対物業務から対人業務へシフト
という、言葉を以前にも増して聞くようになりました。
私たち薬剤師は薬(物)中心の業務から、患者さん(人)中心の業務への変化が求められている証拠ですね。診療・調剤報酬も対人業務が手厚くなっています。
それなのに、対物業務から脱却できていない人がまだまだ多い印象!「見かけは対人業務、でも中身は対物業務」みたいなやつです。
つまり、思考自体が対物のまま?!
自分も含めてですけどね(^_^;)。このままでは、淘汰される日がやってくるかも知れません…。
なんとかしなくては!
そこで、今回はこれからの時代で生き残るべく、対人思考型(中身も対人業務)の薬剤師になるための方法について考察したので共有したいと思います。日常業務にお役立て頂けたら幸いです。
それでは見ていきましょう。
対物業務と対人業務の違い
まずは、対物業務と対人業務の違いから!両者を比較すると下記です。
対物業務とは物(薬)が中心の仕事です。
大きく調剤と医薬品の管理業務ですね。
一方で、対人業務は患者さん(人)が中心の業務になります。
薬の説明だけでなく、処方提案や副作用・服薬状況のフィードバック等、患者さんから得られる情報をもとに介入するかたちです。あと、ポリファーマシー対策や在宅訪問等も対人業務の範疇ですね。
要するに何が起点かということ
処方箋や薬なら対物業務、患者情報なら対人業務という感じ。
対物業務と対人業務では、薬剤師に必要な能力も違う
調剤で重視されるのは、正確性とスピードです。処方箋を受け取ってから、より正確に、より素早く調剤を行うことが求められます。処方箋を効率的に捌く(調剤マシーンのような)薬剤師が重宝されるわけです。
一方で、対人業務では専門性とコミュニケーションスキルが欠かせません。薬物療法の問題点をできるだけ多く見つけ解決できる力に加えて、服薬指導や薬の相談を通して、情報をわかりやすく伝え、患者さんの訴えや思いを読み取る力が求められます。要するに、患者さんから頼りにされる(かかりつけ)薬剤師ですね。
対人に見せかけた対物業務とは?
現場の薬剤師は対物業務から対人業務へのシフトを進めています。社会のニーズに応えるべく、仕事のあり方を変えようと頑張っているわけです。
いわゆる【対人業務に見せかけた対物業務】ですね。いくつか例を見てみましょう。
丁寧な服薬指導
たとえば、処方薬10種の説明(薬効や飲み方、副作用など)を患者さんに一つずつ丁寧に行い、薬を手渡したとします。これは対人業務ですね。
でもやり方次第です
もし、薬の説明書に書いてある内容をただ読んでいるだけならどうでしょう。
対物だと言われても反論しようがありません。患者さんのことを何も考えずにできるからです。ハッキリ言って説明内容を録音したテープでも代用できます。
持参薬の服薬提案
病院薬剤師は入院患者さんの持参薬を確認して、主治医に入院中の服薬提案を行います。これも対人業務の範疇(処方提案の一種)ですね。
でも、やり方次第です
持参薬(現物)やお薬手帳をもとに報告書を作成して、医師に指示を確認する(持参薬Doの指示をもらう)だけならどうでしょう。
対物だと言われても仕方がありません。患者さんのことを考えないで、薬の情報だけを見て指示を確認してるだけだから。こんなの薬剤師でなくても誰でもできます。
残薬の解消
しっかりと対人業務に位置付けられています。
こちらもやり方次第です
患者さんの自宅に余った薬の数をカウント、主治医に報告し処方日数を減らしました。
これだけなら、間違いなく対物業務です。しばらくしたら、また残薬が溜まって、同じこと(残薬整理)を繰り返すのがおちだから。
なぜ、残薬が発生するのか?患者さん側の原因を把握、解決できておりません。こんなの対人業務とはいえないですよね。
上記3例の共通点は何か?
「薬だけを見ている!患者さんが不在の状態!」
対人業務に見せかけた対物業務ですね。
このように、対人業務と言いながらも実は頭の中に患者さんが不在!というのはよくあるのではないでしょうか?
対人思考型の薬剤師になるための方法とは?
どうすれば対人業務を対人業務としてできるのか?
ズバリ、患者さんを見ること。
より具体的にいうと個別対応を意識することだと思います。
目の前の患者さんごとに、介入方法を変える努力ですね。
そもそも、対人業務は個々で対応が変わります。患者背景が全く同じ人はいないからです。年齢や性別、基礎疾患、併用薬、生理機能、理解力等はそれぞれですよね。だから、アプローチは患者さんごとに違って当然だし、むしろ変えるべきなのです。
一方で、対物思考は一律対応になる傾向があります。
患者さんが不在なので、対応自体が変える必要がないからです。◯◯という薬について、いつも同じ説明、同じ強度で対応している人は対物思考の可能性が高いといえます。
抗血小板薬の副作用説明:対物思考と対人思考を比べてみましょう
対物思考の説明
一律対応(誰にでも同じ説明)です
- 出血時の対応
- 怪我の予防
くらいは説明しますかね。
一方で、対人思考の人は個別対応です
患者さんごとに説明方法を変えます。
- 併用薬…抗凝固薬、NSAIDs、ステロイド→出血リスク↑
- 年齢…高齢者(75歳以上)→出血リスク↑
- 基礎疾患…CKD、透析患者さん等→ 出血リスク↑
参考)日本版高出血リスク(HBR)評価基準、冠動脈疾患患者における抗血栓療法JCS2020
…など。ほかにも沢山あります。あと、杖をついてる人やふらつきのある人も転倒による出血のリスクが高いと考えられます。
- 出血リスクが高い人…【より丁寧な説明】+【服薬後のフォロー】を強化
- 併用注意薬がある人…【疑義照会】や【処方提案】も考慮
- 転倒リスクが高い人…【より丁寧な説明】に転倒予防を加える、ふらつきの原因薬がないか【処方内容のチェック】
このように、対物思考と対人思考では説明内容や介入方法が大きく異なります。対人業務を対人業務として行うためには個別対応を意識することが大切ですね。
日常業務で個別対応力を鍛えよう!
「患者さん見て、個別対応を行うこと」これが、対人思考型の薬剤師になるための方法です。
ですが、個別対応は簡単ではありません。
意識することに加えて、ある程度の知識と経験が必要だからです。
最近、私が始めたやり方です。以下の3つのステップからなります。
まずは対物思考!
薬剤ごとに、必要な患者情報を確認します
- 降圧剤やβブロッカー、抗不整脈薬など…バイタルチェック(BP、HR等)
- 腎機能や肝機能に注意が必要な薬…検査値(CRE、eGFR、AST、ALTなど)
- CYPやP糖蛋白の影響を受ける薬剤…併用薬(服薬歴)の確認
上記はほんの一部です。ほかにもいっぱいあります。
次に対人思考です!
- (STEP-1をもとに)検査値、バイタルサイン、併用薬等をチェック
- アドヒアランス、嚥下機能も確認(薬の種類に関係なく)
最後に、対人思考で対人業務を!
- 患者さんの理解度に合わせた服薬説明
- 患者さんに最適な処方提案、疑義照会
- 患者さんごとに服薬後のフォロー項目、期間を決める
特にSTEP-1とSTEP-2が大事!
ここで個別対応力が鍛えられます。ゴールは薬を見た瞬間に、「患者さんの◯◯を確認しなきゃ」と瞬時に判断できること。これができれば、対人思考型の薬剤師だと名乗れます笑
まとめ
今回は対物業務から対人業務へのシフトが叫ばれる中で、対人思考型の薬剤師になるための方法について考察しました。
ポイントはなんといっても
「個別対応を意識すること」だと思います。
仮に、全く同じ処方箋を持ってこられた二人の患者さんがおられても、説明内容や服薬後フォローの仕方は同じではありません。介入ポイント、方法はそれぞれだからです。
なので、誰にでも同じ服薬指導、服薬後のフォローを行っている人は注意ですね。対物思考型の仕事スタイルにどっぷり浸かっている可能性があります。
もちろん、対物思考も大切です
ここは誤解がないように。日常業務に欠かせないし、対人業務を行う上での準備に欠かせないからです。でも、対物思考に偏ったままだと、もったいないと思います。薬剤師の職能を広げる、もっと患者さんに寄り添える機会を自ら放棄しているようなものだから。
結局のところは、対人思考を意識しながらも、【対物思考⇆対人思考】のように、状況に合わせて上手く切り替えるのが良いと思います♪