今回のテーマは処方提案力!
処方提案力が高い人の方が、より優れた処方を医師に提案できます。患者さんが抱える薬物療法の問題点を解決できる能力が高いからです。
さて、処方提案力が「高い人」と、
「低い人」の違いはどこにあるのでしょうか?
以下2つの要素が関係していると思います。
①代替案の数と②取捨選択力
上記を深掘りしながら、処方提案力を高める方法について考察しました。
処方提案力を構成する2つの要素
処方提案力は先に述べた2つの要素からなります。私見ですが、たぶん合っているはずです…(^_^*)
- 代替案の数(引き出しの多さ)
- 取捨選択できる力(最適な提案を)
順番に解説します。
代替案の数(引き出しの多さ)
代替案の数を増やすと、処方提案力が向上します
引き出しの数が多いほど患者さんのニーズに広く応えることができるからです。なんとなくイメージできますよね。
たとえば、痛み止めを提案する場面を考えてみましょう。周術期だけでなく、痛みを訴える患者さんは多く、よくあるシチュエーションですよね。
- 鎮痛目的で使う薬の種類は?
-
以下のように沢山あります。
- 酸性NSAIDs
- 塩基性NSAIDs
- COX-2選択性NSAIDs
- アセトアミノフェン
- オピオイド(弱、強)
- ピリン系
- 神経障害性疼痛治療薬
- 抗うつ薬(一部)
- 抗けいれん薬(一部)
- 漢方薬
- ノイロトロピン
きっと他にもあるでしょう。剤型の違いまで入れると、内服、坐薬、塗り薬、湿布、注射等さらに選択肢が増えます。
引き出しの数が多い=対応力UP
この中から痛みの原因や強さに合わせて、いずれかを選択する(複数の場合もある)わけですが、引き出しの数が多いほど対応力が増します。将棋でいう持ち駒の数や種類が多い方が戦略が広がるのと同じですね。
また、一つ目の提案で効果が不十分の時も、選択肢の多さが有利に働きます。これがダメなら、次はあれを選択、その次は…という風に、次から次に引き出しが用意されているわけです。
代替薬の引き出しが多いほど、患者さんごとに最適な薬剤を選択できる力が増します。
引き出しの数が少ない=対応力DOWN
一方で、選択肢が少ないと対応力が下がります。仮にNSAIDsとアセトアミノフェンしか知らなければ(薬剤師として問題ありますが…)、神経障害性の痛みを訴える人に、適切な提案ができません。もちろん、難治性の痛みにも力不足となる可能性が高いですよね。
代替薬の引き出しが限られると、仕事のクオリティ自体が下がります。
引き出しの数にこだわるべき!
もちろん、記憶容量にも限界があるので、闇雲に数を増やすよりかは、よく使う引き出しだけでも日常業務はこなせるかも知れません。
ですが、薬剤師はあらゆる場面に対応できる引き出しの数にこだわるべきだと思います。薬の専門家である以上、持ち駒の不足により打つ手がない状況は避けたいからです。
薬物療法の問題点を解決できる選択肢は沢山あって困ることはありません。引き出しの数は、処方提案力を高めてくれるひとつ目の要素だといえます。
最適な提案を取捨選択できる力
1番優れた提案は何か、選び抜く力は処方提案力を強くしてくれます
複数ある選択肢を前に、迷わず決断できるようになるからです。
先ほどの痛み止めで考えてみましょう。
- NSAIDsを飲んでる人が胃痛を訴えた場合、どのように対応するのか?
-
いろんな選択肢があります。
- 胃粘膜防御薬を追加する
- PPIを追加する
- H2拮抗薬を追加する
- アセトアミノフェンへ変える
- COX-2選択的阻害薬に変える
- COX-2阻害薬に変える+PPIを加える
- 弱オピオイド薬に変える
- 弱オピオイド薬+アセトアミノフェンに変える
- NSAIDsを頓服に変える
- NSAIDsをやめる
他にもありますよね。この中から、どれがいいのか考えるわけです。
処方提案力が低い=一律の対応
もし、今答えが出た人は残念ながら、処方提案力に長けているとはいえません。なぜなら、「目の前の患者さんにとってどうか」という視点が抜けているからです。
誰にでも同じ対応・提案では、医師を説得するだけの根拠が乏しく、処方提案が受け入れられたとしても、患者さんの問題解決に至ることは少ないと思います。
処方提案力が高い=個別対応
ここでは取捨選択力が問われます。一般的な答えではなく、目の前の患者さんにとって1番良い方法はどれか、痛みの程度や病態、既往歴、腎機能、肝機能、併用薬、副作用・アレルギー歴等から患者さんごとに最善策を検討していくわけです。要するに個別対応ですね。
患者さんごとに、最も優れた方法を選び抜くことができれば、医師への説得力が増し、問題解決につながる確率も高まります。
最適な選択肢を提示できる努力を!
といっても、これが簡単ではありません。甲乙つけがたい選択肢の中からひとつを選び抜くのは豊富な知識と経験が不可欠だからです。
そのせいか、医師に丸投げの人を見かけます。問題点だけを伝え、あとはお任せするかたちです。処方権は医師にあるわけだし、薬剤師がわざわざでしゃばる必要はないという発想もわからないわけでもありません。
ですが、薬剤師は患者さんにとって最適な選択肢を提示する努力が不可欠だと思います。後述しますが、薬学的な視点から医師にはないアプローチが可能だからです。
最適な選択肢を提示できると医師からの信頼度も上がるし、患者さんにも貢献できるようになります。みんな経験ありますよね(^_^)。
難易度は高めですが、1番いい選択肢はどれか?峻別できる力は処方提案力を高める2つ目の要素だといえます。
処方提案力を磨く3つの心がけ
では、処方提案力はどのように身につけたらいいのか?
最終的には日々の勉強と経験の積み重ねが大事ですが、ちょっとした心がけで処方提案力を鍛えることができます。紹介しますね。
大きく3つです。
- 問題意識を持つ!
- 疑義照会は処方提案とセットで!
- 付加価値をつけた処方提案を!
順番に見ていきましょう。
問題意識を持つ!
日頃から問題意識を持ちましょう
日常の疑問が処方提案のきっかけになるからです
たとえば、食欲不振の訴えがあったとします。「たぶん体調でも悪いのでしょう」と結論せずに、どうして食欲がないのか?と疑問に思うことが大切です。
もしかして
- 薬剤性の可能性はないのか?
- いつから症状があるのか?
- 最近追加された薬はないか?
- 薬が原因だとしたら解決策(代替案)は?
というふうに、問題意識は処方提案へのきっかけになります。問題解決の過程で、自然と知識が増え、処方提案力が磨かれていくのです。
とはいえ、問題意識を持つことは業務の圧迫にもつながります。疑問点を明らかにして、処方提案を実行するのは(経験によるものの)時間がかかるからです。正直言って、問題意識ばかりだと、仕事が捗らず周囲にも迷惑がかかります。
じゃあ、どうすればいいのか?
できる範囲でやるしかない…ですね。1日1つとか可能であれば2つとかなら、なんとかこなせるのではないでしょうか。忙しさを理由に問題解決を諦めるのはなんか違う気がします…。
日常の疑問をそのままにせず、問題点→処方提案の仕事スタイルを、できる限り実践することで処方提案力が鍛えられていきます。次第に短時間で数をこなせるようになるかもですね。
疑義照会は処方提案とセットで!
2つ目の心がけです。
疑義照会を行うときは代替案を用意しましょう
疑義照会をきっかけに処方提案力も鍛えることができるからです
たとえば、喘息の人にカルベジロールが処方された場合を考えてみます。禁忌です(疑義)と伝えるだけでは不十分ですよね。代替薬は何かまで考えて、代わりはビソプロロールです(処方提案)と伝えるところまでが薬剤師の仕事だと思います。
処方提案をやろうと思っても、何かきっかけがないとできません。となると、ルーティンワークである疑義照会は処方提案を行う絶好の機会だといえます。処方提案と違って疑義照会は義務なので、避けて通れないですしね。
必ずやる業務にくっつけておくことで、日常的に処方提案力を鍛えることができます。「疑義照会+処方提案」を意識することが大切ですね。
薬剤師の付加価値をつけた処方提案を!
心がけ3つ目。
薬剤師だからこそできる処方提案とは何かを意識しよう
処方提案力を向上させる肝の部分になるからです
具体的には、薬物動態や相互作用等を加味して検討します。薬剤の排泄経路から、患者さんに適したものをピックアップしたり、併用薬のチェックから、血中濃度への影響が少ない薬を選択したりと、薬剤師ならではの視点を活かし付加価値をつけるわけです。
ココは医師よりも薬剤師が得意な部分ですね。
さらに、腎排泄の薬剤なら投与量設計まで、薬物代謝酵素の影響を受ける薬なら予想される注意点を、ハイリスク薬剤なら副作用のモニタリング項目まで、合わせて情報提供を行うことも薬剤師が行う処方提案の付加価値だと思います。
もう一つ忘れてはいけないのがアドヒアランスですね。患者さんにふさわしい剤型と投与方法を考えて処方提案できるのも薬剤師が行うメリットだといえます。
薬学的な視点を加えた代替案+α(安全な薬物療法に必要な情報)を考える過程で、処方提案力も鍛えられていくはずです。薬剤師だからこそできる処方提案、意識してみてはどうでしょうか。
まとめ
今回は下記2つの要素を深掘りしながら、処方提案力を高める方法について考察しました。
- 代替案の数(引き出しの多さ)
- 最適な提案を取捨選択できる力
2つの要素がうまく噛み合って初めて、処方提案力が高まります。ココがポイント!
片方だけでは上手く機能しません
①代替薬の数だけ多くても、どれを選べばいいのか迷うし、②取捨選択力が高くても、より優れた代替案の存在に気づかず、ワンパターンの関わりしかできないからです。
複数ある選択肢の中から、目の前の患者さんにとって最良のものを選び抜くスキルが、処方提案力の本質だといえます。
処方提案は薬剤師業務の要です。さまざまな場面で活用できるからですね。
- 疑義照会→処方提案
- 服薬指導→処方提案
- ポリファーマシー→処方提案
- コンサルテーション→処方提案
- チーム医療→処方提案
薬剤師は医師と協働して薬物療法をより良いものにすることが求められています。処方提案力を高めて、積極的に介入していきましょう♪