今回のテーマはボルズィ錠!一般名はボルノレキサント、国内4番手のオレキシン受容体拮抗薬です。従来のベルソムラ、デエビゴ、クービビックと比べてどうなのか?まさに、ここが気になりますよね。今回は従来薬と比較しながら、ボルズィの特徴を読み解きたいと思います。
オレキシン受容体拮抗薬の一覧表
製品名 | ボルズィ錠 | クービビック錠 | デエビゴ | ベルソムラ |
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販売日 | 2024年12月 | 2020年7月 | 2016年12月 | |
一般名 | ボルノレキサント | ダリドレキサント | レンボレキサント | スボレキサント |
規格 | 2.5mg・5mg・10mg | 25mg・50mg | 2.5mg・5mg・10mg | 10mg・15mg・20mg |
適応症 | 不眠症 | 不眠症 | 不眠症 | 不眠症 |
禁忌 | ①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者②重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者 ③イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビル フマル酸を投与中の患者 | ①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者、②重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者 ③イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビル フマル酸を投与中の患者 | ①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者、②重度の肝機能障害 | ①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者、②イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、ボノプラザン・アモキシシリン・クラリスロマイシン、ラベプラゾール・アモキシシリン・クラリスロマイシン、リトナビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビルを投与中の患者 |
投与量 (成人) | 1回5mg 症状により増減 | 1回50mg 症状により減量 | 1回5mg 症状により増減 | 1回20mg |
投与量 (高齢者) | 1回15mg | |||
用量調節 | 4パターン (2.5mg・5mg・7.5mg・10mg) | 2パターン (25mg・50mg) | 4パターン (2.5mg・5mg・7.5mg・10mg) | 3パターン (10mg・15mg・20mg) |
減量基準 | 2.5mgへ減量 中程度のCYP3A阻害剤と併用 2.5mgへ減量 | 中等度肝機能障害あり25mgへ減量 中程度のCYP3A阻害剤と併用 25mgへ減量 | 中等度肝機能障害あり最大5mg 中程度・強力なCYP3A阻害剤と併用 2.5mgへ減量 | 中等度肝機能障害あり10mgへの減量を考慮 | CYP3A阻害剤と併用
食事の影響 | あり | あり | あり | あり |
代謝 | CYP3A4 | CYP3A | CYP3A | CYP3A |
排泄 | 尿中82.4% (未変化体認めず) | 尿中27.9% (未変化体0.3%未満) | 尿中29.1% (未変化体1%未満) | 尿中23% (未変化体1%未満) |
一包化 | 可能 | 条件付きで可能 | 可能 | 不可 |
取扱上の注意 | アルミピロー包装開封後は湿気を避けて保存すること | 光及び湿気を避けるため、PTPシートのまま保存し、服用直前にPTPシートから取り出すこと | ||
薬価 | 25mg:57.3円 50mg:90.8円 | 2.5mg:44.9円 5mg:71.3円 10mg:106.4円 | 10mg:69.3円 15mg:90.8円 20mg:109.9円 |
簡単に共通点を押さえておきます。
- 適応…不眠症
ボルズィは不眠症の治療に用います。 - 作用機序…オレキシン受容体拮抗薬
ボルズィは覚醒を促す神経ペプチドであるオレキシンAとBが受容体に結合するのを妨げ、脳を覚醒状態から睡眠状態へ移行させることにより、睡眠を誘発する働きがあります。 - 食事の影響あり
ボルズィは食事と同時又は食直後の服用は避ける必要があります。空腹時投与に比べ食後投与で最高血中濃度到達時間(tmax)が遅延するからです。(中央値で約1時間延長)
ここからは相違点を見ていきます。大きく8つです。
- 半減期・Tmax
- 投与方法
- 相互作用
- 肝機能障害時の投与
- 腎機能障害時の投与
- 高齢者への投与
- 車の運転に関する注意
- 一包化・粉砕の可否
ボルズィ錠の半減期・Tmax
オレキシン受容体拮抗薬:半減期とTmax
製品名 | ボルズィ錠 | クービビック錠 | デエビゴ | ベルソムラ |
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半減期 (h) | 2.13 | 6.16〜6.92 | 47.4〜50.6 14日投与 | 10.0 |
Tmax (h) | 0.50 中央値 | 1.00〜1.42 | 1.0〜1.5 中央値 | 1.5 中央値 |

ボルズィは消失半減期が短いのが特徴です。オキサアジナン環の導入により、オレキシン受容体阻害活性と脂溶性低減という特徴を併せ持ち、消失半減期(t/2)が短いという薬物動態プロファイルを得ることを目指して開発された経緯があります。速やかな排泄により翌朝の持ち越し効果の低減が期待できる点が、セールスポイントです。
ちなみに、デエビゴは半減期が約50時間と長めです。初めて知ったときは疑問を抱きました。翌朝どころか日中も眠気(薬効)が続きそうだと思ったからです。でも、単回投与後の血中濃度推移を見ると、2相性の変化を示しており、Cmaxの値が半分になる時間は概ね3〜4時間であることから、薬効自体はそこまで長くならないと考えられます。


ボルズィ錠の投与方法
オレキシン受容体拮抗薬:投与方法
製品名 | ボルズィ錠 | クービビック錠 | デエビゴ | ベルソムラ |
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規格 | 2.5mg・5mg・10mg | 25mg・50mg | 2.5mg・5mg・10mg | 10mg・15mg・20mg |
投与量 (成人) | 1回5mg 症状により増減 | 1回50mg 症状により減量 | 1回5mg 症状により増減 | 1回20mg |
投与量 (高齢者) | 設定なし | 設定なし | 設定なし | 1回15mg |
用量調節 | 4パターン 2.5mg・5mg・7.5mg・10mg | 2パターン 25mg・50mg | 4パターン 2.5mg・5mg・7.5mg・10mg | 3パターン 10mg・15mg・20mg |



ボルズィは用量調節に優れます。症状に合わせて4パターン(2.5mg・5mg・7.5mg・10mg)の投与量を選択できるからです。
例えば、
・まずは5mgから開始し、
・効果不十分なら10mg、ちょっと効き過ぎなら7.5mgへ
・良い感じなら5mgでDo
・持ち越しがあるなら2.5mgへ減量というふうに
ボルズィは増量・減量設定がないベルソムラ、増量設定がないクービビックよりも使い勝手が良い印象ですね。ここはデエビゴと同じです。
ボルズィは用量反応性があり、10mgは5mgに比べて高い有効性が示されています。
ボルズィ5mg | ボルズィ10mg | |
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主観的睡眠潜時(sSL) 26週 | −31.2分 | −38.9分 |
主観的睡眠潜時(sSL) 52週 | −31.8分 | −44.0分 |
総睡眠時間 26週 | 60.5分 | 80.3分 |
総睡眠時間 52週 | 73.8分 | 93.0分 |
中途覚醒時間 26週 | −34.3分 | −40.4分 |
中途覚醒時間 52週 | −38.8分 | −48.8分 |
ボルズィ錠の相互作用
オレキシン受容体拮抗薬:相互作用
ボルズィ | クービビック | デエビゴ | ベルソムラ | |
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代謝酵素 | CYP3A4 | CYP3A | CYP3A | CYP3A |
併用禁忌 | あり | あり | なし | あり |
併用注意 | CYP3A阻害剤 (中程度) 2.5mgに減量 | (中程度) 25mgに減量 | CYP3A阻害剤(強度) (中程度) 2.5mgに減量 | CYP3A阻害剤(中程度) 10mgに減量を考慮 | CYP3A阻害剤
CYP3A基質 | ||||
CYP3A誘導剤 | 代替薬を考慮 | 強い又は中程度のCYP3A誘導剤CYP3A誘導剤 | CYP3Aを強く誘導する薬剤 | |
p糖タンパク質関連の併用注意 | あり | あり |



ボルズィはCYP3A4の基質であり併用薬のチェックが欠かせません。併用禁忌があり(クービビック、ベルソムラと同じ)、減量を要する併用注意も設定(オレキシン受容体拮抗薬に共通)されています。
ボルズィ錠、肝機能障害患者への投与方法
オレキシン受容体拮抗薬:肝機能障害患者への投与
製品名 | ボルズィ錠 | クービビック錠 | デエビゴ | ベルソムラ |
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重度 Child-Pugh分類C | 禁忌 | 禁忌 | 禁忌 | 濃度 | 注意
中等度 | 濃度 | 減量(1回2.5mg)濃度 | 減量(1回25mg)濃度 | 減量(1回5mgまで)|
軽度 | 濃度 | 注意濃度 | 注意||
軽度/健康成人 Cmax,AUC0-∞ | Cmax1.07倍 [0.88, 1.30] AUC0-∞1.37倍 [1.06, 1.77] | Cmax0.92倍 (0.72~1.18) AUC0-∞0.94倍 (0.57~1.54) | Cmax1.58倍 (1.18~2.11) AUC0-∞1.25倍 (0.88~1.78) | |
中等度/健康成人 Cmax,AUC0-∞ | Cmax1.42倍 [1.05, 1.93] AUC0-∞3.06倍 [1.89, 4.96] | Cmax0.94倍 (0.74~1.20) AUC0-∞1.60倍 (0.93~2.73) | Cmax1.22倍 (0.915〜1.63) AUC0-∞1.54倍 (1.06~2.22) | Cmax0.94倍 AUC1.03倍 |
半減期 | 健康成人で1.90~2.33時間に対し、軽度及び中等度では3.07時間及び4.92時間であった | 軽度及び中等度の肝機能障害患者でそれぞれ0.97(0.62~1.53)及び2.09(0.32~3.30)であった | 健康成人、軽度及び中等度の肝障害患者ではそれぞれ69.0時間、78.7時間及び108時間であった |



ボルズィは肝機能のチェックが欠かせません。重度は禁忌、中等度では減量、軽度でも血中濃度上昇による副作用のリスクに注意が必要だからです。デエビゴとの違いは減量基準がMAX量の1/4量(デエビゴは1/2量)である点ですね。
ボルズィ錠、腎機能障害患者への投与方法
オレキシン受容体拮抗薬:腎機能障害患者への投与
製品名 | ボルズィ錠 | クービビック錠 | デエビゴ | ベルソムラ |
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重度 | 注意 濃度 | |||
中等度 軽度 | ||||
排泄 | 尿中:82.4% 糞中:21.8% 尿及び糞中からは代謝物のみ検出 | 尿中:27.9% 糞中:56.6% 尿中及び糞便中から回収された未変化体は微量 | 尿中:29.1% 糞中:57.4% 投与量の 1%未満が未変化体として尿中に排泄 | 尿中:約23% 糞中:約66% 未変化体は投与量の1%未満 |
参考 | 健康成人と比較して重度の腎障害患者では、Cmaxは5%上昇し、AUC(0-inf)は50%増加した |



ボルズィは腎機能障害患者さんにも通常量投与できます。他のオレキシン受容体拮抗薬も同様です。尿中排泄率の割合が大きいですが、未変化体の検出はなく、腎の寄与は少ないとされています。肝臓で代謝されたのちに、大部分が尿中に排泄されるという理解ですね。
ボルズィ錠、高齢者への投与方法
オレキシン受容体拮抗薬:高齢者への投与
製品名 | ボルズィ錠 | クービビック錠 | デエビゴ | ベルソムラ |
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高齢者 | 記載なし | 患者の状態を観察しながら投与すること | 患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。高齢者での薬物動態試験において、非高齢者と比較して血漿中濃度が高くなる傾向が認められている。 | 患者の状態を観察しながら投与すること。高齢者での薬物動態試験において、非高齢者と比較して血漿中濃度が高くなる傾向が認められている。 |
高齢者 の投与量 | 指定なし | 指定なし | 指定なし | 15mg |
Cmax 高齢者/非高齢者 | 0.97倍 高齢345ng/mL 非高齢者356ng/mL | 0.88倍 高齢者1034.2ng/mL 非高齢者1262.2ng/mL | 1.24倍 高齢者1.336μM 非高齢者1.080μM | |
AUC 高齢者/非高齢者 | 0.98倍 高齢者1750ng・h/mL 非高齢者1780ng・h/mL | 1.03倍 高齢者6860.3ng・h/mL 非高齢者6804.4ng・h/mL | 1.12倍 | 1.64倍 高齢者17.88μM 非高齢者10.64μM |
半減期 高齢者/非高齢者 | 1.07倍 高齢者1.95h 非高齢者1.83h | 1.38倍 高齢者8.87h 非高齢者6.60h ※50mg4日間投与 | 1.21倍 | 1.96倍 高齢者18.4時間 非高齢者9.4時間 |



電子添文の「特定の背景を有する患者に関する注意」において、ボルズィは高齢者の項目がありません。高齢者と非高齢者の比較でCmaxやAUCの増加傾向が見られなかったためです。薬剤の特性によるものなのか、ハッキリしませんが、ここは他のオレキシン受容体拮抗薬と異なります。
ボルズィ錠、車の運転に関する注意事項
オレキシン受容体拮抗薬:車の運転に関する注意事項
製品名 | ボルズィ錠 | クービビック錠 | デエビゴ | ベルソムラ |
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指導内容 | 条件付き禁止 | 禁止 | 禁止 | 禁止 |
重要な基本的注意から抜粋 | 患者の状態を十分に把握した上で、自動車の運転等の危険を伴う機械を操作することの適否を慎重に判断し、危険を伴う作業等を行う場合には十分な注意が必要であることを適切に患者に指導すること。また、眠気等があらわれた場合には、自動車の運転等の危険を伴う機械の操作に従事しないよう、患者に指導すること | 本剤の影響が服用の翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること | 本剤の影響が服用の翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること | 本剤の影響が服用の翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること |
自動車運転技能への影響 | 認めず | あり | リスク高い | あり |
ボルズィは自転車運転技能への影響を調査した臨床試験において、単回又は反復投与により翌朝(投与後9時間後)の自動車運転能力に対して臨床的に意義のある影響は示されませんでした。陽性対照はゾピクロン7.5mgを投与しています。





ボルズィは条件付きで自動車の運転が可能です。他のオレキシン受容体拮抗薬との相違点ですね。半減期が短い影響ですかね。
ボルズィ錠、一包化・粉砕の可否
オレキシン受容体拮抗薬:一包化・粉砕の可否
ボルズィ | クービビック | デエビゴ | ベルソムラ | |
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一包化の可否 | 条件付きで可能 | |||
粉砕の可否 | 条件付きで可能? | |||
取扱い上の注意 | 記載なし | アルミピロー包装開封後は湿気を避けて保存すること | 記載なし | 光及び湿気を避けるため、PTPシートのまま保存し、服用直前にPTPシートから取り出すこと |
無包装における製剤の安定性 | 25℃/75%RH 3ヶ月 規格内(水分が増加、硬度が低下) | 25±2℃/75±5%RH 3ヶ月 規格内 | 40℃/75%RH 12ヶ月 規格内 | 30℃/75%RH 1日後より外観の変化認め、保存期間の増加とともに溶出速度の低下認める |



ボルズィは一包化できる(取り扱い上の注意に記載がなく、無包装のデータもあり)と考えられます。デエビゴ同様に使い勝手は良さそうですね。
まとめ
今回はボルズィの特徴について他のオレキシン受容体拮抗薬と比較しながらポイントをまとめました。強みは開発経緯にあるように半減期の短さ、それに伴う持ち越し効果の低減が期待できる点だと思います。また、調節性に優れ(デエビゴと同じ4段階)使い勝手も良いですね。一方でCYPに関する併用禁忌(クービビック、ベルソムラと同じ)があったり、肝機能障害患者で注意が必要(重度は禁忌、中等度は減量:クービック、デエビゴと共通)な点は留意しておきたいですね。ボルズィの登場により、オレキシン受容体拮抗薬の使用動向はどうなるのか、注目していきたいと思います。
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