テモダールによる死亡事故が発生しました。
なぜ事故が起こってしまったのか?
原因と解決策を考察したので共有したいと思います。
テモダールの医療事故:概要
骨折で入院した70歳男性が悪性神経膠腫(しんけいこうしゅ)の治療薬テモダールを、誤って39日間連日投与され、多臓器不全により亡くなられというもの。同患者は他院で脳腫瘍の治療を受けており、入院時に持参された薬にテモダールが含まれていました。
テモダール(一般名テモゾロミド)はアルキル化薬の1種で、DNAの損傷を起こし細胞の増殖を抑える抗がん剤です。通常は5日間投与、その後23日間休薬するというプロトコール※のもと投薬が行われます。
初発の場合で放射線照射を併用する期間を除く
しかし、主治医を含め、複数の整形外科医が抗がん剤であることを、十分に認識しないまま誤った用法で処方し、薬剤師もそれに気づかず調剤を行なってしまいました。
どうして事故が起きたのか?
医師と薬剤師、それぞれの原因について考察しました。
医師の原因分析
持参薬の運用手順(一般的な流れ)
鑑別報告書を作成
継続の要否を判断して持参薬を再処方
上記を踏まえた上で、
【医師の持参薬に対する確認不足】が原因の一つと考えられます。
医師は「新たに処方する」というよりは、「前医が処方したものをDoする」感覚が強いからです。私の印象では、持参薬の内容を一つずつ丁寧に確認する医師は少なく、前医が処方した薬剤名にざっと目を通して、継続や中止の指示を出すことがほとんどだと思います。
だから、医師による持参薬の安全チェックは十分ではありません。仮にテモダールの投与方法が間違っていても、スルーしてしまう可能性が高いわけです。特に専門外の薬(通常、整形外科医はテモダールを処方しない)は、見落とすリスクが高いといえます。
とはいえ、多忙な診療の中で、医師だけに持参薬の安全チェックを求めるのは現実的ではありません。薬剤師の積極的な関与を含めた協力体制を病院として作ることが大切だと思います。
薬剤師の原因分析
薬剤師側の原因は、大きく2つ考えられます。
- 個人の油断
- 組織における安全対策の不備
持参薬に対する薬剤師の油断・甘え
持参薬の安全管理はどうしても油断や甘えが生まれやすいと感じています。
自分が確認を行う前に、2人以上の薬剤師(調剤者と監査者)がチェックしているのが普通だからです。他施設の薬剤師が薬効重複や投与量、相互作用など安全性に関する確認を終えて、処方の適正化が完了しているのが持参薬の認識だと思います。
その安心感が油断や甘えにつながります!
例えば、処方箋の中に自分が初めて見る薬があった場合。薬効は何か、どのように使うのか、またどういった点に注意が必要なのか、添付文書や書籍で確認してから調剤や監査業務に臨む人がほとんどです。疑義を見逃さないように確認作業にも熱が入ります。
一方、持参薬の場合はどうか。どのような薬なのかおおよその見当がついて、用法用量に特に違和感を感じなければ、きっと大丈夫だろうと判断してしまうことはないでしょうか?ダブルチェックやトリプルチェックの時と同じように、自分の前に誰かが確認している安心感から無意識のうちに確認がおろそかになってしまう傾向があります。
もし、1人の薬剤師が油断することなく通常の確認行程を守っていれば、きっと事故は防ぐことができたはずです。「自分の前に誰かが確認をしている」という油断や甘えは捨てて、自分の責任において仕事を完結する信念が必要だと思います。
持参薬に対する組織の安全対策の不備
一般的に、持参薬の安全管理は組織として対策が不十分だと思います。
採用薬(普段よく扱う薬)は処方監査のポイントや手順を定め(全ての薬剤ではないにせよ)、全体で安全対策に取り組んでいるのに対して、持参薬の方は個人の危機管理能力に頼りがちだからです。当院でも採用薬以外の薬剤については、マニュアル等が整備されているわけではありません。自分でその都度、調べてポイントを把握するかたちです。
もちろん、個人で責任を持って対応すべきですが、多忙な業務の中では先述のように甘えや油断から、概要をサラッと確認するだけで終わるケースも少なくありません。
そんな時に限って安全性のチェックポイントが抜け落ちてしまいます。
事故を防ぐためには、医療安全の観点から注意を要する持参薬の持ち込みがあった時点で、カンファレンス等で共有する仕組みが必要だと思います。今回では特徴的なテモダールの服用方法について全体共有されていれば、事故を未然に防ぐことができたはずです。
まとめ
今回は、テモダールによる医療事故がなぜ起きたのか?
薬剤師の立場から原因と解決策を考察しました。
本記事のまとめ
- 医師側の要因:持参薬に対する確認不足
前医の処方をDoする感覚
持参薬に関する安全管理(薬剤師の協力体制等)の仕組みが必要! - 薬剤師の要因①:持参薬に対する個人の油断と甘え
他施設の薬剤師が確認しているので大丈夫という感覚
間違っている可能性を念頭に確認を徹底する! - 薬剤師の要因②:組織における安全対策の不備
個人の危機管理能力に任せられている
持参薬における安全管理の仕組みを作る!
今回の医療事故を受けて、持参薬の安全管理を見直す必要があると感じました。