疑義照会は安全な薬物療法に欠かせないーー!
その通りです。みんな必死でやっています。コミュニケーションスキルを上げたり、知識を増やしたりと、努力を惜しまずに頑張っているわけです。
でも、限界を感じませんか?
これならいけると確信して臨んだのに、シミュレーション通りにいかないことも普通にありますよね。疑義照会の成功率は頭打ちです。
それに、処方箋からどれだけ問題点を抽出できてるのかも疑問です。実は見逃してるケースも多いのではないでしょうか?
はっきり言って、処方後に関わる疑義照会だけで安全な薬物療法を担保するのは限界があると思うのです。
では、どうすればいいのか?
オススメは処方前の介入です。疑義照会と対比しながら薬剤師の仕事のあり方について考察しました。
疑義照会の限界

疑義照会はなぜ上手くいかないのか?
作者が感じている原因は大きく3つあります。
- 処方を後から変えるのは無理がある
- 処方箋から得られる情報が少ない
- 時間的に余裕がない
順番に見ていきますね。
1)処方を後から変えるのは無理がある
疑義照会は行うタイミングが悪いです。医師の機嫌が悪いとき、という意味じゃありません。それもあるけど…^_^。「処方された後から」というのがイマイチです。
薬剤師法24条には以下のように記載されています。
処方箋中の疑義(疑義照会による確認)
薬剤師は、処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない
薬剤師の介入は、処方箋中に疑わしい点を見つけたとき、つまり医師が処方した後ですね。
一度、確定した処方を後から変更するのは面倒です。事務的な手間もかかります。多忙な業務中には「この程度なら、問題ないでしょ」と思うのも無理ありません。
それに、後から処方を修正されるのは、いい気分ではないです。誰でも間違いを認めたくないし、プライドが邪魔することも。医師も人間なので仕方がありません。禁忌でなければ、「そのままで」と言いたくなるでしょう。
そもそも、薬剤師に意見されることに嫌悪感を示す医師もいます。
「俺の処方に口出しするなんて、100年早いわー!!」
って感じに。もちろん、全ての先生に当てはまるわけじゃないけど、医師の顔色を伺いながら行なっているのが現実ですよね。
制度上、安全性のチェックが後からになるとはいえ、一度処方したものを後から修正するのはかなり難易度が高いのです。
2)処方箋から得られる情報が少ない

疑義照会が上手くいかない2つ目の理由です。処方箋からわかることは限られています。
- 薬剤名
- 投与量
- 投与方法
- 日数
- 年齢
- 性別
これだけの情報で一体どのくらい安全管理ができるのか?正直いって疑問です。
投与量や服用方法、相互作用などはチェックできます。
「添付文書」と「処方内容」の比較から、疑義がないかどうかの確認は可能です。薬効の重複があったり、通常量を上回っていたり、禁忌があるときには疑義照会をすればいいだけの話ですね。
処方箋だけでは病名がわからない!
困るのは、適応症が複数ある場合です。
たとえば、DOACは病名によって投与方法が異なります。心房細動とDVTでは禁忌や減量の基準が変わるし、投与期間だって違うわけです。投与方法が正しいかは処方箋だけではわかりません。
他にもあります。
ピオグリタゾンは心不全に禁忌です。循環血漿量の増加に伴う心不全の増悪または発症のリスクがあるからですね。
通常、処方箋に病名は記載されていません。じゃあ、現場の薬剤師はどうしてるかというと、おそらく併用薬を見て評価してますよね。
- βブロッカーを飲んでいないか?
- ARBやACE阻害薬が一緒に出てないか?
- 抗アルドステロン薬が併用されてないか?
ある程度は推測できます。処方意図を考えるのは薬剤師の得意分野ですからね。
それでも、限界があります。喘息の人はβブロッカー(非選択性)を飲めないし、ARBやACE阻害薬は心不全の治療で処方されているとは限らないからです。
病名がわからないと、投与の必要性や妥当性、投与方法が適正かどうかが判断できません。
処方箋だけでは検査値がわからない!
さらに、検査値がわからないのも困りものです。
特に腎機能。DOACは腎機能に応じた投与設計が必要です。eGFRやCreなど検査値がわからなければ投与量が正しいのか確認できません。
医師がきちんと見てくれているだろうと都合のいい解釈で、その場をやり過ごすことも多いですよね。
薬物療法の妥当性を評価したり、問題解決に努めようとすればするほど、情報不足が露呈されます。
処方意図をよみとるスキルを高めたり、患者さんが持ってるかもしれない検査値を頼りに、少ない情報から得られる情報を最大に活かしてやれることにも限界があるのです。
3)時間的に余裕がない

調剤は時間との勝負です。調剤薬局は特にですね。
制限時間内に(マンパワーに見合わない)大量の処方箋を処理しなければならないし、患者さんを待たせているという焦りもある中で、ゆっくり処方監査ができる余裕はありません。
「薬はまだ、できないんですか!!」
という見えない(よく見える?)プレッシャーに怯えながら安全管理よりスピードを重視せざるを得ないのが現実ですよね。
もちろん、病院でもそうです。投与直前のオーダーが少なくない状況で、調剤にかけられる時間は限られています。
一方で、安全管理は時間がかかるものです。
あらかじめ薬ごとにチェックすべき項目を決めてルーチン業務としても、限界があります。はじめて目にする薬を一から調べたり、薬の種類が多いと相互作用のチェックに手間取ったりと、ベテランであっても、スムーズにいかないのです。
処方箋どおりに調剤するだけで手一杯というのが、現場薬剤師の声だといえます。
★
このように、疑義照会だけで安全管理を行うのは限界があります。処方後に短時間で、情報が少ない中、医師が確定した処方を変更するのは難しいものなのです。
そこで、処方前の介入が必要になってきます。
薬剤師が処方前に介入すべき3つの理由

安全な薬物療法を担保するためには、処方後に関わる疑義照会よりも、処方前の介入に軸足を置く方が上手くいきます。
処方前の介入というのは、最終的に処方提案につなげるアプローチです。新しい処方を提案するのもいいし、既存の処方を次回受診時に変更してもらうのでも構いません。
とにかく、今後の処方に役立つ情報を積極的に発信していく。処方前に関わることを意識すれば、仕事のやり方も変化します。
薬剤師が処方前に関わるメリットは大きく3つです。
- 医師の受け入れがよい
(対立から協働に) - 薬剤師の職能が広がる
(受け身から能動的に) - 薬物療法のフォローが習慣になる
(点から線の関わりに)
疑義照会と対比しながら見ていきますね。
1)医師の受け入れが良い

まずは一つ目のメリットです。
処方提案は部下が上司に企画書を出すようなもの
(医師が上司で、部下が薬剤師という設定、やや語弊があるかもですが…。)
部下が上司に企画書を出すのは別に違和感ないですよね。ドラマとかでも普通にあるシーンです。
「いいじゃないか、やってみよう」と上司が言うやつですね。
たとえば、薬剤師が患者さんから副作用の症状を聴取して、医師に減量を提案するというもの。医師が納得すれば、減量の指示が出ます。臨床でよくあるやりとりです。
処方提案はうまくいきます。経験上、間違いありません。もちろん的外れな提案はダメですけど、よく練られた案なら医師の受け入れは良好です。
疑義照会は部下が上司の企画書にダメ出しするようなもの
目上の人に意見するのは、違和感があります。
部下にダメ出しされていい気分な上司はまずいません。同じく医師も薬剤師に疑義を確認されるのは気持ちいいものではないでしょう。(こっちも、やりたくてやってるわけではないですけどね……)
処方後に関わるというのは医師の処方に口出しすることに他なりません。どうしても対立軸で捉えられ、物事が順調に進まないことが多いのです。
対立から協働へ
処方後に関わる疑義照会は薬剤師の任務です。安全管理のためなら、時として対立することはやむを得ません。むしろ、立ち向かうべき場面もあります。
だけど、限界がある以上、疑義照会ばかりにこだわってたら、安全な薬物療法を担保できません。
処方前の関わりは、処方支援、診療のサポートという形です。医師と薬剤師が協働でやっていくイメージで、一緒に患者さんの治療に携わるという一体感が生まれます。
それに、医師との信頼関係を築きやすいです。次第に薬の相談も増えてきます。医師の相談に応じることは、薬剤師の仕事を患者さんに届ける機会です。結果として処方前の介入につながる好循環を生みます。
「対立から協働へ」
仕事のやり方を変えた方が安全な薬物療法をサポートしやすいと感じています。
ただし、メリットだけではありません。医師を説得できる企画書は豊富な知識と経験があってこそ書けるもの。日々の勉強が欠かせません…けどね。
2)薬剤師の職能が広がる

2つ目のメリットです。
処方前に介入すると仕事の幅が広がる
様々な薬学的介入ができます。たとえば、入院時の関わりなんてまさにそうです。
薬剤師は入院前の服薬状況(持参薬)を把握して、入院中の服薬計画を医師に提案します。簡単にいうと持参薬の内容を吟味して適正化する業務です。
具体的には下記ですね。
- 薬効の重複や投与量、相互作用のチェック
- 薬剤性(副作用)のスクリーニング
- 手術や検査で休薬すべき薬剤の確認
- ポリファーマシー対策
処方後に関わるよりもできることが増えます。
ここまで介入できるのは、患者さんの情報を多く入手できるのが大きな理由です。
処方箋だけではわからなかった病名や検査値はもちろん、入院の経緯、既往歴、諸々の検査、患者さんからの聞き取り等から、薬物療法の妥当性を総合的に評価して介入できます。
他にも、入院前に手術患者さんの安全管理に努めたり、退院前に退院後の療養環境を考えて薬物療法を最適化したりと、処方前に関与していく業務が盛んです。
処方前から積極的に介入すれば、薬剤師ができる仕事の幅が広がります。
受け身から能動的な介入へ
疑義照会はどちらかというと受け身の仕事スタイルです。処方箋を受け取ってから介入が始まるからですね。できることは限られています。せいぜい、薬効重複や相互作用、投与量のチェックが中心です。
処方箋→処方の問題点→疑義照会
(限界あり)
一方で、処方前の関わりは患者さんからスタートします。いつでも介入OKです。できることは多岐に渡ります。患者さんの薬物療法を丸ごと評価して積極的に介入していくスタイルだからです。
やる気と能力次第であるものの、おそらくできることに制限はありません。
患者さん→薬物療法の問題点→処方提案
(やる気と能力次第で何でも)
疑義照会も大切だけど、それだけでは薬剤師の職能を十分に発揮できているとはいえません。もったいないです。
「受け身から能動的へ」
仕事のあり方を見直すと、よりよい薬物療法を積極的にサポートできるはずです。
3)薬物療法のフォローが習慣になる

3つ目メリットです。
処方前の介入は経過観察が必須!
処方前に介入するためには服薬中のフォローが欠かせません。継続した関わりの中で、薬物療法における問題点を挙げて解決していくものだからです。
たとえば、痛み止めを飲んでいる人を考えてみます。
処方前の関わりというのは疼痛評価と副作用のモニタリングです。
入院中は毎日確認できるし、調剤薬局の場合には、来局時ごとの聞き取りになります。間隔が空きすぎかなと感じたら電話モニタリングでもOKですよね。
とにかく、患者さんの経過を追っていくことが大切です。
その中で、鎮痛剤の選択や、副作用発生時の対処方法などを検討しつつ、必要に応じて処方提案を行います。まさに今話題のトレーシングレポートが活用できる場面です。
定期フォローは患者さんの満足度にも好影響を与えます。薬剤師が治療をサポートしてくれているという安心感があるからです。信頼関係も芽生えていくでしょう。
処方前に関わることを意識したら、服薬後のフォローが息をするくらい当たり前にできるようになります(^-^)
点から線の関わりへ
疑義照会は定期的なフォローがなくてもできます。処方箋から疑義を発見して解決すればそれで完了だからです。そもそもフォローの概念がないのかも知れません。
ある意味、疑義照会は点の関わりといえます。
PPIが処方されました。でも、もともとH2拮抗薬を飲んでいる人です。薬効重複について問い合わせて処方が中止になったら、そこで仕事が終了します。
一方で、処方前の介入は、線の関わりが欠かせません。
定期的に経過を見ていかないと、処方提案の必要性が判断できないどころか、医師を説得できる根拠も手に入りません。
ロキソニンを飲んでいる人がいて、定期的に副作用をモニターしてたら、胃部不快感を認めました。どうしようかを考えて、リスクが低いセレコックスへの変更を提案するまでには、服薬後のフォローが必須だからです。
処方前の介入は服薬後のフォロー、つまり薬物療法に線で関わるということに他なりません。
「点から線の関わりへ」
軸足を変えたら、より有効で安全な薬物療法を保証できると思います。患者さんも安心ですよね。
まとめ

今回は疑義照会の限界から、薬剤師の仕事のあり方について考察しました。
処方前か処方後か、どちらがいいのか?
というと、結局のところどちらも大事です。
でも、これからの薬剤師に求められているのは処方前の関わりだと確信しています。
医師と①協働して、②積極的に薬物療法に参画し、③継続的にサポートするのが、薬剤師の職能をより発揮できる仕事のあり方だと思うからです。
はっきり言って、処方前の関わりの方が断然難しいけど、「患者さんの治療に貢献したい」という熱い気持ちがあればなんとかなります♪
まずは処方前に関わることを意識してみてはどうでしょうか?
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