今回のテーマはカログラ錠!
潰瘍性大腸炎の治療薬です。
分類はインテグリン阻害薬、先行発売されているエンタイビオ点滴の経口版に当たります。
カログラ錠はどのような特徴があるのか?
勉強がてら調べたので共有したいと思います。エンタイビオとの違いが気になったので、比較しながらまとめました。
カログラとエンタイビオの基本情報
まずは基本情報の比較から。押さえておきたい項目は以下のとおりです。重要だと思われる箇所にマーカーを引きました。
カログラ | エンタイビオ | |
---|---|---|
販売 | 2022年5月 | 2018年11月 |
一般名 | カロテグラストメチル | ベドリズマブ |
規格 | 錠120mg | 点滴静注300mg 皮下注108mgペン 皮下注108mgシリンジ |
分類 | α4インテグリン阻害剤 | ヒト化抗ヒトα4β7インテグリンモノクローナル抗体製剤 |
投与経路 | 経口 | 点滴 |
適応 | ①中等症の潰瘍性大腸炎 ※5-アミノサリチル酸製剤による治療で効果不十分な場合に限る ※寛解導入のみ | ①中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療及び維持療法 ②中等症から重症の活動期クローン病の治療及び維持療法 ※既存治療で効果不十分な場合に限る |
警告 | なし | あり |
禁忌 | ・過敏症の既往歴のある患者 ・妊婦又は妊娠している可能性のある女性 ・重度の肝機能障害(Child-Pugh 分類C)を有する患者 | ・本剤の成分に対し重度の過敏症の既往歴のある患者 |
用法用量 | 1回960mg(8錠)を1日3回 | ①1回300mgを点滴静注 0週 2週 6週に投与、以降8週間隔で投与 点滴静注を2回以上実施、効果が認められた場合には、次回より皮下注射を選択可 1回108mgを2週間隔 ②1回300mgを点滴静注 初回投与後、2週、6週に投与、以降8週間隔 |
投与期間 | 6ヶ月(最大) | 制限なし |
減量基準 | あり ・中等度肝機能障害 ・OATP1B1、OATP1B3阻害薬 | なし |
ポイントは7つです。
- 剤型
- 作用機序
- 適応
- 禁忌
- 投与方法
- PMLに対する注意点
- 感染症に対する注意点
順番に見ていきましょう。
カログラとエンタイビオの剤型
まず1つ目のポイント、剤型について。
ここは1番の違いです!
・カログラ…内服薬
・エンタイビオ…注射薬
カログラは経口投与できます。ここが魅力ですね。低分子(分子量569.44)であり、活性代謝物であるカロテグラストをエステル化し、吸収率を高めたプロドラッグです。
一方で、エンタイビオは点滴静注で用います。モノクローナル抗体は高分子(分子量約150,000)のタンパク質であり、消化管でアミノ酸に分解されるため、経口投与できません。
カログラとエンタイビオの作用機序
続いて2つ目のポイント、作用機序について。
作用機序はほぼ一緒!
・カログラ…α4インテグリン阻害剤
・エンタイビオ…α4β7インテグリンモノクローナル抗体
先述のようにカログラとエンタイビオは構造に大きな違いがありますが、作用機序はほぼ同じです。どちらもリンパ球表面にあるインテグリン(細胞接着分子)に結合し、リンパ球が血管内皮細胞と接着するのを妨げて、炎症部位への遊走、浸潤を阻害します(抗炎症作用)。
カログラの作用機序
エンタイビオの作用機序
一方で、よく見ると作用点であるインテグリンの種類が少し違います。
2種類の結合をブロック!
1種類の結合をブロック!
カログラの結合箇所は2つです。α4β7とα4β1のインテグリンに結合します。その結果、MAdCAM-1とVCAM-1、両方の接着を阻害するかたちです。一方で、エンタイビオは α4β7インテグリンとMAdCAM-1の結合のみを阻害します。α4β1インテグリンとVCAM-1の結合は阻害しません。
ベドリズマブはα4β7インテグリンに特異的に結合し、α4β7インテグリンと主に消化管に発現する MAdCAM-1 との結合を阻害する一方で、中枢神経、皮膚等多くの臓器に発現する血管細胞接着分子 -1(VCAM-1)との結合は阻害しなかった
エンタイビオ インタビューフォーム
このように、エンタイビオは消化管に選択的に働きますが、カログラは中枢神経や皮膚など他の臓器にも非選択的に作用するわけです。この違いは安全性と関係があります(後述)
カログラとエンタイビオの適応
続いて3つ目のポイント、適応について。
ここは重要です!
カログラ | エンタイビオ | |
---|---|---|
適応 | 潰瘍性大腸炎 | 潰瘍性大腸炎 クローン病 |
重症度 | 中等症 | 中等症から重症 |
選択基準 | 5-ASA製剤の効果不十分時 | 既存治療で効果不十分 |
病期 | 寛解導入のみ | 寛解導入と維持療法 |
併用薬の制限 | 他の免疫抑制剤 ナタリズマブ | 生物学的製剤 ナタリズマブ |
ポイントは4つです。
- 適応症の違い
- 臨床の位置付け
- 病期による選択
- 併用薬の制限
①適応症の違い
カログラの適応症はUC(ulcerative colitis:潰瘍性大腸炎)のみです。一方で、エンタイビオはUCの適応で発売後、2019年5月にCD(crohn’s disease:クローン病)に適応が拡大しました。
②臨床の位置付け(UC)
カログラの対象は中等症の方です。5-ASA(5-アミノサリチル酸)製剤の効果が不十分な時に使用します。一方で、エンタイビオは中等症から重症の方が対象です。既存治療(ステロイド、アザチオプリン等)で効果が不十分な時に用います。
- カログラとエンタイビオの使い分けは?
-
ポイントは2つあると考えられます。
①重症度による使い分け
重症の場合はエンタイビオです。カログラは使えません。
じゃあ、中等症の場合はどうか?
②ステロイド使用の有無で判断
寛解導入で用いる代表薬はステロイドです。エンタイビオはステロイド難治例(ステロイド依存、抵抗)に推奨されています。
一方で、カログラの出番は5-ASA製剤で効果が不十分の時です。つまり、ステロイドの前にも使用できます。
③病期による選択
潰瘍性大腸炎は症状がある「活動期」と症状が落ち着いている「寛解期」を繰り返す疾患です。
カログラは活動期の寛解導入目的で用います。投与のタイミングは活動期で、炎症や症状を和らげ寛解期に移行させるのが処方目的です。一方で、維持療法には適応がありません。長期間の服用はPMLのリスクを増大する可能性があるからです。維持療法における有効性や安全性は検証されていません。
PMLについては後述しています。本剤は維持療法のために投与しないこと。本剤の進行性多巣性白質脳症(PML)発現リスクを考慮し、臨床試験では維持療法について検討していない
カログラ錠 電子添文
それに対して、エンタイビオは寛解導入と維持療法に適応があります。寛解期に移行した後も、炎症や症状の安定を維持するために投与を継続できる薬剤です。
④併用薬の制限
併用薬の制限に違いがあります。カログラは免疫抑制剤と併用できません。逆にいうと併用できるのは5-ASA製剤とステロイドのみです。
(重要な基本的注意)
本剤と他の免疫抑制剤の併用について臨床試験は実施していないため、本剤との併用を避けること。
カログラ錠 電子添文
5-ASA製剤:内服薬と外用薬
サラゾスルファピリジン
メサラジン
サラゾスルファピリジン
メサラジン
一方で、エンタイビオは免疫抑制作用がある生物製剤と併用できません。言い換えると、5-ASA製剤とステロイド、免疫抑制剤(アザチオプリン等)と併用できます。
(重要な基本的注意)
本剤と他の免疫抑制作用を有する生物製剤の併用について臨床試験は実施していないため、本剤との併用を避けること。
エンタイビオ点滴静注 電子添文
- UC治療薬で免疫抑制作用がある生物製剤とは?
-
全部で6種類!
分類 一般名 製品名 抗TNF-α抗体 インフリキシマブ レミケード 抗TNF-α抗体 アダリムマブ ヒュミラ 抗TNF-α抗体 ゴリムマブ シンポニー 抗IL-12/23抗体製剤 ウステキヌマブ ステラーラ インテグリン阻害薬 ベドリズマブ エンタイビオ 抗IL-23p19抗体製剤 ミリキズマブ オンボー オンボーは令和5年6月21日発売予定です( 発売されました)
当然ながら、エンタイビオはJAK阻害薬(トファシチニブ、フィルゴチニブ)との併用できません。
免疫抑制作用が増強されると感染症のリスクが増加することが予想されるので、本剤とTNFα阻害剤、インテグリン阻害剤、インターロイキン阻害剤等の生物製剤や他のJAK阻害剤、タクロリムス、シクロスポリン等の免疫抑制剤(局所製剤以外)との併用はしないこと。本剤とこれらの薬剤との併用経験はない
ジセレカ錠 電子添文
分類 | 一般名 | 製品名 |
---|---|---|
JAK阻害薬 | トファシチニブ | ゼルヤンツ |
JAK阻害薬 | フィルゴチニブ | ジセレカ |
JAK阻害薬 | ウパダシチニブ | リンヴォック |
カログラとエンタイビオの禁忌
続いて4つ目のポイント、禁忌について。
ポイントは2つです。
- 妊婦への投与について
- 肝機能障害患者への投与
①カログラは妊婦又は妊娠している可能性のある女性に投与できません。動物実験で催奇形性が認められているからです。
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、投与しないこと。動物実験(マウス)において、臨床推奨用量の1.33倍以上の曝露で左心房小型、胸骨分節糸状癒合、胸骨分節配列異常、腸短小(結腸)、着床後死亡数、着床後死亡率の高値及び生存胎児数の低値が認められている
カログラ錠 電子添文
カログラ錠の「服用期間中と服用終了後の3日間以上」は避妊を徹底する必要があります。
②カログラは重度の重度肝機能障害がある方には投与できません。胆汁排泄型であり、血中濃度上昇により副作用発現のリスクが高まる可能性があるからです。臨床試験も行っておらず、有効性と安全性が確認されていません。
重度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類C)投与しないこと。中等度の肝機能障害患者に投与した場合にカロテグラストメチル及び活性代謝物であるカロテグラストの血中濃度の上昇が認められている。重度の肝機能障害患者を対象とした臨床試験は実施していない。
カログラ錠 電子添文
カログラとエンタイビオの投与方法
続いて5つ目のポイント、潰瘍性大腸炎に対する投与方法について。
違いをCHECK!
カログラ | エンタイビオ | |
---|---|---|
経路 | 内服 | 点滴静注 |
用法用量 | 1回960mg(8錠) 1日3回 | 1回300mg 初回、2週後、6週後 以降8週間隔 2回以上の点滴静注により効果が認められた場合には、次回より皮下注射を選択可 1回108mgを2週間隔 |
減量基準 | あり ・中等度肝機能障害 ・OATP1B1、OATP1B3阻害薬 | なし |
ポイントは2つです。
- カログラは飲むのが大変!
- カログラは減量基準あり
①カログラは1回8錠、1日24錠服用する必要があります。ここはかなり驚きました。錠数が多すぎますよね。しかも、錠剤はそこそこ大きめです。若年の患者さんが多いとはいえ、飲むのはそう簡単ではないと思いました。毎日の服薬負担を考えると、導入を戸惑う人もいるかも知れません。
錠剤の見た目
大きさの比較
長径 | 短径 | 厚さ | |
---|---|---|---|
カログラ200mg | 約17.0mm | 約7.5mm | 約5.9mm |
カロナール500mg | 約15.0mm | 約8.0mm | 約5.9mm |
リアルダ1200mg | 約20.7mm | 約9.7mm | 約7.6mm |
カログラはカロナール500mgとほぼ同じ(横幅が少しだけ長い)で、リアルダを一回り小さくしたサイズですね。
②カログラは以下2つの減量基準があります。
- 中等度肝機能障害
- OATP1B1、OATP1B3阻害薬
中等度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類B)又は胆道閉塞のある患者
減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察し、副作用の発現に十分注意すること。胆道閉塞のある患者を含む中等度の肝機能障害患者に投与した場合にカロテグラストメチル及び活性代謝物であるカロテグラストの血中濃度の上昇が認められている
OATP1B1及びOATP1B3を阻害する薬剤、リファンピシン等
本剤の活性代謝物であるカロテグラストの作用が増強される可能性がある。本剤の減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察し、副作用発現に十分注意すること。
カログラ錠 電子添文
- 肝機能障害(中等度)の場合はどのくらい減量するのか?
-
電子添文に明確な記載がありませんので、主治医の判断に委ねられますが、半量から1/3量が目安になると考えられます。肝機能障害(中等度)のある方ではカロテグラスト及び活性代謝物カロテグラストのAUCが3〜4倍程度に上昇するからです。
実際には、初回から減量するというよりは、通常量で開始し、効果と副作用を見ながら減量の必要性を判断していくケースが多いと思われます。
中等度肝機能障害被験者では、肝機能正常被験者と比較してカロテグラストメチルのCmax及びAUC0-∞はそれぞれ2.5倍及び3.1倍であり、カロテグラストのCmax及びAUC0-∞はそれぞれ2.1倍及び4.3倍であった
カログラ錠 電子添文 - OATP1B1及びOATP1B3を阻害する薬剤(リファンピシン等)と併用する場合、どのくらい減量すべきか?
-
同様に電子添文に明確な記載がありませんので、主治医の判断に委ねられますが、リファンピシンの場合は、併用時のAUCから考えると半量から1/4量が目安になると考えられます。
日本人健康成人男性(20例)に本剤960 mgとOATP1B1及びOATP1B3の阻害薬であるリファンピシン600 mgを併用投与したとき、単独投与時と比較して、カロテグラストメチルのCmax及びAUC0-tはそれぞれ2.1倍及び2.0倍、カロテグラストのCmax及びAUC0-tはそれぞれ4.8倍及び5.6倍に上昇した
カログラ錠 電子添文肝機能障害患者と同様に、初回から減量するというよりは、通常量で開始し、効果と副作用を見ながら減量の必要性を判断していくのが現実的な対応だと思います。
カログラとエンタイビオのPMLに対する注意事項
続いて6つ目のポイント、PMLに対する注意事項について。電子添文の関連箇所を抜き出すと以下のとおりです。
効能又は効果に関連する注意
本剤は維持療法のために投与しないこと。本剤の進行性多巣性白質脳症(PML)発現リスクを考慮し、臨床試験では維持療法について検討していない
用法及び用量に関連する注意
他のインテグリン拮抗薬であるナタリズマブ(遺伝子組換え)においてPMLの発現が報告されている。本剤のPML発現リスクを低減するため、投与期間は6ヵ月までとし、6ヵ月以内に寛解に至った場合はその時点で投与を終了すること。また、本剤による治療を再度行う場合には、投与終了から8週間以上あけること
重要な基本的注意
本剤と他の免疫抑制剤の併用について臨床試験は実施していないため、本剤との併用を避けること。また、ナタリズマブ(遺伝子組換え)を投与されている患者では、本剤との併用を避けること。ナタリズマブ(遺伝子組換え)を過去に投与された患者に本剤を投与する際はPMLの発現に十分注意すること
重大な副作用
進行性多巣性白質脳症(PML)
本剤の投与期間中及び投与終了後は患者の状態を十分に観察すること。意識障害、認知障害、麻痺症状(片麻痺、四肢麻痺)、言語障害等の症状があらわれた場合は、MRIによる画像診断及び脳脊髄液検査を行うとともに、投与を中止し、適切な処置を行うこと。
効能又は効果に関連する注意
記載なし
用法及び用量に関連する注意
記載なし
重要な基本的注意
他のインテグリン拮抗薬であるナタリズマブにおいて進行性多巣性白質脳症(PML)の発現が報告されているため、ナタリズマブを過去に投与された患者に本剤を投与する際はPMLの発現に十分注意すること。また、ナタリズマブを投与されている患者では、本剤との併用を避けること。
重大な副作用
進行性多巣性白質脳症(PML)
PMLの発現が報告されているので、観察を十分に行い、片麻痺、四肢麻痺、認知機能障害、失語症、視覚障害等のPMLが疑われる症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、適切な処置を行うこと。
ポイントは4つです。
- PMLとは?
- 適応の限定
- 投与期間の制限
- 再開のタイミング
順に見ていきます。
- ①PMLとは?
-
押さえておきたいポイント
- 進行性多巣性白質脳症の略
(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML) - JCウイルスによる中枢神経感染症の一形態
- 細胞性免疫の低下が原因(HIV感染症、血液がん、膠原病など)
- 最近では薬物に関連があるPMLの報告あり(抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤など)
- α4インテグリンモノクローナル抗体製剤のナタリズマブで報告あり
- カログラはPMLの報告なし(臨床試験)
- 症状はけいれん、しゃべりにくい、 手足のまひ、意識の低下、意識の消失、物忘れなど
- 進行性多巣性白質脳症の略
②カログラは適応が限定されています。先述のようにPML発症のリスクを軽減するためです。寛解導入目的のみで維持療法に適応はありません。
③カログラは投与期間が制限されています。同様にPMLの発症リスクを最小化するためです。投与期間が最大6ヶ月と決められており、寛解に至った時点で中止します。必ず6ヶ月間投与しなければならないわけではありません。
他のインテグリン拮抗薬であるナタリズマブ(遺伝子組換え)においてPMLの発現が報告されている。本剤のPML発現リスクを低減するため、投与期間は6ヵ月までとし、6ヵ月以内に寛解に至った場合はその時点で投与を終了すること。
カログラ錠 電子添文
- カログラはどのくらいで中止できるのか?
-
調べてみると8〜12週が目安です。国内第3相臨床試験において、カログラは8週の時点でプラセボに比べて有効性(Mayoスコアの改善)が認められ、12週までにほとんど(有効中止例の)が中止できています。
国内第III相試験(AJM300/CT3試験)
- 対象…経口の5-ASA製剤(SASP製剤を含む)に対して効果不十分又は不耐の中等症の活動期にある日本人潰瘍性大腸炎患者203例
①「Mayoスコア」が6点以上10点以下
②「粘膜所見サブスコア」が2点以上
③「血便サブスコア」が1点以上
- 方法…カログラを1回8錠1日3回食後に投与(最大24週)
- 比較…プラセボ
結果は以下のとおり
- 主要評価項目…8週におけるMayoスコアによる改善率
…カログラ45.1%(46/102例)vs プラセボ28.8%(21/101例)p=0.0003
以下の3つの条件を満たす被験者の割合
①「Mayoスコア」30%以上減少かつ3点以上減少
②「血便サブスコア」が1点以上減少又は1点以下
③「粘膜所見サブスコア」が1点以下
→UC患者の寛解導入療法において、カログラはプラセボに比べて、8週におけるMayoスコアを有意に改善した。
- 初回投与期における有効中止例の割合※
※「粘膜所見サブスコア」が0点又は「血便サブスコア」が0点を達成
→有効中止例のほとんどは12週までに中止できている
- 対象…経口の5-ASA製剤(SASP製剤を含む)に対して効果不十分又は不耐の中等症の活動期にある日本人潰瘍性大腸炎患者203例
④カログラは投与終了後に再開できますが、8週間以上の休薬期間が必要です。
本剤による治療を再度行う場合には、投与終了から8週間以上あけること。
カログラ錠 電子添文
- なぜ、8週間の休薬期間が必要なのか?
-
PML発症のリスクを低減するためです。類薬のナタリズマブ中止後にCD4/CD8比(免疫不全で低下する)が回復するまでに2ヶ月を要するとの報告があり、免疫抑制作用をリセットするための期間として8週間が設定されました。
ナタリズマブ(遺伝子組換え)投与において、末梢血中リンパ球増加作用消失後、髄液中のCD4/CD8比が回復するまでに2ヵ月を要するとの報告を踏まえ、本剤を再投与する際も8週間の休薬期間を設けました。
カログラ®錠120mg 投与における注意事項
カログラとエンタイビオの感染症に対する注意事項
最後に7つ目のポイント、感染症に対する注意事項について。カログラとエンタイビオの電子添文を比較すると下記です。
警告
なし
重要な基本的注意
本剤はα4インテグリンに結合しリンパ球の遊走を阻害するため、感染症に対する免疫能に影響を及ぼす可能性がある。本剤の投与に際しては十分な観察を行い、感染症の発現や増悪に注意すること。
重大な副作用
記載なし
警告
肺炎、敗血症、結核等の重篤な感染症が報告されていること及び本剤は疾病を完治させる薬剤でないことを患者に十分説明し、患者が理解したことを確認した上で、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、本剤の投与において、重篤な副作用があらわれることがあるので、緊急時の対応が十分可能な医療施設及び医師の管理指導のもとで使用し、本剤投与後に副作用が発現した場合には、主治医に連絡するよう患者に注意を与えること。
重要な基本的注意
1.本剤はα4β7インテグリンに結合しリンパ球の遊走を阻害するため、感染症に対する免疫能に影響を及ぼす可能性がある。結核、敗血症、サイトメガロウイルス感染、リステリア症及び日和見感染等の重度の感染症患者については、感染症がコントロールされるまで本剤の投与を開始しないこと。本剤の投与に際しては十分な観察を行い、感染症の発現や増悪に注意すること。本剤投与中に重篤な感染症を発現した場合には、速やかに適切な処置を行い、感染症がコントロールできるようになるまでは投与を中止すること。また、患者に対し、発熱、倦怠感等があらわれた場合には、速やかに医師に相談するよう指導すること。
2.本剤投与に先立って結核に関する十分な問診及び胸部レントゲン検査に加え、インターフェロン-γ遊離試験又はツベルクリン反応検査を行い、適宜胸部CT検査等を行うことにより、結核感染の有無を確認すること。結核の既往歴を有する場合及び結核感染が疑われる場合には、結核の診療経験がある医師に相談すること。以下のいずれかの患者には、原則として本剤の開始前に適切な抗結核薬を投与すること。
3. また、本剤投与中も、胸部レントゲン検査等の適切な検査を定期的に行うなど結核の発現には十分に注意し、患者に対し、結核を疑う症状が発現した場合(持続する咳、発熱等)には速やかに医師に連絡するよう説明すること。なお、結核の活動性が確認された場合には本剤を投与しないこと。
重大な副作用
重篤な感染症(1.4%)
ここは、見比べた時に違和感がありました。エンタイビオは警告に感染症に対する記載があるのに、カログラにはないからです。加えて、同じインテグリン阻害薬なのに、重要な基本的注意はカログラの方が感染症リスクに関する記載が控えめになっているし、重大な副作用も(感染症の)記載がありません。
- カログラはどうして感染症リスクが低い設定なのか?
-
臨床試験において、カログラは感染症の発現率がプラセボと大きく変わらないことが示されているからです。
以下3つの理由が考えられます。
- 寛解導入のみ使用
- 投与期間が制限
- 免疫抑制剤と併用なし
先述のように、カログラの適応は寛解導入のみで維持療法にはありません。投与期間は最大6ヶ月です。症状の寛解が得られた時点で中止することが求められています。また、免疫抑制剤との併用は認められておりません。
このように、適応や併用薬の条件を絞り、投与期間を短くすることで、感染症のリスクを軽減できていると考えられるわけです。
一方で、エンタイビオはカログラよりも感染症の発現リスクに注意が欠かせません。投与期間の制限はなく、免疫抑制剤と併用することも認められているからです。投与前に感染症のリスクを評価して、投与の可否を検討することが求められています。
といっても、カログラは安全かというとそうではありません。インテグリン阻害薬である以上、感染リスクへの影響があるので、投与中は感染症の発現を注意深く見守る必要があります。
まとめ
今回はカログラ錠の特徴をエンタイビオと比較しながらまとめました。
記事を書きながら思ったのは
カログラは単にエンタイビオの経口薬ではないこと!
作用機序はほぼ同じでも、臨床の位置付け、PMLや感染症のリスク等は異なるからです。適応場面を絞り、投与期間を限定することで安全性を担保しています。カログラは5-ASA製剤の次に使えるインテグリン阻害薬で、ステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤等の使用を温存できるのが魅力です。
一方で、カログラも使い方を誤れば、当然副作用のリスクが露呈されます。ここは注意が必要です。安全に使うためには「効果を見極め投与期間を最小化する」ことが大切だと感じました。