サムタス点滴静注とサムスカ錠【8つの相違点】

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今回のテーマはサムタス点滴静注!

サムスカ錠の注射バージョンですね。

名前の由来は

サムスカ錠に注射剤を足す(タス)→サムタス点滴静注

なるほど…^_^

意外なことに、

「サムタス」と「サムスカ」の違いは剤型だけではありません。
いくつかの相違点があります。
そして、ここが重要だと感じた部分です!

サムタス点滴静注の特徴は何か?サムスカ錠との違いに注目しながら解説します。

目次

サムタスとサムスカの基本情報

まずは基本情報の比較から。

商品名サムタス点滴静注サムスカ錠
発売2022年5月2019年11月
一般名トルバプタンリン酸エステルナトリウムトルバプタン
剤型注射OD錠・顆粒
規格8mg・16mg7.5mg・15mg・30mg・顆粒1%
適応心不全における体液貯留(ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分)①心不全、肝硬変における体液貯留(ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分)
②抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)における低ナトリウム血症の改善
③腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制

肝硬変は7.5mgのみ
用法用量心不全16mg×1①心不全15mg×1、肝硬変7.5mg×1
②開始7.5mg(必要に応じて漸増)→最高用量60mg
③開始60mg(朝45mg、夕方15mg)→90mg(朝60mg、夕方30mg)→120mg(朝90mg、夕方30mg)
減量基準・血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満、急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者、高齢者、血清ナトリウム濃度が正常域内で高値の患者(半量から開始が望ましい

・CYP3A4阻害剤とやむを得ず併用(減量、低用量からの開始を考慮
経口水分摂取が困難な患者に投与する場合減量
・血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満、急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者、高齢者、血清ナトリウム濃度が正常域内で高値の患者(半量から開始が望ましい
上記は心不全に用いる場合、肝硬変とSIADHは別に記載あり

・CYP3A4阻害剤とやむを得ず併用(減量、低用量からの開始を考慮
ADPKDは別に記載あり
禁忌・過敏症の既往歴のある患者
・無尿の患者
・高ナトリウム血症の患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある女性
・過敏症の既往歴のある患者
・無尿の患者
・高ナトリウム血症の患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある女性
口渇を感じない又は水分摂取が困難な患者
適切な水分補給が困難な肝性脳症の患者

上記は心不全と肝硬変
モニタリング・血清Na(時間指定あり)
・血清K(時間指定あり
・肝機能(時間指定あり)

経口水分摂取が困難な患者に投与する場合はより厳格な管理が必要
・血清Na(時間指定あり)
・血清K(時間指定なし
・肝機能(時間指定あり)
サムタス点滴静注、サムスカOD錠 電子添文より作成

重要だと思う箇所には、マーカーを引きました。

押さえておきたいポイントは全部で8個です。

  1. 成分
  2. 血中濃度プロファイル
  3. 適応
  4. 有効性
  5. 臨床の位置付け
  6. 禁忌
  7. 減量基準
  8. モニタリング項目

順番に見ていきましょう。

サムタスとサムスカの成分

サムタス…トルバプタンリン酸エステルNa
・サムスカ…トルバプタン

サムタスは薬効成分であるトルバプタンの水酸基をリン酸エステル化し、水溶性を高めています。これは静脈内投与を可能にするための工夫です。投与後は、ホスファターゼにより速やかにトルバプタンへ代謝され薬効を発揮します。

サムタス点滴静注用 インタビューフォーム

トルバプタンの作用は上図のとおりです。腎臓の集合管にあるバソプレシン-2受容体に結合し、水の再吸収に関わるアクアポリン-2の発現を抑制します。水分のみを排泄する水利尿薬です。

両薬剤は成分が異なります。サムタスはトルバプタンリン酸エステルNaで、投与後に活性されるプロドラッグです。

サムタスとサムスカの血中濃度プロファイル

サムタス点滴静注の方が速く効く(即効性)

直接静脈内に投与できるサムタスの方が、サムスカよりも血中濃度の立ち上がりが早くなります。ここはメーカーが推すセールスポイントの1つです。

薬物動態:サムタス点滴静注とサムスカ錠
トルバプタン16mgトルバプタン15mg
投与経路静脈内投与経口投与
最高血漿中濃度
(Cmax)
282 ng/mL325 ng/mL
最高血漿中濃度到達時間
(Tmax)
1.02h4.07h
消失半減期
(t1/2)
7.4 時間7.4 時間
サムタス点滴静注、サムスカOD錠 インタビューフォームより

心性浮腫患者における本剤反復静脈内投与(1時間かけて投与)時及びトルバプタン反復経口投与時の1日目の薬物動態パラメータ

両薬剤は血中濃度プロファイルに違いがあります。サムタスはサムスカに比べ即効性が期待できる注射製剤です!

サムタスとサムスカの適応

・サムタス点滴静注の適応心不全のみ

現時点で適応は限定されています。心不全における体液貯留にしか使えません。

サムタス
サムスカ
  1. 心不全における体液貯留(ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分)
  1. 心不全における体液貯留(ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分)
  2. 肝硬変における体液貯留(ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分)
  3. 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)における低ナトリウム血症の改善
  4. 腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)の進行抑制

一方で、サムスカは心不全、肝硬変、SIADH、ADPKDに適応があります。承認の変遷は以下のとおりです。

サムスカ:適応の変遷
STEP
2010年10月

ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留

STEP
2013年9月

ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における体液貯留

STEP
2014年3月

腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制

STEP
2020年6月

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)における低ナトリウム血症の改善

現時点では適応に違いがあります。サムタスは心不全のみです。今後適応が拡大するのか注目ですね。

サムタスとサムスカの有効性

サムタス点滴静注16mgサムスカ錠15mgが同等

心性浮腫対象の国内臨床試験において、「サムタス16mgの5日間投与」は「サムスカ15mgの5日間」に比べて、非劣性が示されています。

国内第3相臨床試験

  • 対象…既存の利尿薬を投与しても過剰な体液貯留があるうっ血性心不全患者294例
    ※フロセミド40 mg/日相当量以上のループ利尿薬
    ループ利尿薬+サイアザイド系利尿薬、ループ利尿薬+抗アルドステロン薬又はカリウム保持利尿薬
  • 方法…既存の利尿薬+サムタス16mgを静脈内投与(5日間)
  • 比較…既存の利尿薬+サムスカ15mgを経口投与(5日間)

結果は以下のとおり

最終投与時の体重のベースラインからの変化量

サムタス点滴静注 電子添文

体重のベースラインからの変化量

サムタス点滴静注 電子添文

臨床試験の結果、薬物動態のプロファイルから、サムタス16mgの力価はサムスカ15mgに相当します。切り替え時の用量換算に使える知識なので覚えておきましょう。

本剤16 mg投与時のトルバプタン曝露量は、トルバプタン経口剤15 mgに相当し、本剤8 mg投与時 のトルバプタン曝露量は、トルバプタン経口剤7.5 mgに相当すると考えられます。

サムタス点滴静注用を処方いただく際に

ここで、例外があります!

基本的には、サムタス16mg=サムスカ15mgをもとに用量換算を行いますが、水分摂取が困難な方に、サムスカ15mgからサムタスに切り替える場合、開始用量は8mgです。高ナトリウム血症のリスクに配慮して半量から始め、忍容性を見ながら増量します。

経口水分摂取が困難な患者に投与する場合は、半量(8mg)から開始し、効果不十分な場合には翌日以降に16mgに増量できる。ただし、本剤投与後24時間以内に血清ナトリウム濃度が10mEq/Lを超えて上昇した翌日には増量しないこと。

サムタス点滴静注 電子添文

サムタスとサムスカの禁忌

・サムタス点滴静注は水分摂取が困難な患者にも投与可

サムスカ錠のように「口渇を感じない又は水分摂取が困難な患者」「適切な水分補給が困難な肝性脳症の患者」が禁忌の設定から外されているからです。

サムタス
サムスカ

心不全の場合

  • 過敏症の既往歴のある患者
  • 無尿の患者
  • 高ナトリウム血症の患者
  • 妊婦又は妊娠している可能性のある女性

心不全、肝硬変の場合

  • 過敏症の既往歴のある患者
  • 無尿の患者
  • 高ナトリウム血症の患者
  • 妊婦又は妊娠している可能性のある女性
  • 口渇を感じない又は水分摂取が困難な患者
  • 適切な水分補給が困難な肝性脳症の患者

サムタス点滴静注は呼吸困難や意識レベルの低下等により、自力で水分を摂取できない患者さんにも投与できます。ここがサムスカと大きく異なる点です。

しかし、投与に際して減量が必要であり、かつ十分な管理が欠かせません(後述します)

サムタスとサムスカの臨床の位置付け

サムタス点滴静注の出番限定的だと考えられます

そもそもトルバプタンは「ループ利尿薬等、他の利尿薬で効果不十分な場合」に選択する薬剤(第一選択ではない)であるし、加えて注射製剤は侵襲に伴う患者負担が大きく、経口投与が可能ならサムスカの選択が望ましいからです。

▼急性心不全に使用する薬剤の推奨とエビデンスレベル

バソプレシン V2 受容体拮抗薬(トルバプタン)

ループ利尿薬をはじめとする他の利尿薬で効果不十分な場合に、心不全における体液貯留に基づく症状の改善を目的として入院中に投与開始(推奨IIa エビデンスA)

急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版)

サムタスの出番は

  • 他の利尿薬で効果不十分な場合(第一選択ではない)
  • サムスカ錠の投与が適さない時(代替薬)

だといえます。

具体的には

サムタスの臨床の位置付け

大きく3つのケースが挙げられます。

  1. 経口投与が困難又は不可能な患者
    • 心不全増悪による呼吸困難が強い
    • NPPV、酸素吸入等で経口投与が難しい
  2. 経口投与が不適な例
    • 腸管浮腫等で吸収障害がある
  3. 速効性を期待する場合
    • 呼吸困難等の心不全症状が強い

基本は①経口投与が難しい場合です。注射製剤の特性が生かせます。それから②経口投与を避けた方が良い場合です。特に右心不全では末梢の血液を心臓に戻せず下肢や腸管等に浮腫みを生じます。あと③速効性を期待して使うことも可能です。経口投与よりも早期に症状の改善が見込めます。

サムタス点滴静注用 審議結果報告書より

サムタスの出番は限定的です。逆にいうと、他の利尿薬が効果不十分でサムスカの経口投与が難しい場合(呼吸困難が強い時や意識レベル低下により経口水分摂取が困難)に有用だといえます。

サムタスとサムスカの減量基準

・サムタス点滴静注に特有の減量基準があります(半量から開始

サムタス
サムスカ

減量を考慮する

  • 血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満
  • 急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者
  • 高齢者
  • 血清ナトリウム濃度が正常域内で高値の患者
  • CYP3A4阻害剤とやむを得ず併用

半量から開始する

  • 経口水分摂取が困難な患者に投与する場合

減量を考慮する

  • 血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満
  • 急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者
  • 高齢者
  • 血清ナトリウム濃度が正常域内で高値の患者
  • CYP3A4阻害剤とやむを得ず併用

心不全に用いる場合

まず、共通点について

サムタスとサムスカ:共通の減量基準とその理由
  • 血清Na濃度<125mEq/L
    急激な血清Na濃度の上昇による浸透圧性脱髄症候群発現のリスクあり
  • 急激な循環血漿量の減少が好ましくない患者
    高齢者や低体重、動脈硬化がある人は血液濃縮により高Na血症、心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクあり
  • 高齢者、血清Na濃度が正常域内で高値
    使用成績調査の最終結果より、高Na血症の発現率が高い
  • CYP3A4阻害剤との併用
    トルバプタンはCYP3A4の基質であり、代謝阻害による血中濃度上昇の可能性あり

サムタス点滴静注・サムスカOD錠、電子添文、インタビューフォームより

いずれの場合も「半量開始が望ましい(考慮する)」と記載があります。逆にいうと、減量しなくても良いケースもあるわけです。

一方で、相違点について

サムタスだけの減量基準

サムタスは経口水分摂取が困難な患者に投与する場合
半量(8mg)から開始しなければなりません

(用法及び用量に関連する注意)

経口水分摂取が困難な患者に投与する場合は、半量(8mg)から開始し、効果不十分な場合には翌日以降に16mgに増量できる。ただし、本剤投与後24時間以内に血清ナトリウム濃度が10mEq/Lを超えて上昇した翌日には増量しないこと

サムタス点滴静注 電子添文

こちらは「考慮する」とか「望ましい」という記載ではなく、「半量から開始する」という一律の対応です。

理由

経口飲水が可能な患者さんに比べて、高Na血症などの副作用リスクが高いと考えられるためです。経口水分摂取が困難な患者を対象に実施したTRITON-HF試験において、半量から始め、効果不十分の場合は翌日以降に16mgに増量するという投与方法で安全性が確認されています。
サムタス点滴静注 インタビューフォーム

サムタスはサムスカと違って、半量から開始するケースがある点は押さえておきましょう。8mgと16mg、両方の規格を採用しておく必要がありそうですね。

サムタスとサムスカのモニタリング項目

サムタスは

①血清カリウム値の測定タイミングが明記
②水分摂取困難例に投与する場合、より厳格な管理が必要

順番に見ていきます。

サムタスは血清K値も決められた時点に確認!

サムタスとサムスカは電解質と肝機能の確認を行わなければなりません。血清Na値と肝機能(ASTやALTなど)チェックはタイミングが決められています。ここは共通点です。

一方で異なるのは血清K値のフォロー。サムタスの方は血清カリウム値のモニタリング時期が明記されています(サムスカは適宜と記載

項目サムタスサムスカ
血清Na 開始日:4~6h後及び8~12h後
翌日から1週間程度は毎日測る
開始日:4~6h後及び8~12h後
翌日から1週間程度は毎日測る

肝硬変
開始日:4~8h後
2日後並びに3~5日後に測る
血清K開始日:4~6h後及び8~12h後
翌日から1週間程度は毎日測る
本剤投与中は適宜測る

肝硬変も同様
肝機能開始前:測る
開始2週間は頻回に測る
開始前:測る
開始2週間は頻回に測る

肝硬変も同様
心不全に用いる場合、サムタス点滴静注、サムスカOD錠、電子添文より作成

理由

高カリウム血症の発現リスクが経口薬サムスカよりも高い可能性があるからです。臨床試験の併合解析において、高カリウム血症関連事象の発現割合はサムタス16mg群でサムスカ群と比較して多く認められています。

サムタス点滴静注 審議結果報告書

参考までに

サムタス点滴静注:血清NaとKの測定ポイント
サムタス点滴静注用を処方いただく際に

サムタスは水分摂取困難例に投与できるが、より厳格な管理が必要!

先述のようにサムタスは経口水分摂取が困難な患者に投与(半量)できます。経口薬と異なる点でした。しかし、その分、より厳格なモニタリングが求められています。

サムタスを経口水分摂取が困難な人へ投与する場合

観察項目や確認事項等が細かく記載されています

9.1.1 経口水分摂取が困難な患者

水分出納バランスを適切に管理するため、以下の点に注意すること。本剤の投与初期及び増量時には、過剰な利尿に伴う脱水、高ナトリウム血症などの副作用があらわれるおそれがある。

輸液等により体液管理すること。

・尿量と水分摂取量(輸液量を含む)を投与開始2時間後までは1時間ごと、8時間後までは2時間ごと、増量時には投与開始後4時間後及び8時間後を目安に確認し、水分出納バランスに応じて輸液量を調節すること。その後も投与を継続する場合には、毎日水分出納バランスを確認すること

体重、血圧、脈拍数等を頻回に測定し、患者の状態を観察すること。

増量時には少なくとも投与開始4~6時間後及び8~12時間後に血清ナトリウム濃度及び血清カリウム濃度を測定すること。

サムタス点滴静注 電子添文

モニタリング時期を図で表すと

サムタス点滴静注用を処方いただく際に

サムタスはサムスカと違って、経口から水分補給が難しい人に投与できますが、その際にはより厳格な経過観察と体液管理が必要である点は押さえておきましょう!

まとめ

今回はサムタス点滴静注の特徴について、サムスカOD錠と比較しながら解説しました。

本記事のポイント

サムタス点滴静注の特徴
  1. 成分…トルバプタンリン酸エステルNa(プロドラッグ)
  2. 血中濃度プロファイル…速効性が期待できる(Tmax1h)
  3. 適応…心不全のみ
  4. 有効性…サムタス16mg≒サムスカ15mg(用量換算の目安)
  5. 臨床の位置付け…経口投与が困難又は不可能な患者、経口投与が不適な例、速効性を期待する場合等
  6. 禁忌…水分摂取が困難な患者にも投与可!(禁忌ではない)
  7. 減量基準…経口水分摂取が困難な患者に投与する場合、半量から開始
  8. モニタリング項目…血清K値の測定時期が明記、経口水分摂取が困難な患者に投与する場合はより厳格な体液管理を!

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