今回のテーマはマンジャロ皮下注!
一般名はチルゼパチド。GIP/GLP-1受容体作動薬です。
マンジャロは従来のGLP-1製剤と何が違うのか?
気になりますよね。
今回は、マンジャロ皮下注アテオス(GIP/GLP-1受容体作動薬)とトルリシティ皮下注アテオス(GLP-1製剤)を比較しながら、共通点と相違点をまとめたので共有します。
さっそく見ていきましょう!
マンジャロとトルリシティの比較表
まずは。マンジャロとトルリシティの基本情報をざっくりと表にまとめました。
商品名 | マンジャロ | トルリシティ |
---|---|---|
販売 | 2023年4月 | 2015年9月 |
一般名 | チルゼパチド | デュラグルチド |
分類 | 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬 | 持続性GLP-1受容体作動薬 |
規格 | 6規格 2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mg | 0.75mg/1.5mg |
適応症 | 2型糖尿病 | 2型糖尿病 |
用法 | 週1回投与 | 週1回投与 |
用量 | 個別用量 初回…2.5mg 維持…5mg 最大…15mg ※4週ごとに2.5mgずつ増量 | 0.75mg 1.5mg |
液量 | 0.5mL | 0.5mL |
針のサイズ | 29G | 29G |
禁忌 | 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の患者 重症感染症、手術等の緊急の場合 | 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の患者 重症感染症、手術等の緊急の場合 |
半減期 | 約5~6日 | 108h |
デバイス | アテオス | アテオス |
保管 | 2〜8℃…24ヶ月 室温遮光…21日 | 2〜8℃…24ヶ月 室温遮光…14日 |
薬価 | 2.5mg…¥1,924 5mg…¥3,848 7.5mg…¥5,772 10mg…¥7,696 12.5mg…¥9,620 15mg…¥11,544 | 0.75mg…¥2,749 1.5mg…未収載 |
重要だと思われる箇所にマーカーを引いています。
ここからは、マンジャロとトルリシティの共通点と相違点を見ていきましょう!
マンジャロとトルリシティの共通点
適応
・マンジャロ…2型糖尿病
・トルリシティ…2型糖尿病
どちらも適応は2型糖尿病です。
当たり前ですが、マンジャロとトルリシティは1型糖尿病には使えません。治療にはインスリンの補充が必要不可欠だからです。GIP/GLP-1を介したインスリン分泌能の改善作用では期待した効果が得られません。
糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の患者[インスリン製剤による速やかな治療が必須となるので、本剤を投与すべきでない。]
マンジャロ皮下注、トルリシティ皮下注 電子添文
1型糖尿病 | 2型糖尿病 | |
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症状 | 急に症状が出て糖尿病を発症する | 徐々に症状が出て、糖尿病が進行する |
原因 | 膵臓のβ細胞の傷害により、インスリンが全く又はほとんど出なくなる(免疫反応の異常が主な原因と考えられている) | 遺伝的要因に加えて、生活習慣の乱れでインスリンの分泌が低下したり、インスリンの効きが悪くなる |
治療 | インスリン注射 | 食事療法、運動療法、薬物治療(ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、SU薬、GLP-1受容体作動薬、インスリン注射等) |
糖尿病標準診療マニュアル2024によると
- GIP/GLP-1受容体作動薬とGLP-1受容体作動薬(注射)はステップ5で登場。経口薬で血糖コントロールが難しい時に選択します。
- GLP-1受容体作動薬(経口)はステップ3として推奨されています。リベルサス錠(セマグルチド)ですね。
- DPP-4阻害薬との併用は避けるのが基本です。
・本剤とDPP-4阻害剤はいずれもGLP-1受容体(及びGIP受容体)を介した血糖降下作用を有している。両剤を併用した際の臨床試験成績はなく、有効性及び安全性は確認されていない。
マンジャロ皮下注、トルリシティ皮下注 電子添文
用法
・マンジャロ…週1回投与
・トルリシティ…週1回投与
どちらも週1回製剤です。構造式に脂肪酸やIgG抗体の一部をくっつけることで、生体におけるクリアランスを低下させ、血中半減期を伸ばす工夫が施されています。
マンジャロ | トルリシティ | |
---|---|---|
構造 | アミノ酸39個からなる合成ペプチド | 遺伝子組換え融合糖タンパク質 |
分子量 | 4813.45 | 約63,000 |
半減期延長の仕組み | C20脂肪酸側鎖を付加し内因性アルブミンへの結合性アップ | 改変型ヒトIgG4のFcドメインを付加 |
毎日投与 | 週1回投与 |
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エキセナチド(バイエッタ) リキセナチド(リスキミア) | リラグルチド(ビクトーザ)セマグルチド(オゼンピック) エキセナチド(ビデュリオン) | デュラグルチド(トルリシティ)
液量
・マンジャロ…0.5mL
・トルリシティ…0.5mL
どちらも0.5mL、液量は同じですね。
針のサイズ
・マンジャロ…29G
・トルリシティ…29G
どちらも29G、針のサイズは同じです。
マンジャロ | トルリシティ |
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29ゲージ針)付きのシリンジがあらかじめ装填されており、針の取り付けや取り外し、用量調整、空打ちをすることなく、ボタンを押すだけで自動的にチルゼパチドが投与でき、手技が簡便である。 | 注入器(オートインジェクター)には、注射針(29 ゲージ針)付のシリンジがあらかじめ装填されており、針の取り付けや取り外し、用量調整、空打ちをすることなく、ボタンを押すだけで自動的にデュラグルチドが投与でき、手技が簡便である。 | シングルドーズペンには、注射針(
デバイス
・マンジャロ…アテオス
・トルリシティ…アテオス
どちらもキャップを外して、皮膚に押し当てて、ボタンを押すだけのシンプルな操作手順(3ステップ)が魅力です。
- キャップを取り外す
- 底面を皮膚にあてて、ロックを解除する
- 注入ボタンを押す(長くても10秒待つ)
投与忘れ時の対応
・次回投与時点までに72時間(3日)以上→その時点で投与
・次回投与時点までに72時間(3日)未満→スキップ
マンジャロとトルリシティ、どちらも投与忘れ時の対応は同じです。
投与を忘れた場合は、次回投与までの期間が3日間(72時間)以上であれば、気づいた時点で直ちに投与し、その後はあらかじめ定めた曜日に投与すること。次回投与までの期間が3日間(72時間)未満であれば投与せず、次のあらかじめ定めた曜日に投与すること。なお、週1回投与の曜日を変更する必要がある場合は、前回投与から少なくとも3日間(72時間)以上間隔を空けること。
マンジャロ皮下注、トルリシティ皮下注 電子添文より
- 水曜日までに気づく→その時点で投与(O)、次回は予定通り(日曜日)
- 木曜日以降に気づく→投与せずに(x)、次回は予定通り(日曜日)
曜日 | 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
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投与予定日 | ||||||||
投与忘れ | ||||||||
投与の可否 |
- なぜ、次回投与までの期間が3日間未満だとスキップの対応なのか?
-
薬物動態シミュレーション解析において、次回投与までの期間が3日以上の場合(投与予定日からの遅れが4日以内)、次回投与時におけるCmaxの増加が15%程度であるのに対して、次回投与までの期間が3日未満の場合(投与予定日から5日以上の遅れ)は、Cmaxの増加が20%以上となる可能性があるからです。3日間未満だと副作用のリスクがより高まるという理解ですね。
マンジャロとトルリシティの相違点
ここからは相違点について見ていきます!
作用機序
・マンジャロ…GIP/GLP-1受容体作動薬
・トルリシティ…GLP-1受容体作動薬
ここは1番の違いですね。
マンジャロの作用点は2箇所です!
- グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド受容体
(glucose-dependent insulinotropic polypeptide:GIP) - グルカゴン様ペプチド-1受容体
(glucagon-like peptide-1:GLP-1)
ダブルエフェクトです。GIPとGLP-1の刺激は膵臓β細胞内のアデニル酸シクラーゼを介して、インスリンの分泌を促します。
一方で、トルリシティの作用点は1箇所!
GLP-1受容体です。アデニル酸シクラーゼを介したcAMP濃度の上昇により、インスリンの分泌を促します。
投与量
ここも大きな相違点! 1.5mgの用量追加により、違いはなくなりましたね!
・マンジャロ…個別用量(4週ごとに増量)
・トルリシティ…固定個別用量
トルリシティの投与量は誰でも同じ0.75mgです。(薬剤師にとって)固定用量はわかりやすいですね。一方でデメリットもあります。効果不十分でも増量できず、他剤への変更を余儀なくされるケースもあるからです。初回投与で副作用が出た時も減量できません。胃腸障害等の忍容性、有効性等を見ながら1.5mgの選択が可能になります。
それに対して、マンジャロは個別用量です。メリットは大きく2つあります。
①マンジャロは効果不十分の際に増量が可能です。維持量は5mg、効果を見ながら4週ごとに2.5mgずつドーズアップ(15mgまで)できます。トルリシティではなかった選択肢ですね。また②マンジャロは減量により副作用を軽減できます。初回用量2.5mgから開始することに加えて、増量のタイミングを4週を超えて行ったりと微調整ができるからです。胃腸障害や過度な体重減少のリスクを回避又は軽減できます。
(用法及び用量に関連する注意)
・胃腸障害等の発現により忍容性が得られない患者では減量又は漸増の延期を考慮すること。
・本剤投与による用量依存的な体重減少が認められているため、血糖コントロールだけでなく、体重減少にも注意し、本剤の増量の必要性を慎重に判断すること
マンジャロ皮下注 電子添文
有効性
マンジャロは
・プラセボに比べて優越性(HbA1cの平均変化量)
・トルリシティに比べても優越性(HbA1cの平均変化量)
マンジャロ vs トルリシティ
国内第3相臨床試験
- 対象…食事・運動療法で血糖コントロールが不十分な日本人2型糖尿病患者 636例
- 方法…マンジャロ5mg、10mg、15mgを週1回投与(初回は2.5mg、4週ごとに2.5mgずつ増量し、維持量までドーズアップ)、トータル52週間投与。
- 比較…トルリシティ0.75mgを週1回投与、トータル52週間投与
結果は以下のとおり
HbA1cのベースラインからの平均変化量(主要評価項目)
体重のベースラインからの平均変化量(副次評価項目)
マンジャロの5mg群、10mg群、15mg群はいずれもトルリシティ075mg群に比べて、52週時点のHbA1cのベースラインからの平均変化量を有意に低下させました。また、体重のベースラインからの平均変化量においても同様に有意差が認められました。
マンジャロは体重減少に注意!
一方で、高齢者や低体重の方では、痩せやサルコペニアに対する懸念があり注意が必要です。RMPには重要な潜在的リスクとして【体重に関連する安全性】について記載があります。投与中は体重のモニターを行い、過剰な体重減少に対しては減量や中止を考慮しなければなりません。
(重要な基本的注意)
過度の体重減少がみられた場合は、本剤の減量又は投与中止を考慮すること。投与開始時のBody Mass Index(BMI)が23kg/m2未満の患者での本剤の有効性及び安全性は検討されていない。
マンジャロ皮下注 電子添文
保管期間(室温の場合)
ここにも違いがありました!
・マンジャロ…21日間
・トルリシティ…14日間
どちらも使用期限は冷蔵庫(2〜8℃)だと製造日から24ヶ月ですが、室温(1〜30℃)では違いがあります。冷蔵庫で保管するのを忘れても、マンジャロの方が長く使えます(廃棄のリスク低い)。もし3週間以内に使うなら、マンジャロは冷蔵庫に保管しなくても大丈夫ですね(夏場は注意ですが…)。
まとめ
今回は、マンジャロ皮下注アテオス(GIP/GLP-1受容体作動薬)とトルリシティ皮下注アテオス(GLP-1受容体作動薬)を比較しながら、共通点と相違点をまとめました。
本記事のポイント
商品名 | マンジャロ | トルリシティ |
---|---|---|
一般名 | チルゼパチド | デュラグルチド |
分類 相違点① | 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬 | 持続性GLP-1受容体作動薬 |
適応症 共通点① | 2型糖尿病 | 2型糖尿病 |
用法 共通点② | 週1回投与 | 週1回投与 |
用量 | 初回…2.5mg 維持…5mg 最大…15mg ※4週ごとに2.5mgずつ増量 | 0.75mg 1.5mg(増量可) |
液量 共通点③ | 0.5mL | 0.5mL |
針のサイズ 共通点④ | 29G | 29G |
デバイス 共通点⑤ | アテオス | アテオス |
打ち忘れ時の対応 共通点⑥ | 次回投与まで72時間以上 →その時点で投与可 | 次回投与まで72時間以上 →その時点で投与可 |
保管 相違点③ | 室温遮光…21日 | 2〜8℃…24ヶ月室温遮光…14日 | 2〜8℃…24ヶ月
有効性 相違点④ | 体重の平均変化量:トルリシティに比べて有意差あり | HbA1cの平均変化量:トルリシティに比べて、有意差あり(5mg,10mg,15mg)
マンジャロの特性は?
優れたHbA1c低下作用と投与量の調節性だと記事を書きながら思いました。有効性と安全性のバランスを見極めながら上手く使いこなすべき薬剤だといえます。一方で、体重減少作用の強さは気になりました。諸刃の剣であり、高齢者や痩せた方では不利に働く場面も想定されるからです。発売後、従来のGLP-1製剤とどのように使い分けるのか、使用動向に注目していきたいと思います。