

何やら新しい単語が出てきました。

・低酸素誘導性因子(hypoxia-inducible factor:HIF)、ヒフといいます。

低酸素ストレスに対して、細胞が応答するための転写因子のことです。

HIFは腎臓でエリスロポエチンの産生を促す

HIFは低酸素ストレスに応答する、遺伝子の転写領域に結合して、さまざまなタンパク質の合成を促します。

その中の一つがエリスロポエチン(EPO)です。

低酸素状態で、EPOの産生が増加するのはよく知られています。スポーツ選手の高知トレーニングは、EPOの産生を刺激するのが目的の一つです。標高1500〜3000mくらいの低酸素環境で練習すると、赤血球が増えて酸素運搬能力が向上します。

・EPOの産生を促進するように細胞に働きかけるのがHIFです。

HIF活性化経路を発見、ノーベル賞を受賞

話題になりましたね。

細胞における低酸素応答の仕組み(HIF活性化経路)を解明した3名の教授がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

・米ジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ教授
・英オックスフォード大学のラトクリフ教授
・米ハーバード大学のケーリン教授

記念すべき年に発売されるのがHIF活性化薬エベレンゾです。

EPOの産生を刺激し、腎性貧血を改善する

HIFを分解するHIF-PHを阻害する

HIFはHIF-αとHIF-βの2つのサブユニットからなる。

・エベレンゾはHIF-αが、HIF-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)によって水酸化を受け、プロテアソームによって分解されるのを防ぎます。

HIF-PHによる分解を妨げてHIFを活性化するのが作用機序です。

酸素がある状況では

HIF-PHによる水酸化反応が盛んです。

周囲の酸素(O2)によってHIF-αが水酸化を受けて、プロテアソームによる分解が進みます。HIF活性化経路が抑制された状態です。

→酸素が多い状況下では、EPOの産生も低下します。

一方、低酸素状態では

HIF-PHによる水酸化反応が抑制されます。

周囲の酸素(O2)が少ないため、HIF-1の水酸化が進みません。HIF-αによる転写反応が亢進して、EPOの産生が促進される仕組みです。

→酸素が少ない状態では、HIFが活性化しEPOの産生が増加します。

低酸素状況であっても腎不全患者ではHIFが活性化しにくい

ここがポイント!

腎不全が進むと腎血流の不足により、酸素の供給が低下します。となると、HIFが活性化してEPOを生成する仕組みが働いて恒常性が維持されるはずです。

しかし、そうはならずに、腎性貧血が進むのはなぜでしょうか?

・尿細管組織の障害等により腎組織の酸素利用量も減るので、相対的に低酸素状態にはならず、HIFが活性化しにくいと考えられています。

腎不全患者のHIF経路を活性化、貧血を改善する

HIF-PH阻害薬であるエベレンゾは腎不全患者においてもHIF経路を活性化できる!

EPOを産生を促すことにより赤血球を増加させて貧血を改善します。

・エベレンゾは低酸素ストレスに応答するための生体の仕組みをうまく利用した腎性貧血の治療薬です。

処方目的は?

腎性貧血は腎機能、心機能に悪影響を及ぼす

Cardio-Renal-Anemia症候群(CRA)

という概念が提唱されています。

・心腎貧血症候群のことで、貧血とCKD、心臓病は相互に関連し、悪循環をきたすという考え方です。

貧血はうっ血性心不全の重症度を増加させたり、死亡や入院、栄養障害の原因となり、また貧血は腎機能をさらに悪化させます。(貧血のない人にくらべて)

一方で、CKDは貧血を進行させるし、うっ血性心不全に貧血が合併することも良く知られた事実です。

参考文献)Nephrol Dial Transplant. 2003 Nov;18 Suppl 8:viii7-12.

腎性貧血はCKD、心臓病にくらべて治療介入が容易です。CRAの悪循環を断ち切るためにまず貧血の治療を始めることが重要であるといわれています。

貧血を改善するメリットは?

ESA(赤血球造血刺激因子製剤)などにより貧血が改善すると、以下のようなメリットがあります。

・輸血回数の減少、輸血による合併症のリスク回避
・倦怠感や動悸、息切れ、めまいなどの貧血症状の改善
・心臓病や腎臓病の進展を抑制する効果

エベレンゾの処方目的は、腎性貧血を改善して、輸血の回避または回数の減少、心臓病、腎臓病の進展抑制など生命予後やQOLを良くすることです。

ヘモグロビンの治療目標値は?

腎性貧血の治療を始めるとして、治療目標はどのくらいなのか?

・国内のガイドラインでは以下のとおりです。
・成人の血液透析(HD)…週初めの採血で10g/dL以上12g/dL未満
・保存期CKD…11g/dL以上13g/dL未満
(重篤な心・血管系疾患の既往や合併のある患者,あるいは医学的に必要のある患者にはHb値12g/dLを超える場合に減量・休薬を考慮する)
・成人の腹膜透析(PD)…11g/dL以上13g/dL未満
参考文献)2015年版日本透析医学会慢性腎不全における腎性貧血治療のガイドライン

正常値まで改善すると逆効果

腎性貧血を治療することはさまざまなメリットがありますが、一方でヘモグロビン値を正常値まで上げると逆効果です。

CKD患者1432例を対象としたCHOIR試験。

エポエチンαの投与により目標ヘモグロビン濃度を13.5g/dLとした群と11.3g/dLとした群で、心血管疾患や心血管死のリスクを比較したものです。

・主要評価項目…死亡+心筋梗塞+うっ血性心不全による入院(腎代償療法を除く)+脳卒中

結果は以下のとおりでした。
・高値群17.5%、低値群13.5% 、ハザード比1.34(1.03~1.74)p=0.03
→目標ヘモグロビン値13.5g/dLの方がリスクを悪化させることが明らかに。

参考文献)N Engl J Med. 2006; 355: 2085-98.

腎性貧血の治療においては、治療目標値内でのコントロールが重要であるといえます。

エベレンゾの治療開始基準と投与量調整基準

添付文書によると、治療開始基準は以下の通りです。

・血液透析HD→Hb10g/dL未満
・腹膜透析PD→Hb11g/dL未満

投与量の調整は、4週前と当該週におけるHbの変化量と当該週のHb値から決定します。Hb12.5g/dLをこえると休薬です。詳しくは添付文書をご確認くださいね。

エベレンゾ服用中はHb値の定期的なチェックが必要です。

エベレンゾの臨床的な位置付けは?

適応は?

適応は、透析施行中の腎性貧血です。

腎性貧血の治療は、大きく透析施行中と、透析前のCKD保存期に分かれます。

保存期には使えない

エベレンゾは透析患者さんが対象で、保存期CKD患者さんには使えません。

HDとPDの患者さんに使用します。

今後は使えるようになる予定です。現在、保存期CKD患者を対象にした臨床試験が進行しています。

臨床効果はネスプと非劣性

国内第3相臨床試験について確認しておきます。

  • 対象者…血液透析施行中の腎性貧血患者302例
  • 主要評価項目…投与18〜24週のベースラインからの平均Hb値変化量
  • 対照薬…ネスプ(ダルベポエチンアルファ:DA)

結果は以下のとおりです。

  • エベレンゾ群-0.04±0.06g/dL、DA群-0.03±0.06g/dL
    (※群間差は-0.02[-0.18〜0.15]g/dL)

→エベレンゾは、ネスプと比べて非劣性が検証されました。

エベレンゾはネスプと臨床効果が同等です

どのような患者さんに有用か?

透析患者では、経口薬のメリットが少ない

ネスプをはじめESA製剤は透析回路から、投与できるからです。

新たに注射針を穿刺する必要はなく、療機関で検査値を確認しながら、透析終了時に透析回路を利用して投与できます。

一方、エベレンゾは週に3回透析日のみ服用するタイプです。慣れるまでは飲み忘れの心配があるし、ご高齢の方では、服薬コンプライアンスの点でむずかしいケースも多いと思います。

適応が追加されたら、保存期CKDの患者には有用!

一方で、保存期のCKD患者ではメリットがあると考えられます。

注射に伴う不快な痛みから解放されるし、服薬アドヒアランスが良ければ、確実に経口薬の方が優れているでしょう。

ESA製剤の反応性が低い患者

ESA製剤の効きが悪い人には有用です。

十分な効果が得られず、高用量のESA製剤を使ってる人はエベレンゾの方がいいと考えられます。

・海外で行われたCHOIR試験の事後解析で、死亡、心筋梗塞、心不全入院、脳卒中など一次エンドポイントのリスク上昇ともっとも強く関連していたのは,高用量ESA製剤の使用であることが示されているからです。(Kidney Int 2008;74:791‒8. )

目標Hb濃度を高めに設定し、高用量のESAを使用している人は、生命予後を改善する効果が期待できないばかりか悪化させる可能性があります。

ESA製剤の反応性が悪い透析患者さんでは、エベレンゾの投与が有用だ考えられます。

Question and answer

エベレンゾとESA製剤の違いは?

経口薬と注射薬の違い

エベレンゾは経口投与できるのがメリット!

高分子たんぱく質製剤であるESA製剤は、消化管で分解されるので皮下または静注による投与方法でないと効果が期待できません。

小分子化合物であるエベレンゾは経口投与が可能です。ここが最大の魅力!

外部から補充するか、内因性に高めるかの違い

ESA製剤は補充療法。不足したエリスロポエチンを体外から補うものです。

一方で、エベレンゾは生体内におけるHIF経路を活性化することで、内因性にEPOを産生します。外因性ではないので、抗エリスロポエチン抗体が産生される心配もありません。

同じ腎性貧血の薬であっても、開発コンセプトが全く異なるのです。

鉄の利用率を高める遺伝子にも作用

HIFはEPO遺伝子の発現だけではなく、鉄の利用を亢進する遺伝子にも働きかけます。

たとえば、下記です。

  • 鉄の貯蔵や運搬を行うトランスフェリン(Tf)やTf受容体
  • 消化管で鉄の吸収に関わるDMT1(二価金属トランスポーター)、Dctb(十二指腸シトクロムb)…など

その結果、生体内での鉄の利用率が亢進し、赤血球の産生を促します。

なぜ、週3回なのか?

毎日投与の方がわかりやすいのに何故?という感じですよね。

理由は、1日1回少量投与では、効果不十分となる可能性があるし、週一では1回最大容量3.0mg/kgを超える可能性があるからです。

本薬の曝露量は概ね用量に比例して増加したものの、 本薬の用量反応関係に線形性は認められず、有効性の観点から1回の投与量をある程度高く設定する必要があった。1日1回連日投与では1回の投与量が少量ずつとなり期待した効果が得られない可能性が考えられた。また、週1回投与では、多くの患者において 1 回投与量が国内第 I 相試験で反復投与時に安全性が確認されている最高用量3.0 mg/kg を超えた量が必要となることが推測された。

参考文献)PMDA審議結果報告書、エベレンゾ錠

エベレンゾは、週3回の透析に合わせて飲むのが基本です。たとえば、(月・水・金)や(火・木・土)など。

透析でほとんど除去されないので、透析後である必要はなく、服薬時点はいつでもOKです。

飲み忘れ時の対応は?

変則的な飲み方なので、慣れるまでは飲み忘れに注意が必要です。

飲み忘れ時の対応は下記のとおり。

  • 次回服用までに24時間の間隔があるなら、気づいた時点で内服。
  • 24時間未満なら休薬し、次回服用時点に飲む。まとめて2回分を飲まない。

”飲み忘れた”という問い合わせに即答できるようにしておきたいのと、投与前にも忘れずに説明したほうが良さそうですね。

ESA製剤からの切り替え方法は?

70mgか100mgどちらを使うのかが問題になります。

ESAごとに切り替え用量は以下のとおり。

1回70mgが開始投与量の目安
・エリスロポエチン製剤…4500IU未満/週
・ダルベポエチンアルファ…20μg未満/週
・エポエチンベータペゴル…100 μg以下/4週

1回100mgが開始投与量の目安
・エリスロポエチン製剤…4500IU以上/週
・ダルベポエチンアルファ…20μg以上/週
・エポエチンベータペゴル…100 μg超/4週

先行投与していたESA製剤の投与量によって、切り替え用量が決まっています。切替ではなく新規で処方する場合には、開始用量は一律50μgです。

注意すべき(特徴的な)副作用は?

エベレンゾで注意すべき有害事象は大きく5つ。

  • 血栓塞栓症
  • 高血圧
  • 肝機能障害
  • 悪性腫瘍
  • 網膜出血

PMDA審議結果報告書、エベレンゾ錠 参照

その中から、血栓塞栓症と網膜出血について見ていきます。

血栓塞栓症に注意

添付文書の警告に以下の記載があります。

本剤投与中に、脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓等の重篤な血栓塞栓症があらわれ、死亡に至るおそれがある。本剤の投与開始前に、脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓等の合併症及び既往歴の有無等を含めた血栓塞栓症のリスクを評価した上で、本剤の投与の可否を慎重に判断すること。また、本剤投与中は、患者の状態を十分に観察し、血栓塞栓症が疑われる徴候や症状の発現に注意すること。血栓塞栓症が疑われる症状があらわれた場合には、速やかに医療機関を受診するよう患者を指導すること。

HD患者対象の国内第3相試験の併合データにおいて
血栓塞栓症関連事象の発現割合(重篤な有害事象)は以下のとおりでした。

・エベレンゾ群8.2% (32/388例)
・DA群2.6% (4/152例)

→エベレンゾの方が高い傾向が見られました。

内訳は以下のとおりです。

  • シャント閉塞 17 例
  • 脳梗塞 3 例
  • 急性心筋梗塞、血管形成、深部静脈血栓症及び末梢動脈閉塞性疾患各 2 例
  • 血管ステント閉塞、ラクナ梗塞、血栓 除去、冠動脈形成、表在性血栓性静脈炎及び静脈閉塞各 1 例

赤血球増加に伴う血液粘稠度の上昇が理由の一つとされています。

エベレンゾは、DAと同様に血栓症のリスクに注意が必要です。透析患者さんは動脈硬化が進んだ人が多いので、症例をきちんと選択して使用すべき薬です。それから副作用のモニタリングも大切ですね。

網膜出血にも注意

国内第II相試験においてエベレンゾ群全体で9.3%(9/97例)に認められました。一方、DA 群で0%。

エベレンゾに特有?と思われますが、実は違うみたいです。

理由は下記のとおり。

当該試験では網膜出血リスクを有する疾患を割付け因子と設定しておらず、本薬群に網膜出血リスクとなる合併症を有する患者が偏ったことと考えられる

参考文献)PMDA審議結果報告書、エベレンゾ錠

そこで、HD切替え維持試験では、網膜血管疾患の既往又は合併、糖尿病を割付け因子として追加しました。

網膜出血の発現割合は下記です。

・エベレンゾ群3.3%(5/150例)
・DA群3.9%(6/15例)

→発現割合は同程度。症状は軽度であり、重篤なものはなく、投与中止もありませんでした。

HIF経路の活性化は、血管内皮細胞増殖因子VEGFの誘導を促します。エベレンゾは網膜血管の増殖による網膜出血のリスクに注意が必要です。

まとめ

最後にポイントをまとめておきますね.

HIF-PH阻害薬エベレンゾのポイントは以下のとおりです。

  1. エベレンゾはHIF-PH阻害薬、HIF-αが水酸化されてプロテアソームで分解されるのを防ぐ。
  2. HIFは低酸素ストレスに応答する転写因子、エベレンゾはEPOの産生を刺激し、腎性貧血を改善する。
  3. 腎性貧血は心臓病やCKDと相互に深く関わっている。貧血治療はCRAの悪循環を断ち切るための第一歩。
  4. 処方目的は、輸血回数の減少、輸血による合併症リスクの低下、貧血症状の改善、心臓病やCKDの進展抑制など生命予後、QOLを良くすること。
  5. 適応は透析施行中の腎性貧血、現時点で保存期には使用できません。有効性は、ネスプと非劣性です。
  6. 経口投与できるのが利点!だけど透析回路から投与できる透析患者ではメリットが生かせない。ESAの反応性が低い人に有用だと考えられる。
  7. 注意すべき副作用は、血栓塞栓症(警告に記載)、網膜出血など。

★ ★ ★ ★ ★

今回はHIF-PH阻害薬エベレンゾについて解説しました。

エベレンゾに続き、いくつかのHIF-PH阻害薬が登場する予定です。特徴や臨床での使い分け等、注目していきたいですね♪

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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