今回のテーマはネオアミユーとキドミン!
どちらも腎不全用のアミノ酸製剤です。
・どのような特徴があるのか?
・通常のアミノ酸輸液と何が違うのか?
前半では
ネオアミユーとキドミンの共通点(アミパレンと比較)
後半では
ネオアミユーとキドミンの相違点(相互の比較)
を解説しながら、それぞれの特徴を読み解いていきますね。
ネオアミユーとキドミンの共通点
ネオアミユーとキドミンどちらも、腎不全用アミノ酸製剤です。
製剤の特徴は大きく2つあります。
- アミノ酸が少ない(高窒素血症を防ぐため)
- BCAAを強化(栄養状態の悪化を防ぐため)
アミノ酸の含量減少とBCAAの強化が開発コンセプトですね。
腎不全用アミノ酸輸液ネオアミユーとキドミンの共通点は、大きく4つあります。
- アミノ酸が少ない
- アルギニンが少ない
- BCAAが多い
- 必須アミノ酸の割合が多い
アミパレンと比較しながら、ポイントを見ていきますね。
アミノ酸が少ない
ネオアミユーとキドミンはアミノ酸を減らしている
慢性腎臓病(CKD)の方はアミノ酸の代謝物である尿素の排泄が低下し、高窒素血症や尿毒症のリスクが高い状態だからです。また、過剰なタンパク質の投与は腎臓に負担がかかり、腎機能の低下を招く恐れもあります。
そこで開発されたのが
ネオアミユーとキドミンです。アミノ酸量が少ないため、腎不全患者さんにおいて高窒素血症の予防効果が期待できます。
1袋(200mL)当たりの含有量と含有率
製品名 | アミノ酸量 | 含有率 |
---|---|---|
ネオアミユー | 12.2g | 5.9% |
キドミン | 14.4g | 7.2% |
アミパレン | 20.0g | 10% |
ネオアミユーとキドミンは、アミパレンの約60-80%と含有量が低く設定されています。
- 腎不全の方はどのくらいタンパク量を減らせばいいのか?
-
投与量の目安は下記です。
- 基準…0.8~1.0g/kg/day
- CKD…0.6~0.8g/kg/day
- 血液透析…1.0~1.2g/kg/day
病態やストレスを考慮して個々で決定します。保存期の腎不全患者さんは、基準の60~80%程度にタンパク質を減量するのが一般的です。ちょうどアミパレン1袋をネオアミユーやキドミン1袋に変更するだけで適切な輸液メニューができあがります。
透析患者さんは?
アミノ酸が除去されるので、減量の必要はありません。逆に言うと、通常のアミノ酸製剤でOKです。ときどき誤解があるので気をつけましょう。
アルギニンが少ない
コレは記事を書くにあたり初めて知りました。
ネオアミユーとキドミンはアルギニンを減らしている
アルギニンは尿素回路の基質で、アンモニアを尿素へ変換する反応に関わっており、血中の尿素窒素(BUN)を上昇させる可能性があるからです。
そもそも尿素回路とは?
オルニチン→シトルリン→アルギノコハク酸→アルギニン→(オルニチン)を1サイクルとして、カルバモイルリン酸(NH3とHCO3が結合)とアスパラギン酸、ATPをもとに、尿素が生成される回路です。オルニチン回路とも言います。
1袋(200mL)当たりのアルギニン含有量と含有率は下記です。
1袋(200mL)当たりのアルギニン含有量と含有率
製品名 | アルギニン量 | 含有率 |
---|---|---|
ネオアミユー | 0.6g | 4.9% |
キドミン | 0.9g | 6.3% |
アミパレン | 2.1g | 10.5% |
アルギニンの含有率は通常のアミノ酸製剤に比べて約半分くらいです。全体のアミノ酸量を均等に下げるのではなく、BUNの上昇に寄与度が高い成分をより低下させたわけですね。
じゃあ、アルギニンをゼロにすればいいのでは?
と思ったのですが、それはよくありません。アンモニアの解毒が進まず、高NH3血症を引き起こす可能性があるからです。ネオアミユーとキドミンの添付文書には以下の記載があります。
腎不全用必須アミノ酸製剤において、これを唯一の窒素源とした場合に高アンモニア血症や意識障害を起こすことが報告されていることに留意し、本剤を投与する場合にも呼名・挨拶への反応性の遅鈍化、自発動作あるいは自発発言の低下等の異常を認めた場合には直ちに投与を中止すること。
ネオアミユー、キドミン添付文書より
BCAAが多い
これは知っている人が多いかも。
ネオアミユーとキドミンはBCAAを増やしている
なぜ、BCAAを強化しているのか?というと、タンパク制限に伴う栄養状態の悪化を防ぐためです。先述したように、腎不全の栄養療法はタンパク質の摂取量を制限するので、どうしても低栄養状態となりタンパク質の異化(分解)が亢進します。
BCAAとは
分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids)の略です。下記の3種類があります。
- バリン(Val)
- ロイシン(Leu)
- イソロイシン(Ile)
1袋(200mL)当たりのBCAA含有量と含有率
製品名 | BCAA量 | 含有率 |
---|---|---|
ネオアミユー | 5.0g | 41.0% |
キドミン | 6.6g | 45.8% |
アミパレン | 6.0g | 30.0% |
アミパレンに比べて約40~50%高い濃度設定になっています。
ネオアミユーとキドミンはBCAAを強化した製剤です。腎不全患者における栄養状態の悪化を防ぐ効果が期待できます。
必須アミノ酸の割合が多い
BCAAに加えて
ネオアミユーとキドミンは必須アミノ酸を増やしている
なぜ、必須アミノ酸を強化してるのか?
理由は2つ考えられます。一つは生体では作られないからです。コレは簡単ですね。もう一つは、タンパク質の制限がある中で、より必要性の高いのは必須アミノ酸だからです。不足しがちだから強化したというよりは、削ると栄養状態の悪化につながるから減らせなかったということだと思います。
1袋(200mL)当たりの必須アミノ酸/非必須アミノ酸の比率
製品名 | 必須アミノ酸/非必須アミノ酸の比率 |
---|---|
ネオアミユー | 3.21 |
キドミン | 2.6 |
アミパレン | 1.44 |
「必須アミノ酸/非必須アミノ酸の比率」を通常のアミノ酸製剤と比べて約2~2.5倍に高めています。
ネオアミユーとキドミンは必須アミノ酸の割合が高めです。タンパク制限に伴う栄養療法で不足しがちなEAAを補い、栄養状態の悪化を防ぐ効果が期待できます。
必須アミノ酸の種類は、薬学生の時に覚えた人も多いのではないでしょうか。「アメフリヒトイロバス」とか「雨降りトロイバス日」とかですね。ここで、必須アミノ酸と非必須アミノ酸の種類を整理しておきます。
EAA:essential amino acids
NEAA:none EAA
ここまでの内容をまとめると、ネオアミユーとキドミンの共通点は開発コンセプトです。「BUNの上昇を抑えるためにタンパク質を減らしたい」「でも、筋タンパクの分解が進むのも防ぎたい」という相反する要請にうまく応えた製剤だといえます。
ネオアミユーとキドミンの相違点
ここからは、ネオアミユーとキドミンの違いについて見ていきます。
最初に断っておきますが、大きな違いはありません。
あっても微妙な差です
でも、実は意味がある差なのではないか?
ちょっと気になったので、下記3つの違いについて考察しました。
- アミノ酸の量
- アミノ酸の組成
- アミノ酸のバランス
ここからは、ややマニアックというか、どうでもいい話かも知れませんので、興味がある方だけ読み進めていただけたらと思います。
アミノ酸の量
ネオアミユーの方がアミノ酸量が少ない!
約2.2g/の差です(200mLあたり)
ネオアミユーの方が、アミノ酸をできるだけ減らしたいニーズをより満たした製剤だといえますね。
とはいえ、
この差は臨床でそれほど大きな意味を持ちません。ほぼ誤差の範囲だからです。つまり、キドミンの方がアミノ酸が多いので、優れているとか、いやいや、アミノ酸のより少ないネオアミユーの方が有効性が高いとか、そんなこと誰もこだわってないですよね。
でも、あえていうなら
キドミンは高体重の人には使い勝手がよいかなと思います
なぜなら、ネオアミユーに比べて液量を増やさずに必要なタンパク質量を満たすことができるからです。
たとえば60kg以上で、必要量が40~50gだとすると、ネオアミユーなら4袋800mL必要になります。対して、キドミンなら3袋600mLでもOKです。
この点はある意味メリットかも知れません。特に心不全を合併されたCKD患者さんは水分量にかなり気を使います。もちろん、水分量を減らしたいなら、アミパレンで対応した方がより効果的だと思いますが…。
アミノ酸の組成
違いは何か?
キドミンはグリシンが含まれていません
理由は下記のとおりです。
アンモニア原性アミノ酸であるグリシンの投与は、腎不全時ではセリンへの代謝が障害されているために血中濃度の上昇につながると考えて、配合しなかった。
キドミン、インタビューフォームより抜粋
グリシンは非必須アミノ酸だし、無くても大丈夫なんですね。
ココは確かに違う点!
でも、グリシンの有無を競ってもあまり意味がない気がします。ネオアミユーの方は含まれていますが、かなり微量(0.3g/200mL)ですし、この差を持ってグリシンを選択する場面は普通ないと思われるからです。
続いて、アミノ酸バランスの違いを見てみましょう。
アミノ酸バランスの違い
BCAAと必須アミノ酸の割合を比較すると下記です。
違いは何か?
BCAAはキドミン、必須アミノ酸はネオアミユーの方が強化されている
ただ、これをもって使い分けがされるかどうかはよくわかりません。
そこで、ふと疑問に思いました。
「アミノ酸のバランス」に違いはないのか?
もしかすると、アミノ酸スコアを計算すれば、何か大きな違いが見えてくるかもしれない、そんな期待を抱きながら調べてみました。
そもそも、アミノ酸スコアとは?
- 食品にアミノ酸がバランスよく含まれているかを測る指標
- 不可欠アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、含硫アミノ酸、芳香族アミノ酸、スレオニン、トリプトファン、ヒスチジン)について、タンパク質1g当たりの必要アミノ酸量を比較し、充足率を求める
- 100%以上充足→スコア100、半分充足→スコア50
- 一番低いスコアがアミノ酸スコアとなる
- 牛乳、鶏卵…100
- 小麦…78(リジンが制限アミノ酸)
結果は以下のとおりでした
アミノ酸スコアはどちらも100
共に評価パターンを上回っています。よく考えると、当然の結果だと言えるかも知れません。どちらも必須アミノ酸を強化しているし、そもそも開発時点でアミノ酸のバランスは考慮されているはずなので…。
BCAA(Val、Leu、Ile)はキドミンの方が強化されている傾向もわかります。一方で、ネオアミューの方が必須アミノ酸が多いかどうかは上図だけではややわかりにくかったです。
調査の結果(この方法で良いのかわからないし、見当違いだったらすいません…)、ネオアミユーとキドミンは、どちらも効率的にタンパク質を利用できるアミノ酸バランスであることがわかりました。
結局のところ
BCAA、必須アミノ酸の比率、アミノ酸バランスについても、両薬剤を使い分けるほどの特別な違いはなさそうです……。
まとめると、基本的にはネオアミユーもキドミンも、同じ腎不全用輸液製剤という枠組みでよいと思います(^_^;)
まとめ
今回は腎不全用アミノ酸輸液製剤、ネオアミユーとキドミンの特徴について解説しました。
記事を書きながら感じたのは、
「腎不全患者の栄養療法において相反するニーズに応えたい」
という開発者の熱い思いです。
腎不全用アミノ酸製剤には、下記2つの要請が働きます。
- タンパク質(アミノ酸)の投与量を減らしたい
- 一方で、栄養状態の悪化も避けたい
この難題を上手く解決したのがネオアミユーとキドミンです
①アミノ酸の「量」を減らしつつも、②アミノ酸の「質」を良くする工夫(BCAAや必須アミノ酸の強化等)により、両者のバランスをとったわけですよね。ココが共通点!押さえておきたいポイントです。
一方で、相違点は?というと、取り立てて言うほどの違いはありませんでした。残念ながら…。
ネオアミユーとキドミンはどちらも、腎不全患者さんの栄養療法をサポートする輸液として一括りの理解でよいと思います。あえて(やや無理に?)使い分けるなら、高体重で心不全の合併例では、アミノ酸濃度が高いキドミンの方が、水分負荷を抑えられる点で良いかも知れません(^_^;)