今回は新人がやりがちなミスを取り上げます。
「薬だけを見て薬効を評価する」
詳細は後述しますが、薬剤師ならみんな経験があるのではないでしょうか。実を言うと、私は今でも時々やってしまうものです(^_^;)
なぜ、薬だけを見て薬効の評価を行うのはだめなのか
というと、不適切な処方提案につながる可能性があるからです(こちらも後述)
薬剤師は、どのように薬効を評価すべきなのか?
考察したので共有したいと思います。まあ、個人的な意見なので、参考程度に聞いていただけたら幸いです。
薬だけを見て行う薬効評価とは?
実例を上げて説明します。
降圧剤を飲んでいる人の薬効評価
薬だけを見ての薬効評価は以下のステップです。
方法はいくつかあります
- カルテを閲覧
- 血圧手帳を確認
- ご本人への聞き取り
血圧の目標値は年齢や基礎疾患等で異なります。
評価は以下の3パターンです
- 基準値内→コントロールOK
- 低い→降圧剤の効き過ぎ
- 高い→降圧剤の効果が不十分
評価に合わせて以下のとおりです
- コントロールOK→経過Follow
- 降圧剤の効き過ぎ→ 薬剤の中止、減量を提案
- 降圧剤の効果が不十分→ 薬剤の追加、増量を提案
こんな感じですかね。
たとえば、収縮期血圧が平均160くらいの人に、効果不十分(目標血圧値を達成できていない)と考え、薬剤の追加や変更等を検討する流れです。
では、これでいいのか?
もちろん、よくありません。正確にはまずいケースもあります。
ご存知のとおり、薬効不十分(血圧変動)はいろんな要素が関係しているからです。
- 病態
- 食事
- 運動
- ストレス
- 薬剤
- 飲み忘れ
- 気候…など
血圧高値の原因は薬効不足だけだとは限りません。
塩分制限が守られていなかったり、運動不足の影響なども考えられるからです。また。アドヒアランスが悪く薬が全然飲めていない可能性もあります。以前、精神的な悩みで、交感神経が亢進している影響を疑う人もいました。
このような場合に、薬が原因(薬効不足)と決めつけて
薬剤の増量や追加を行うのは適切な判断とはいえません
(=不適切な処方提案だといえます)
正しくは、改めて食事や運動療法の必要性を説明したり、服薬アドヒアランスを上げるための方法を検討するといった対応も考慮するべきだと思います。
薬剤師は薬の専門家!
だから、薬の視点は必要、薬からのアプローチは間違っていません。でも、他の要因を無視して薬だけで物を語るのは違うと思います。ついついやってしまうのですが…。
以下のように短絡的な思考では、薬物療法のサポートは難しいといえます。
では、どうすればいいのか?
薬物療法を俯瞰する(解決策)
答えは簡単!
薬物療法を俯瞰して、薬効評価も含めた薬学的ケアを検討すること
俯瞰(ふかん)するとは、少し引いたところから眺めて、全体像を把握することです
たとえば、高血圧の治療は、何も薬物療法だけではなく、食事や運動などの生活指導も含まれる当たり前のことを見落とさなくなります。また、薬効は「薬を飲む→効果」ではなく、薬が効くまでには、いろんな要素(ADME、相互作用、アドヒアランス等)が絡んでいることを踏まえて、評価できます。
ADMEとは
- Absorption(吸収)
- Distribution(分布)
- Metabolism(代謝)
- Excretion(排泄)
視野を広げると、薬剤師としての介入点が増え、アプローチの幅も広がるわけです。
詰まるところ
薬物療法を俯瞰すると、患者さんの治療が上手くいくと思います
ここが今回伝えたい部分!
下記3つの効果が期待できるからです。
- 薬物の効果を引き出せる
- 副作用を最小化できる
- 服薬アドヒアランスが向上、治療が継続できる
順に見ていきましょう。
薬物の効果を引き出せる
一つ目の効果。
薬物療法を俯瞰すると、薬効を十分に引き出せます
先述のように視野を広げると、食事や運動療法と共に、薬物療法をサポートする思考回路が働くからです。また、期待した薬効が得られるように、薬物動態や相互作用、服薬アドヒアランスにも意識が向かいます。
たとえば、降圧剤を例にみると、
服薬説明の際に、薬の効果や服薬の重要性に加えて、食事や運動療法の必要性についても理解を求めるようになります。せっかく降圧剤を飲んでも、塩分を摂り過ぎたり、運動不足だと期待した効果が得られないからです。
同様に、効果不十分の際には、薬効不足の可能性に加えて、食事や運動療法は行えているのかどうかという視点も生まれます。
あとは、相互作用(薬や食物、サプリなど)の影響を確認、評価したり、飲み忘れのリスク(嚥下機能により飲めない可能性も含め)にも気を配るようになるはずです。
思考が変化する!
薬を飲んで、薬効を評価して、不十分の場合には増量という短絡的な思考が、そもそも薬を飲めるのかにはじまり、薬効に影響を与えるさまざまな要素を広く捉えて、介入方法を検討するといった思考に変わります。要素は人それぞれなので、目の前の患者さんを良く観察するようにもなるでしょう。
参考までに
食事と運動療法の重要性を説明すべき薬剤って何があるのか?
PMDA検索メニューで「食事療法、運動療法」をキーワードに調べてみると、いくつかヒットしました。
主に生活習慣病に使う薬です。
- 2型糖尿病薬(インスリン、SU剤、DPP-4阻害薬、エパルレスタット、GLP-1アナログ製剤、SGLT2阻害薬、αグルコシダーゼ阻害剤、グリニド薬、ツイミーグ、チアゾリジン)
- 高脂血症薬(スタチン、フィブラート)
スタチン
(重要な基本的注意)
あらかじめ高脂血症の基本である食事療法を行い、更に運動療法や高血圧・喫煙等の虚血性心疾患のリスクファクターの軽減等も十分考慮すること。
メバロチン錠 添付文書
DM薬
(効能又は効果に関連する注意)
本剤の適用はあらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮すること。
ジャヌビア錠 添付文書
あと、意外な薬剤もありました。
- ガバペンチン、オランザピン、クエチアピン、クロザリル等
- タリージェ、リリカ
肥満の兆候が見られた場合には、食事や運動療法についての指導が求められています。
神経障害性疼痛治療薬
(重要な基本的注意)
体重増加を来すことがあるので、肥満に注意し、肥満の徴候があらわれた場合は、食事療法、運動療法等の適切な処置を行うこと。特に、投与量の増加又は長期投与に伴い体重増加が認められることがあるため、定期的に体重計測を実施すること。
タリージェ錠 添付文書
統合失調治療薬
(重要な基本的注意)
本剤の投与により体重増加を来すことがあるので、肥満に注意し、肥満の徴候があらわれた場合は、食事療法、運動療法等の適切な処置を行うこと。
オランザピン錠 添付文書
あと、添付文書に記載がないものの、食事・運動療法などの生活指導が必要な薬は下記です。
- 降圧剤(Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなど)
- 高尿酸血症治療薬など
副作用を最小化できる
続いて2つ目の効果。
薬物療法を俯瞰すると、薬効を十分に引き出せます(一つ目の効果)
その結果、
副作用のリスクを低減できます
必要最小限の薬剤で効果が得られるからです。増量や他の薬剤の追加を行わなくて済みます。服用数が増えると副作用が増えるのは周知の事実ですよね。
たとえば、塩分制限を守られていない人に、各種降圧剤が追加になって、起立性低血圧や浮腫などを起こすケースです。ときどき見かけますよね。
参考までに
1995~2010年に東京大学病院の老年病科に入院された、65歳以上の高齢者2412人を対象に実施した後向き調査によれば、252人(約10.5%)に薬物による有害事象を認めました。
服薬数ごとの副作用頻度は以下のとおりです。
6種類を超えると
副作用のリスクが急上昇することが明らかになりました。
副作用を軽減する方法といえば
投与量を調節したり、予防薬を投与したり、早期発見に努めるのが常套ですが、最小限の薬物療法にとどめる(薬効を引き出す)ことも一つの方法である点は今回の考察から気付きました。
服薬アドヒアランスの向上、治療の継続もできる
薬物療法を俯瞰すると、薬効を十分に引き出し、不要な増量、追加等による副作用のリスクも低減できます。
さらにその結果、
服薬アドヒアランスの向上、治療の継続にもつながります
薬の量が少ないと患者さんの服薬負担が減るし、副作用のリスク軽減により、薬物治療を途中で断念する確率も減らせるからです。
いくら効果的な薬剤であっても、患者さんが飲めなかったり、飲み忘れが多いと、治療の継続性が担保できません。
まとめ
今回は、薬だけを見て行う薬効評価の問題点から、解決策を考察しました。
狭い視野(薬を飲む→薬効)では、患者さんを危険に晒す可能性があります。かえって不要な薬剤を提案するリスクもあるからです。短絡的な関わり方では、患者さんの薬物療法をサポートできません。
一方で、薬物療法を俯瞰することは、有効で安全な薬物療法の継続に寄与できます。いろんな角度からの介入が生まれ、薬効を引き出す方法の検討、薬効不足の原因究明などを通して、薬剤の最小化(副作用の軽減)、服薬アドヒアランスの向上、治療の継続が可能になるからです。
記事を書きながら、
・薬物療法を俯瞰して
・問題点を正しく捉え
・解決策を導くことができる
薬剤師を目指したいと強く思いました♪