がん性疼痛の治療薬といえば何か?
真っ先に思い浮かべるのはモルヒネとオキシコドン(オキシコンチン)ではないでしょうか。代表的なのはこの2剤ですよね。
両薬剤の共通点は大きく3つあります
- オピオイド薬(強)
- μ受容体に作用(痛みの伝達経路抑制と下行性痛覚抑制系の賦活)
- 鎮痛効果に天井がない
もちろん他にもありますよね。
一方で、何が違うのか?
調べてみると、そこそこありました。
大きく5つです。
- 製剤
- 適応
- 力価
- 代謝
- 相互作用
今回はモルヒネとオキシコドンの違いについて、まとめたので共有したいと思います。
順番に見ていきましょう!
モルヒネとオキシコドン:製剤の違い
まずは製剤に注目!下記2つの項目を比べますね。
- 剤型のラインナップ
- 乱用防止技術
剤型のラインナップ
モルヒネとオキシコドンでは剤型の種類が異なります。
剤型 | モルヒネ | オキシコドン |
---|---|---|
錠 | ・MSコンチン錠10・30・60mg ・モルヒネ塩酸塩錠10mg「DSP」 | ・オキシコンチンTR錠5・10・20・40mg ・オキシコドン徐放錠5・10・20・40mgNX「第一三共」 ・オキシコドン錠2.5・5・10・20mgNX「第一三共」 ・オキシコドン錠2.5・5・10・20mg「第一三共」 |
カプセル | ・MSツワイスロンカプセル10・30・60mg ・パシーフカプセル30・60・120mg | ・オキシコドン徐放カプセル5・10・20・40mg「テルモ」 |
散 | ・オキノーム散2.5・5・10・20mg | |
原末 | ・モルヒネ塩酸塩水和物「タケダ」原末 ・モルヒネ塩酸塩水和物「第一三共」原末 | |
細粒 | ・モルペス細粒2%、6% ・モルヒネ硫酸塩水和物徐放細粒分包10・30mg「フジモト」 | |
内服液 | ・オプソ内服液5・10mg | ・オキシコドン内服液2.5・5・10・20mg「日本臓器」 |
坐剤 | ・アンペック坐剤10・20・30mg | |
注射 | ・アンペック注10・50・200mg ・モルヒネ塩酸塩注100mgシリンジ「テルモ」 ・モルヒネ塩酸塩注射液200mg「テルモ」 ・モルヒネ塩酸塩注射液10・50・200mg「シオノギ」 ・モルヒネ塩酸塩注射液10・50・200mg「タケダ」 ・モルヒネ塩酸塩注射液10・50・200mg「第一三共」 | ・オキファスト注10・50mg ・オキシコドン注射液10・50mg「第一三共」 |
モルヒネは7剤型
ラインナップが豊富で、投与経路の選択肢が多いのが利点です。患者さんの嚥下機能や状態に合わせて使い分けができます。フェンタニルのようにテープ剤と舌下錠とかまではないですけどね。
また、速放性と徐放性の製剤に分類できます。
- モルヒネ塩酸塩錠「DSP」
- モルヒネ塩酸塩水和物「タケダ」原末
- モルヒネ塩酸塩水和物「第一三共」原末
- オプソ内服液
痛みの状況や服薬アドヒアランス等を考えて、剤型を選べるのもメリットですね。
一方で、オキシコンチンは5剤型
思ってたより増えてますね。もともとは錠と散の2剤型でしたが2012年に注射薬が発売、経口投与ができなくなった時に、モルヒネ注に切り替えなくても同成分で継続が可能になりました。
また、最近では後発品として内服液と徐放カプセルが発売されたみたい…。今気づきました^_^
同様に、オキシコドンも速放性と徐放性の製剤に分類できます。
- オキシコドン錠NX「第一三共」
- オキシコドン錠「第一三共」
- オキノーム散
- オキシコドン内服液「日本臓器」
剤型に注目すると、モルヒネの方が投与経路の選択肢が多い(原末・坐剤)ですね。
といっても、それほどメリットは感じられません。現場の感覚では3剤型(錠・散・注射)+テープ剤があれば、たいていのケースに対応できているからです。原末はほとんど使われてないし、貼付剤の登場により坐薬を使う場面も減りましたからね。
乱用防止技術
オキシコドンには乱用防止の工夫が加えられた製剤があります。
- オキシコンチンTR
- オキシコドンNX
TRとは改変防止(Tamper Resistant)、NXは添加物であるナロキソン(Naloxone)の意味です。オキシコンチン錠はTR錠に切り替わりましたよね。それぞれの特徴は下記のとおりです。
- 錠剤の強度を上げて粉末化できない→吸引不可
- 溶解するとゲル状になる→注射できない
写真で見ると違いがよくわかります。向かって左がオキシコンチン錠、右がTR錠です。全然違いますね。
TRは物理的に、NXは化学的に!アプローチが違うけど、乱用防止の目的を達成しています。改めて、オキシコンチンTRの技術とオキシコドンNXの発想がすごいと感じました。目からウロコですね(^-^)
モルヒネとオキシコドン:適応の違い
続いて2つ目のポイント!適応症を比較します。
モルヒネは適応症が広い!
鎮痛だけではありません。咳や下痢の症状を和らげたり、過剰な腸管運動を抑えるために用います。周術期の麻酔管理に使えるのは、知らなかったです。(レミ)フェンタニルだけだと思ってました…。
一方で、オキシコドンは痛みに特化!
ターゲットを絞った製剤になります。最近の話題としてオキシコンチンTRは慢性疼痛にも使えるようになりました!
適応症を比べると、共通点は主にがん性疼痛に使うところ、違いはモルヒネがオピオイドの多面的な作用を生かした使い方もできる点ですね。
モルヒネは呼吸困難の緩和にも使う!
がん患者さんの呼吸苦を和らげるためにモルヒネを投与するのはご存知ですか?ガイドラインにおいて推奨されています。最近、処方頻度が増えている印象です。
がん患者の呼吸困難に対してモルヒネ全身投与を行うことを推奨する(強い推奨、中程度のエビデンス)
がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016
ところで、オキシコドンも使えるのか?
現時点では代替薬の扱いになります。モルヒネに比べるとエビデンスが不足しているからです。腎機能障害や副作用等でモルヒネが使いにくい場合はオキシコドンの投与が提案されています。
がん患者の呼吸困難に対して、モルヒネ全身投与が困難な場合に代替としてオキシコドンの全身投与を行うことを提案する(弱い推奨、弱いのエビデンス)
がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016
モルヒネとオキシコドン:力価の違い
続いて3つ目のポイント!力価を比較します。
これは用量換算の時に必要な知識ですね。実は投与方法によって異なります。
静脈投与と経口投与で数値が逆転します。なぜなのか?理由を説明しますね。
静脈投与の力価に注目すると
モルヒネの方が1.5倍強いです。だから、同じ効果を得るならオキシコドンは1.5倍量必要になります。
つまり、モルヒネ注20mg ≒ オキシコドン注30mgですね
一方で、経口投与の場合は
モルヒネ錠30mg ≒ オキシコドン錠20mgになります
なぜ投与量が逆転するのか?
オキシコンチンの方がバイオアベイラビリティー(BA)が高いからです。血中へ移行する量はBAで決まるからですね。
- モルヒネ…19〜47%(平均25%)
- オキシコドン…50〜87%(平均60%)
参考文献)がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014
上記からBAを約2倍とするとオキシコドンの投与量はモルヒネの1/2量で済みます。同程度の血中濃度を得たいなら、投与量は少なく済むわけですね。つまり、オキシコンチンはBAが高いから、モルヒネの0.5倍量でよいけど、力価が低い分、1.5倍量必要になります。
ということで
モルヒネに対してオキシコドンは約0.75倍(0.5×1.5)量に相当するわけです。
モルヒネ錠30mg×0.75=オキシコドン錠22.5mg(ざっくり20mg)ですね。
このように、モルヒネとオキシコドンは力価とBAが異なります。投与経路(経口または静脈)により、用量換算比が違う点は押さえておきたいところですね。
投与量換算はあくまでも目安!
上記ガイドラインの換算比と添付文書の記載が異なる場合があるからです。
例えば、添付文書にはモルヒネ注からオキシコドン注に切り替える場合、1.25倍量と記載があります。1.5倍量ではないんですね。大きくは変わらないけど…。
モルヒネ注射剤の持続静脈内投与を本剤に変更する場合には,モルヒネ注射剤1日投与量の1.25倍量を1日投与量の目安とすることが望ましい。
オキファスト注 添付文書
同様にモルヒネ錠からオキシコンチン錠に切り替える場合にも幅があります。モルヒネ:オキシコンチン=3:2といえないわけです。
経口モルヒネ製剤30〜59mg→経口オキシコドン20mg
オキシコンチン錠 添付文書
投与量の換算はガイドラインや添付文書の数値・記載を参考に、患者さんごとに痛みの状況や忍容性を考慮して決めるかたちですね。
モルヒネとオキシコドン:代謝の違い
続いて4つ目のポイント。モルヒネとオキシコドンは代謝酵素が異なります。
モルヒネの代謝物はおもに2種類です。
- モルヒネ-6-グルクロニド(M6G)…活性あり
- モルヒネ-3-グルクロニド(M3G)…活性はないが神経毒性あり
モルヒネは腎機能の悪い人では副作用のリスクが高まる
なぜなら、肝臓でグルクロン酸抱合を受けた①活性代謝物(M6G)が腎臓から排泄されるからです。過剰な鎮静や呼吸抑制が問題になります。
また、②代謝物M3Gも注意です。活性を示さないものの、神経毒性の可能性が指摘されています。
オキシコドンは腎機能が悪い人に有用!
代替薬になります。なぜなら、下記のように代謝物である①ノルオキシコドンは活性を持たないし、②オキシモルフォンは活性があるけど量が少なくほとんど影響がないからです。
- ノルオキシコドン…活性なし
- オキシモルフォン…活性あり(量が少ない、ほぼ影響なし)
ここは、臨床において使い分ける点ですね。モルヒネが処方されたら、腎機能の確認を行い、必要に応じてオキシコドンへの変更を考慮することが大切ですね。
モルヒネとオキシコドン:相互作用の違い
最後のポイントです。先述したように代謝の違いから相互作用も異なります。添付文書を比較すると下記です。
共通点は
どちらも①ナルメフェンが併用禁忌です。また、相加的に作用が強まる②中枢神経抑制剤等、④抗コリン薬が併用注意になります。
さらに③ワルファリン。これは作用増強、機序はわかっておりません。オピオイド薬のペンタゾシン、ブプレノルフィン(μ受容体部分作動薬、鎮痛効果↓)も併用注意の扱いです。
一方で、相違点は2つあります
- モルヒネ…グルクロン酸抱合による相互作用
- オキシコドン…CYPによる相互作用
モルヒネはグルクロン酸抱合を介した相互作用に注意
添付文書には1剤しか書いてないけど、同抱合により代謝される薬剤は他にもあります。PMDAメニューで「相互作用」「グルクロン酸」で検索すると、257件がヒットしました(2023年9月時点)。ジェネリックも含めた数値ですが結構多い印象です。
オキシコドンはCYP3A4と一部CYP2D6で代謝される
有名どころの薬剤が記載されていますね。同様に、「相互作用」「CYP3A4」で検索すると2073件、CYP2D6で678件(2023年9月時点)ありました。もちろん、成分や製品の重複があるし、CYP阻害作用の程度が弱いものも含まれているにせよ、相互作用にはより注意が必要な薬剤だといえます。
相互作用の違いは意外と盲点かも知れません。モルヒネとオキシコドン開始時は併用薬のチェックを意識したいですね。
まとめ
今回はモルヒネとオキシコドンの違いについてまとめました。
モルヒネ | オキシコドン | |
---|---|---|
製剤 | 剤型が豊富 | 乱用防止技術が魅力 |
適応症 | 鎮痛以外にも適応あり | 鎮痛のみ オキシコンチンTRは慢性疼痛に適応あり |
力価 | モルヒネ:オキシコドン=経口 3:2、注射 2:3 | |
代謝 | 代謝物活性あり (腎機能低下例注意) | なし |
相互作用 | グルクロン酸抱合 | CYP3A4、CYP2D6 |
上記の相違は薬剤の選択やオピオイドスイッチングの際に使える知識だと思います。個人的には④代謝の違いはいつも意識していましたが、⑤併用注意はほぼノーチェックでした。気を付けます(^_^;)
あと、①乱用防止のアプローチが面白かったです。なるほどと、感心しました。それから②オキシコンチンTRが慢性疼痛に適応が追加されたの話題ですね。まだ、使われているのを見たことないですけど…。
記事を書き終えて、モルヒネとオキシコドンは色々と違いがあって面白いなと感じました♪