令和6年3月26日、ジンタス錠が承認されました。
一般名はヒスチジン亜鉛水和物、低亜鉛血症の治療薬です。
同効薬ノベルジン錠と何が違うのか?
気になりますよね。
今回は、ジンタス錠とノベルジン錠の違いについてまとめたので共有します。
ジンタスとノベルジンの比較表
まずは、基本情報を比較します。
製品名 | ジンタス錠 | ノベルジン |
---|---|---|
発売 | 未定 | 2015年2月 |
一般名 | ヒスチジン亜鉛水和物 | 酢酸亜鉛水和物 |
規格 | 25mg、50mg | 25mg、50mg、顆粒5% |
作用機序 | 亜鉛補充 | 腸管細胞でのメタロチオネイン生成誘導(銅の吸収阻害)、亜鉛補充 |
適応 | 低亜鉛血症 | 低亜鉛血症、ウィルソン病(肝レンズ核変性症) |
用法用量 | 低亜鉛血症 ・成人及び体重30kg以上の小児:1回50~100mgを開始用量とし1日1回食後に経口投与。最大1日1回150mg | 低亜鉛血症 ・成人及び体重30kg以上の小児:1回25~50mgを開始用量とし1日2回経口投与。最大1日150mg。 ・体重30kg未満の小児:1回0.5~0.75mg/kgを開始用量とし1日2回経口投与。患者の状態により1回25mgの1日1回経口投与から開始することも可能。最大1日75mg(体重10kg未満の小児:1日25mg) ウィルソン病(肝レンズ核変性症) ・成人:通常1回50mgを1日3回経口投与。最大投与量は1日250mg(1回50mgを1日5回投与) ・6歳以上の小児:通常1回25mgを1日3回経口投与。 ・1歳以上6歳未満の小児:通常1回25mgを1日2回経口投与。いずれの場合も、食前1時間以上又は食後2時間以上あけて投与すること |
禁忌 | 過敏症の既往歴のある患者 | 過敏症の既往歴のある患者 |
重大な副作用 | 銅欠乏症 | 銅欠乏症、胃潰瘍 |
相互作用 | ポラプレジンク、キレート剤(ペニシラミン、トリエンチン塩酸塩)、テトラサイクリン系抗生物質、キノロン系抗菌剤、セフジニル、経口鉄剤、ビスホスホネート系製剤 、エルトロンボパグオラミン、ドルテグラビルナトリウム | ポラプレジンク、キレート剤(ペニシラミン、トリエンチン塩酸塩)、テトラサイクリン系抗生物質、キノロン系抗菌剤、セフジニル、経口鉄剤、ビスホスホネート系製剤 、エルトロンボパグオラミン、ドルテグラビルナトリウム |
薬価 | 50mg:232.9/錠 25mg:未収載 | 25mg:201.1/錠 50mg:321.6/錠 5%顆粒:460.8/g |
違いの前に、共通点を押さえておきます。大きく3つです。
ジンタス錠とノベルジン錠の共通点
- 亜鉛製剤(低亜鉛血症の治療薬)
-
ジンタスとノベルジンはどちらも亜鉛製剤です。低亜鉛血症の治療に用います。
製品名 成分 ジンタス錠 ヒスチジン亜鉛水和物 ノベルジン錠 酢酸亜鉛水和物 - 低亜鉛血症とは?
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血清亜鉛濃度が低下した状態です。亜鉛の不足により味覚異常、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎、性腺機能不全、易感染性、褥瘡、食欲低下、発育障害(小児)など多彩な症状が現れます。
- 低亜鉛血症と亜鉛欠乏症の違いは?
-
低亜鉛血症亜鉛欠乏症
亜鉛欠乏状態を血清亜鉛値から捉えたもの
亜鉛欠乏による症状と検査所見(血清亜鉛値、血清ALP値)から捉えたもの
ジンタスとノベルジンの適応は低亜鉛血症であり、明らかな臨床症状を伴わない場合でも使用できるという理解ですね。
亜鉛欠乏症の診断基準
項目下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす- 臨床症状・所見
皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡(難治性)、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良,低身長)、性腺機能不全、易感染性、味覚障害、貧血、不妊症 - 検査所見
血清アルカリホスファターゼ(ALP)低値
注:肝疾患、骨粗しょう症、慢性腎不全、糖尿病、うっ血性心不全などでは亜鉛欠乏であっても低値を示さないことがある
項目上記症状の原因となる他の疾患が否定される項目血清亜鉛値3-1 60μg/dL未満 亜鉛欠乏症 3-2 60〜80μg/dL未満 潜在性亜鉛欠乏 血清亜鉛は、早朝空腹時に測定することが望ましい
項目亜鉛を補充することにより症状が改善する- Probable
亜鉛補充前に項目1.2.3.をみたすもの:亜鉛補充の適応になる. - Definite(確定診断)
上記項目の 1.2.3 – 1.4 をすべて満たす場合を亜鉛欠乏症と診断する.
上記項目の 1.2.3 – 2,4 をすべて満たす場合を潜在性亜鉛欠乏症と診断する
- 相互作用
-
ジンタスとノベルジンはどちらも注意すべき相互作用が同じです。併用禁忌はありませんが、以下の併用注意について記載があります。
併用薬 影響 対応 ポラプレジンク ジンタスの効果 過量投与に注意 キレート剤(ペニシラミン、トリエンチン塩酸塩) ジンタスの吸収
キレート剤の吸収1時間以上の間隔を空ける テトラサイクリン系抗生物質、キノロン系抗菌剤、セフジニル、経口鉄剤、ビスホスホネート系製剤、エルトロンボパグオラミン、ドルテグラビルナトリウム ジンタスの吸収
左記薬剤の吸収間隔を空ける ジンタス錠、ノベルジン錠、電子添文 併用により亜鉛の過量投与に注意が必要です。
ポラプレジンクは亜鉛とL-カルノシンの錯体です。どちらの物質にも創傷治癒促進、抗炎症作用等があり、潰瘍の治療薬として用いられます。亜鉛製剤であり、1時間以上の間隔を空けなければなりません。
ペニシラミン(メルカプターゼ)、トリエンチン塩酸塩(メタライト)は重金属とキレートを形成する作用があり、どちらもウイルソン病に適応があります。お互いの吸収を妨げるため、併用時は投与間隔をあける必要があります。この点、製剤ごとに間隔を異なるため、電子添文を参照ください。
テトラサイクリンとキノロン系抗菌薬、セフジニル、ビスホスホネート(BP)製剤はキレート形成により、両薬剤の吸収が低下する可能性があります。BP製剤、エルトロンボパグオラミン(トロンボポエチン受容体作動薬、商品名レボレード錠)、ドルテグラビルナトリウム(HIVインテグラーゼ阻害剤、商品名デビケイ錠、ジャルカ配合錠、トリーメク配合錠、ドウベイト配合錠)も同様です。錯体形成により、互いの吸収率が減弱する可能性があります。経口鉄剤はなぜなのか?インタビューフォームによると、亜鉛は鉄の吸収阻害作用があるとのこと。いずれも、 - 副作用
-
ジンタスとノベルジンは重大な副作用に銅欠乏症が挙げられています。消化管において亜鉛は銅の吸収を妨げるからです。投与中は銅欠乏による汎血球減少、貧血や神経障害を認める可能性があります。
どちらも医薬品リスク管理計画書(RMP)で重要な特定されたリスクとし、適正使用に関する資材が作成されています。
投与中は亜鉛に加えて、定期的に血清銅濃度の測定を行う必要がある点は押さえておきたいですね
ここからが本題!
ジンタスのノベルジンの相違点について見ていきます。大きく3つです。
- 成分
- 適応
- 投与方法
ジンタスとノベルジンの成分…相違点①
ジンタス | ノベルジン |
---|---|
ヒスチジン亜鉛水和物 | 酢酸亜鉛水和物 |
どちらも、「◯◯+亜鉛」の錯体構造を有します。
ヒスチジンと酢酸の違いによって、どのような影響があるのか?
この点、ジンタスは消化器症状が少ないことが期待されます。アミノ酸であるヒスチジンと亜鉛の錯体構造が安定しており、亜鉛イオンの解離が少ないからです。消化管に対する刺激が小さく、悪心、嘔吐などの症状が起こりにくいと考えられています。
国内臨床試験によると、ジンタス群はノベルジン群に比べて、悪心、嘔吐などの消化器症状が少ない傾向が見られました。
ジンタス群 N=107 | ノベルジン群 N=109 | |||
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件数 | 患者数 | 件数 | 患者数 | |
副作用 | 31 | 22(20.6%) | 36 | 25(22.9%) |
胃腸障害 | 13 | 10(9.3%) | 19 | 13(11.9%) |
悪心 | 4 | 3(2.8%) | 8 | 7(6.4%) |
嘔吐 | 1 | 1(0.9%) | 4 | 3(2.8%) |
成分(錯体構造)の違いが、副作用プロファイルに影響を与える点は押さえておきたいです。悪心、嘔吐等が問題になるケースではジンタスの選択が望ましいと考えられます。
ジンタスとノベルジンの適応…相違点②
適応 | ジンタス | ノベルジン | |
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低亜鉛血症 | 成人及び体重30kg以上の小児 | ||
体重30kg未満の小児 | |||
ウィルソン病 (肝レンズ核変性症) |
どちらも低亜鉛血症の治療薬ですが、適応に違いがあります。
ポイントは2つです。
①ジンタスの適応は低亜鉛血症のみです。一方で、ノベルジンの適応は2つあります。もともとはウィルソン病の適応(2004年11月承認)で発売、その後に低亜鉛血症の適応(2017年3月)が追加されています。
ジンタスは血清亜鉛濃度がどのくらいで投与するのか?
亜鉛欠乏症の診療指針 2018によると、血清亜鉛濃度の基準値は80〜130μg/dLであり、それを下回る場合が適応という理解になります。臨床試験では70μg/dL未満の患者さんが対象でした。もちろん、食事等からの亜鉛補給を行っても、効果が不十分な場合という但し書きがあります。
5. 効能又は効果に関連する注意
食事等による亜鉛摂取で十分な効果が期待できない患者に使用すること。
ジンタス錠、電子添文
②ジンタスは体重30kg未満の小児には使用できません。有効性と安全性の確認ができていないからです。臨床試験は錠剤が服用可能な体重30kg以上の小児を対象としていました。一方で、ノベルジンは30kg未満の低体重の小児にも使用できます。錠剤に加えて顆粒剤があり、体重に合わせて用量設定を行うかたちです。
通常、体重30kg未満の小児では、亜鉛として、1回0.5~0.75mg/kgを開始用量とし1日2回経口投与するが、患者の状態により1回25mgの1日1回経口投与から開始することもできる。
ノベルジン錠 電子添文
ジンタスとノベルジンの投与方法…相違点③
低亜鉛血症、成人及び体重30kg以上の小児に用いる場合
ジンタス | ノベルジン | |
---|---|---|
用法 | 1日1回 | 1日2〜3回 |
開始用量 | 50〜100mg/日 | 50〜100mg/日 |
最大用量 | 150mg/日 | 150mg/日 |
ポイントは2つです。
①ジンタスは1日1回型の製剤です。ここがノベルジンに勝る部分ですね。当然、服薬アドヒアランスに優れ、特に小児や高齢者では使い勝手が良いといえます。一方で、ノベルジンは1日2〜3回型の製剤です。最大投与量150mgの場合、1日3回へ服用回数が増えます。
②ジンタスは投与前の血清亜鉛濃度によって開始用量が設定されています。理由は、臨床試験の投与方法がこうだったからです。
血清亜鉛濃度 | 開始用量 |
---|---|
50μg/dL以上 | 1日1回50mg |
50μg/dL未満 | 1日1回100mg |
一方で、ノベルジンは特に規定がありません。臨床試験では開始用量を50mgとして、重症度等によって医師の判断で100mgを選択できるかたちでした。
ジンタスは1日1回型であり、患者さんの服薬負担が軽減します。服薬アドヒアランス低下例や高用量が必要なケースでは、ノベルジンに対して優位性があります。
まとめ
今回は、低亜鉛血症の治療薬ジンタスと同効薬ノベルジンの違いについてまとめました。
同じ亜鉛製剤であるのに、意外にも違いはありましたね^_^
\ 本記事のポイント:ジンタスの特徴 /
- 成分(錯体構造の安定性が高い、悪心嘔吐等が起こりにくい可能性が示唆)
- 適応(低亜鉛血症は30kg未満の小児に適応なし、ウィルソン病に適応なし)
- 投与方法(1日1回、血清Zn濃度によって開始用量を設定)
ジンタスの登場により、使用動向はどうなるのか注目していきたいです。