併用禁忌は危ない!
薬剤師なら当たり前の感覚ですよね。「見逃したら絶対ダメ」と、先輩から口酸っぱく注意された人も多いはずです。
一方で、併用注意は?
というと、見逃してこっぴどく叱られた経験がある人は少ないと思います。なぜなのか?
おそらく、一般的な感覚として、
併用禁忌>併用注意の図式が成り立つからです
つまり、併用注意は軽視される傾向があります。
でも、
・本当にそれでいいのか?
・併用注意はスルーしてもOKなのか?
というのが今回のテーマ。
実は、ある視点を加えると薬剤師としてのアプローチ、仕事のあり方が変わります。本記事では、2つの視点から併用注意に対して薬剤師がどのように関わるべきかを考察しました。
併用禁忌はストップ、併用注意はスルー
『併用禁忌』と『併用注意』、あなたはどのように対応してますか?
きっと、こうですよね
・併用禁忌…STOP!
・併用注意…スルー!
薬剤師業界のルール!?といえるくらい、この傾向があると感じています。
もちろん、みんなに当てはまるわけではないし、今までの対応がすべてコレだと断定するつもりもありません。それに非難したいという気持ちも全然ないです。
ただ、問題意識は共有したく、反論を承知の上であえて書いています。
『併用禁忌はSTOP、併用注意はスルー』
もちろん、誰かが決めたわけでも誰かに教わったわけでもないのに、気がついたら自分も周囲も同じ行動をとっている状況です。
併用禁忌はやることが明確
併用禁忌はSTOP!です。
スルーする人はまずいません。仮に見逃すことはあっても、わざとそのまま調剤することはないでしょう。何かあったら、訴えられて職を失いかねませんよね。
だから、みんな必死です。高価なシステムの導入により機械的にチェックしたり、調剤棚の目につくところに「併用禁忌薬あり」と書いて、見落とさない仕組みを作ったりと、アレコレ取り組んでいる施設は多いと思います。
もちろん、添付文書も負けていません。併用禁忌は赤枠の囲みにより危機感を放っているし、加えて【禁忌】の項にも薬剤名を併記しています。見逃さないよう懸命に医療者(主に医師、薬剤師)に訴えているわけです。
併用禁忌はやることが明確!
併用注意は対応がまちまち
一方で、併用注意の対応はどこか曖昧な印象があります。注意という言葉自体が抽象的ですよね。
先述のように、疑義照会に至るケースはほとんどありません。そもそも、調剤前に添付文書の併用注意を毎回チェックしている人は少ないのではないでしょうか。
調剤棚に「併用注意薬あり」と記載している施設も稀だと思います。なぜなら、ほとんどの薬が対象になるからです。スペースの問題があるし、果たして注意喚起の意味をなすのか、という疑問も湧いてきます。
添付文書の表記もあまり目立ちません。赤枠で強調されているわけではないし、記載は1箇所のみ。たくさん書かれすぎて読むのが嫌になる薬もありますよね。
「禁忌じゃないし、大丈夫でしょ」
「このままでは良くない」と思ったので、薬剤師はどのように介入すべきか、併用注意に対する2つの視点から考察しました。ここからが本題です。
併用注意に対する2つの視点
じゃあ、併用注意はどのように介入すればいいのか?
下記2つの視点から考えてみます。
- 介入のタイミング
- アプローチの仕方
併用禁忌と対比しながら見ていきましょう。
介入のタイミング
タイミングの違いで区別すると
・併用禁忌…調剤前(STOP)
・併用注意…服薬後(Follow)
このようになります。介入方法は「ストップ」と「フォロー」の違いです。
併用禁忌は調剤前に疑義照会を行なって処方の中止を提案します。
一方で、併用注意の介入時点は?
服薬後になります(理由は後述)。患者さんの状況を観察しながら必要に応じて処方提案を行うかたちです。
もちろん、併用注意であっても調剤前にSTOPをかけるケースも考えられますが、基本的には投薬後のフォローで良いと思います。
併用注意が「服薬後のフォロー」の理由
なぜ、併用注意は服薬後のフォローなのか?
禁忌と違って、投与は可能だからです。併用注意は、血中濃度が上がる(下がる)ことを、調剤前に気をつけるというよりは、その可能性に備えて、投与後における経過観察の強化が求められているといえます。
となると、併用注意で薬剤師の取るべき行動は下記です。
- 薬効モニター
- 副作用モニタリング
投与中に薬効が十分に得られているか、副作用は問題ないか、経過を追っていかたちですね。だから、よほどの事情がない限り、調剤前に疑義照会を行う必要性は低いと考えられます。
服薬後フォローからの処方提案は通りやすい!
「可能性より事実を伝える」ほうが医師に対する説得力が増すからです。
具体的な例で考えてみると、
ニフェジピンとリファンピシンは併用注意になります。降圧作用が減弱する可能性があるからです。リファンピシンが肝薬物代謝酵素を誘導し、ニフェジピンのクリアランスが増大します。
(相互作用)
リファンピシン,フェニトイン,カルバマゼピンにより誘導された肝薬物代謝酵素(チトクロームP-450)が本剤の代謝を促進し,クリアランスを上昇させるためと考えられている.
アダラートCR錠 添付文書
ここで、薬剤師の介入時点は2つでしたね。
- 調剤前(疑義照会でSTOP)
- 服薬後(FOLLOW後に処方提案)
医師の受け入れがいいのはどちらでしょうか?
まず1つめの疑義照会は下記です。
ニフェジピンとリファンピシンは併用注意です。ニフェジピンの効果が減弱する“可能性”があります。△△への変更は可能でしょうか?
続いて2つめ。投与後に処方提案を行う場合です。
Aさんの血圧が◯◯と以前より上昇しています。もしかすると、リファンピシンの投与により、ニフェジピンの効果が減弱している可能性があるかもしれません。△△への変更はいかがでしょうか?
医師の受け入れが良いのはどちらか?
後者の方ですよね。飲み合わせが悪いことを可能性だけで語るよりも、フォローにより得られた事実(Aさんの血圧が上昇していること)をもとに処方提案を行うほうが、医師の受け入れも良いと考えられるからです。
さらにいうと、事実を文献で強化するとより効果的だと思います。たとえばニフェジピンとリファンピシンの併用に関する報告を検索して、あわせて情報提供を行うと説得力が増すからです。先の例でいくと、「実際に併用により降圧作用が減弱した例も報告されています」と付け加える形ですね。
このように、『併用注意→疑義照会』よりも『併用注意→服薬後のフォロー→処方提案』の方が医師の受け入れが良いし、協働して薬物療法をサポートするという一体感も生まれると思います。
併用注意から服薬後のフォローへ!
服薬後のフォローは安全な薬物療法に欠かせません!
といっても、まだまだ十分に浸透している状況ではありません。「薬を渡したらそこで仕事が終わり」と思っている薬剤師はいないにしても、無意識のうちにそうなってる人は多いと感じるからです。もちろん、自分も含めてですよ(^ ^)
また、服薬後のフォローといっても、具体的に何をモニタリングするのかわからなかったり、問題点を抽出するだけの時間を確保できない場合もあると思います。
そこでおすすめしたいのが、併用注意に対する介入です。
数種類の薬があれば一つくらいは飲み合わせの悪い組み合わせがあるし、何に注意すべきか具体的に示されており、モニタリング項目のピックアップも容易だからです。日々、チェック項目を挙げて指導にあたると、「薬を渡したら服薬後のフォローへ」が習慣になると思います。
アプローチの仕方
続いて2つ目の視点です。
アプローチの仕方で区別すると
・併用禁忌…一律対応
・併用注意…個別対応
このようになります。
併用禁忌の対応は誰でも同じです。基本的にだれにも投与できません。CmaxやAUCの変動が大きく、一律に避ける必要性が高いからです。年齢や体重、基礎疾患に関係なく、薬同士の相性だけで対応が決まります。
一方で、併用注意は誰でも対応が同じではありません。CmaxやAUCの変動が比較的小さく、効果減弱や副作用のリスクを患者さんごとに評価して対応が可能だからです。必要性と許容性(安全性)を考慮して投与の可否を決めます。
具体例を見てみましょう。
アスピリンとワルファリンは併用注意です。作用増強により出血リスクが上昇する可能性があるからですね。
心房細動患者さんの場合、出血リスクは以下のHAS-BLEDスコアで評価します。
- 高血圧
- 肝機能障害、腎機能障害
- 脳卒中の既往
- 出血傾向
- INRコントロール不良
- 高齢者65歳以上
- NSAIDs、抗血小板薬併用、アルコール摂取等
基礎疾患がある人や高齢者では、より副作用のモニタリングを強化した関わりが必要になります。該当した数が多いほど出血リスクが上昇するからです。
リスクに応じて、アプローチの方法も変わります。定期的に自覚症状や検査値を確認するだけで良いの人もいれば、代替薬の提案に踏み込むケースもあるわけです。
つまり、併用禁忌は一律の対応。処方箋だけを見て機械的に避けます。一方、併用注意は個別対応です。目の前の患者さんごとに対応を検討するかたちですね。
患者さんを見る習慣が身につく!
併用注意を意識して介入すれば、患者さんを見る習慣が身につきます。年齢や体重、基礎疾患等を考慮する過程が必須だからです。自然に患者さんへと意識が向かいます。
処方箋から問題点を抽出、患者さんごとにリスク評価を行うスタイルです。
人工知能が導入されようとも全然怖くないと思います。患者さんを見て判断するのは薬剤師だからこそできることだからです。
一方で、併用注意をスルーするだけの人は、「患者さんを見ずにできる仕事」から脱却できません。処方箋だけをみて一律に対応する仕事スタイルのままだからです。
さらに、AIの登場による薬剤師不要論に巻きこまれ、淘汰される時代がやってくるのも時間の問題かも知れません。薬の相性だけを見て判断する仕事は機械で代用できるからですね。
そうならないためには、
患者さんを見る習慣を身につけて、個別対応できるスキルを磨くことが大切だと思います。まずは、併用注意に対する介入方法を見直してみてはどうでしょうか。
併用注意に対する介入方法をまとめると下記です。
併用注意あり
併用禁忌と違って疑義照会はスルー可能!
疑義照会が必要な場合もあり
CYP3Aを阻害する薬剤
(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)臨床症状・措置方法傾眠、疲労等の本剤の副作用が増強するおそれがあるため、併用する際には1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。
ベルソムラ錠 添付文書
血中濃度に対する影響、具体的なリスク等を確認する
※アピキサバンとクラリスロマイシンの場合
・アピキサバンの血中濃度上昇→出血のリスク↑
※クラリスロマイシンのCYP3A4、P-糖蛋白阻害作用により
患者さんごとにリスクを評価
- 年齢
- 体重
- 既往歴
- 基礎疾患
- 併用薬等
薬効、副作用のモニターを行う
※アピキサバンとクラリスロマイシンの場合
本剤投与中は出血や貧血等の徴候を十分に観察すること。また、必要に応じて、血算値(ヘモグロビン値)、便潜血等の検査を実施し、急激なヘモグロビン値や血圧の低下等の出血徴候を確認すること。
エリキュース錠 添付文書
患者さんごとにアプローチ!
自覚症状や検査値等を確認するタイミング、強度が変わります。
医師に情報のフィードバック、処方提案等を行う
まとめ
今回は、2つの視点から併用注意に対して薬剤師がどのように関わるべきかを考察しました。
併用禁忌の対応は、ベテランであっても新人であっても大きく変わりません。
基本的にSTOPをかけるだけです!
一方で、薬剤師のスキルが問われるのは併用注意のアプローチ。やり方次第で薬剤師の職能は大きく変わります。ここがポイント!
患者さんごとに、服薬後のフォローができるかどうか
ここが、『淘汰されない薬剤師』と『淘汰される薬剤師』の分岐点だと思います。
本記事を読んで、併用注意を起点に、薬剤師の働き方を考えるきっかけになればうれしいです♪