骨粗鬆症治療薬テリボンに新剤型が追加!
テリボン皮下注28.2μgオートインジェクターです。
従来の週1回製剤テリボン皮下注用56.5μg
と比べて何が優れているのか?
下記5つのポイントを解説します。
- 成分
- 作用機序
- 有効性
- 臨床の位置付け
- メリット
順番に見ていきましょう。
テリボンオートインジェクターの成分
一般名はテリパラチド
ヒト副甲状腺ホルモン(parathyroidhormone:PTH)
の活性部分である1~34番目に相当するポリペプチドです。
テリパラチド製剤は3種類!
製品名 | フォルテオ皮下注 | テリボン皮下注 | テリボン皮下注 |
---|---|---|---|
発売 | 2010年10月 | 2011年11月 | 2019年12月 |
一般名 | テリパラチド | テリパラチド酢酸塩 | テリパラチド酢酸塩 |
規格 | 600μg | 58.5μg | 28.2μg |
剤型 | キット | バイアル | オートインジェクター |
適応 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 | 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 |
投与方法 | 1日1回 | 週1回 | 週2回 |
自己注射 |
大きく投与方法と自己注射の可否が異なります。フォルテオは初のテリパラチド製剤。daily投与で自己注射できます。続いてweekly投与のテリボン56.5μg、これは医療機関で施行するタイプのもの。テリボンオートインジェクターは週2回投与で自己注射ができる製剤です。2019年12月から使えるようになりました。
PTHは骨吸収を促す作用がある!
骨吸収というのは、骨からカルシウムが溶け出すこと。血中のCaイオンが低値になると、PTHが分泌されます。骨吸収を促進して、血中Ca濃度を上昇させるのが役割の1つです。
透析患者さんによく見られる二次性副甲状腺機能亢進症では、PTHの過剰な働きにより、高Ca血症や骨粗鬆症が引き起こされます。
テリパラチドもPTH製剤!ということは……。
『骨からCaが遊離して骨がもろくなる???』
骨粗鬆症治療薬なのに、どうして?疑問が生じるところですね。
でも、大丈夫です。
間欠的に投与すると骨形成が促進します。
間欠投与がポイントです。投与後、テリパラチドが血中に存在する間は破骨細胞が活性化して骨吸収の反応が起こります。血中から消失すると今度は骨芽細胞の数が増えて骨形成が促進されるというメカニズムです。
テリボンオートインジェクターの作用機序
テリパラチドは骨形成を促進する注射薬です。
作用機序は以下のとおり
ここで、骨粗鬆症治療薬の種類を確認しておきますね。
骨粗鬆症治療薬と作用機序について
Ca補給 | 骨吸収 | 骨形成 | 骨吸収 | 骨形成
---|---|---|---|
ビタミンD3製剤 カルシウム製剤 | ビスホスホネート製剤 カルシトニン SERM 抗RANKL抗体製剤 | テリパラチド製剤 アバロパラチド製剤 | 抗スクレロスチン製剤 |
骨形成促進剤は貴重!
テリボン、フォルテオは数多くある骨粗鬆症治療薬のなかで唯一の骨形成促進剤ですね。正確には少し前までで、最近発売された抗スクレロスチン抗体(イベニティ)はダブルエフェクトで、骨形成を促す作用も併せ持ちます。
2023年1月30日、第2のPTH製剤であるオスタバロ皮下注(電動式注入器)が発売されました。詳しくは別記事にまとめていますので、合わせてご覧頂けたら幸いです。
骨吸収抑制剤がほとんど!
ビスホスホネート製剤(BP)は一番使われている薬ですね。1日1回、週1回投与、4週に1回投与の内服、注射薬等ラインナップが豊富。なんと1年に1回のリクラスト点滴静注も発売されました。
デノスマブは破骨細胞の分化や活性化に関わるサイトカインRANKLをターゲットにしたモノクローナル抗体。骨吸収抑制作用を示します。カルシトニンも骨吸収を抑制、同時に下行性疼痛抑制による鎮痛効果を示すのが特徴です。
SERMも骨吸収抑制剤。選択的エストロゲン受容体モジュレーターですね。閉経後の骨粗鬆症の患者さんが対象です。
テリボンオートインジェクターの有効性
続いて、テリボンの有効性について。
2つの効果が期待できます。
- 骨密度を増加させる
- 新規の椎体骨折を抑制できる
骨密度増加作用
テリボンの週2回投与は、週1回投与に比べて、骨密度の平均変化量が非劣性であることが示されています。
国内第3相試験(TWICE試験)
- 対象…65歳以上、骨折の危険性の高い原発性骨粗鬆症患者553例
- 介入…テリボン28.2μgを週2回投与 (48週間)
- 比較…テリボン56.5μgを週1回投与
結果は以下のとおり
腰椎(L2-L4)骨密度の平均変化率…7.3% vs 5.9%(最終時)
→週2と週1では骨密度の変化量は同等です。成分が同じで総投与量も変わらないので当然の結果ですね。
テリボンを投与すると骨密度が増加する!作用機序からイメージしやすいですね。
新規の椎体骨折を抑制できる!
テリボン56.5μgはプラセボに比べて、投与72週で新規の椎体骨折発現率を有意に低下させることが示されています。
国内第3相試験(TOWER試験)
- 対象…65歳以上、骨折の危険性の高い原発性骨粗鬆症患者578例
- 介入…テリボン56.5μgを週1回投与 (72週間)
- 比較…プラセボ
結果は以下のとおり
新規の椎体骨折発生率
- 24週時点…2.6% vs 5.3%
- 48週時点…3.1% vs 10.4%
- 72週時点…3.1% vs 14.5%
→上記は週1テリボンの結果ですが、TWICE試験で骨密度の変化率が同等なので週2テリボン(オートインジェクター)も同様の効果が期待できると考えられます
新規の椎体骨折リスクを低下させる!テリボン投与で患者さんが得られるメリットですね。
ここからは、臨床における位置づけをチェックします。
テリボンオートインジェクターの位置付け
骨粗鬆症治療における第一選択ではない!
テリパラチド製剤全般にいえることですね。
注射薬という点で患者さんへの侵襲が大きくコストも高いからです。
まずはBP製剤やSERMを使用するのが基本です。テリパラチドと同様に新規の椎体骨折を低下させる効果が確認されています。(アレンドロン酸とリセドロン酸は大腿骨近位部骨折発生率も低下)
効果不十分の時や骨折ハイリスク例に使用する!
テリパラチド製剤を使用する場面は下記です。
- BP、SERM投与中に骨折あり
- 高齢で複数の椎体骨折あり
- 高齢で大腿骨近位部骨折あり
- 骨密度低下が著しい例
誰でもテリボンではなくて、骨折リスクを評価して危険性が高い場合に限定して使用するのが基本ですね。添付文書には以下の記載があります。
(効能・効果)
骨折の危険性の高い骨粗鬆症
(効能・効果に関連する注意)
本剤の適用にあたっては、低骨密度、既存骨折、加齢、大腿骨頸部骨折の家族歴等の骨折の危険因子を有する患者を対象とすること。
テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター、添付文書
テリボンは投与期間に制限がある!
投与期間は24か月までです。
もともとは18ヶ月まででした。ラットがん原性試験において、骨肉腫を含む骨腫瘍性病変を認め、ヒトでも起こる可能性が否定できなかったためです。
その後、延長試験が組まれ有効性と安全性に問題がないことが確認されたので、現行の24ヶ月までとなった経緯があります。
テリボンオートインジェクターのメリット
ここからはテリボンオートインジェクターのメリットについて。
大きく3つあります。
- 通院回数が減らせる
- 操作が簡単、安全に投与できる
- 副作用を軽減できる
1)通院回数が減る
週1のテリボンは在宅治療のハードルが高め!
投与のために毎週来院です。医療機関で注射する製剤だからですね。どうしても通院回数が増えるので患者さんの負担になります。
そのせいもあって、入院中だけテリボンを使用する患者さん、意外と多いです。フォルテオの導入がむずかしいのでテリボンを選択したけど、退院後の通院を理由に仕方なく中断せざるを得ないケースですね……。
有効性を考えると長期間使いたいけど、在宅で継続するのが困難。ここが週1テリボンの限界を感じる点でした。
もちろん、往診等で対応することも可能ですが、在宅へ引き継ぐハードルの高さが週1テリボンのデメリットです。
オートインジェクターは在宅で使用しやすい!
在宅導入への選択肢が増えました!1つめのメリットです。
週2回投与なので、フォルテオの導入よりもハードルが低く、自分で注射できない場合でも、ご家族のサポートが得られるケースもあると思います。
週1テリボンだと、毎週通院するのが困難という理由で諦めていた患者さんにとって、在宅導入への選択肢が増えるのがメリット!ですね。
2)操作が簡単、安全に投与できる
オートインジェクターは使いやすさと安全操作が売りのデバイスです。これが2つめのメリット!フォルテオに比べて以下の点で優れています。
- 投与回数が少ない
毎日の注射手技から解放 - 操作が2ステップと簡単
キャップを外して②注射部位に押し当てるだけ - 1回使いきりのディスポ製剤
針の付け替え不要 - 安全設計
注射針が針カバーで覆われている、注入後に針が突出しない
特に高齢者に導入しやすいです。週に2回投与で操作が簡単!しかも安全に投与できるなら、フォルテオ開始を断念したケースでも導入できる余地が見えてきます。
週2テリボンの登場で自己注射の選択肢が増えました。使いやすさと安全操作を考えると、オートインジェクターを選択するケースが増えそうですね。
3)副作用を軽減できる
TWICE試験、副作用の比較は以下のとおりです。
週1回投与と週2回投与:副作用比較
テリボン28.2μg | テリボン56.5μg | |
---|---|---|
すべて | 39.7% | 56.2% |
悪心 | 20.2% | 31.9% |
嘔吐 | 9.0% | 13.0% |
倦怠感 | 9.4% | 12.0% |
頭痛 | 5.8% | 10.5% |
血圧低下 | 0.7% | 2.2% |
副作用の頻度はオートインジェクターの方が全体的に低めです。とくに悪心、嘔吐が少ないのがいい点ですね。
実際に週1テリボン56.5μgではかなりの頻度で起こ印象です。食欲不振を訴えてご飯が食べられないこともしばしば……。一時的ではあるものの、患者さんの負担は大きいのではないでしょうか。
オートインジェクターは週1製剤に比べて安全性が向上しています。3つ目のメリットです。
そもそもなぜ、副作用が起こるのか?
PTHに平滑筋の弛緩作用があるからです。副作用の機序は以下の通り。
- 消化管の平滑筋弛緩→胃の運動低下(悪心、嘔吐、食欲不振等)
- 血管の平滑筋弛緩…血圧低下、頭痛など
テリボン投与後に起こりやすいです。
なぜ、オートインジェクターは副作用が少ないのか?
1回の投与量が半分になったのが大きな理由です。投与後における血中濃度の上昇が抑えられて、血圧や消化器症状への影響が小さくなったと考えられています。
56.5μg×週1投与→28.2μg×週2投与にすることで、副作用を軽減できたというわけですね。
といっても、副作用のモニタリングと予防は必要!
投与に際して、下記の注意点を患者さんに指導する必要があります。
(重要な基本的注意)
• 投与後30分程度はできる限り安静にすること。
テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター、添付文書
• 投与後に血圧低下、めまい、立ちくらみ、動悸、気分不良、悪心、顔面蒼白、冷汗等が生じた場合には、症状がおさまるまで座るか横になること。
オートインジェクターは副作用が起こりにくいといっても、念のため週1テリボンと同様の予防対策をとった方がよいと考えられます。
一般的な対策は下記です(メーカーによると)
- 投与前にコップ一杯程度の水分を摂取する
- 注射部位は腹部を選択する
どちらも血中濃度の急上昇を防ぐのがねらい。脱水状態だと血中の薬剤が濃縮されてしまうし、皮下脂肪が少ない上腕部や大腿部では筋肉内投与のリスクがあるからです。
あとは、症状発現時に制吐剤の予防服用を考慮するとかの対応ですね。副作用のリスクが軽減したとはいえ、対策はとった方が良いと思います。
まとめ
今回は、週2のテリボン皮下注28.2μgオートインジェクターについて、週1のテリボン56.5μg製剤と比較しながら解説しました。
本記事のポイント
- 成分…テリパラチド(副甲状腺ホルモンPTHの活性部分)
- 作用機序…骨形成を促進する骨粗鬆症治療薬
- 有効性…骨密度の増加と新規椎体骨折を予防できる点!
- 臨床の位置付け…骨折ハイリスク患者、BPやSERMの効果不十分時などに使用する
- メリット…①通院回数が減る、②操作が簡単で安全設計、③消化器症状が少ない
テリパラチド製剤を選択する上で参考にしていただけたらうれしいです^ ^