今回のテーマはPONV予防薬!
最近、5-HT3拮抗薬(注射)にも保険適用が認められました!
・そもそもPONVとは何か?
・どのような予防薬があるのか?
調べてみると、
なかなか興味深く、特に周術期管理を担当する薬剤師にとっては必須の知識だと思いました。
押さえておきたいポイントをまとめたので共有したいと思います。
PONVとは?
そもそもPONVとは何か?
あまり聞きなれない言葉ですよね。
下記3つのポイントを順番に解説します。
- PONVの基本
- PONVの機序
- PONVのデメリット
PONVの基本
PONVとは何か?
正式名称は
postoperative nausea and vomiting
頭文字をとってPONV(ピーオーエヌブイ)
日本語では
術後の悪心・嘔吐
nausea(ノージア:吐き気)、vomiting(ヴォミティング:嘔吐)
PONVの頻度はどのくらい?
一般的には
30%程度
ハイリスク集団では
80%程度に増加
がんの患者さんを対象とした、国内の報告によると
術後の悪心…約40%、術後の嘔吐…22%
思っていたよりも多い印象です。そう言われたら、手術後の患者さんが吐き気を認める場面はそれなりにありますね。
あと、後述しますが、PONVが起こりやすい人と起こりにくい人がいます。
PONVは術後何時間までに起こるもの?
一般的には
術後24時間以内に起こったもの
手術が終わるタイミングにもよりますが、手術当日から翌日くらいまでに起こる悪心・嘔吐をPONVと呼びます。
PONVの機序
続いて、PONVの機序について。
どのようにPONVが起こるのか?
まだよくわかっていない部分がありますが、上図のように、複数の経路により嘔吐中枢を刺激して起こると考えられています。中枢性の経路(知覚や情動、平衡感覚など)と末梢性の経路(上部消化管、咽頭、縦隔等)がある点は押さえておきたいところ。
あと、CTZはご存知の方も多いと思います。化学受容器引金帯の略です。さまざまな神経伝達物質が働き、嘔吐中枢を刺激します。抗がん剤が嘔吐を引き起こす一つの経路としても有名ですね。
神経伝達物質の受容体は覚えておきたい!
PONV予防薬の種類と関係があるからです。ドパミンD2、5-HT3、ヒスタミン、アセチルコリン、あとサブスタンスPの作用点であるNK1受容体は押さえておきましょう。
また、オピオイドも嘔吐を引き起こします。PONVの危険因子として有名です(後述します)
PONVのデメリット
たかが、吐き気ではありません
- 食事開始の遅れ
- 早期離床の妨げ
ひいては入院期間の延長、医療費の増大にもつながります。
忘れてはいけないのが
・患者満足度の低下
ここは問題視されています。
PONVは術後痛よりも不満度が高い!?
麻酔後合併症の発生と不満評価との関係を調査した国内の報告によると、PONVは術後痛の発生頻度よりも低いに関わらず、不満率は高いという結果でした。
PONVと術後痛を抜き出すと下記です
麻酔後合併症 | 発生率 | 不満率 |
---|---|---|
術後悪心・嘔吐 | 27.4% | 5.8% |
術後痛 | 40.6% | 5.1% |
PONVのリスク評価
先述したように、
PONVが起こりやすい人と起こりにくい人がいます
PONVのリスク因子
PONVのリスクを上げる要因は何か?
海外のガイドラインによると以下のとおりです
- 女性
- PONVまたは乗り物酔いの既往歴
- 非喫煙者
- 年齢が若い
- 全身麻酔
- 吸入麻酔薬および亜酸化窒素の使用
- 術後のオピオイド
- 麻酔時間
- 手術の種類(胆嚢摘出術、腹腔鏡手術、婦人科手術)
以下のように術前・術中・術後で分けると知識が整理しやすいと思います。
- 術前のリスク…女性、PONVの既往/乗り物酔い、非喫煙、若年
- 術中のリスク…全身麻酔、吸入麻酔、笑気の使用、麻酔時間、手術の種類
- 術後のリスク…術後オピオイドの使用
Apfelスコア
実は、PONVがどのくらい起こりやすいか、予測できます。
ここは面白いと感じました!
以下のApfelスコアがシンプルでわかりやすく汎用されています。
以下の4項目です
- 女性
- 非喫煙
- PONV既往/乗り物酔い
- 術後オピオイド使用
女性の方が男性に比べてリスクが高いのですね。あと、タバコを吸ってる人はPONVが起こりにくいのは意外でした。喫煙はリスクしかないと思っていたので。ただし、喫煙は術後合併症のリスクなので、結局悪者に変わりありませんが…。
あと、乗り物酔いは、平衡感覚を司る前庭器からの刺激で、PONVが誘発されることと関係してそうです。
上記4項目を0〜4点でスコア化します
例えば、女性でタバコを吸わない人の場合は2点です。
さらに、胃がんの手術などで術後疼痛管理にフェンタニル(オピオイド)を使う場合には1点が加算、3点と計算されます。
スコア化できたら、予測頻度が求まります。
以下のとおりです
2点の人は予測頻度が40%となります。
予測頻度の覚え方は?
点数に20をかけると、予測頻度になります。
- 1点×20=20%
- 2点×20=40%
- 3点×20=60%
- 4点×20=80%
覚えやすいですね。0点は例外、×10ですけどね。
リスク分類は以下のように行います
- 0〜1点…低リスク
- 2点…中リスク
- 3〜4点…高リスク
2点以上の場合に、何らかの予防策(後述)をとるのが一般的です。
PONVの予防薬
PONVの予測頻度がわかったら、次は予防薬の出番です。
薬剤の種類や選択方法について見ていきましょう。
薬剤の選択方法(成人の場合)
実際に、どのように薬剤を選択するのか?
下記ガイドラインの内容から解説します
薬剤の選択までの手順は以下のとおりです。
まずは、リスクを評価します
- 女性
- 50歳未満
- 非喫煙者
- 術式(腹腔鏡手術、婦人科手術、胆嚢摘出術)
- PONVの既往、乗り物酔い
- 術後のオピオイド使用
Apfelスコアと違って6項目ですね。②年齢と④術式がリスク因子に入っています。
続いて、リスクを軽減するための方法を考慮します
- 笑気、吸入麻酔、ネオスチグミンの使用量を減らす
- 区域麻酔を考慮
- オピオイドを減らす(マルチモーダル鎮痛)
作用機序の異なる鎮痛薬(例えば、アセトアミノフェンやNSAIDs、局所麻酔薬など)を異なる経路(経口、静注、硬膜外等)から組み合わせて使用することで、鎮痛効果の増強と副作用の軽減を図るための鎮痛法です。主に術後のオピオイド量を減らすために用いられます。
次に、リスク因子を点数化します
- リスク因子0個→予防投与なし
- リスク因子1〜2個→2つ選択
- リスク因子3個以上→3〜4つ選択
リスク因子がなければ、予防薬の投与は必要ありません。一方で、リスクが一つでもあれば予防方法を選択します。リスク因子が多いほど、選択する予防薬も増えるわけです。
では、どのような薬剤を用いるのか?
- 5-HT3受容体拮抗薬
- 抗ヒスタミン薬
- プロポフォール(静脈麻酔)
- 鍼治療
- ステロイド
- ドパミン受容体拮抗薬
- NK1受容体拮抗薬
- 抗コリン薬
予防薬は全部で6種類ですね。先ほどの作用機序にあったように、CTZに作用する神経伝達物質の経路を遮断する薬剤がラインナップされています。
ステロイドや5-HT3拮抗薬、NK1受容体拮抗薬は抗がん剤の制吐療法に用いられるお馴染みの薬ですね。
一般名 | 商品名 | 作用 | 適応 |
---|---|---|---|
ジメンヒドリナート | ドラマミン錠 | H1blocker | 手術後の悪心・嘔吐 下記の疾患又は状態に伴う悪心・嘔吐・眩暈 動揺病、メニエール症候群、放射線宿酔 |
ヒドロキシジン | アタラックス-P注 | H1blocker | 術前・術後の悪心・嘔吐の防止 神経症における不安・緊張・抑うつ 麻酔前投薬 |
ペルフェナジン | トリラホン錠・散 ピーゼットシー散・糖衣錠・筋注 | D2blocker | 術前・術後の悪心・嘔吐 メニエル症候群(眩暈、耳鳴) | 統合失調症
プロクロルペラジン | ノバミン筋注 ノバミン錠 | D2blocker | 術前・術後等の悪心・嘔吐 | 統合失調症(錠のみ)
メトクロプラミド | プリンペラン注 | D2blocker | 悪心・嘔吐・食欲不振・腹部膨満感) 胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胆嚢・胆道疾患、腎炎、尿毒症、乳幼児嘔吐、薬剤(制癌剤・抗生物質・抗結核剤・麻酔剤)投与時、胃内・気管内挿管時、放射線照射時、開腹術後 X線検査時のバリウムの通過促進 | 次の場合における消化器機能異常(
PMDA添付文書検索で「効能効果」と「悪心」をキーワードに設定して調べたので、もしかすると漏れがあるかも知れませんが…
ちなみに、国内に適応がある薬剤はあまりPONV予防薬として用いられておりません。実際には、ドロペリドールやデキサメタゾンなどが使われている印象です。
それでもPONVが起こった時
予防薬とは別の機序を有する薬剤を選択します。当院ではメトクロプラミド注が使用されることが多いです。
5-HT3拮抗薬が適応追加
最近の話題ですね。
下記2成分5品目に術後の悪心・嘔吐の保険適応が承認されました。
一般名 | グラニセトロン塩酸塩 | オンダンセトロン塩酸塩水和物 |
---|---|---|
販売名 | カイトリル注1mg 同注3mg 同点滴静注バッグ3mg/50mL 同点滴静注バッグ3mg/100mL | オンダンセトロン注4mg シリンジ「マルイシ」 |
販売会社 | 太陽ファルマ株式会社 | 丸石製薬株式会社 |
備考 | 後発品も適応が追加された製剤がいくつかあります。 | 2024年4月時点で、後発品は適応なし |
5-HT3拮抗薬の保険適用はPONV予防の戦略を広げる!
と期待されます。PONVハイリスク患者では、複数の予防薬を組み合わせる必要(前述のとおり)がありましたが、今までセロトニンを介した経路を遮断する薬剤が使えなかったからです。適応外で使うにしてもコストが高く、使用を控える施設も多かったのではないでしょうか。
5-HT拮抗薬は使いやすい!
比較的安全性が高いからです。抗コリン薬は術後イレウス、D2拮抗薬は錐体外路障害、抗ヒスタミン薬は鎮静による離床の妨げ等のリスクがあります。短期間の使用であれば問題ないと思いますが、術式や症例によっては使いにくいケースは少なくありません。
一方で、5-HT3拮抗薬はセロトニン作動薬や一部CYPとの相互作用がありますが、術後合併症となる副作用はほとんどなく、多くの症例で使い勝手が良さそうな印象です。海外ではすでに承認されており、使用実績もあります。
一般名 | グラニセトロン塩酸塩 | オンダンセトロン塩酸塩水和物 |
---|---|---|
適応 | 術後の消化器症状(悪心、嘔吐) | 術後の消化器症状(悪心、嘔吐) |
投与方法 (成人) | 1回1mgを静注又は点滴静注 年齢、症状により適宜増減可(1日3mgまで) | 1回4mgを緩徐に静脈内投与 年齢、症状により適宜増減可 |
投与方法 (小児) | 1 回0.05〜0.1mg/kg(最大4mg)を緩徐に静脈内投与 ※年齢、症状により適宜増減可 | |
重大な副作用 | ショック、アナフィラキシー | ショック、アナフィラキシー てんかん様発作 |
相互作用 | セロトニン作用薬 | セロトニン作用薬、CYP3A4誘導薬、トラマドール、アポモルヒネ |
薬価 | カイトリル1mg注…¥594 カイトリル1mg注…¥1,311 後発品あり | オンダンセトロン注4mg注…¥3,289 |
両薬剤の使い分けとしては、コストと小児適用の有無ですかね。オンダンセトロンは結構高いのとCYPの相互作用もあります。
まとめ
今回はPONVの予防薬をテーマに、薬剤の選択やリスク評価についてまとめました。
押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
- PONV…術後の悪心・嘔吐
- 早期離床の妨げ、入院期間の延長、患者満足度の低下につながる
- PONVはリスク評価で予測頻度を求めることができる
- Apfelスコア…女性、非喫煙、PONV既往/乗り物酔い、術後オピオイド
- PONV予防薬はリスクに応じて選択する
- 5-HT3拮抗薬が保険適用となった
最近では周術期に薬剤師が積極的に関わる施設も増えています。その中で、PONV予防対策への取り組みにも関与できたら面白いなあと、記事を書きながら思いました♪