疑義照会は、安全な薬物療法に欠かせない!
それは、みんなわかっています!コミュニケーションスキルを上げたり、知識を増やしたりと、努力を惜しまず、必死で頑張っていますよね^ ^
でも、限界を感じませんか?
これならいけると確信して臨んだのに、シミュレーション通りにいかないことも普通にありますよね。疑義照会の成功率は頭打ちです…。それに、処方箋から問題点をきちんと抽出できているのかも疑問を感じるところ。実は見逃してるケースも多いのではないでしょうか?
はっきり言って、
「処方後に関わる疑義照会」
だけで安全な薬物療法を担保するのは難しいと感じています。
では、どうすればいいのか?
お勧めしたいのは、
処方前の介入を意識することです!
疑義照会と対比しながら薬剤師の仕事のあり方について、考察したので共有します。
疑義照会に限界を感じる3つの理由
疑義照会はなぜ上手くいかないのか?
私が感じている原因は大きく3つあります。
- 処方を後から変えるのは無理がある
- 処方箋から得られる情報が少ない
- 時間的に余裕がない
順番に見ていきますね。
処方を後から変えるのは無理がある
まずは一つ目の理由。
一度確定した処方を後から変更するのは簡単ではないからです
そもそも面倒だし、事務的な手間もかかります。多忙な業務中には「この程度なら、問題ないでしょ」と思うのも無理ないですよね。
それに、後から処方を修正されるのは、いい気分ではありません。誰でも間違いを認めたくないし、プライドが邪魔することもあるからです。医師も人間なので、禁忌でなければ「そのままで」と言いたくなる気持ちもわからないでもありません。
そもそも、薬剤師に意見されることに嫌悪感を示す医師もいます。
俺の処方に口出しするなんて、100年早いわー!!
って感じに。もちろん、全ての先生に当てはまるわけじゃないですけどね^ ^
制度上、疑義照会(安全性のチェック)は処方後になるとはいえ、一度処方したものを後から修正するのはかなり難易度が高いのです。
参考までに
薬剤師法24条の記載も確認しておきましょう。
処方箋中の疑義(疑義照会による確認)
薬剤師は、処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない
薬剤師法24条
薬剤師の介入は処方箋中に疑わしい点を見つけたときですね。つまり、医師が処方した後です。「処方された後」に行うという制度自体にも限界があると思います。仕方ないですが…。
処方箋から得られる情報が少ない
続いて、疑義照会に限界を感じる2つ目の理由。
処方箋から得られる情報は限られているからです
以下の項目だけで一体どのくらい安全管理ができるのか?
- 薬剤名
- 投与量
- 投与方法
- 日数
- 年齢
- 性別
もちろん、投与量や服用方法、相互作用などはチェックできます。「添付文書」と「処方内容」の比較から、疑義がないかどうかの確認は可能だからです。薬効の重複があったり、通常量を上回っていたり、禁忌があるときには疑義照会をすればいいだけの話ですね。
しかし、安全性の確認を行う上で、欠かせない情報があります。
病名と検査値です。
病名は通常、処方箋に記載されていない!
なので、処方監査の際に支障があります。特に困るのは、適応症が複数ある場合です。
たとえば、DOACは病名によって投与方法が異なります。心房細動とDVTでは禁忌や減量の基準が変わるし、投与期間も違うわけです。投与方法が適切かどうかは処方箋だけでは判断できません。
他にも、ピオグリタゾンは心不全が禁忌になります。循環血漿量の増加に伴う心不全の増悪または発症のリスクがあるからです。病名がわからなければ、同様に判断できません。
もちろん、併用薬である程度推測できます。
- βブロッカーを飲んでいないか?
- ARBやACE阻害薬が一緒に出てないか?
- 抗アルドステロン薬が併用されてないか?
それでも、限界があります。喘息の人はβブロッカー(非選択性)を飲めないし、ARBやACE阻害薬は心不全の治療で必ず処方されているとは限らないからです。
このように、病名がわからないと投与の必要性や妥当性、投与方法が適正かどうかが判断できません。
検査値は通常、処方箋に記載がない!
検査値がわからないのも困ります。
特に腎機能。DOACは腎機能に応じた投与設計が欠かせませんが、eGFRやCreなどがわからなければ投与量が正しいのか確認できません。医師がきちんと見てくれているだろうと都合のいい解釈で、その場をやり過ごすことも多いですよね。
利尿薬を飲んでる人は電解質が気になるし、抗がん剤服用中は、血球系の数値も確認しておきたいところです。
このように、薬物療法の妥当性を評価したり、問題解決に努めようとすればするほど、情報不足が露呈されます。処方意図をよみとるスキルを高めたり、患者さんが持ってるかもしれない検査値を頼りに、少ない情報を最大に活かしても、やれることには限界があるのです。
時間的に余裕がない
最後に、疑義照会に限界を感じる3つ目の理由。
疑義照会の要否を検討する時間が限られているからです
調剤は時間との勝負。制限時間内に(マンパワーに見合わない)大量の処方箋を処理しなければならないし、患者さんを待たせているという焦りもある中で、ゆっくり処方監査ができる余裕はありません。調剤薬局は特にですね。
「薬はまだ、できないんですか!!」
という見えない(よく見える?)プレッシャーに怯えながら安全管理よりスピードを重視せざるを得ないのが現実ですよね。
一方で、安全管理は時間がかかります。
あらかじめ薬ごとにチェックすべき項目を決めてルーチン業務としても、限界があるからです。はじめて目にする薬を一から調べたり、薬の種類が多いと相互作用のチェックに手間取ったりと、ベテランであっても、スムーズにいきません。処方箋どおりに調剤するだけで手一杯というのが、現場薬剤師の声ではないでしょうか。
このように、疑義照会だけで安全管理を行うのは限界があります。処方後に短時間で、情報が少ない中、医師が確定した処方を変更するのは難しいものなのです。
そこで、処方前の介入が重要になってきます。
薬剤師が処方前に介入すべき3つの理由
処方後に関わる疑義照会よりも、処方前の介入に軸足を置く方が上手くいきます。
薬剤師としての仕事のあり方が変化し、安全な薬物療法をよりサポートできると考えられるからです。
処方前の介入というのは、
最終的に処方提案につなげるアプローチです。新しい処方を提案するのもいいし、既存の処方を次回受診時に変更してもらうのでも構いません。とにかく、今後の処方に役立つ情報を積極的に発信していく仕事スタイルです。
薬剤師が処方前に関わるメリットは大きく3つあります。
- 医師の受け入れがよい
(対立から協働に) - 薬剤師の職能が広がる
(受け身から能動的に) - 薬物療法のフォローが習慣になる
(点から線の関わりに)
疑義照会と対比しながら見ていきますね。
医師の受け入れが良い
まずは一つ目の理由。
薬剤師の提案が医師に受け入れられやすいからです
疑義照会よりも処方提案の方が、医師が耳を傾けてくれます。
処方提案は部下が上司に企画書を出すようなもの
(医師が上司で、部下が薬剤師という設定、やや語弊があるかもですが…。)
部下が上司に企画書を出すのは別に違和感ないですよね。ドラマとかでも普通にあるシーンです。
「いいじゃないか、やってみよう」と上司が言うやつですね。
たとえば、薬剤師が患者さんから副作用の症状を聴取して、医師に中止を提案するというもの。医師が納得すれば、中止の指示が出ます。臨床でよくあるやりとりです。
経験上、処方提案はうまくいきます。もちろん、的外れな提案はダメですけど、よく練られた案なら医師の受け入れは良好です。
疑義照会は部下が上司の企画書にダメ出しするようなもの
一方、目上の人に意見するのは、違和感があります。
部下にダメ出しされて気分がいい上司はまずいません。同じく医師も薬剤師に疑義を確認されるのは気持ちいいものではないでしょう。(こっちも、やりたくてやってるわけではないですけどね^ ^)
処方後に関わるというのは医師の処方に口出しすることに他なりません。どうしても対立軸で捉えられ、物事が順調に進まないことが多いのです。
医師と薬剤師の関係:対立から協働へ
処方前の介入(処方提案)を意識して仕事をすれば、医師との関係が変わります。
『対立』から『協働』へ
処方後に関わる疑義照会だけでは安全な薬物療法は担保できません。先述のように対立が避けられず、失敗に終わることが少なくないからです。医師を説得できなければ薬剤師の仕事を患者さんに届けることはできません。
一方で、処方前の関わりは、医師と協働して仕事を行うことに他ならないと思います。処方支援、診療のサポートという形で、一緒に患者さんの治療に携わるからです。一体感が生まれ、医師との信頼関係を築きやすくなります。ここがポイント。
その結果、患者さんに薬剤師の仕事を届けやすくなります。医師から薬の相談も増えて、さらに処方前の介入につながる機会が増える好循環も生まれるでしょう。
ただし、メリットだけではありません。医師を説得できる企画書は豊富な知識と経験があってこそ書けるもの。日々の勉強が欠かせません…けどね。
薬剤師の職能が広がる
続いて2つ目の理由。
処方前の介入は薬剤師の職能を広げてくれるからです
様々な薬学的介入が可能になります。たとえば、入院時の関わりなんてまさにそうですよね。
薬剤師は入院前の服薬状況(持参薬)を把握して、入院中の服薬計画を医師に提案します。簡単にいうと持参薬の内容を吟味して適正化する業務です。
具体的には下記ですね。
- 薬効の重複や投与量、相互作用のチェック
- 薬剤性(副作用)のスクリーニング
- 手術や検査で休薬すべき薬剤の確認
- ポリファーマシー対策
処方後に関わるよりもできることが増えます。
ここまで介入できるのは、患者さんの情報を多く把握できるからです。処方箋だけではわからなかった病名や検査値はもちろん、入院の経緯、既往歴、諸々の検査、患者さんからの聞き取り等から、薬物療法の妥当性を総合的に評価して介入できます。
他にも、入院前に手術予定患者さんの安全管理に努めたり、退院前に退院後の療養環境を考えて薬物療法を最適化したりと、処方前に関与していく業務が盛んです。処方前から積極的に介入すれば、薬剤師ができる仕事の幅が広がります。
薬剤師の働き方:受け身から能動的へ
処方前の介入を意識すれば、薬剤師の仕事スタイルが変わります。
『受け身』から『能動的』へ
疑義照会はどちらかというと受け身の仕事スタイルだと思います。処方箋を受け取ってから介入が始まるからです。できることは限られており、せいぜい、薬効重複や相互作用、投与量のチェックが中心ですよね。
一方で、処方前の関わりは患者さんからスタートします。いつでも介入OKです。できることは多岐に渡ります。患者さんの薬物療法を丸ごと評価して積極的に介入していくスタイルだからです。やる気と能力次第であるものの、おそらくできることに制限はありません。
疑義照会も大切だけど、それだけでは薬剤師の職能を十分に発揮できているとはいえません。もったいないです。
薬物療法のフォローが習慣になる
最後に3つ目の理由。
処方前の介入は服薬後のフォローが習慣になります
処方前に介入するためには経過観察が欠かせないからです。継続した関わりの中で、薬物療法における問題点を挙げて解決していく習慣が身につきます。
たとえば、痛み止めを飲んでいる人を考えてみましょう。
処方前の関わりというのは疼痛評価と副作用のモニタリングです。入院中は毎日確認できるし、調剤薬局の場合には、来局時の聞き取りになります。間隔が空きすぎかなと感じたら電話モニタリングでもOKですよね。
とにかく、患者さんの経過を追っていくことが大切です。
その中で、鎮痛剤の選択や、副作用発生時の対処方法などを検討しつつ、必要に応じて処方提案を行います。まさに今話題のトレーシングレポートが活用できる場面です。
定期フォローは患者さんの満足度にも好影響を与えます。薬剤師が治療をサポートしてくれているという安心感を生むからです。信頼関係も芽生えていくでしょう。
処方前に関わることを意識したら、服薬後のフォローが息をするくらい当たり前にできるようになります(^-^)
薬剤師の関わり:点から線へ
処方前の介入を意識すれば、薬剤師の関わり方が変わります。
『点』から『線』へ
疑義照会は定期的なフォローがなくてもできます。処方箋から疑義を発見して解決すればそれで完了だからです。そもそもフォローの概念がないのかも知れません。
ある意味、疑義照会は点の関わりといえます。PPIが処方されました。でも、もともとH2拮抗薬を飲んでいる人です。薬効重複について問い合わせて処方が中止になったら、そこで仕事が終了します。
一方で、処方前の介入は、線の関わりが欠かせません。定期的に経過を見ていかないと、処方提案の必要性が判断できないどころか、医師を説得できる根拠も手に入らないからです。
ロキソニンを飲んでいる人がいて、定期的に副作用をモニターしてたら、胃部不快感を認めました。どうしようかを考えて、リスクが低いセレコックスへの変更を提案するまでには、服薬後のフォローが必須ですよね。
処方前の介入は服薬後のフォロー、つまり薬物療法に線で関わるということに他なりません。
まとめ
今回は疑義照会と対比しながら、処方前介入の必要性について考察しました。
処方前と処方後、どちらがいいのか?
というと、結局のところどちらも大事です。
でも、これからの薬剤師に求められているのは処方前の関わりだと確信しています。
①医師と協働して
②積極的な処方提案を通して
③薬物療法を継続的にサポートする
のが、薬剤師の職能をより発揮できるアプローチだと思うからです。
はっきり言って、処方前の関わりの方が断然難しいけど、「患者さんの治療に貢献したい」という熱い気持ちがあればなんとかなります。まずは処方前に関わることを意識してみてはどうでしょうか♪